下北沢の大天使をデロデロに甘やかしてドロドロに依存させたい   作:百合好きの獣

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この世界線の「なにが悪い」はメインボーカル虹夏ちゃんでサブボーカル百合なんだろうなと妄想しながら日々を過ごしています。ただあの曲ドラムボーカルくっそムズイと思う。いや、どのパートも女子高生がしれっと弾いていい曲じゃないんですけど。

※いつも感想高評価ここすきお気に入り登録ありがとうございます。ここすきはおそらく同じ方だとは思うんですけど、毎回すごいいっぱいここすきしてくれる方が居て、嬉しいです。


#12 おさななじみ と 誤解

 

 

 

「わっ、私とセッ!!ションの練習してくれませんか!?」

 

 ひとりの発言は、STARRYに混沌をもたらした。

 どんがらがっしゃんと何かが崩れ落ちる音が二つ、聞こえる。

 

 ひとつは別のテーブルで作業を見守っていた星歌が椅子から転げ落ちた時の音。

 そしてもう一つは、ドリンクカウンターで棚卸作業をしていた虹夏がすっころんだ音。

 

 それきり、しん、とSTARRYが静まり返った。

 ひとりが慌てて周りを見回してみれば、星歌は腰を打ったのか痛そうにしているし、虹夏はカウンターの下にいるのか姿が見えない。清掃をしていたリョウは驚きを顔に張り付けてこちらを見ているし、PAさんもあんぐりと口を開けている。

 

 私、何かやっちゃいました? と予想外なリアクションにひとりが慌て始める。

 やったのである。特大のやらかしを。

 

 ただ、間近で聞いていた上に耳も良い百合は正確にひとりの台詞を聞き取れたようで、「わかった」と一言発し――

 

「……じゃ、お店が開店したらスタジオいこっか」

「あっ、はっ、はい!」

 

 と承諾をした。

 承諾をしてしまったので、他の事態を把握できていない状態の人は『ひとりがセッ!に誘い、百合が承諾した』という地獄のような勘違いが加速した。

 誤身完成ってか……。

 

 当然、それを看過できない者がいる。

 

「だめええええええええっ!!!!」

 

 下北沢の大天使のエントリーだ。

 虹夏は全力ダッシュで間に割り込み、百合を強く抱き寄せた。

 

「い、いいいくらぼっちちゃんでもダメ!! 百合はあたしのなんだから!!!」

 

 独占欲の発露。それは虹夏と百合が中学生の頃までにあった問題だった。

 過去、ちょっと良くない方向に依存が進んでしまい、虹夏が百合から離れられなくなった。文字通り四六時中、お風呂だけでなくトイレの個室にまで着いていくようになってしまい、少しでも百合の姿が見えないと途端にパニックを起こすほど。

 百合も百合でそれを普通に受け入れ――本人も望んで――ていた為、ますます依存は進行しという悪循環。

 それは、いよいよ問題視した星歌とリョウによって、盛大な大喧嘩の末、最悪の事態は防がれた。二人のお互いに向ける依存心がドロドロとした退廃的な物から、プラス方向に転じた。まあ、そのせいで虹夏は明らかに同性の幼馴染に対して普通に行うものではないスキンシップを堂々と取るようになってしまったし、百合に至っては世田谷区のホームページを熱心に読み込む等お互い身を固める方向に舵を切ってしまったが……問題ないな。ヨシ!!

 

 尚、虹夏単体に向けられていたことでグツグツに醸造されていた百合の甘やかしという特性が、「他の人にもやっていいんだ」と野に放たれてしまった経緯でもある。妖怪はこうして生まれた。

 

 まあ、そんなわけで一度は解消された独占欲だが、流石に性交渉をされるとなると虹夏にとってはたまったものではなかった。無論、勘違いなのだが。

 

 あ、これはなんか勘違いしてるなと百合は勘付いた。

 

「……虹夏ちゃん落ち着い――」

「ゆ、百合も! ダメなんだからね!! あたしだって我慢してるのに……ど、どうしてもするなら、あたしが先――」

「……はい、ちゅー」

「んみゅっ!?」

 

 顔真っ赤でお目目ぐるぐる。どう見ても正常な状態ではないので、百合はとりあえず落ち着かせるためにキスして黙らせた。ご丁寧に、舌まで入れて。

 

 Dirty Deeds Done Dirt Cheap。

 いともたやすく行われるえげつないキスが虹夏を襲う。

 

「ぷはっ……ゆ、百合……」

「……落ち着いた?」

「すごく落ち着いた」

 

 どうやら落ち着いたようなので、百合はぽかんとしているひとりへと向き直った。

 

「……で、ぼっちちゃん。二人でスタ練しようって話で、いい?」

「へっ!? えっ、あっ、はい。そうです……」

「……………………………え?」

 

 虹夏はすごく落ち着いた事でようやく理解した。自分が勘違いしていた事を。そして何を口走ってしまったのかを。

 虹夏は恐る恐るあたりを見回した。

 

 リョウや星歌は頭を抱えているし、ひとりは何が起きたのか理解が追い付いていないし、郁代は顔を赤くしながら両手で顔を覆い、指の隙間からこちらを覗いている。

 

「…………わ、ワァ…………ァ………っ!」

「……泣いちゃった」

 

 顔をリンゴのように赤く染め、さめざめと泣きだした虹夏を、百合は「かわいいなぁ」と思いながら慰めていた。

 

 

 

 

 

 

 再起不能になった虹夏に、百合は一言二言囁いた後、ひとりと共にスタジオに入っていた。

 

「あっ、そっ、その、虹夏ちゃんは……」

「……だいじょぶ。今はそっとしてあげた方がいい。後でいっぱいお話はするけど

「……? あっ、百合ちゃんは……平気なんですか?」

「……平気って?」

「あっ、そっ、そのぉ……きっ、キキキKissを……?」

「……うん」

「えっ、あっ……え?」

「…………うん?」

「あっ……なんでもないです」

 

 虹夏はノックアウトしていたのだが、百合はケロリとしていたので、公衆の面前であんなことをしておいて平気なのか尋ねてみると、返ってきたのは「何が?」という問題にすらしていない回答。

 ひとりは全てを察し、ああこの二人にはきっと普通なんだと理解を放棄した。

 

「……話を戻すけど。ぼっちちゃんがわたしを誘ったのは、合わせる練習がしたいってことだったと思うけど……どういう練習がしたい?」

「あっ、えっ、えっと、ですね――」

 

 何やら変な事になってしまったが、とりあえずひとりの目論見通り百合と個人練習を取り付ける事が出来たので、ひとまず自分の考えを話してみることにした。

 ひとりが話す中、ところどころつっかえたり上手く言語化出来ない部分を、百合は根気強く話を聞き、また自分の認識があってるかを聞いたりといった事を繰り返し、やりたいことを概ね把握した百合は「なるほど」と頷いた。

 

「……ぼっちちゃんは、ソロだとスムーズに弾けるのに、合わせようとすると途端に指が動かなくなったりリズムが取れなくなる、と」

「はっ、はい」

「……んー。一回、ぼっちちゃん一人で弾いてみて? 聞いてみたい」

「わっ、わかりました……!」

 

 言われるがまま、ひとりはチューナーのメトロノーム機能を起動させ、ギターを奏で始めた。

 普段弾いている環境と違い、百合が目の前で見ているという緊張感から100%の実力発揮とはならなかったが、それでも普段のセッションよりも安定して演奏しきることが出来たように思える。

 

 ひとりはちら、と百合の様子を見た。

 何かを考えこんでいるかのようで、視線はこちらに向いていない。

 ダメだったのかとひとりの顔から血の気が引き始めた時、百合は「うん」と頷いてから、鞄からタオルを取り出した。

 

「……ぼっちちゃん、目隠しで演奏できる?」

「えっ? あっ、はい。多分……」

「……じゃあ、ちょっとこれつけて……よし。転ぶとあぶないから、そこから動かないよーに」

 

 後ろに回った百合が、ひとりの目の部分にタオルを巻き付け、簡易的な目隠しとした。

 視界が覆われる。暗く、何も見えないその環境は、いつも練習や収録をしている押入れの中と同じで、そのことがひとりを安心させた。

 

 そして始まる、ひとりの独奏。

 

 力強く、しかし繊細なピッキング。思うように動く指先が、歌うようなビブラートを演出する。

 近くに百合がいるという意識はあるため、これでも完全ではない。だがそれでも、確かにギターヒーローの片鱗が示されていた。

 

「はぁっ……はぁっ……どっ、どうでしたか……?」

 

 渾身の演奏が出来たと思う。ひとりは僅かに乱れた息を整えながら、目隠しを外して百合を見ると、百合はニコニコと満面の笑みを浮かべながら、小さな手で拍手をしていた。

 

「……ぼっちちゃん、やっぱり上手だね。すごく」

「あぇっ……うへ、そ、そうですかね……」

「……うん。とっても。楽しそうな色だった」

 

 色、という言葉に、ひとりはそういえば百合は音を色として認識が出来ると以前聞いた事を思い出した。

 百合はごく自然にひとりに近づくと、これまたナチュラルにひとりの頭を「よしよし」と撫で始めた。ここ最近ひとりが何かを頑張るとすぐに頭を撫でてくれるので、ひとりの中では慣例行事になり始めており、こちらもまた自然に受け入れた。二人の中のモンスター達もフレンドシップを深めている。

 

「……それで、さっきわたしが見てた時とか、あと、普段合わせの練習をしてる時とか。その時は、楽しいって気持ちより、怖いって色の方が強かった」

「あっ、はっ、はい」

 

 百合の指摘はもっともで、人の視線を怖がる不安障害にも近い恐怖心によって、指がガチガチに固まってしまうし、耳もパニックで閉塞感が強まり全くリズムが取れない事が、ひとりの弱点だった。

 

「……ぼっちちゃん、ギター楽しい?」

「はっ、はい。すごく」

「……じゃあ、この前、初めてライブしたとき。怖かった?」

「――」

 

 百合の言葉に、ひとりは記憶を思い返す。

 夢にまで見たバンドを組むことが出来て、初めて行ったライブ。

 虹夏に引っ張られ、合わせ練もほとんどできず、段ボールを被ってまで出たステージでの演奏は、確かに怖かった。

 

 怖かったのだが。

 

「……怖かったです。けど――たっ、楽しかった、です」

「……そっか。良かった」

 

 百合は満足そうに微笑むと、ひとりの頭を撫でるのを止め、ぴょんとキーボードの前に置かれていた丸椅子に飛び乗った。

 撫でられた部分にまだ百合の熱が残っているような気がして、ひとりは名残惜しそうに手の平を頭にのせる。

 

「……ぼっちちゃんの問題を解決する為には、単純にライブを楽しめるように慣れるまで経験するっていうのが一つ。あとは――」

 

 言って、百合はキーボードの設定をいじり、ショートカットに音色をいくつか設定し直すと、ポーンと軽く鍵を叩いて音を出した。

 

「……ぼっちちゃんが安心して後ろを任せられるようになること。きもちよく、たのしく弾けるようになること。これはわたし達の努力次第だけど……まず、わたしの色を感じて、覚えてね」

 

 そして、かつて“天才”と言われた小さなピアニストの、本気の演奏が始まった。

 

 

 

「……どう、かな?」

 

 最後の和音を出し切った後、百合はじんわりと額に浮いた汗を拭いながらひとりを見た。

 ひとりはぽーっと呆けた顔をしていたが、百合が近づいて顔の前で手を振るとはっと意識を取り戻した。

 

「あっ、えとっ、そのっ、す、すごかった、です……。なんて言ったらいいかわかんないですけど……音が直接頭に入ってくるっていうか、その……すみません」

 

 禊萩百合の演奏の真骨頂は、色を自在に操ることにある。音の強弱や間の取り方、音色の組み合わせを巧みに使いこなし、音に込められた思いや感情を増幅させる。また、今回のように少数を相手に披露する演奏だと、その人に合った色を調整し、すっと頭に入る心地よい演奏とすることも出来るのだ。

 ひとりは今しがたの体験を頑張って言葉にしようと努力をしたが、どうも感覚的な部分が強く、最後は尻すぼみになって謝罪に切り替わった。

 それを、百合は優しく「いいよ」と言って、再び頭を撫であやす。

 

「……まあ、今みたいなのはバンドじゃやらないし出来ないけど。みんなの色を包んで補ったり強くしたりがキーボードの役目。だから、ちょっとくらい失敗してもだいじょうぶだよ。ぼっちちゃんの後ろで、ちゃんと支えるから」

 

 「もちろん、虹夏ちゃんやリョーちゃんも一緒に」と百合は笑った。

 

「……それじゃ、今度は二人で一緒にやってみよっか。ぼっちちゃんは好きにやってみて? ぼっちちゃんの練習っていうより、わたしが合わせる練習になっちゃうかもだけど」

「いっ、いえ! わっ、わたしも百合さんの音、よく聞いてやってみます」

 

 キーボードに備わっているメトロノーム機能を使い、百合が「わん、つー、さん、しっ」と合図をし、たった二人のセッションが始まった。

 

 セッション後の話。

 

「……あ、でもわたしだけじゃなくて、虹夏ちゃんとかリョーちゃんともペア練習しようね。郁ちゃんが上手くなったら郁ちゃんとも」

「あっあっ、そ、その……少しずつでお願いします、少しずつで……」

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜のこと。

 

「うぅぅぅぅぅぅぅ…………」

「……よしよし」

 

 日中盛大に自爆した虹夏は、バイト中にそれはもうリョウや星歌、PAさんに揶揄われ、郁代からもキラキラとした目で恋バナをせがまれるなど大変な羞恥プレイを味わった。

 味わった後、あまりにも揶揄いがねちっこくしつこかった為、キレた虹夏による4K.O.でSTARRYには平穏が戻ったそうな。スタ練を終えた百合とひとりは大変驚いていた。

 

「…………百合」

「……なぁに?」

「どこにもいっちゃ、やだからね」

「……ずっと一緒にいるよ」

 

 家に帰るなりずっと百合に抱き着いて腹に顔を埋めている虹夏は、百合の言葉にもいまいち納得が出来ないようすで無言でぐりぐり頭を押し付けていた。

 

「……虹夏ちゃん」

 

 仕方ないな、という風にため息をつくと虹夏はびくりと肩を震わせ、顔を青ざめさせながら恐る恐る百合を見上げた。

 

「あっ、ご、ごめん、ごめんね……もう我儘言わないから嫌いにならないで……」

 

 これまで安定していたところに、急に過去不安定だった頃と同じ感情が燃え上がってしまった事で虹夏は百合がため息をついただけで涙目になってしまうくらい心が乱れてしまっているようだった。

 もちろん先のため息は負の感情なんてものは微塵もなく、むしろ嫉妬して強く自分を求めてくれる姿に「可愛いなぁ」と思ったが為の嘆息だった。

 だが、今虹夏は泣きそうになっている。それは百合が最も嫌な状況であり、それを打破する為、百合はちょっと大胆な行動に出ることにした。

 

「……ちょっとごめんね。……んっ」

「えっ、あっ……♡」

 

 百合は虹夏の身体を持ち上げると、首筋に口づけ、強く吸い付いた。

 敏感な部分を刺激され、虹夏が甘い声を漏らす。

 

「……ん、ちゅっ。……はい」

 

 数秒ほどちうううっという音が出るほど吸った百合は、顔を離すと手鏡をもって虹夏に見せた。

 首筋に、虫刺されように赤い痣が出来ている。所謂キスマークが付けられていた。

 

「……ぁ…………」

「……はい、虹夏ちゃんもどーぞ?」

 

 言って、今度は自分の首筋を虹夏に差し出す百合。

 

「……わたしは、虹夏ちゃんのものだけど。虹夏ちゃんも、わたしのだから。これでお互い、マーキングできるでしょ?」

 

 お互いの所有権を証明する印。その淫靡な響きに、虹夏は喉をごくりと喉を鳴らして百合の首に顔を近づけていき――

 

「おはよう、虹夏、百合。今日はいよいよオーディションだなって……どうした? お揃いで首にスカーフなんて巻いて」

「き、気合を入れるため! それだけだよ!」

「……ん。気合十分」

「そ、そうか……まあ、あまり肩に力入れすぎるなよ……?」

 




ハーメルンの文字サイズって二段階以上の拡大縮小って出来ないの?? もっとくそでかセッ!!! がしたかった。

・自爆した虹夏
なんかやばい事口走ろうとしていた。ほとんど口に出してたのでアウトであった。
過去、もし星歌やリョウに止められなかったら――そんなifもあるのかもしれない。

・ひとりの成長
敵を見誤るなよの前に殻に罅を入れた。

・百合の本気
ギターヒーローやきくり姐さん、ツンデレのような惹き付ける演奏ではなく、心に入り込む演奏。催眠音楽とか興味ある?????

・お揃いのスカーフ
なんか二人とも首に虫刺されがあるらしいっすよ? リョウは「あっ(察し)」ってなったしぼっちは意味が分かってないし、喜多ちゃんは「キャーーーッ!(黄色い歓声)」ってなった。
ちなみにまだ付き合ってないっていうか、多分こいつらは付き合うとかそういうのすっ飛ばしていきなり籍を入れる。

ストックが無いその日暮らしの為、2日から3日に1話投稿のペースで今後オナシャス……。毎日書いて毎日投稿してる人は同じ人間なんか……??
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