────ここは、いつも通りのSTARRY。未確認ライオットを終え、レーベルからの連絡を待つ彼女達は、今日も活動費稼ぎの為にアルバイトに勤しんでいた。
「店長!ここの掃除終わりましたー!」
「ん、お疲れ。じゃあ道具片付けて、今日はもう上がっていいぞ」
「みんなお疲れ様!じゃあせっかくだし、ちょっと練習してから帰ろっか!ぼっちちゃん、電車の時間はまだ大丈夫そう?」
「あっ、だ、大丈夫です」
「よかった!じゃあ早速始めよー!」
「そういえばお前ら、レーベルから声をかけてもらったらしいけど、話をする日程は決まったのか?」
「一週間後の日曜日くらいだって!いやー、私達もついにレーベルか〜!」
「ここまで頑張ってきた甲斐がありましたね!」
「印税生活…高校中退…タワマン…うへへへ」
「私達に声をかけるような先見の明があるレーベルなら、きっとでかいレーベルに違いない。楽しみだね、ぼっち」
「はっはい!へへへへ…」
「浮かれ過ぎだろこいつら…」
───と、ここに。いつものごとく、結束バンドのみんなの顔を見に行くという名目であわよくばそのまま伊地知家でシャワーと夜ご飯を頂いて行こうという卑しい考えをアルコールの入った脳みそに浮かばせた酒クズベーシスト、廣井きくりがやってきた。
「あっはは〜、せんぱぁ〜い、みんなぁ〜、遊びに来たよぉ〜!」
「来やがったなアル中クズ。とっとと帰れ」
「え〜ん先輩しんらつ〜!妹ちゃ〜ん先輩がいじめてくるぅ〜!」
「帰ってください、練習の邪魔です」
「おっふ…なんなら妹ちゃんの方が辛辣な気がする…」
───ふと、ここで後藤ひとりは思った。もしも、自分があの日、虹夏から差し伸べられた手を跳ね除けていたら、もしも、自分が今よりも少し、他の人を信じることができない性格だったらと。
(そしたら…私は、ずっと暗い世界で一人ぼっちのまま、ダメな私からちっとも変われないままで、死んでいってたのかな。この楽しい時間も、なかったのかな)
(そんな世界も、きっとどこかにあるのかな。そんなのは…嫌だな)
自分の周りに、結束バンドに入ってから出会ったみんながいない世界。そんな、あるかどうかすらもわからない世界の想像は、ひとりの心の中を少しずつ蝕んでいき────
そして、蝕まれる心に呼応したかのようにひとりから湧き出した闇が、きくりからのウザ絡みを冷たい目でいなしていた虹夏と、何度泣きついても辛辣な対応を返され続けて内心割と本気で落ち込んでいるきくりの体を包み込んだ。
「うわわわわ!?ぼっちちゃんどうしたの!?てか何これめちゃくちゃ暗いんだけど!?」
「妹ちゃん、私流石に反省したから、これからはもっと優しく接してくれると嬉しいな…」
「今そんなこと言ってる場合じゃないです廣井さん!いやもちろん反省はしてほしいけど!」
「ん〜いきなりどうしたのそんなに焦っちゃって…て暗っ!何がどうなってんのコレ!?」
「ぼっちちゃんがいつもの発作を起こしちゃったみたいです!早く止めないと!」
「君なんか慣れてない!?お姉さん実は今結構怖いんだけど!?…ってアレ?なんか体がどこかに運ばれる感じが…そしてなんだか意識も遠…く…」
「お酒飲み過ぎですよ流石にもっと自重しましょうよ!今日平日なんですよ!…って私もなんか意識…が…」
「虹夏、廣井、どうしたんだ!?」
次の瞬間。ついさっきまでここにいたはずの、虹夏ときくりの姿が、綺麗さっぱりに消えてなくなっていた。
「え…二人が消えた!?」
「ぼ、ぼっちのバグはもう何度も見てきたけど、このパターンは初めて…!そんなことより、虹夏と廣井さんは…!?」
────「うーん…あれ、日が高い…?」
アルコールに侵されていない若くて健全な脳みそだからか、虹夏がきくりよりも一足先に目覚め、辺りを見回した。
「さっきまではもう夕方だったと思うんだけど…まさか私あの後ずっと寝ちゃってた!?」
ここは、STARRYの二階にある伊地知家の、虹夏の自室のベッドの中だった。
「ううん…アレ?妹ちゃん?」
「廣井さん!?なんで私と一緒のベッドに…。運んでくれたのはありがたいけど何考えてんのお姉ちゃん…!」
───と、その時だった。
『もう…結束………解散しなきゃ………今までごめ…………ありが………リョウ』
下の階から、何やら声が聞こえてきた。それも、この上なく自分と似た声だった。
(え…!?私の声!?なんで…!?)
あまりにも超常的な現象を目の当たりにして一瞬気が遠くなりかける虹夏だったが、すぐに気を取り直して極力小さな声できくりに呼びかけた。
『廣井さん、今の聞こえました!?』
『うん、あれはどう考えても妹ちゃんの声だったね…』
『ど、どういうことなんでしょう…。昔観たアニメにこういうのよくあった気がするけど…』
『まあ、今はひとまず様子を見てみよっか』
そう思っていたのも束の間。押し殺したような泣き声とともに、こちらまで足音が近づいてくる。
『ってヤバ!?隠れなきゃ!?』
『でもどこに隠れれば…』
そして、鼻をすする音とともに、部屋の扉が開かれた。
((あ…ヤッべ…))
「………え、私……と誰…!?」
─────開かれた扉の先には、目元を赤くして、目に涙を浮かばせながら、驚きの表情をにじませた伊地知虹夏その人が、確かに立っていた。