下北沢の大天使をデロデロに甘やかしてドロドロに依存させたい 作:百合好きの獣
※いつも感想高評価ここすきお気に入り登録ありがとうございます。誤字報告も本当にありがとうございます。投稿前にチェックはしてるんですが……
夏です!!
曲もできたので、来月する予定のライブに向けて今は暇さえあれば練習の日々です。
夏ってなんで人も街も活発になるんだろう……ついていけなくて気が滅入ってきます…………」
「この声さっきから何」
「一生梅雨がよかった……」
地の文を乗っ取るな、後藤。
リョウとひとりが仕事をこなし、結束バンド初のオリジナル曲が完成した。その出来は他の面々が諸手を挙げて大喜びをするほどの出来で、中でも百合による褒め殺しはひとりの中に眠る承認欲求モンスターが百合の中に眠る甘やかしモンスターとがっしり握手をして和解をするほどだった。
もちろんリョウもいつも以上にべた褒めされ顔を赤くしており、なんなら百合だけでなく普段はリョウを窘める側の虹夏ですら百合と一緒になってすごいすごいと連呼しており、当然リョウの信奉者である郁代も乗っかるので、なんとなくそういう空気だと思ったひとりも合流し――とリョウはバンドメンバー全員から褒め殺され赤くなって縮こまってしまっていた。かわいい。
そんな一幕を挟みつつも、結束バンドは順調なスタートを切ったといえる。
言える、のだが。
(時進むの早すぎッ!!)
ひとりはライブが目前に近づいたのに、以前と全く変わらない自分に悶え、血を吐いて床をゴロゴロと転がりまわった後に、でも人の目もたまに見れるようになったしバイトもしたし少しは変わってるよねと一転血を口の端から垂れ流しながら悟りを開いた笑みを見せた。落ち着きって言葉知ってる? 今の君に足りないものなんだけど。
それを見た虹夏と郁代は言う。
「ずっと一人百面相ごっこしてるよね」
「面白かったの最初のうちだけでしたね」
あまりにもバッサリで可哀想になる。もっと包んでやれ、オブラートに。
「……ぼっちちゃんはちゃんと変われてるよ。えらいえらい」
「あっ、うぇっ……そっ、そうですかね……? そうかも……」
「またぼっち殿がダメになっておられる」
やいのやいのと賑やかに会話するバンドメンバーたちを眺め、虹夏は一人物思いにふける。
(なんかバンドっぽくなってきたなぁ……私達の夢もそう遠くない未来叶えられるかも)
視線を向けるのは、最も信頼し、最も頼れるパートナーの百合。
(ね、百合)
(そうだね、虹夏ちゃん)
視線だけで通じ合い、虹夏は頷くと「ちょっとお姉ちゃんのとこいってくるね!」とスタジオを後にした。
「おねーちゃん!」
「……ここでは店長って呼べって言ってるだろ」
虹夏が声をかけると、カウンター席でノートパソコンを使って作業していた星歌は、振り返りながらじとっとした目を虹夏に向けた。
「それで? 何の用?」
「やだなぁ分かってるくせに! ……次のデモ審査、結束バンドも参加するから!」
結束バンドの集結前、四人だった頃に参加したライブは、星歌が初めてのライブだからと無条件に出演させたが、本来STARRYでは事前に審査を行っている。これは客商売としては当然の事で、出演してくれるバンドが良くないと箱全体の集客率、ひいては経営に支障が生じてしまう。虹夏達が出してもらえたのも身内の恩情という側面が大いにあり、普通であれば最低限の演奏すら出来なかった以前の結束バンドでは、出演お断りレベルなのだ。
そんな中、虹夏がデモ審査に参加すると言い出したのは、星歌にとってはちょっと意外だった。
「……てっきり、そのままライブに出させてくれって言うつもりかと思ってたんだけどな」
「そんなこと言ったら、お姉ちゃんの事だから“出す気ないけど”って言うでしょ?」
その通りだった。
もしも虹夏が「次のライブも出して」なんて軽い気持ちで言って来たら一蹴するつもりが星歌にはあった。
……可愛い妹達の為に出演バンドの最後の一枠を長い事開けているので、一蹴できるかどうかは、別として。
「その通りだよ。デモ審査は来週やる予定だけど……大丈夫なのか?」
心配するような声音の姉に、虹夏はとびきりの笑顔で答えた。
「もちろんっ!!」
◇
(大丈夫じゃなああああいっ!!)
虹夏は頭を抱えていた。
勢いで心配する姉にできらぁ! と啖呵を切ってしまったが、いざ戻って練習を再開しているうちに不安がぶり返してきたのだ。
「あっごっ、ごめんなさい……」
「あ……すみません、また……」
ギター二人の練度が足りない。
高校生の中では頭一つ抜けた実力を持つリョウや百合は問題ない。リョウは時折自分の世界に浸ってしまうのが課題だが、そこは虹夏や百合がカバーできる範囲だ。それに、百合に至っては補助を主体とした演奏の為高校生レベルに収まっているが、個人の腕前としてはプロレベルとまでは行かなくとも、インディーズの中でも上澄みに位置するだろう。
虹夏の実力は上二人と比べると見劣りはするが、それでも高校生レベルとしては上の方だ。ただ、本人も気づいていない事だが、百合と組んだ時だけ更に安定感が増すので、結束バンド内に限って言えばリョウや現状の百合とほぼ同レベルであると言える。
一方で、問題の二人。
郁代は完全な素人だった為仕方ない。むしろこの短期間で一曲二曲ならなんとか演奏に着いていけるようになっているのは驚異的な成長スピードであるといえる。だが、現時点ではギターボーカルなのに運指に必死になってしまい俯きがちなのと、未だにカラオケ歌唱になっているのが問題だ。
で、ひとり。ひとりに関してはよく分からない。
演奏自体は出来ていると思う。初めて合わせた時のようなスピードキングっぷりは鳴りを潜めてきているが、ピッキングに迷いがあるというか、時折変な所でスピードチェンジを起こしてしまったり躓いてしまう。
メンバーと目を合わせることが出来ないために意思の疎通も難しく、こればっかりは慣れが必要か……というのが虹夏と百合、リョウの共通認識だった。
総じて、今の結束バンドはバンドとしての纏まりは最低レベルであり、経験不足が大きな問題となっていた。
(大丈夫……大丈夫な、はず。実力順で出演バンドが選ばれるわけじゃないから、最低ラインを越えてさえいれば、後は努力の形を見せれば合格を貰える……多分)
今もまた、サビ直前に音を合わせられず微妙に音がずれてしまった事をひとりと郁代がお互いにペコペコ謝り合っているのを見ながら、虹夏は人知れず不安から冷や汗をたらりと流していた。
練習が終わり、それぞれが帰路へと着く中。虹夏はひとりの後を追っていた。
虹夏が、ライブに出るためにはデモ審査に合格することが必要な事、そして合格する為には演奏技術云々ではなく、前回からどうバンドとして成長したかが重要であるという旨を全員に伝えた後から、ひとりが何か思い悩むような様子だったので、心配になって話を聞こうと思ったからだ。
百合とリョウは郁代の居残り練習を見ているので、この場には来ていない。
「ぼっちちゃん!」
虹夏が声をかけ、ひとりの背がびくりと震えた。
「え? あっ、虹夏ちゃん……?」
「ごめんね驚かせちゃって。電車までまだ時間あるよね? ちょっとお話しよ?」
虹夏はそう言うと、近くにあった自動販売機でレモンネードとコーラを購入すると、コーラの方をひとりに渡し、開封したレモンネードを口にしてから話始めた。
「ぼっちちゃん、不安かな?」
「へ? えっ、あっ、その……」
「あぁだいじょぶだいじょぶ。そう思うのも無理はないって分かってるから」
「…………はい」
ひとりが頷いたのを見て、虹夏は彼女が自分から喋り始めるのを待つことにした。
数分、ひとりは視線をあちこちへさまよわせたのち、おずおずと話し出す。
「……あっ、そっ、その……バンドとしての成長って、どういうことかなって……」
「あー……そっかそっか、なるほど」
虹夏は両腕を組んで、うんうんと頷いた。
「う~~ん、そりゃ最初はド下手なんて言っちゃったけど。最近はちょっとずつだけど目も合わせられるようになってきたし、あたしはちゃんと変われてると思うよ」
「…………」
虹夏の言葉に、ひとりは返事をしなかった。
虹夏の事は信頼している。けれど、言葉で納得できるのであれば、ひとりはこれほど思い悩むことも無い。
百合の言葉であれば届くのかもしれない、だけど、その百合から託されたのだ。
『……わたしだと、支える事は出来ても、引っ張ってあげる事は出来ないから。でも、虹夏ちゃんなら大丈夫』
託されたのだ、何よりも大事な幼馴染に。
「ぼっちちゃんはさ」
一つ区切って、ひとりと向き合う。
「あたしが無理やり誘ったようなものだったけど、無理はしてない?」
「えっ……」
「ぼっちちゃん、ずっとバンドやりたかったって言ってたけど、そういえばどんなバンドをやりたいとか、なんのためにいまバンドしてるとか聞いたこと無かったなーって」
「あっ、あぅ……」
ひとりは少し顔を青くしながら目を逸らした。もともと、ギターをやろうと思ったのが『陰キャでも輝ける』からであり、もっと言えば『ちやほやされたい』という理由に帰結されるからだ。
ただ、バンドを組む、活動する理由というのは人それぞれだ。
ライブに出るのが全てではなく、気の合う友人と休日にセッションをするだけで満足できる者もいる。
有名になる方法も、今ではネット配信がある為、そちらを主戦場とするバンドやアーティストも少なくない。
「あたしは――いや、あたし"達"なんだけど。目標っていうか、夢があって。だからライブとかアー写とか、MVとか。色々考えてやってるんだけど……ぼっちちゃんに無理させてないかなーって」
「そそそそんなっ、ぜんぜんっ! むむむ無理なんてっないですっ」
「――そう? ならよかった」
言い終えると、虹夏はレモンネードを飲み干し脇にあったゴミ箱に捨てる。
「あっ、あのっ、虹夏ちゃんのバンドをやる理由って……」
「うん? もちろん、売れてメジャーバンドになること! なんだけど――本当は、その先にあるんだ」
「先……?」
「そう!」
虹夏はくるりと踊るように回り、悪戯な笑みを浮かべた。
「でも、ぼっちちゃんにはまだ内緒だよっ! ぼっちちゃんも、なんのために自分がバンドをやってるのか考えてみて!」
じゃあまたね! と去っていく虹夏を、ひとりはぼーっとした表情で、しばらくの間手を振って見送っていた。
◇
後藤ひとりは考えた。
今、自分に足りないものはなにか。
バンドをやる理由は、朧気ながら見えてきた。
あとは、自分の問題。
セッション経験の不足による、実力が発揮できない現状。
それを解決する方法は思いついている。
複数の音といきなり合わせようとするから難しいのだ。だから、例えば一人のメンバーと完璧に合わせる事が出来れば、全員で演奏した時もその人の音をしるべとして弾くことが出来るのではないか。
では、誰を選ぶか。
郁代は同じギターではあるが、郁代自身まだ安定したリズムを続ける事は難しいだろう。
となると、リズム隊であるベースのリョウ、ドラムの虹夏――否。
否である。
この作戦には一見容易に達成できるものに見えるが、重大な問題が残っている。
誘わなければいけないのだ。個人練に。
自分で声をかけて誘う。なんと恐ろしい事だろうか。
優しい結束バンドのメンバーであれば大丈夫だとは思うが、万が一にでも拒否されてしまえばしばらく立ち直れないかもしれない。たとえわずかでも可能性があるのであれば、ひとりは動くことが出来ない。
だが、例外は居る。
百合だ。百合だけは拒絶しないと信じている。むしろ百合に拒絶されてしまったら永遠に人としての形を失ってしまう。
だから百合を個人練に誘う。
ちょうど開店準備中のSTARRYに百合は居た。開店後は百合はバイトが無く、また自分も今日はシフトに入っていない。
好機だ。
誘い文句はシンプルでいい。「百合ちゃん、私とセッションの練習してくれませんか」。これだけでいい。
テーブルに腰かけてノートパソコンで作業をしている百合に近づく。
百合がこちらに気づいて顔を上げた。
言え、今、ここで――!!
ところで、後藤ひとりは以前、郁代をギターボーカルに誘った際に緊張のあまり特定の語句の頭だけを大きく発声してしまい、郁代にヒューマンビートボックス扱いされてしまった過去がある。
だが安心めされよ。流石のひとりも成長をしている。そこまでおかしな事には――
「あっ、ゆっ、百合ちゃんっ!!」
「……どうしたの、ぼっちちゃん。何かご用事?」
ひとりは大きく息を吸った。嫌な予感がする。
「わっ、私とセッ!!ションの練習してくれませんか!?」
――最悪だ。
・虹夏の成長
①母親が亡くなった後、一人ぼっちではなかったので一人で思い込んで突っ込む悪癖が薄れた
②同じ夢を追ってくれる幼馴染が居る為、原作よりも「ガチ」に近づいた。
そのため三十路ぬいぐるみショックは発生しなかった。この世界線で発生していた場合人形だけでなく百合も抱いて眠ってる事を暴露されるため、星歌は命拾いをしたともいえる。
・ぼっちちゃんには内緒だよ
全世界80兆の虹夏ちゃんファンが恋に落ちた仕草。このシーンは他にもしゃがむ時サイドテールを手で抑えてたりとかの細かい仕草も多く見返せば見返すほど「ガワイイッ!!」ってなる。なった。
・最悪なヒューマンビートボックス
背後で物を落とす音が聞こえた。
次回はまた1日2日間が開くかも