下北沢の大天使をデロデロに甘やかしてドロドロに依存させたい 作:百合好きの獣
◇チケットノルマ
バンドがライブハウスに出演するには、お金がかかる。
当然の事で、ライブハウスも慈善事業ではなく客商売なのだ。取るものは当然取る。
しかし、直接使用料を支払うのではなく、入場券――チケットを渡し、代わりに売ってもらう。
そしてそのチケットが入場料としてノルマが課された数より多く捌く事が出来れば、ライブハウスとの取り決めにもよるが幾らかはバンドへと払われ、逆に少なければその分をバンドで補填する。
そのノルマは、結束バンドは20枚。一人当たり、4枚。
「……ぼっちちゃん、大丈夫かな」
虹夏、百合、リョウ、郁代の4人はこのノルマをちょっぱやで捌ききった。もとより学園内で妙な信仰をされている3人組なので、計12枚のチケットは瞬く間に完売。そして郁代も同様に、溢れんばかりのコミュ力とフレンドサークルによって即日完売。
で、問題は百合の零した通り、後藤ひとりその人であった。
何やらチケットを受け取った時は「我に勝算あり」と妙に自信満々の様子だったが、郁代から齎された情報によると、ひとりの交友関係は結束バンドのみで完結しており、学内で友人らしき人物と話している姿を見たことが無いという。むしろ、誰かと話している姿すら見たことが無いという筋金入りのぼっち。
両親に買ってもらったとして、売らなければいけないのは4枚。あと2人、別に買ってくれる人を見つける必要がある。
「ぼっちちゃんって、兄弟姉妹いたっけ?」
「……妹が居るって前に聞いたことあるけど。でも、確か小学生だって……」
ライブハウスは基本的に夕方から夜にかけてライブを行うため、年齢制限が設けられている事が多く、当然STARRYも小学生以下は入れない。だからこそ百合が居ると通報される
というか、そもそもひとりの妹に渡せたとしてあと1枚のノルマがあるはずなのだが、なぜひとりはあれほど自信があったのだろうか。
答えは、犬。
ジミヘンというロックな名前を持つ飼い犬がおり、ひとりはそれを頭数に入れていた。ペットを家族として扱うのはままあるが、ライブの観客としてカウントしようとするのは世界広しと言えども後藤ひとりのみだろう。感性がいちいちロックすぎる。
そんなことを知らない結束バンドの4人は普通に心配していた。果たしてあの子が無事にチケットを売ることが出来るのだろうかと。
なんなら百合も「よければこちらで捌けなかった分を受け持とうか?」と個人的に連絡をしている。だが、妙な所で気張ってしまうひとりは「大丈夫です! 百合ちゃんにはずっと頼りっぱなしなので、このくらい自分でなんとかしてみます!」とその申し出を断っていた。
もちろんひとりは勢いで断ってしまった事を激しく後悔していたし、百合は百合で「成長したね……」と早くも親心をくすぐられていた。16歳の親心ってなんだ。
というわけで、早々にノルマクリアをした4人だけで集まり練習をしているのだが、ひとりが心配過ぎて身が入らない(リョウを除く)ので、こうしてグダグダと駄弁っている。尚、百合はひとりの成長を喜びながらも心配が勝る為、一人で手伝いに行こうとしていた為虹夏によって捕獲され、今は腕の中で大人しくしている。
「百合も、大人しくしてるんだよ? あんまり過保護にしすぎるとぼっちちゃんの為にならないから」
「……でも」
「でもじゃないの。絶対離してあげないんだからね」
ぎゅうとシートベルトのように強くホールドされているため、百合は虹夏の膝の上から抜け出る事が出来ない。
その光景を見た郁代は「これは恋人っていうよりも、娘に甘い父親とそれを諫める母親なのでは……?」と疑念を抱いていた。大正解。
そうこうしている内に、グループラインに通知があった。いま話題に上がっていたひとりからのメッセージだ。
「……『今日は練習行けなくてすみませんでした。あとチケット全部売れました! 1枚余分に貰う事って出来ますか?』」
なんと、ひとりはチケットを全部売りさばく事が出来たらしい。しかも、ノルマよりも1枚多く購入希望があるという。
これには結束バンドの面々も大層喜び――
「ぼっちちゃん、絶対嘘ついてるよね……」
「私のメッセがプレッシャーかけてたのかも……」
「……明日の練習は、みんな優しく迎えてあげようね」
これが、現在の結束バンドの評価であった。
◇人を殺す曲
チケットノルマも無事にクリアし、ライブに向けての最後の追い込み。
今日も今日とて、全員は集まれずとも、身内特権で借りているSTARRY内のスタジオにて、百合、郁代、ひとりの3人は練習をしていた。
虹夏とリョウはバイトのシフトが入っている為、今は不在だがちょくちょく顔を出しに来ている。リョウの場合、サボっているともいえるが。
「キーボードって本当にいろんな音が出せるんですね。ピアノの音だけじゃなくて、電子音? っていうんですか?」
百合がペポ、パポとキーボードの電子音を調整しながら指遊びをしていると、ひとりがお手洗いに向かった事で手持無沙汰となった郁代が話しかけてきた。
「……そう。面白いでしょ」
ボタンを押して音色を切り替えて、SEチックな電子音から、バイオリン、オルガンと様々な音を百合は奏で、郁代は楽しそうにそれを聞く。
「あ、ギターとかベースの音もあるんですね」
「……楽器ならだいたいなんでもある。本物みたく繊細な変化はつけられないけど」
例えばギターなんかは、同じ場所を押さえて奏でた音でも、抑えた指を震わせてビブラートをかけたり、弦を押し上げたり引き下げるチョーキング、はたまた弦を叩くハンマリングなどなど、演奏法によって変化を加えられる。
その辺の再現がキーボードは苦手なのだ。
「キーボードって言えば電子音なイメージありますけど、最近ピアノ音が前面に出てる曲も良く聞きますよね」
「……そだね。キーボーディストとしては、そういう曲をやるのも凄く楽しいよ」
その後も郁代と話を弾ませていると、ひとりが戻ってきた。なにやら楽しそうに会話しているので首を傾げるが、悲しいかなぼっちには会話に割って入る勇気が存在しない。そのまま影を薄くして遠巻きに眺めようとしていたが、妖怪と陽キャからは逃げられない。
「……ぼっちちゃんもおいで。ちょっと休憩しよ」
「百合先輩がピアノ弾いてくれるって! 後藤さんも一緒に聞きましょ!」
「えっあっえっ……あっ、はい……」
ずるずると郁代に引きずられるようにして、ひとりオンザチェア。丸椅子に座らされ、その横に郁代もスタンバイ。
「……何かリクエストある? どんな感じの曲がいいとか」
「ピアノがかっこいいロックがいいです!」
「……なるほど。おっけー」
ピアノがかっこいい曲となると、YOAS◯BIの楽曲などが有名だろうか。他にも、ロックバンドが演奏するアニソンなどもいい。
少し考えて、百合は演奏する曲を決めた。
雑食傾向な百合がお気に入りのものであり、ピアノとドラムがかっこいい一昔前のアニソン。
弾こうとして、ある考えが頭を過り、ぴたりと動きが止まった。
「百合先輩? どうしました?」
首を傾げる郁代に、百合は真剣な表情で言った。
「……この曲を演奏すると、ぼっちちゃんが死んでしまうかもしれない」
「デスソング!?」
デスメタルみたいに言うな。怒られるから。
聴くと自殺してしまうという都市伝説がある曲はあるが、特定の人物を殺す曲というのはなんなのだろうか。
百合が弾こうとしていた曲は、Superc◯llの『君の知らない物語』。星が降るようなピアノの旋律と力強いドラムが特徴的なアニソンだ。
そしてばっちばちの青春ソングである。学生が天体観測に出かけ、秘められていた恋心を自覚するという歌。
なるほど、これは青春コンプレックスを刺激されるだけで人の形を保てなくなるひとりを殺す曲だといえるだろう。
危うく殺されかけたと知ったひとりは恐怖に震えながら問う。
「えっ、なっなにを弾こうとしたんですか?」
「……『君の知らない物語』」
「あっ(爆散)」
「後藤さん!? 曲名だけで!?」
輝かしい青春は、時に人を殺してしまう事を百合と郁代は学んだのだった。
◇デスゲーム開幕
「今から皆さんにはデスゲームをしてもらいます」
「どうした急に」
ある日、バンドミーティング中にリョウが突然変な事を言い出したので、虹夏はじとっとした目を向けた。
デスゲームというが、場所が無人島やらどこかに閉じ込められたわけでもなく、集まっているのはSTARRYのスタジオの中。つまり何の変哲もない。
当然のように虹夏含めリョウ以外は首を傾げており、百合はなんとなく緊迫感のあるメロディを即興で奏でBGMとした。何やってんだ。
リョウは百合にサムズアップをすると、こほんと咳ばらいを一つしてその真意を話し始めた。
「この前、百合が曲名を言っただけでぼっちが爆散したって聞いた。作曲するにあたって、どの辺がセーフラインなのかを知りたい」
「あぁ……まあ、それはわかったけど、なんでデスゲームとかって話になるの?」
それはそう。
虹夏の疑問に対し、リョウは自信あり気に胸を張って答えた。
「今から一人ずつ、曲名かアーティスト名を挙げてもらう。それにぼっちが耐えられたらセーフ。死んでしまったらアウト」
「そういう意味のデスゲーム!?」
生き残りをかけたデスゲームではなく、誰か一人を殺すデスゲームだった。
ひとりの命を賭け金とした黒ひげ危機一髪。あまりにもむごすぎる。
「大丈夫。もしぼっちが死んでしまっても、百合なら蘇生出来るから」
「それはそうだけど……」
そうではない。実績はあるが、それを普通と思うな。
あまりにも自分の命が軽すぎるやり取りに、ひとりはぷるぷると震え――
「だ、大丈夫ですっ……。わっ、私、頑張ります……!」
ひとりは覚悟を決めていた。
現状、作詞はひとりが担当している為、演奏していて青春コンプレックスが刺激されるような事は無いが、これからもずっとそうだとは限らない。
また、現状オリジナル曲が少ないため、ライブに出る時はカバー曲を演奏する事もあるだろう。その時に「青春コンプレックスが刺激されて死んでしまうのでダメです」とは言っていられない。
あわよくば、明るい曲も演奏できるようにと。なぜならlilyチャンネルで一部の曲はギターヒーローの再生数を超えているものもあり、それはポップなアニソンだからだ。他の演奏動画を上げているチャンネルでも、明るい曲は再生数が高い傾向にあるので。
ちょっとだけ下心が混ざりつつも、ひとりは腹を括った。それを見てリョウは満足そうに頷く。
「じゃあ言い出しっぺの私から。……湘南〇風」
「アッ(即死)」
「初手で!? 後藤さぁーんっ!?」
初手確殺。ファーストキルはリョウが獲得した。チョイスからして最初からキルする気満々であった。主催者が目的を軽視すな。
「やったぜ」と鼻を鳴らすリョウを横に、郁代があわあわとし始める。
「ゆ、百合! なんとかしてあげて!」
「……おーらい」
虹夏からのヘルプに百合が答える。
少し考えた後、頭の天辺からドロドロと溶け始めたひとりに近づくのを止め、キーボードを演奏し始める。
窮屈な世の中への鬱屈とした思いを抱え、それでも毒を吐きながらも素直な自分を貫く歌。それをピアノアレンジしたものを演奏すると、溶けかけていたひとりが逆再生するかのように復活した。
人として、いや生物としてどうなのかと思う光景だが、もう今更の事であるので結束バンドのメンバーは特に大きなリアクションを取ることもなく、ただほっと安堵の息をついていた。
「……蘇生完了」
「ふぅ……。リョウ、いきなり攻めすぎじゃない? ぼっちちゃんの反応見るまでもなくアウトだって分かるでしょ」
「いや、本当に曲名とかアーティスト名だけで発作を起こすのか確認してみたかった」
「そんなお試し感覚で……」
気を取り直して。
初手キルされたひとりは小刻みに震えながらも続行の意思はあるようなので、セカンドチャレンジャーは郁代となった。
郁代は思う。自分には荷が重すぎるのではないかと。
喜多郁代は陽キャである。キラッキラのイマドキ女子高生である。また、音楽については聴く事はあるが、アイドルソングだのJ-POPだのと流行曲ばかり。
つまり、思い浮かぶ曲名やアーティスト名の悉くがひとりに対して殺傷性の高いものなのである。
郁代は考えた。
考えに考え、あまり詳しくないロックバンドの中から、どうにかいけそうな物を見つけ――
「………………B〇UP OF CHIKIN」
「判定は!?」
「うっ……く……」
ひとりは胸を押さえて苦しげな声を上げているが、人の形は保っている。
「ぼっちが苦しんでる。でも、耐えられてはいる……?」
「これはセーフなの? と、とりあえず……百合!」
「……あいあい」
再び奏でられるPOISN。ひとりは体力を回復した。
「ぼっち的には今のどう?」
「あっ、えっと、その……引き分けで……」
「後藤さんは何と戦っているの……?」
あえて言うなら、自分との戦いなのだろうか。
更に気を取り直して、サードチャレンジャーは虹夏。
(バ〇プで引き分け……アウトかセーフか際どいラインってことだよね? 私はセーフだと思ってたけど、アウト要素もあるのはなんでだろう)
ひとり的には、バンド名の由来も、結成背景も、そして楽曲についても郁代が挙げたバンドは好みに近いという認識がある。これがセーフの理由。
しかし、かのバンドはあまりにも人気になり過ぎて、陽キャが好むロックバンドというレッテルをひとりは貼っていた。これがアウトの理由。
つまり、好みではあるが人気があり過ぎて逆にセーフと言えないという事だった。めんどくせぇなこいつ
(うーん……バンドの特色としても、リリースされた曲もそこまで青春コンプレックスを刺激するようなものじゃないと思うんだけど……。まさかとは思うけど、客層的な問題だったり……?)
正解。
仮定を確定させるため、虹夏は真剣な表情でカードを切った。
「じゃあ……マキシマム〇ホルモン」
「あっ、あっ……うぅっ……」
「さっきと同じ反応だ!!」
「引き分けってこと?」
ひとりがまた苦しみ始めたので、百合がすかさず回復魔法を唱えた。ポイズン。ここまでくるとファンタジーよりもホラーの域である。
「で、ぼっち。判定は?」
「………………ひっ、引き分け、です」
「後藤さん、なんでこんなに勝てないの……?」
0勝1敗2分。勝率0%であった。
ともあれ、これで仮説は証明されたと虹夏は確信した。その上で(めんどくさ……)とも思ったが、それを口にしないだけ良心があった。
続いて、最後。百合のターン。
「……これは、趣旨的に引き分けを狙った方がいいの?」
「セーフラインを判定するのならそうだけど。でも最後くらいは一勝しておきたい気もする」
「自ら負けを献上したリョウが何言ってんの」
故意犯であるリョウはそっぽを向いて無駄にうまい口笛を吹いていた。
「……んー、と」
さて、百合は雑食系である。
好きなアーティストというのも居るが、基本的にはちょこちょこつまみ食いをしており、このバンド(アーティスト)の曲は絶対に聞く! というのはあんまりない。そのためリリースした曲を全部把握しているわけではないので、ひとりにとっての地雷が含まれているかが判断できない。
とはいえ、これまでひとりを甘やかしてきた事と、先の郁代と虹夏の結果からある程度ラインは見えてきた。
(……バ〇プがダメならRADW〇NPSもギリ駄目そう。なら――)
「……サン〇マスター」
「おおっ? これは……」
代表曲がバチバチの応援ソングではあるが、バンドの特色からしてこれはセーフだろうという確信が百合にはあった。
そして、ひとりの判定は――
「あっ、せっ、セーフ! セーフです!」
「やった! ついに勝ったのね!!」
「見事だ、百合」
「リョウのそれはどこ目線なの??」
勝利判定に百合は無言で両手を突き上げてガッツポーズを取り、リョウ達がわっと群がる。
こうして第一回のデスゲームは1勝1敗2分という結果で幕を閉じた。
尚、ライブまであと一週間ほどであり、今日はライブ前最後のバンドミーティングの日であった。
練習は????
お仕事が……3.4月が死ぬほど忙しくて……
GW? いえ、ちょっと、ネイティブを倒すのに忙しくてですね。
・チケットノルマ
原作通り。ぼっちは両親+ファン1号2号と、お酒の人の計5人に売ることが出来た。下北高のサンクチュアリが売ったチケットの内、リョウが適当に捌いたものは下北闇オークションにかけられたとか。
・人を殺す曲
原作ぼっちが一昔前のアニソンを知っているかどうかは分からないが、ここでは知っているものとする。
・デスゲーム
キラキラした青春ソングというより、陽キャの曲かどうかでセーフラインが引かれている気がする。Supercellはまあ…例外として許して……。
メタルとかその辺の知識が無いので書けなかった。
湘南〇風もBUMPもR〇Dもホ〇モンもサンボ〇スターも全部好き。超好き。