「えっ、わ、私!?なんで部屋の中に私と知らない女の人がいるの!?えっちょどういうこと!?…ま、まさか私ったら、バンドが解散しちゃったショックでとうとう幻覚を…!?」
「わー待って幻覚じゃないよ!一応念の為お互いに自己紹介しよう!私は下北沢高校2年で、結束バンドっていうバンドのドラムをやっている伊地知虹夏!こっちの人はSHIC HACKっていうインディーズバンドのベースボーカルをやっている廣井きくりさん!」
「わ、私は下北沢高校1年の伊地知虹夏です……って」
「「「え?」」」
あまりに衝撃的な光景に、この場にいる全員の声が同時に上がった。扉の先にいた、虹夏と瓜二つを通り越してもはや身長以外では見分けがつかない程によく似た少女は、なんと、名前までもが一文字たりとも違わずに虹夏と同姓同名であった。
部屋の入口に立っている虹夏とよく似た少女は、内心ひどく混乱していた。
(わ、私と同じ高校で、2年生…?しかも、姿だけじゃなくて、名前まで全く同じだし…。もし本当にこんな人が高校の先輩にいたら、少なくともリョウ辺りは私に話題を持ちかけてきてると思うけど…)
しかし、先程の虹夏の自己紹介の中に、その混乱すらも断ち切ってしまう程に彼女の中で引っ掛かりを覚えたことがあった。それは。
(いや、それよりも…。さっきこの人『結束バンド』って言ってなかった…?)
「あ、あの〜、に、虹夏、さん。」
「ど、どうしたの?」
「さっき『結束バンドのドラムをやっている』って言ってたと思うんですけど、あれってどういう…」
「あ、それね!私が今やってるバンドの名前!名前のセンスはちょっとアレだけど、歌はきっと気に入ってくれると思うな!今度ぜひ聴いてみてよ!」
「───そ、そのバンドの名前…やっぱり…。」
「ど、どうしたの?やっぱこのバンド名、流石にちょっとセンス無さすぎかなあ?アハ、アハハハ──」
「────やっぱり、さっき解散しちゃった私のバンドの名前と同じです」
「「────え…?」」
瞬間。虹夏ときくりの背筋が、凍りついた。
「か、解散って…何があったの…!?」
「…リードギターをやってくれるはずだった喜多ちゃんって子が、ライブの本番直前で逃げちゃって。その子の代わりにギターをやってくれそうな子を探しに行ったら公園にギターを持った女の子がいたから、声をかけてみたら───『もう私には話しかけないでください』って断られちゃって。その言葉で、私の心も、もう限界になっちゃいました。ここまで私に付き合ってくれたリョウには、本当に申し訳ないことしちゃったけど…。…叶うわけもない夢をいつまでも子どもみたいに追いかけて、リョウの人生の時間を奪ったりはしたくないから」
虹夏は、自分とよく似たその少女の言葉を聞いていく内に『自分も、この少女と同じ境遇に置かれていたとしたら、間違いなくこうなっていただろう』と強く思うようになっていた。それと同時に『この少女に夢を諦めさせたくない』という強い想いも抱くようになっていた。それは、この少女に、かつての自分の面影を見たから───いや、鏡に写った自分の姿よりも鮮明な、自分そのものの姿を見たからに他ならない。
少女の独白を聞いた虹夏は、少し目を瞑り、小さくよしっ、と呟き、強い決意の籠もった目で、きくりと、自分とよく似た少女───いや、"もう一人の自分"の顔を見回した。
「…廣井さん、そして、虹夏ちゃん。───いや、"もう一人の私"。」
「え…?」
「私達がどこに来ちゃったのか、そして、ここに来た私が何を果たすべきなのか。───それが、今ようやく分かった気がする」
「っ!?妹ちゃん、ここがどこだか分かったの!?」
「これはあくまでも私の推測に過ぎないですけど…ここは、多分いわゆる『パラレルワールド』ってやつだと思います」
「ぱ、ぱら…なんて?」
「平たく言うなら、私達のいる世界とよく似た別の世界、と言ったところですね」
「な、なるほど…?……私そういうの詳しくないんだよなあ…。イライザとかならよく知ってそうだけど…」
「…こほんっ!とにかくっ!私達がここに来ちゃったのには、きっと何かしらの意味があるんだと思う!…そして、その意味っていうのは」
虹夏は、小さく息を吸ってから、目の前にいる自分自身に向けて、言い放った。
「───伊地知虹夏!君のバンドを、再結成させることだよっ!君はまだ、夢を諦めるには早すぎる!
リョウだって───君の幼馴染だって、お姉ちゃんだって!きっと君に、夢を追うことを諦めてほしくないはずだよっ!!」