某日 17:30
バンッ
カバンの落ちる音…
アハハハハ!!
そして 女子数人の大きな笑い声…
とある高校の廊下
そこで 何かが行われていた。
「や…やめて…」
か弱い声を出す女子高生が1人
短い黒髪の彼女は
力無く地べたに座り込んでいる。
ハハハハ
1人の女子を 3人の女子が囲んでいた
染められた髪と崩れた服装の3人の女子は
いずれも甲高い笑い声をあげていた。
「君は俺が守るぅ〜」
「ウケるんですけどー!!」
「マジこれヤバいだろ!!」
「きゃははははは!!」
「これアンタが描いたの?ダサっ」
笑う3人の女子の手には紙
その紙には
今 地べたに座り込んでいる女子が描いたと思われる漫画
3人の女子は
それを見て
ケラケラと笑っているようだった
「やべー
ワンピ超えてるわ」
「いやいや ワンピディスんな」
「ホントに超えてる?」
大声で なんの配慮もなく
3人は 喋っていた
「ちょっ…!」
座り込んでいる女子が
堪えきれず声を出すと
バサッ
3人は持っていた漫画を
乱雑に放り捨て、
その場を後にする。
「もう……やめて……」
顔を手で覆い、涙を流して啜り泣く
彼女の気持ちなど、
気に留めることもなく__
翌日 17:30
これと言って
やることがない俺は
宛もなく色々な場所を歩き回っていた。
誰も、俺に口を挟むことはない
一度死んだ俺を 妨げるものは何もない
静かに時が流れゆく中 俺は考える…
この前 俺の体に変化が起こっていた
"奴"への激しい怒りが
憎しみが
恨みが
幽霊となった俺に
新たな実体を与えた
人間として生きていたあの頃と同じ
"あの感覚"を取り戻した
…はずだった。
だが、数日が経過して
俺の体は
実体や感覚のない
空っぽなものに戻ってしまっていた。
…なんであの時は
人間だった頃と同じ体になったのだろうか?
確かあの時は…
氷のような冷たい『何か』になって
体全体に広がっていくのを感じた
さっきも言ったことだが
恐らく
怒り、憎しみ そして恨み
それらの感情が 力の源になるんだろう。
今の俺には、それが無い
何も感じず
適当に歩いてるだけなのだから_
一方 その頃
短い黒髪の女子高生は
カバンを持って ゆっくりと一本道を歩いていた。
その女子高生は
1人でスマートフォンをいじりながら
静かに歩みを進めている
17時を過ぎ、
あと数分もすれば18時になる時間…
授業を終えて、家に帰っているのだろう。
しかし 次の瞬間
「あー!! 立川じゃーん!!」
聞こえてきたのは
甲高い女子の声
その声の正体
それは
「相変わらず1人だし〜」
「ウケるわー」
立川と呼ばれた黒髪の女子と
同じ学校と思しき制服を身につけた
3人の女子高生
3人とも
明らかに染められた髪、着崩された制服…
善良な生徒なら
しないであろう格好の彼らは
歩いて立川に接近する
一方の立川はと言うと、
女子たちの声を聞くや否や
目を大きく見開いて動揺していた。
しかし 普通に驚いたわけではない
怖がっているような
絶望しているような
…そんな表情だ
明らかに手足が震えていた。
バンッ
立川は
持っていたカバンを
うっかり落としてしまう。
「何落としてんだよ」
「怖がらないでよー」
立川を見ていた3人は、すぐ近くまでやって来ると
一切の躊躇もなく
落ちたカバンを手に取った
バサッ
カバンを手に持った女子は
チャックを開けてひっくり返し
中身を盛大にぶち撒ける。
「な 何やって…!!」
それを見た立川は瞬時に声を出す。
しかし
「ハハハ やっぱりあったぁー」
「マンガなんか描いてんじゃねーよ」
「物好きじゃん ウケるわー」
3人の女子は気にせず
落ちた紙を拾い
それを見てケラケラ笑っていた。
「や…やめてってば…」
立川は
思わずその場に
膝から崩れ落ちた
アハハハハハ
もう
彼女に出来ることは
何もなかった
立川は
絶望、恥ずかしさ、悲しさに
打ちひしがれていた
泣きそうなるのを堪えながら
俯いているしかなかった
は は は は は は
それでも、
女子3人は笑い続ける。
「誰か……助けて……!!」
立川は ただひたすら祈っていた
すると
……ろ
…逃げろ
逃げろ
突然聞こえ始める
立川に語りかける声
それを耳にした彼女は
咄嗟に声のする方を振り向く
その先に居たのは
『もう苦しむ必要はない
さあ
逃げろ
決して後ろを 振り返るな』
背の高い男子高校生
そう それは
俺の姿だった
時は遡り
立川が女子3人に遭遇する1分ほど前__
俺は、帰路を歩く立川を
偶然ながら
ひと足先に見つけていた
立川の方は
一瞬 俺を見たような気もするが
特に何も気にすることなく歩いていた
俺だけが
彼女の様子を見守っていた。
静かに歩く立川は
どこか不安そうな顔をしていた。
何か悩みでもあるのか…?
そう思った直後
あの女子3人が
ヘラヘラとした笑い声とともに現れたのだった
嘲笑うかのような声で話しかけ
カバンを奪い
そして カバンの中身を地面に撒き散らす
女子たちが立川に対して
取った行動の数々
…そして
助けを求めるかのように
啜り泣く立川を見た俺は思った
これは
『虐め』
なのだと
人を傷つけておきながら
人を悲しませておきながら
平然としている3人
俺は奴等に
強い怒りを抱いた
人を傷つけることがそんなに楽しいのか?
複数人で1人をいじめることに
罪悪感を覚えないのか?
なぜだ……
なぜこのような真似をする奴等が
幸せそうにしている?
……許せない
俺は
絶対に 許さない
必ず
地獄の苦しみを 奴等に
そう決意した俺は…
『逃げろ』
無意識のうちに
立川の脳内に語りかけていた
声のする方を振り向いた立川は
道の真ん中に立つ俺の姿を
視認していた
先ほどは見えていなかった俺の姿が
はっきり見えるようになっていた
だが この後
俺の体に 更なる変化が起こる
虐めの光景を直接目にしたからか
奴等に対する怒りは
とどまることなく膨れ上がっていく
体の中を駆け巡る
氷のような冷たい感触は
あの時以上に強いものだった
メキメキメキメキ
腕と脚が
まるで成長する植物のように
細く
長く
凄まじい勢いで伸び始める
「…!!」
一瞬の出来事
瞬き一つせず見ていた立川は
目を見開いて動揺する。
メキメキメキ
腕と脚が伸び終わった直後
次は手が膨張し始めた。
しかし
ブチッ ブチッ
体の急激な変化に耐えきれなかったからか
手の皮膚が破裂
まるで 脆くなった手袋が破けるように 皮膚が引き裂かれ
骨が露わになった
人体模型でしか見ないような
黒く 大きな骨
ブチッ
更に 首の皮膚も引き裂かれ
そこからも黒い骨が露出する
「…!?」
立川は更に動揺してこちらを見ていた。
…驚くのも無理はない
ただの男子高校生だったはずの俺が
人ではない 何か……
恐ろしい怪異へと
変貌を遂げたのだから
『今まで よく耐えた
…苦しかっただろう
辛かっただろう
だが
そんな日々も 今日で終わりだ』
変わり果てた自分の体のことなど気にせず
俺は ただただ立川に語りかけた。
『今はとにかく走れ
振り向かずに 家に帰れ』
今すぐ この場を立ち去るよう
彼女に言い聞かせた
「……っ!」
それを聞いた立川は 体を起こし
タッタッタッタッタッ
俺のいる方と逆の向きに走り始める
「おい 立川ー!!」
「逃げんなー」
3人は、立川に対して
こんなことを言い放った。
「まあいいや 帰ろー」
「さんせー」
「せっかく話しかけてやったのに」
一向に立ち止まらない立川を見た奴等は
持っていたマンガやカバンを投げ捨て
立川と同じ方向に歩き始めた
「何でいきなり走り出したんだろ?」
歩きながら話し始める女
「どーせ幻覚でも見てたんだろ
つまんねーマンガ描いてるよーなヤツだし
絶対そう
1番後ろを歩く女がこう言いかける
しかし
ガシッ
奴が喋り終えるよりも前に
大きくなった俺の手が
その女の胴体を掴んだ
「…!!」
当然 掴まれた女は
動揺して声を上げる
しかし 俺は
奴に次の言葉を喋らせる間も与えず
グシャアッ
手に力を込め
女の胴体を握り潰した
「アアアアアアア!!!」
女は声にならない叫び声を上げる
それと同時
おびただしい量の血が
俺の手から流れ出る
叫び声を聞いた残りの2人は
咄嗟に振り向く
その先にあるのは
筆舌しがたい惨状
握り潰され
上半身 下半身が分断された死体となった
奴等の友人の姿
そして
血で片手を真っ赤に染めた
おぞましい化け物である俺の姿だ
「え……ウソ………」
先ほどまでニヤついていた顔が
一気に青ざめていくのがわかった
一瞬、唖然としていた2人だが
突然の事態に
恐怖心を抱いたからか
「いやっ……
いやああああああああ!!!!」
甲高い悲鳴をあげて
走り始める
『逃げるな』
しかし 今更走ったところで
逃げたところで
何の意味もない
なぜなら お前等は……
救いようのない愚か者なのだから
瞬間移動のように
一瞬で奴等との間合いを詰めると
ガシッ
俺はもう1人の女の片脚を掴み
そのまま勢いよく持ち上げた
「いやっ いやああああ!!!」
死への恐怖からだろう
女は
逆さ吊りの状態で宙に浮いているにも関わらず
必死に泣き叫ぶ。
しかし 俺は容赦しない
ビキビキッ
躊躇など一切せず
掴んでいない方の脚をもう片方の手で掴み
そのまま
強引に脚を開かせた
「アアアアアアア!!」
無理矢理に開脚させられる痛みは
奴の想像を絶するものだった
グシャアッ
そのまま両手に力を入れて引っ張ると、
両脚は根本から千切れ
脚の無い体が地面に転がった
体から血が滝のように流れていく
「ア…アアア………」
弱々しい叫び声が聞こえる
グシャッ
脚が無くなっていながら
僅かに息があったようなので、
頭を踏み潰して
完全に息の根を止めた。
これで
あと1人だ
『逃がすものか』
気がつくと俺は
残り1人の女の元に移動していた
ガシッ
今度は
その女の長い髪を鷲掴みにする
…直後、俺のとった行動は
バァンッ
髪を掴んだまま
即死しない程度に 奴の体を地面に叩きつけることだった
「アアッ……!!アアアアアアア!!!!」
腹を下にして地面に叩きつけられた女
肋骨はへし折れただろう
しかし 俺は間髪入れず
バァンッ
再び地面に叩きつける。
2度目の衝撃
これで内臓も破裂しただろう
『これで
終わりだ』
再び 奴を地面に叩きつけようとした
その時
「や……やめ………
やめて……くだ…さい………」
もはや虫の息となった女が
絞り出すような声でこう言った。
だが 俺は
『駄目だ』
決して頷かない。
『立川が お前に
「やめて」
…と言った時
お前はやめたのか?』
元より
他人を虐めることしかできない奴等を
生かしておくつもりなどない
それは
俺に対して必死に懇願していた女も同じ
俺がこう言い返してやると
俺の言葉に返す言葉もなく
ただただ
俺に怯えて弱々しい声を漏らす事しかできなくなった
グシャァッ
俺は 容赦なく
三度 女を地面に叩きつけた
体から流れ出てくる血
奴も もう助からないだろう
掴んでいた髪を手放すと
俺は後ろを振り返り
屍となった3人を眺める
さっきまでヘラヘラしていた奴等は
一瞬で物言わぬ骸と化した
だが もう後悔はない
もう 俺は
"あの頃"の自分に戻ることはできない
他者を虐げる愚か者を 1人残らず抹殺すること
それが
俺の使命なんだ___
#9 変貌
八王子は 八王子ではない
『何か』へと変わっていく
#10 邂逅
その頃 立川は