先生、イオリのこと好き過ぎない?
「いらっしゃいイオリ、よく来たね!」
「まぁ、委員長から手伝うように言われてるからな。」
今回外の世界を訪問してきたのはイオリ
先生の歓迎にイオリは髪の毛をくるくると回しながら、ぶっきらぼうに答えた
「ここに初めて来た時ヒナにも聞いたんだけど、疲れが溜まってない?体調は大丈夫?」
「疲れてない…といえば嘘になるか。まあでもいつも通りだよ。」
「そっか…じゃあせっかくこっちに来たんだし、気分転換でもしない?」
イオリは大声を出すのが好きなんだよね?と先生は問いかける
なぜ知っているのかというとシャーレの所属生徒になる際、生徒達はそれぞれ簡単なプロフィールを書いたりする
どれくらい真剣に書くかは生徒それぞれだが、イオリは趣味の欄に大声を出すこと、と書いていたことを覚えていたのだ
「まあ、確かに大声を出せたらすっきりするけど…」
「実はこの近くに山彦の楽しめる場所があってね。
山頂近くだとたまに人がいるけど、途中なら人気が少なくて誰かに見られる心配もないし、万が一見られてもいいように分厚い布をかぶって行けばなんとか─」
「いらない、いらない!準備しなくていい!」
どこからともかく体を覆い隠せるような布を取り出し始める先生を引き止める
どこかテンションが高い先生を諌めるように「あのな先生!」とイオリは声を張った
「いいか!私は遊びにきたわけじゃない!こっちの世界の規則について学びにきたんだ!規則違反者が出たら取り締まるためにな!」
遊ぶためにわざわざ先生の家を訪れたわけではない
これから先、外の世界へ来た生徒達が規則に違反したらすぐ取り締まれるよう勉強しに来たのだ
普段から職務に忠実で真面目な彼女らしかった
「でも、イオリがそのまま外の世界にでたら規則違反で捕まると思うよ。」
「なんだと!?」
「だって、外の世界には私みたいな人しかいないから。その可愛らしい尻尾を見られたら、きっと呼び止められると思うよ。」
当たり前だが、外の世界には普通の人間しかいない
外の世界との違いについてはヘイローという、頭の上に謎の発光体がついていることもそうだがイオリには尻尾もある
耳が尖っていたり、翼や尻尾を持った人間は存在しないのだ
─キヴォトスで確認できている人の姿は全部で5つ
人型
動物型
エルフ型
悪魔型
天使型*1
人型はヘイローが付いていること以外は外の世界の人間と全く同じ
動物型は動物の耳や尻尾がついている生徒のこと、通常の動物だけでなく妖怪や竜がモチーフと考えられる生徒もいる
エルフ型は耳がエルフのように尖っている
悪魔型は悪魔のような角や尻尾、もしくは翼を持つ生徒
天使型はその逆で天使のような翼を持った生徒が該当する
後は完全なロボットだったり、動物がそのまま二足歩行してるような獣人達ばかり
そのため、割と奇抜な格好や変な装飾品をつけていてもキヴォトスでは呼び止められることは少ないのだが……
だが、外の世界は違う
耳も尻尾も生えてない普通の人ばかりのため、ヘイロー問題が無くなっても奇異の目で見られるだろう
尻尾が電車やエレベーターのドアに引っかかりそうだと呼び止められること請け合いだ
「つまり誰にも見られないよう隠さないといけないのか…不便だな。
だがまぁ、先生みたいな人間しかいないのはやりやすくていいかもしれない。」
「そうなんだ?具体的に言うと?」
それぞれの身体的特徴に合わせた服があるように、それぞれの住人達に合わせた法がキヴォトスには存在する
多種多様なそれがなくなって一つに統合されるのなら覚えることも少なくていい
それに何よりもやりやすくなるのは危険物検査の方法だ
「例えば…大きい尻尾を持った奴はその毛玉の中に危険物を隠し持っていたりしていて面倒なんだ。検査する時に見落とさないよう注意しないと。
これが無くなってくれるだけでかかる時間は大違いだろうな。」
「なるほど、凄く大変そう…」
先生は柴大将のような大人や、ミチルやワカモといった大きな尻尾を持つ生徒達の姿を思い浮かべる
確かにあれほど大きい尻尾ならば、手榴弾の一つや二つを隠しもつのは容易だろう
強引に身体検査を行おうものならハラスメントとして訴えられてしまいそうで確かにやりづらい
「外の世界ではどんな風に検査してるんだ?」
「うーん、私も詳しくはないんだけど…例えばそう、ゲート型の金属探知機を通らせて危険物がないかチェックしてるみたいだよ。
銃火器といった武器の所持が禁止されてるから、スマホや鍵みたいなの以外に金属製の物を持つ人はそうそういないからね。」
「なるほど…外の世界では銃火器を持てないから、金属探知機だけで異常がないかすぐにわかるのか…面白いな。
なあ先生、もっと教えてくれないか!」
手榴弾が日用品扱いのキヴォトスでは、危険物を隠し持たれていても発覚が遅れる場合がある
最初から武器を所持すること自体を禁止している外の世界ならば怪しい物に気づきやすい、という事実にイオリは興味を示していた
このまま、さらに勉強したいとイオリは先生へお願いする
「それはもちろん!ただ、少しいいかな?
実はイオリにお願いしたいことがあって…」
「な、なに?なにをお願いする気…?」
「どうして身構えているの!?」
イオリは自分の体を抱きしめるように後ずさった
そんな危険人物に遭遇したかのような反応をされて、どうしてそんなに警戒してるのかと問いかける
「自分の日頃の行いを思い出せ!!」
イオリの訴えに、先生は自身の行動を思い返すようなそぶりを見せて…首を傾げた
「…………???」
「すっとぼけるな!はぁ…で、何をしてほしいんだ?」
「なんだかんだ言いながら手伝ってくれるイオリが大好きだよ!」
「はいはい。」
イオリはため息をつきながらも、断らずに手伝うことを了承してくれた
先生からの感謝の言葉にイオリはぞんざいな返事を返す
「じゃあ、手伝ってくれるお礼に…」
「変なことしようとするな!この変態!」
「まだ何も言ってないのに!?」
先生が言おうとしていたことを遮って、怒鳴りつけるイオリ
フンと鼻を鳴らしながら、指を突きつける
「なんだかんだ長い付き合いだからな、変態発言しようとしてるのは雰囲気でわかるっ!」
「…そっか、つまりイオリと私は心と心で通じ合ってるんだね!」
変態扱いされたこと、行動を読まれていたことにも怯まず以心伝心だと喜んだ
そんな先生にイオリは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる
「それは、そうだけど…なんか嬉しくない。」
「なんで?」
「状況が最悪だからだよ!もっと良い雰囲気の時に言って欲しかった!」
顔を真っ赤に染めながら、時と場合を考えろと怒るイオリ
もっといい雰囲気の時だったら嬉しかったのに
そんなイオリに先生はわざとらしく照れて見せた
「そっか、良い雰囲気で…へへ、照れるじゃん」
─ふざける先生を見た瞬間、イオリは茶化された怒りもあってかゴミを見るような目つきに変わり先生に言ってやった
「キッッッショ」
「それは流石にひどくない?ごめんって。」
ふざけすぎた先生は反省し、イオリからお許しを得るまで何度も全力で謝り倒したのだった
「コホンッ…話が逸れちゃったね。」
「誰のせいだと思ってるんだ、まったく…」
「はは、ごめんなさい。…それで、手伝って欲しいことなんだけど、私と一緒に外の世界用の常識テストを作る手伝いをして欲しいんだ。」
「…常識テスト?」
ようやくお許しを得た後、改めて説明する先生
イオリにお願いしたいことというのは、外の世界用の常識テスト作成のお手伝いだった
「それぞれの視点からじゃないと気づかないことも多くあると思うんだ。だから私1人で作るんじゃなくて、お互いの常識を擦り合わせて作ったらいいんじゃないかなと思ってね。」
「…先生の常識は非常識だから、うまくいくか不安だけど…まぁ、いいよ。」
顔を合わせるたびに奇行を見せる先生にしては珍しくまともな意見
思っていたよりも変なことではなかったため、イオリは了承してくれた
そんなわけで合意を得られたため早速話し合いを始めた先生だったが、早々に文化の壁にぶつかっていた
「なにっ!?逃げた犯人を追うのに、ビルの屋上に飛び乗ったらダメなのか!?」
「うん。こっちでは犯人が逃げていても、無断で飛び乗るのは禁止…というか、物理的にできないんだ。
外の世界の人間は壁キックで登ったり、何メートルも高くジャンプしたりしないから。」
「流石にそれはちょっと…鍛え方が足りないんじゃないか?
最初はできなかったうちの新人達も何人かはできるようになってきてるぞ。」
「鍛えてもできないんだ。私たちには。
……よし、テストの内容にジャンプ力の要素も入れておこう。」
イオリとの話し合いはとても有意義なものになった
フィジカル強者は素で人間離れした芸当をこなすため、自身の行動が非常識であることに気が付かない
問題が起きてからでは遅いため、今確認できてよかったと先生は安堵する
「そうだ、今のうちに伝えておきたいことがあるから聞いて欲しい。
ないとは思うんだけど…外の世界で犯罪に出くわしても積極的には動かないで欲しいんだ。」
「…それはなぜ?先生は私がそんな奴らに負けると思ってるのか?」
「ううん、思ってないよ!…でも外の世界では銃刀法違反と言って、武器を持つのが禁止されているからいつもの愛銃は使えない。普段とは勝手が違って大変だろうし、大切な生徒に万が一のことがあって欲しくないんだ。」
もちろんイオリ達の強さを疑ってはいない
だが、外の世界の人間がキヴォトスの人を倒すことは決して不可能ではない
水に溺れてしまったら危ないし、コンクリートで固められてしまっては壊すのに時間がかかるだろう
先生として、できる限り危険なことには首を突っ込んで欲しくなかったのだ
「うーん…まあでも、要は先生が敵に回った時のことを想定すればいいんだろ?先生を抑え込むように動けばいい。
だから、大丈夫……」
「………イオリ?」
それでも問題ないと、自信満々に話していたイオリだが話の途中で黙り込んでしまった
心なしか段々と顔色が悪くなっているようにも思える
先生が不思議に思っていると、イオリは近づいてきておずおずと先生の服の裾を握った
「その、これはあれだ。仮定だから。あくまでも想像だから。
だからその、本当に先生が敵に回るなんて考えてるわけじゃないから。
だから、これからもちゃんと私の味方でいてくれるよな?」
「イオリさん!?」
イオリは上目遣いで縋るように先生へ問いかけた
若干涙目になってるようにも見えることから、あの電車での出来事が地味にトラウマになってるらしい
あの時のことは正直言って先生にも想定外だったのだ
今までしてきたことがしてきたことだし、普段のイオリならば
【遂に本性を表したな、この犯罪者め!
カスミ共々捕まえて牢屋に叩き込んでやるから覚悟しろ!】
ぐらいは言われるかと思っていたのだ
しかし、想像以上にイオリは先生のことを信頼してくれていたことがわかり、胸が痛かった
「大丈夫だよ、落ち着いて!あの時は止むに止まれぬ事情があっただけだから!生徒と本気で敵対することなんて私は絶対にしないから!
これからもちゃんとイオリの味方だよ!」
「………ん、それならいいっ。」
(かっっっっっわい)
先生の励ましの甲斐あって元の調子に戻ったが、ぷいっと顔を背けつつも尻尾はギュッと先生に絡み付いたままだった
心なしか尻尾がハートマークを作っているように見えなくもない
先生は情緒をかき乱されていた
「……今なにか言ったか?」
「いや、何も?」
─普段からも生徒だとわかっているのに、イオリには気がついたらはっちゃけていることを先生はちゃんと自覚していた
ホシノがホルスと呼ばれているように、実はこの子サキュバスなんじゃないかと失礼なことを考えていた
その後、元気を取り戻したイオリを説得し現地のことは現地の人に任せようと約束してもらったのだった
気を取り直して、再び規則法律について読み込んだり、それぞれの常識を確認し合う2人
─そんな中、イオリはとあることに気がついた
「なぁ、先生。」
「どうしたのイオリ?」
どこか平坦なのっぺりした声で話し始めるイオリ
感情を抑えるような話し方に先生は首を傾げていたが…すぐにその顔は青ざめることになる
「いつだったか、前に外の世界、私の故郷では大丈夫だから!なんて言い訳したことがあったよな?調べた限りではどこにもないんだが?」
「あっ…それは、その〜…」
いつだったか先生はイオリにイオリした際、咄嗟にそんな言い訳をしてしまったことがあった
なかなか訂正して謝ることもできず、ずるずると気がつけば伸びてしまっていて…今日遂にその事実が突きつけられていた
「思っていた通り、嘘だったじゃないか!この変態!」
「ご、ごめんなさい!!」
変態先生にイオリの怒りが爆発した
これには言い訳のしようもなく謝り続けるほかない
─そんな中ふと、イオリの言葉に違和感を覚える
(あれ、思っていた通り…?)
「……あの、イオリさん?」
「なんだ!?」
恐る恐る先生は怒っているイオリに質問する
「思っていた通りってことは嘘だってわかってたの?」
「当たり前だっ!先生が嘘ついてるかどうかなんてもう大体わかる。
いくら私が罠にハマりやすかったり、騙されやすいといったって、これだけ触れ合ってればそれくらいわかるようになってくるだろ!」
そう簡単に騙されたりしないんだからなと指を指してくるイオリ
だが、先生が聞きたかったのはそこではない
「嘘だってわかってたのに、黙っててくれたの?」
「………………ま、まぁ、もしかしたら本当かも知れないし、こんなでも色々と助けてもらったこともあったしな…特別!特別にだ!
けど、いいか!私以外にやったら速攻で捕まって一生刑務所だからな!
他の連中には絶対にやるんじゃないぞ!特に治安維持組織所属には!!」
イオリは少し早口になって捲し立てる
今までのことを鑑みて、仕方なく特別に許しているだけだからと先生にも自分にも言い聞かせる
ちゃんと理解しているのかと再三聞くイオリに先生は心得ているとばかりにうなずいた
「わかった、イオリ以外にはこんなことしないよ。」
「そこで元気よく返事するんじゃない!まったくもう、先生は…」
一度先生に背を向けて、表情を作る
イオリは仕方なさそうに、今日一番のイイ笑顔を浮かべて罵倒してやった
「ばーかっ!」
──その後も2人は騒ぎながらも仲良く常識テストを作成していったのだった
イオリ、先生のこと好き過ぎない?
イチカとかミカみたいな生徒がイオリとのやりとりを見たらプチ脳破壊しそうで愉悦と思ったり…
いかんいかん、消えよ!闇の私!