この話は図書室_
俺が不注意からカバンを落としてしまい、
チャックの締め忘れで
中から自分の描いた漫画が飛び散ってしまったことから始まる。
拾うついでか
近くで談笑していた女子たちは
その漫画をみてケラケラと笑い…
そして何事もなかったかのように、
悪びれることもなく、
再び談笑しながらその場を立ち去っていった。
しかし、なぜか1人だけ
紙を拾って手に持って座ったまま
その場を離れなかった女子がいた_
女子は、どう言うわけか、手に持った漫画を
机に置いて、じっとそれを凝視している。
どうしたんだろう…?
俺の漫画が気に入ったのか…?
俺は、混乱していたこともあって、
棒立ちのまま動けなかった。
しかし次の瞬間
「私 1年だけど 2年?」
突然、その女子は俺の方を見て
話しかけてくる。
「う うん…」
俺は、咄嗟に頷いた。
「あは!当たり
じゃあ センパイ
ですね」
女子は、謎の笑みをこちらに向ける。
相変わらず立っていることしかできない俺を、彼女の瞳は捉えていた。
このやり取りから、
女子と俺の会話が始まった
「腕は立つが世渡り下手な剣士
ジークフリート!!
旅の途中で出会った
敵国の美しい女騎士エリザベートと共闘し
遂に魔王を倒すも
帰路の途中
待ち構えていた王国の兵士達から
攻撃を受ける!!
自分は何の為戦うのか!?
自問するジークフリートだったー!!」
女子はいきなり俺の漫画のあらすじを
楽しそうに読み始める。
彼女の向かいの席に座った俺だが、
何がしたいのか理解できない。目も合わせられなかった…
「要するにこれ
ジークフリートってセンパイ自身ですよね?」
にも関わらず、
女子は不敵な笑みで俺に尋ねてくる。
「い いや…そんなことは…」
俺は、彼女の言いたいことが理解できず
上手く言葉を紡げない。
「自分を投影した不遇な剣士が
美しい女騎士と出会い
戦いの中で徐々に心を通わせて…」
しかし、女子は俺の返事を無視して喋り続ける…
「だ だからそんなんじゃないって…」
痺れを切らした俺は、先ほどよりも強めの口調で言った。
「ああ いやいや
センパイの創作行為を笑うつもりは
ありませんよ?
ただ まあ
ジークフリートもセンパイも
かわいそーな奴だなーって」
(な…
何だ こいつ…?)
俺は、その言葉に返す言葉が見つからなかった。
それを知っていたからなのか、女子は間髪入れず、
「でも センパイ
漫画にあまりどうこう言うつもりは
ありませんけど
ここはちょっとどうかと思いますよ?」
漫画を指差して言う。
この漫画…
俺の描いた、この漫画
女子の指差したページには_
剣士ジークフリートと
女騎士エリザベートの会話
"私は戦いの中でしか生きられぬ修羅!!
女などとうに捨てた!!"
エリザベートは刀を振るって見せて言う
それを聞いたジークフリートは
彼女のすかさず後ろ髪をめくり_
"何を言う お前は美しい"
そう返すのだった
その言葉に
エリザベートは赤面する_
2人の、少しロマンチックな掛け合い…
数コマの中に、
俺は描いていた。
「プ…ククク…」
それを見ていた女子は吹き出すのを堪えるような笑い声を漏らす。
「プクク…いやいや 笑いませんよ
ジークフリートは
センパイの分身なんですからねぇ」
言葉とは裏腹に、
手を口元に当てて笑っている…
「でも ちょっとおかしいですよ」
女子の口角は更に上がっていた。
「え…?な 何が…」
俺は、どもり気味に尋ねる。
一体、何がおかしいんだ…?
少し考えていると、
「よーし
じゃあ ちょっと
やってみますね!」
ガタッ
…と音を立てながら、
女子は勢いよく席を立った。
俺も、彼女につられて席を立ち
本棚の横の空いたスペースに移動する。
「やるって 何を…」
いきなりの行動に戸惑う俺。
「私 剣とか使ったことないんで
こっちでやりますね」
やはり、女子は俺の疑問には構うことなく話を進める。
俺の横で拳を突き立てるふりをしたと
思うと、
真剣な表情でボクシングの構えをとって
じっと静止する…
…と、その時
シュッ
キュ
ギュンッ
いきなり拳で
突き、薙ぎ払い…
そして華麗な足払いを
俺の前でやってのける。
「私は戦いの中でしか生きられぬ修羅!!
女などとうに捨てた!!」
女子は、
さっき彼女が指差していた、
エリザベートのあのシーンを再現していた。
これを見せられた俺は、
いよいよ何もできずに硬直した。
目をまん丸にして動揺してしまう。
すると、次の瞬間
女子が俺の方を横目で
じーっと見つめる。
(え…?
や…やれと…!?)
さっきまでの流れで、
俺は何となく察した…
"女などとうに捨てた!!"
エリザベートの、あの発言の後の、
"何を言う お前は美しい"
ジークフリートの、あの行動_
それを俺に真似しろ、ということを。
いきなりのことだ。
すぐには行動できなかった。
少しばかり躊躇しながら
俺は、じっとして動かない女子の後ろに
ゆっくりと歩み寄る。
手が届くぐらいの距離で立ち止まった
女子の後ろ髪に手を、恐る恐る近づけた…
漫画の中でジークフリートがやったように。
しかし俺の手は、後ろ髪に触れる直前で
動きを止めた。
緊張と困惑の混ざった複雑な感情が、
俺の行動を阻んでいた。
本当に後ろ髪に触って良いのか…
この時の俺には検討もつかなかった。
あれこれと考えてしまったせいで、
さっき以上に緊張し始めた。
そんな空気に耐えきれなかった俺は
やっとの思いで、
指先で微かに触れる程度まで近づけていた手を
バッ、と上に挙げてしまった。
ジークフリートの取った行動…
俺にはそれができなかった。
上に手を挙げたまま硬直する俺…
女子は、
それに気がつくと
後ろにいた俺の方を振り向いた。
…不敵な笑みを、その顔に貼り付けながら_
「ほらほらほらほら!!
そうなりますよね!?
今みたいな反応ですよね!?ね!?
こーんなイケメンにしか許されないよーな
スカしたこと出来るわけないじゃないですか!!
こんな!!
ドーテー面した!!
センパイみたいな奴に!!
キャラ
ブレてますよ!!」
そして、女子は
びょんぴょんと楽しそうに飛び跳ねながら
俺を罵る言葉をぶつけてきた。
その言葉は、
精神的に疲弊しきっていた俺への追撃となり
容赦なく俺の心に突き刺さった。
誰も俺を助けてはくれない。
俺もこの状況から脱することができるほどの力は無かった。
俺は
彼女から目を逸らしながら…
恥ずかしい気持ちを堪えながら…
突っ立っていることしかできなかった。
動揺のあまり、
女子から目を逸らし
手でメガネをいじる俺。
それを見て、女子は
「ん〜?」
未だニヤついた表情のまま
こちらを見つめていた。
女子は、
向けられる視線から目を背ける俺の周りを
回って俺の目を見つめようとする。
「センパイ
何キョロキョロしてるんですか?
人が話してる時は…
ちゃんと相手の目 見て下さいよ
ねぇ!?」
いつまでもキョロキョロしている俺に、
女子は不敵な笑みを向けた。
その言葉で、俺は動けなくなった。
追い詰められた俺は、
必死に彼女から目を逸らそうとする…
無意識のうちに、ヒクヒクと瞼を
動かしながら。
「センパイって
ちょっと…
いや…かなり…
キモいっスね」
動きが止まった俺を
壁となる本棚に更に追い詰めるように、
女子は俺との距離を少しずつ詰めていく。
俺に手の届く位置まで
近づくと、俺の顔の真横目掛けて
左手を突き出した。
本棚の本が揺れる音が
俺を更に驚かせる。
この状況で
俺は考えた
心の中で
この女子に質問した
…なんでそんなことを言うんだ?
一体…
なんで…?
君の言う通りに行動しただけなのに…
図書室に入っただけなのに…
友達と一緒に帰れば良いじゃないか…
楽しく…喋りながら…
なのに、なんでこんなことを…?
俺はわからなかった…
なぜ今こんなことを言われているのか。
言われなければならなかったのか。
だが、言い返すほどの力は
今の俺には無い。
いつの間にか、
俺の目には涙が浮かんでいた。
それを見つめていた女子は
すぐにそのことに気づき、
「あれ?センパイ
泣いてます?」
嗜虐的な笑みをこちらに向けた。
俺は目を片手で覆うが、もう遅い。
彼女は俺の目が涙ぐむ様をじっくり
見ていたのだから…
「は?」
俺に返答を求めるような
強気で威圧的な声。
「な 泣いて…な…」
それに、
絞り出したような声で
俺は答えた。
強がりな返事はしたものの、恥ずかしさ故に
堪えきれず涙が溢れてくる。
この女子の言う通り…泣いてるんだろう…
俺は。
だが、涙が頬を伝うことはなかった
溢れ出す涙を見た女子は、
どう言う訳か、
すぐにポケットからハンカチを取り出して
俺の目に近づける。
(え…?あ…
や…
やめ…)
俺の涙は、彼女のハンカチで拭われた。
俺がじっとして動けないことを良いことに、
ニヤニヤとした笑顔で楽しそうにしていた。
…しばらくハンカチで涙を拭っていた女子は、
満足したんだろう…
俺にハンカチをそっと手渡し、
「イジメちゃったお詫び
じゃーね センパイ❤︎」
その場にへたり込む俺を放って
図書室から消えていった。
俺は……
後輩の
女子に
泣かされた…!!
不幸続きの俺に追撃をかけてきた
あの女子…
もう二度と会うこともないだろう…
いや、もう会いたくない
そう思っているうちに、明日を迎えていた_
#2 追撃
『八王子直人』の元に現れた1人の女子
彼女は八王子の不幸…そして心の状態など知る由もなく
容赦のない言葉で 彼を追い詰めてゆく_
#3 侵略
女子の攻撃は、まだ終わらない_