怨嗟ノ嘆   作:早瀬丸

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#11 過去

「君は

 

『長瀞早瀬』

 

…という高校生を知っているか」

 

 

女子高生 立川と偶然の再会を果たした俺は

尋ねた。

 

霊となってから

常に頭の中を駆け巡る疑問

 

 

この問いに 立川は

 

「…はい 聞いたことがあります 

その名前」

 

 

俺にとって衝撃の答えを出した

 

側から見れば

大したことなんてないのだろう。

 

だが、

『知らないです』

という答えが返ってくるものと

思い込んでいた俺にとっては

予想外の回答で

驚きを隠せなかった

 

 

「確か 風早高校の1年生で……

 

水泳部の助っ人…でしたっけ?」

 

 

風早高等学校……!!

 

そうだ 思い出した

 

俺が通っていた高校の名前だ

 

 

こんなにも早くに

重要な情報が手に入るとは…

 

思ってもみなかったことだ

 

 

…すると 

ひとしきり俺の問いに答えた立川が

 

 

「その子に…何か されたんですか…?」

 

 

改めて俺に問いを投げかける。

 

 

核心を突く問いに 俺は

 

 

「………そうだ」

 

 

一呼吸おいてから頷いた

 

 

立川は ただただ黙って

俺を見つめていた

 

俺の話を聞きたそうにしていた。

 

 

立川は他人に虐められ

心を傷つけられた身だ

 

俺と同じ

仲間に恵まれず 

1人で苦しんでいた人間

 

そのせいか 俺は

 

本当は言いたくもないはずの

自らの黒く汚れた過去を

彼女に喋り始める

 

 

「俺は 奴に……

 

長瀞早瀬に

虐められていた

 

初対面であるはずの俺に

 

奴は容赦のない罵詈雑言を浴びせ

 

俺の心を限界まで傷つけた

 

 

かつて 俺は美術部に所属していた

 

1人で部活動をする時間が

 

俺にとって唯一の癒しだった

 

 

だが 奴は

 

俺の憩いの場であった美術室に現れ

 

俺が何も言い返せないことをいいことに

 

描いた絵を侮辱し

 

俺の心を容赦なく抉った

 

 

そのせいで俺は 

 

幻聴や幻覚に苦しむことになった

 

意図せず縄を 自らの首に掛け

 

…そして 自らの命を絶つことになった」

 

俺は俯き

 

淡々と言葉を紡いだ

 

「君は俺のことが見えているようだが

 

俺は既に死んでいる

 

今のこの姿は 

強い未練からこの世に留まり続けている魂…

 

 

これから先に待っているはずだった

明るい未来を

 

奴に全て奪われた

 

 

奴の身勝手で

 

俺の人生は 滅茶苦茶にされたんだ

 

 

話していくうちに込み上げてくる

悔しさと怒り

 

無意識のうちに声が震えていた

 

「ひどい…

 

ひどすぎますよ…!!

 

話を聞いていた立川はそれを感じ取ってか

憤りを露わにする

 

心を落ち着かせるように

深呼吸をした後 

 

俯きながら言い始める

 

「…もう分かってるかもしれませんけど…

私も虐められてたんです。

 

自分の持ち物を取られたり

描いたマンガを馬鹿にされたり…

 

それでも 他のクラスメイトは誰も助けてくれない

 

味方が誰一人として居ない学校に

通い続ける日々が

本当に辛かった。

 

もし あなたが助けてくれなかったら

 

今頃、私も…………

 

 

本当に ありがとうございます」

 

 

立川は

自分の過去を打ち明けた上で、

改めて深々と頭を下げた。

 

「それにしても、最低ですね…

 

人をオモチャ扱いして

何が楽しいんでしょう…」

 

そう言う立川は 険しい顔をしていた。

 

 

「俺も 君と同じ心境だ

 

『する側』だった奴等は楽しかったのかもしれない

 

だが

 

『される側』だった俺たちにとっては

苦痛でしかなかった

 

 

例え『する側』に悪意がなかったとしても

 

『される側』が苦しい思いをしたなら

 

それは 立派な虐めだ

 

決して許されることではない

 

 

なぜ他人を虐める人間がこの世に産まれてくるのか

 

…俺は それが不思議でならない」

 

 

同じ境遇に立たされていた者として

立川の抱く憤りを

俺は容易く理解できた

 

奴らがこの世にいなければ、

俺も立川も苦しむことはなかったのだから。

 

 

…しかし、いつまでも暗い話ばかりでは

立川を明るい気持ちで送り出してやることはできない。

 

俺が自分の過去を話したのも、虐めから救い出したのも…

 

全て、彼女に前を向いて生きてもらうためにやったことだ

 

せめて 何か 

立川の背中を押してやれるようなことは…

 

 

少し間を置いた後

俺は再び言い始める

 

「…とは言えだ

 

君を助けることができて本当によかった」

 

彼女をなだめるように

穏やかな口調で言った

 

それに反応するように

怒りに引きつっていた立川の顔が緩んだ

 

 

「…立川…だったか」

 

俺がこう言うと、

 

「はい…!!」

 

立川は頷いて返事をした。

 

 

「君には未来がある

 

これから辛いことを沢山経験するだろう

 

生きることが辛くなった時には

 

俺との このやり取りを思い出して欲しい

 

そうすれば どのようなことがあろうと

 

きっと乗り越えられるはずだ

 

もし また誰かに虐められることがあったなら

 

また俺に会いに来てくれ

 

 

…話を聞いてくれてありがとう

 

少し 心が軽くなったよ」

 

 

彼女なら きっと

明るい未来へ向かうことができるはずだ

 

 

「あっ、もう電車が来ちゃう…!!

 

急がなきゃ!!

 

本当に ありがとうございました!!

 

 

そう言うと 立川は走ってその場を後にした

 

彼女の走る姿は

虐められていたあの時よりも

活気に満ち溢れていた。

 

 

俺は

穏やかな日差しに照らされる立川を見て 

ふと思う…

 

 

もし あの時

 

不幸続きだった俺の前に現れたのが

君だったなら

 

どんなに良かっただろう

 

もっと近くに寄り添って

心の傷を癒してやれたのかもしれない

 

君に

 

『好きだ』

 

と言えたのかもしれない

 

 

君と共に築き上げる未来を

 

俺は見たかった

 

 

…だが 今そんなことを嘆いても

どうにもならない

 

奪われた未来が

戻ってくることは 決して無い

 

俺には まだ

やるべきことが残されている

 

 

元気よく走っていく彼女を見送った後

 

俺は また

森の中に入って行くのだった__

 

_______________________

 

私の名前は 立川恵

とある高校に通う1年生です。

 

つい最近、

私は虐められているところを助け出されました

 

…男子高校生のような姿をした『あの人』に。

 

 

そして その後

普段、通学で使っている一本道で

偶然 助けてくれたあの人に出逢ったんです。

 

このタイミングを逃したら、

きっともう会えなくなる

 

私にとっての恩人である

あの人を見つけた私は、

早速、お礼を言うために話しかけることにしました。

 

最初は

あの人に嫌われてしまわないか

少し不安でした。

 

でも、あの人は 

ほぼ見ず知らずの私に対しても

嫌がることなく

親切に受け答えをしてくれたんです。

 

人の気持ちを第一に考える

素敵な人でした

 

 

あの人とお話をして

分かったことがあります

 

 

…あの人にも、

誰かに虐められていた過去があった

 

しかし

 

私とは違い

最後まで救いの手が差し伸べられることはなく

 

苦しみの中で亡くなり 

 

孤独な霊となった

 

 

『自分と同じ運命を辿ってほしくない』

 

 

あの人が会話の中でこんなことを言ったのも、

自分が過去に味わった

 

悲しみ 

寂しさ 

そして 痛み

 

それがどれほどのものかを 

知っているからなんだと思いました。

 

学校に行く時間だったこともあり、

ずっとあの人とお話をすることはできませんでした。

 

…それでも、私は分かったんです

 

あの人が 私の一番の理解者なんだと言うことを

 

あの会話の後、

学校へ急ぎながら 私はふと思いました

 

 

もし あともう少し早く

あの人に出逢えていたなら

 

霊じゃない 人間の姿の彼と出逢っていたなら

 

私は 

あの人と一緒の未来を見ることができていたのかもしれない。

 

私もあの人も

とびきり幸せになれていたのかもしれない。

 

 

でも、どんなに願ったところで

あの人が人間に戻ることはできない

 

だから せめて

 

あの人のためにも

今を精一杯生きよう

 

 

それが あの人の望みなのだから__




#11 過去
救われた立川と、救われなかった八王子
二人は別々の道を歩いてゆく

#12 決断
その頃 風早高等学校では
今は亡き八王子のため ある人物が動き始める_
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