私の名前は 立川 恵
⬛︎⬛︎高校に通う1年生…
正直、
今までの学校生活は 散々なものでした。
先日まで 私は
同じクラスの女子3人に
虐められていました
持ち物を取り上げられ…
好きで描いていたマンガをバカにされ…
それでも、他のクラスメイトは助けてくれない。
家に帰っても 両親は仕事。
相談する時間なんて 私にはありませんでした
私には
安心できる場所も
安心できる時間もありませんでした
もう、いっそのこと
この世からいなくなってしまおうと
考えたこともありました
しかし
そんな私に 救いの手が差し伸べられました
昨日 私がいじめられていた所に
現れたんです
『あの人』が
学生服に身を包んだ男子生徒のような
背の高いあの人は
私に逃げるよう呼びかけました
最初は何をするつもりなのか
全く予想がつきませんでした
真っ白な肌で顔がなく
何を思っているのかも
あまり分かっていませんでした
しかし
今日 とあるニュースを見て 驚きました
その内容とは
⬛︎⬛︎⬛︎県⬛︎⬛︎⬛︎市⬛︎⬛︎区の道路
私が毎日 学校の行き帰りに通る一本道
そこで 女子高校生と見られる3人の遺体が
発見された
…というもの
普段から
あそこの道を通る学生は
私と
私を虐めていた女子3人ぐらいしか居なかった
ニュースを見たとき
一瞬で理解しました
あの人が 3人を
この世から消したんだと言うことを
私に言い放った 『逃げろ』
これは恐らく…
3人が死ぬ瞬間を
私が見ないようにするために言ったことなんだと思います。
そして このことを確信したのには
もう1つ理由があるんです。
『逃げろ』と言われたあの時
私は カバンを置き去りにして
無我夢中で走って家に帰りました。
家に着いて 1時間が経ち…
それに気づいていた私は
カバンを取りに戻るべきか
悩んでいました。
外は真っ暗になり始めていましたが、
悩みに悩んだ結果
取りに行こうと言うことになり…
しかし 取りに行こうと
玄関に向かい 扉を開けると
入り口の横
なんと そこには
あの道に放置していたはずのカバンが
丁寧に置かれていたのです
誰かの置き忘れか
他の人が置いていったのかと疑って中身を確認しましたが、
中に入っていたのは
私が普段描く漫画…
正真正銘 私のカバンでした。
きっと あの人が持って来てくれたんだ
そう思ったんです。
人の死を喜ぶつもりはありません…
でも
あの3人のせいで
私の心は傷ついていました
ずっと苦しかったんです。
その苦しみから解放されたんだと思うと
つい嬉しさで 表情が緩んでしまいます。
その晩は
重圧から解放された喜びで
心が軽くなって
スッと 眠りに落ちていきました
仲良く話せる友達はいませんが、
私の学校生活は
きっと 前よりもずっと楽しくなる
これから先の未来に希望を持ち始めていました。
そして そんな私は今
一つ思っていることがあります。
あの人に会いたい
あの人に会って お礼を言いたい
私を助けてくれた
あの人に___
_______________________
数日前
俺は 恐ろしい怪異へと変貌を遂げた
自分が本当に
少し前まで人間だったのか
…と疑ってしまうほどの
凄まじい力を持った怪異に。
今は 再び実体の無い霊に戻ったが
込み上げてきた怒りと憎しみに任せ
人を殺めた あの感触が
未だ手に残って離れない
だが
葬ったのは
他者を虐め そのことに反省もしない愚か者
決して 後悔はしていない。
その時から現在に至るまで
俺は 薄暗い森の中。
俺以外に
ここに来る人間はいない
あまりに暇なので
森の周辺を散策してみたり
時々考え事をしたり…
できる範囲で暇を潰していた。
今になって
死んでから
自分の体にどのような変化が起こったのか
いくつか分かったことがある。
1つは
霊から実体のある体に変化する条件
これは、かつて俺が予想していた通り
人間の愚かな行為に対する強い怒り
それが
実体化の引き金となっていることが分かった。
体中が凍るような感覚
これが怪異に変化する合図だ
次に分かったことは
自分が今現在持っている能力
実体の有無に関わらず
瞬間移動のように
瞬時にある場所から別の場所へ
歩かずに移動することができるようになっていた。
この前 慌てて逃げる3人を
1人も逃すことなく仕留めたのは
この移動能力のおかげなんだろう
具体的に何をすれば瞬間移動が可能になるかは
まだわかっていない。
そしてもう1つ
これは自分の容姿に関することだ。
俺は霊となってから数日は
自分の姿を見ることなく過ごしてきた
しかし
今となっては
第2の我が家とも言えるこの森の中に
ほぼ水溜まりと言って差し支えない
小さな池を見つけ
水面を覗き込んだ時
鏡のように反射して映る自分の姿を
目にすることとなった。
水面に映った自分
服は息絶える直前に身につけていた学生服
ベルトの金属部分は
なぜか赤く光っていた。
肌は真っ白で
目 鼻 口 耳
それらは全て無くなっていた
唯一
鼻のような出っ張りだけは残っていた。
髪は無くならずに済んだものの
制服と同じく 若干黒ずんでいた
…ような気がした。
変わり果てた自分の姿に
我ながら驚き
そして 虚しさを抱いた。
こんな姿では もう会えない
部長や俺の両親には もう__
そうやって落ち込んでいる間にも
時間は過ぎてゆき
気がつけば夜が明け
空は明るくなっていた
気分転換に
俺はあの一本道へ向かうことにした
瞬間移動がここでも役に立ったのか
歩くことなく
一瞬で一本道に辿り着いた
時計がないので時間はわからないが
恐らく朝6時になった頃だろう
犬を連れて散歩する人
ジョギングをする人
洗濯した衣服を外に干す人
この地域に住まう人々が
起きて活動を始めていた。
だが 相変わらず
俺を視認する人は誰もいない…
もう慣れたことではあるが、
やはり少し寂しい気もする。
しかし 次の瞬間
タッタッタッタッ
俺の背後から
何かがこちらに向かって走ってくる足音が
聞こえてくる
何事かと思い振り返ると
そこには
「す すいません……!!」
カバンを持った黒髪の女子高生
立川の姿があった。
彼女は どう言うわけか
霊であるはずの俺に気がついていた。
俺が振り向くと同時に立川は立ち止まり
「こ…この前は
私のことを助けてくださり
本当に…ありがとうございます……!!」
こう言って深々と頭を下げた
もう数日前の出来事だと言うのに
彼女は俺のことを はっきりと覚えていた様だ。
「……気にすることはない
それより
俺のことが見えるのか お前は」
俺は 率直に尋ねた
すると
「は はい…!はっきり見えてますよ」
立川は俺の顔を見て答えた
嘘は吐いていないだろう
彼女も、
俺を気にかけてくれたあの老人のように
霊が見える体質なんだ
「…そうか」
俺はただ こう言った
すると立川は
「その……お礼をしたいんですけど……
何か私に…出来ることはありますか…?」
先ほどより真剣な口調で尋ねてきた
それに対して 俺は
「気にするなと言っている
俺は 見返りなど求めていない
俺は ただ…
お前に
俺と同じ運命を辿って欲しくなかった
…それだけのことだ」
冷淡にも思えるような言葉を選んだ。
俺は人を殺した身だ
未来ある人間が
そんな者と関わってはいけない
俺は 他人の人生を
侵略したくはなかった。
だから 敢えて
突き放すようなことを口にしたのだ。
「運…命……?
一体…何が…
何があったんですか?」
しかし 立川は
想定とは逆に
俺へ興味を持ち始めていた。
意外にも押しの強い立川に
俺は困惑した
ここまで言われると
もう拒絶することも難しい
黙って立ち去るのも
恩返しをしたいと言う彼女に失礼だろう…
一体どうすれば…
数秒 黙り込んでしまう
しかし 俺の頭にふと
とある疑問が過った
霊となってから
常に頭の中を駆け巡る あの疑問
もう言うしかないだろう
何か情報を掴めるかもしれない。
咄嗟に
立川に尋ねてみることにした
「お前は
『長瀞早瀬』
…という高校生を知っているか」
この問いに
立川は思いもよらぬ衝撃の答えを出す__
#10 邂逅
ごく普通の女子高生 立川は
自分を助けてくれた『ある人物』の元に向かう
#11 過去
立川は自分自身の過去を振り返り
そして
前を向いて 歩いてゆく___