また別の日の放課後
風早高等学校では
一人の女子生徒が美術室で考え事をしていた
「八王子の居ない今、
美術部は我々3年生のみ…
これでは
学校行事への貢献や大会への出場は愚か
存続自体が危ぶまれる状況…
廃部もやむなしか……?」
美術部長 須ノ宮
彼女は、俺の死に伴い
美術部の今後の方針を考えていた。
表情は依然、曇ったまま。
「そもそも
なぜ八王子があのようなことを…
数ヶ月前までは
懸命に部活動に取り組んでいたというのに…
不幸続きだったと言うことは
小耳に挟んでいたが
それだけで自死するような弱い人間ではないはずだ
にも関わらず…
一体…なぜ…?」
部長にとって俺は
何にも代え難い、大切な美術部員
それを死なせてしまったことを
心の底から悔やんでいた。
「考えたくはないが…
誰かが八王子を虐めていたとするのが
妥当か…?
だが美術部員ではないだろう
3年生で年度の始まりから
美術室に来ていた者は
私以外に居ない
八王子が亡くなった今
2年生も美術部にはもう居ない
1年生で新たに美術部に入部した者も
居なかった
もし八王子を虐めたとするなら…
美術部員でない1、2年生か…?
だが具体的に誰がやったかを
炙り出すのは極めて困難…
…一体どうすれば……」
美術部…そして俺のために
一生懸命考えを巡らせるも、
俺にあった出来事に関する
具体的な情報がほとんど無いために
何をすれば良いか考えがまとまらず
もどかしい思いをしていた。
しかし
部長の疑問は
予想より早くに解消されることとなった
それは 部長が帰り道を歩いていた時
「おお 須ノ宮君じゃねぇか」
突如 横から声を掛けられる。
ふと声の方を振り向くと、
「長老…!!」
そこには
以前 俺を気にかけていた
あの老人が立っていた。
老人の正体は
俺の住んでいた地区の長老
「アンタ、美術部の部長 なんだったな
…話は聞いたよ
アンタの部の部員さんが…
亡くなっちまったらしいな」
長老が悲しそうな表情で話を始める
「…ええ
彼は 私の大切な部員でした
救ってやれず
本当に…悔しい……」
対する部長も
泣くのを堪えながら返事をした
「その子の遺体を発見したのは…
須ノ宮君 アンタだったな」
そう
俺の亡骸を一番最初に見つけたのは
部長だ
縄で自らの命を絶った俺の姿を
思い出した彼女は
「……はい」
静かに頷いた
しかし、その直後
悔しさの余りに 堪えきれず
「なんで……こんなことに……」
絞り出すような声で呟いた。
すると それを聞いた長老は
「…俺に心当たりがある」
部長の目を見て言った。
「心…当たり…?」
もちろん、部長は何のことかわからず
長老に尋ねる。
「実はな
その部員さんに
一回会ったことがあるんだ」
そんな部長に、長老はこう答えた
「……!! 本当ですか!?」
衝撃の答えに
部長は動揺した様子だった
「ああ」
長老はゆっくり首を縦に振る
「あれは 数週間ぐらい前のことだ
俺は 今ぐらいの時間に
とある一本道を歩いていた
…そしたら
そこにアンタの部員さんが走ってきてな
いきなりぶっ倒れちまったんだ」
長老は
この前あった出来事を淡々と
話していく。
「そん時は何とも無かったんだけどな
何時間かしたら意識を取り戻して
帰って行ったよ
心配になっちまって
少し話をしたんだが…
礼儀正しい子だったな あの子は」
穏やかな表情で 長老は語った
「なるほど…」
部長は 頷きながら呟く
「だがな
ただ走ってた訳じゃねえんだ
…何かから逃げてるような感じで
怯えてるような顔をしていた
本人は大丈夫と言ってたんだがな
心配だったんだよ 俺は」
長老は険しい顔で言った
直後 部長は
「やはり誰かに虐められていたのか…!」
憤りを露わにしながら呟く
その言葉に 長老は
「…そのことについてなんだけどな
調べた結果 分かったことがある」
憤りを堪えるような強い口調で
話し始めた
「アンタの言う通り
その子は 虐められていた
…だが
少なくともアンタの部の部員は
関わっちゃいねぇ」
現在美術部に居る部員は
大学受験を目前に控えた3年生だけ
美術部の3年生は皆
画塾に通っているため
部長以外は学校に来ること自体無い。
この事実を知っていた部長は
「それなら 一体誰が…!!」
長老に尋ねる。
そして
それを聞いた 長老は
部長に真実を告げる
「その子を虐めていたのは……
アンタの学校の1年生
名前は
『長瀞早瀬』
……だ」
俺にも言った この名前
「長瀞……早瀬……
名前だけなら聞いたことがある…
運動部の助っ人をしている小娘
一体 なぜ…
なぜ 八王子を……!!」
それを聞いた部長は
怒りに震えた声で呟いた
「…わかる
俺だって許せねえよ
あの子は…
アンタの部員さんは
素直で礼儀正しい子だった
そんな人間の夢が 未来が
理不尽にも潰されちまったんだ」
長老は部長の気持ちを理解していた
「だけどな
俺は分かるんだ
アンタの部員さんを虐めた あの小娘は
いつか地獄に落ちる
犯した罪を清算する時は必ず来る
須ノ宮君 アンタは何も悪くねえ
憎むべきは
アンタの部の人間に手を出した あの小娘だ」
だから、長老は 優しく部長を励ました
「…ありがとうございます
私は 彼のために出来ることを
全力で取り組みます」
部長は長老の言葉で落ち着きを取り戻した
「アンタが落ち込んでるところに
首を突っ込んじまって悪かったな
どうか 亡くなっちまった その子のためにも
強く生きてくれ
俺が願うのは それだけだ」
そう言うと、
長老は
ゆっくりその場を去って行った
長老の後ろ姿に
部長は深々と頭を下げた
その後
再び帰り道を歩き始めた部長の目には
光が戻っていた
「そうか やはり虐められていたか
八王子……
助けてやれず 本当にすまなかった
だが もう安心してくれ
お前の居場所だった美術部を
私は必ず 守り抜いてみせる」
部長の目には
強い決意が宿っていた
#12 苦悩
自らの部員の死を前に
美術部長 須ノ宮は頭を抱えていた
#13 決断
長老の助言によって平静を取り戻した美術部長 須ノ宮は
美術部の今後の方針を公にする_