下北沢の大天使をデロデロに甘やかしてドロドロに依存させたい 作:百合好きの獣
サイコロ振って「◯◯の話ぃ〜」って宣言する虹夏ちゃんは私を狂わせた
※日刊1位になってました……。すげぇよニジカは。可愛くて、キュートで愛嬌もある。
感想高評価ここすきにお気に入り登録、ありがとうございます。たいへん励みになってます。
『今後の活動の事で相談するから、明日の放課後、ライブハウスに集合ね!』
虹夏がそうひとりに告げて、その翌日。
虹夏とリョウはお菓子やジュースの入った袋を下げながら、二人でSTARRYへと向かっていた。
「百合は先行ってるんだっけ?」
「うん。ぼっちちゃんが心配だから先に行って様子見てくるって」
幼馴染トリオとひとりは学校が違う。彼女一人で待つのは寂しかろうと、百合は先に合流することにしていた。
「心配?」
「なんかぼっちちゃん一人だとSTARRYに入るのも怖いかもしれないから~って言ってたよ」
リョウは「まさかそんなわけ」と思ったが、よくよく考えると初ライブ時のあの人見知りっぷりだとひょっとしたらひょっとするかもしれないと考えなおした。ライブハウスは大抵が地下にあるため、一人で入るのは意外と怖いのだ。
この時、虹夏もリョウも、思い違いをしていた。
確かにひとりはSTARRYに一人で入る事を躊躇していた。放課後にやることも無いためSHRが終わり次第即座に向かったので、なんなら一番最初にたどり着いていたのに入る勇気が沸かずにまごついていたので、百合の懸念は当たっていたし、虹夏もリョウもそこまでなら「やっぱりか」なんて反応をしていただろう。
ただし、甘やかし耐性の低い者と甘やかし堕落させる妖怪を二人っきりにさせる事の危険性について、想定が出来ていなかった結果として。
「……ぼっちちゃんは、偉いね。毎日頑張って登校して、今日も怖くてもここまで来れて、すごいね。皆を待って一緒に入ろうね」
「ぅへへぇへ……そ、そうですかね……?」
「……ぼっちちゃんは凄い。いいこいいこ。」
「ウェヒッ……ふへ……そ、それほどでも……あるかも、なんて……」
ライブハウスの入り口前にある階段に、何かいた。
「何、あれ」
「分かんない……いや、分かるけど分かりたくない……」
百合と、恐らくひとりであろう物が会話をしていた。
それ自体は良い。聞こえた会話から察するに、予想通りひとりが一人でSTARRYに入ることが出来なかった為、慰めつつここまで頑張って来たことを褒めていたようだ。
だが、その百合が褒めている相手が、外見は辛うじて後藤ひとりらしき面影があるものの、なんというかドロドロとした不定形のナニカになっているのだ。
それを百合は恐らく頭の部分を撫でていて、ナニカはぐにょんぐにょんとしながら声を発している。
リョウはもの〇け姫を思い出していたし、虹夏は千と〇尋の神隠しが頭を過った。
「……とりあえず、行こうか」
「そだね。おーい百合~! ぼっちちゃ~ん!」
突然話しかけられたので、かろうじて立体を保っていたひとりがドロドロに溶けてしまい床の染みと化してしまった為、それからSTARRYの中に入れたのは数十分後だった。
◇
「何がでるかな♪ 何が出るかな♪ 学校のはなし~!」
ひとりが元に戻ったので、早速STARRY内で話し合いが行われていた。
ただ、幼馴染トリオとひとりはお互いの事を殆ど知らず、何を話せばいいのか状態となったので、我に秘策ありとリョウが抱えるほど大きなさいころを出した。
表面にはいくつかの話題があり――バンジージャンプという文字は見なかった事として――なぜこれを持っていたのかはさておき、ひとまずこのサイコロでトークテーマを決定する流れとなった。
最初のトークテーマは、『学校の話』
そのテーマに対し、最初に反応したのは意外な事にひとりだった。
「あっ、そういえばお二人は同じ学校って……」
「うん、そうだよー。全員下高……ん? 二人?」
虹夏が首を傾げる。ひとりも同じく首を傾げた。
「あっ、えっ、下高って付属のしょ――中学校ってありましたっけ……?」
「え? 無いけど……なんで?」
ひとりはちら、と視線を百合に向けた。
百合はにこりと花開くような笑みを浮かべると、鞄をごそごそと漁りながら一枚のカードを取り出した。
「……ぼっちちゃん」
「えっあっ……えっと、下北沢高校学生証……二年禊萩ゆr――アバババババ」
百合はもう一度「ぼっちちゃん」と微笑み、ひとりがバイブレーションし始めた。百合は静かに笑みを浮かべながらひとりに近づくと、猫をじゃらすようにひとりの顎の下を撫でだした。
「……わたしは、高校二年生、だよ? 変な事言う悪いお口は、ここ? ここかにゃ?」
「あわっ、わっ、わぅ……………ワォーーーーンッ!!」
「猫じゃないの!?」
ひとりは犬にされてしまった。触れてはいけない地雷というのは、誰しもが持っているものだという事をひとりは学んだ。
「す、好きな音楽の話―っ!!」
虹夏が気を取り直すようにサイコロを振り直した。横で「……ぐっぼーい、ぐっぼーい」とぼっチワワをあやしているのを見なかったことにして。
「えっと、あたしはメロコアとかジャパニーズ・パンクが好きだよ!」
「私はテクノ歌謡とサウジアラビアのヒットチャートを少々……」
「絶対嘘!!」
「ほんとだもん」
虹夏の趣味は本人の天使性とは異なりやや攻撃性のある音楽を好んでいるようだ。そしてリョウの上げたジャンルを嘘だと断じた。本当かどうかは本人のみぞ知る。案外、世間一般のメジャーバンドは趣味じゃないと突っぱねてマイナージャンルに走った結果意外とハマったのかもしれない。
ぼっチワワを撫でまわす手を止め、百合も答えた。
「……わたしは、割と、なんでも。J-POPが多い? かも」
百合は雑食気味だ。ハードロックも聞くしメタルも聞くしアニソンも聞くし歌謡曲も聞く。強いて言えば疾走感のある曲を好む傾向がある。歌詞よりも、メロディラインに惹かれるのだ。
あやしが止んだので、ひとりもつられて正気に戻った。
「くぅん――はっ! すっ、好きな音楽ですか……? そっその、青春コンプレックスを刺激しない曲ならなんでも……」
「青春コンプレックスって、何……?」
説明しよう!
青春コンプレックスとは、学生時代に学業・恋愛・部活もろもろで頑張り切れず青春を謳歌できなかった人が、大人になってから陥る負い目ないし引け目の事である。
要は勇気だの愛だの希望だの、青い春を想起させる物が苦手になってしまうのだ。
ところで後藤ひとりは絶賛高校一年生であり、まさしく青春時代真っただ中なわけなのだが。過去と未来への絶望が深すぎる。
「……ぼっちちゃん、だいじょぶだよ。これからいっぱい思い出作っていこうね」
「そうだよ! バンド活動関係なく、一緒に遊ぼうね!」
「へぁっ!? けっ、けけけ、検討します……」
ひとりは臆病な生き物なので、急に距離を詰められると爆発してしまう。思い出作りを拒絶はしていないので、じわじわと仲良くなっていこうと虹夏と百合はアイコンタクトをして頷き合い、百合はひとまずひとりを解放してあげた。
音楽の話題になったので、そのままバンドについても触れられる事になった。
「昨日はインストだったけど、次はボーカル入れたいんだよね。ほんとはギターの子が歌うはずだったんだけど……」
百合がす、と差し出したポッキーを咥えながら、虹夏がぶぅ垂れるようにつぶやいた。
「……あの子どこに行ったんだろう。まだ全然お世話出来てないのに」
「そんな残念がり方をするのは百合だけだよ……。あー、やっぱりボーカルも探さなきゃかなー、あたしは歌下手だし――」
ちら、と虹夏がひとりを見た。ひとりは顔を真っ青にして首を高速で横に振った。早すぎて回転しているように見えるが気のせいだろう。
「リョウは?」
リョウは百合が5本ほどまとめて差し出したポッキーを貪っていたが、虹夏に話を振られたので「ふっ」と鼻で笑いながら言う。
「フロントマンまでしたら私のワンマンバンドになってバンドをつぶしてしまう」
「どっから湧いてくるんだその自信」
しくしくとわざとらしく泣き真似までしはじめたリョウを、虹夏はじとっとした視線を送り、百合はにこにこと見守っており、ひとりは首が高速回転している。ボケたのに虹夏以外良い反応をしてくれないので「すん」となってしまった。
「あっ、あの、百合さんは……?」
「……わたし? わたしは、たぶん、無理だとおもう」
「たっ、多分……?」
百合だけ話に入って来なかったのでひとりが聞く――万一にも自分がボーカルとして抜擢されないため藁にもすがる思いで――も、帰ってきたのは歯切れの悪い返答。
そんなひとりの疑問には、リョウが答えた。
「ぼっち、私たちはロックバンド」
「へっ? えっ、あっ、はい」
「百合の声を聴いてどう思う?」
「あっ、あぁ……」
リョウの言いたいことを、ひとりは察した。
百合の声は、脳を溶かすようなトロ甘ボイス。いわゆるアニメ声というやつだった。しかもなんか聞いてると妙に落ち着くというかふわふわとした気持ちになってくる。そのせいで今日二人っきりで甘やかされている時にひとりは物理的にドロドロにされてしまっていたので。
虹夏が「それに……」と続ける。
「百合はね~歌も上手なんだけど、声が可愛くてロックバンドに合わないって以上にちょっと問題もあって」
「もっ問題、ですか……?」
「あー……まあ、それは今度カラオケに一緒にいって確かめよ! 上手ではあるから!」
「ヘゥッ!?」
友達とのカラオケという想像に青春コンプレックスが刺激されたひとりはそれ以上を聞くことが出来なかった。言いたい放題言われている百合は何も言わずにこにことしている。久しぶりにお世話のし甲斐がありそうなひとりの反応にご機嫌がうなぎのぼりのようである。猫が爪を研ぐように、山姥が包丁を砥ぐように。妖怪は甘やかしの牙を磨き今か今かと待っていた。
「あ! ボーカル見つかったら曲も作っていこうよ! リョウ作曲できるし、歌詞は……ぼっちちゃん書いてみる?」
「わっ、私です……か?」
「……禁句が多いなら、それを避けるような歌詞ならいいんじゃないかな。歌詞、書けそう?」
ひとりはひそかに感激していた。苦節9年、小中と昼休みは図書室で過ごし続けていた甲斐があったと。不安もあったが、初めて役割を与えられた喜びの方が大きいので顔を少し青ざめさせながらも小さく頷いた。
「虹夏は何するの?」
「えっ? えー……」
作曲リョウ、作詞ひとり。では虹夏は? とリョウが水を向けた。虹夏はとても困っている!
「どっ、ドラムはバンド内の潤滑油としての役割がありまして~……!」
困った結果、就活生みたいなことを言い出した。ちなみに最近の就活生もあんまり自分を潤滑油には例えないらしい。
「……虹夏ちゃんは、リーダーだから。やることはいろいろ。ライブの申請したりとか、動画の編集とか、メンバーのスケジュール調整とか。虹夏ちゃんが、わたしたちの要だよ」
「ゆ、百合~~っ」
幼馴染が困っているので、百合は当然のように助け船を出した。
実際は出すまでも無く、虹夏は百合の言う通りバンドの要を担うだろう。
調整役から外部との折衝も虹夏が主となるであろうし、絵も上手いのでロゴやらデザインを手がけさせてもいいだろう。また、百合が投稿している動画は虹夏が編集をしているため、縁の下の力持ちなのである。
虹夏は感動のあまり百合に抱き着き、ぐりぐりと頬をこすりつけている。また流れるようにいちゃつき始めたが、ひとりは早くもその光景に慣れ始めているのか何も言わなかった。幼馴染を誤解し始めているのかもしれない。
幼馴染二人が絆を見せつけたところで、リョウが一言。
「じゃ、百合は?」
この水差し野郎。
百合は少し考えた後、頬に手を当て――
「……みんなの、お世話係?」
そんな役職は、無いのである。
視界の端でこっそり見守っていた星歌が、ずっ、とコケた。
◇おまけ 伊地知さんちの晩御飯
「ただいま」
伊地知家長女、星歌は29歳で若くしてライブハウスを経営する社会人だ。
ライブハウスは場所によっては深夜でも営業を続けている――むしろそっちが本番のナイトクラブのような――所もあるが、星歌が運営するSTARRYは深夜0時には店仕舞いをしている。
これは飲食店の許可だけでよいので営業許可を取りやすかったというのもあるし、特定遊興飲食店許可とかわけわからんものを取るのがかったるかったというのもあるし、何より、家族である虹夏と過ごす時間を少しでも確保する為でもあった。
星歌としては最後の理由こそが全てではあるのだが、面と向かって言うのは恥ずかしいし認めたくないので、お客さんから「0時以降も営業しないんですか?」と聞かれた時には前二つの理由を主に話している。
ちなみに本当の理由はとっくに虹夏と、ついでに百合にもバレている。何も知らぬは本人のみ。
高校生のアルバイト(虹夏とリョウ)を22時で先に上がらせ、自分は他の成人したスタッフ達と締め作業を行い、座り仕事などで凝り固まった身体をコキコキ鳴らしながら自宅の玄関を開けると、何やらいい匂いが鼻腔を擽った。
もう寝てるか自室にいるかのどちらかだと思っていた星歌は、なんだろうと思いながらもリビングへと繋がる扉を開けると――。
「あ、お姉ちゃん。お帰り~」
「……おかえりなさい」
キッチンに天使が二人いた。
エプロンを付けた虹夏がお玉と小皿を持ちながら鍋に入っているスープの味見をしており、百合は隣で玉ねぎをみじん切りにしている。
妹(と妹分)が二人仲良く料理を――それも、おそらく自分の晩御飯を作ってくれている光景に、星歌は胸をぐっと衝かれるような気持ちになりながらも、だらしない表情を見せるわけにはいかないので表面上は平然とした表情で口を開いた。
「なんだ、まだ寝てなかったのか」
つい、ぶっきらぼうな口調となってしまう。
それを聞いた虹夏は、口を不満そうに尖らせた。
「あー、せっかく可愛い可愛い妹達がお姉ちゃんのために晩御飯作ってあげてるのにひどーい」
「はいはい、ありがとな。で、百合は今日も泊まりか?」
「……うん。おとーさんたちは今日は仕事で居ないから」
百合の両親は夫婦共働きで、仕事で家を空ける事も多い。その度、お隣さんである伊地知家にお邪魔をしていた。
……正確に言うと、百合の両親が居ない日”も”お邪魔している。居てもお邪魔している。大体月の四分の三くらいは伊地知宅で寝泊まりしている。……ほぼ同棲では?
「そっか。で、何作ってるんだ?」
「……昨日買ったお魚が余ってたから、アクアパッツァにしてみようかなって」
「あく……? なんだそれ。……まあいっか、じゃあ私は着替えてくるわ」
「はーい。そんな時間がかからないから直ぐ出来るからねー」
アクアパッツァという名前に全く聞き馴染みが無かったので首を傾げた星歌だったが、まあ虹夏と百合が作るものに間違いは無いだろうということでさっさと着替えるために自室へと向かった。
「お姉ちゃん、照れてたね」
「……照れ隠ししてた。かわいいね」
かつて亡き母に誓った「世界で一番仲の良い姉妹になる」という願いそのものな光景を目にして、ちょっとうるっときてたのは速攻でバレていたが、すでに自室に入ってしまった星歌の耳には入らなかったのは、幸いか。
寝巻に着替えた星歌がリビングに戻ると、テーブルの上には料理が並べられていた。
既に二人は食べ終えているのか、星歌ひとり分のものだけが。
席に着いた星歌は、並んでいる皿を一通り眺めておや? と思った。
「ん? パスタじゃないのか?」
「え? パスタ?? なんで???」
パッと見た感じ、スープとパン、それに魚と貝とトマト等がよそわれた皿しかなかった。
星歌の疑問に虹夏も意図が分からぬと首を傾げるが、百合は「あぁ」と得心が言ったような声で
「……おねーちゃん、アクアパッツァは、簡単に言えば魚と貝の煮込み料理。パスタ料理じゃ、ない」
と言った。
「……まじか」
「……まじ」
アクアパッツァはイタリア南部の郷土料理だ。オリーブオイルで炒めた魚介類を貝などをトマトや白ワイン、水で煮込んで作る。
手軽に作れる割に見た目が彩りもよくおしゃれであり、映えるのだ。星歌が帰ってくる前に、虹夏は写真を自身のイソスタにアップしていた。
「……いただきます」
「あ、ごまかした」
「うるせ」
星歌はごまかしながらも魚に箸を入れて身を崩すと、貝と一緒にスープに軽く浸してから一口。
その瞬間、スープに溶け込んだ凝縮された魚やトマト、ニンニクの旨味がぐっと口の中に広がった。
「どう? お姉ちゃん」
「……おいしい?」
百合と虹夏が笑顔で尋ねると、
「……ああ、美味いよ」
星歌も、そう言って笑った。
その日暮らしのため、更新途切れたら間に合わなかったんだなと察してください。
・も◯のけ姫とか千と◯尋の神隠し
シシ神様とか、腐れ神様とか。ヌルヌルでデロデロ。幼馴染じゃないけどデロデロに甘やかしてしまった。
この時点では百合の事を小学生だと思っていたので、小学生に慰められ憂鬱になる心と褒められて満たされる自尊心で不安定になったところに妖怪による甘やかしが効いてしまい無意識に溶け出してしまっていた。
・見た目は小学生
実はそんなに怒ってない。ぼっちがいい反応をしてたので悪戯心と、シームレスに甘やかしに移行できるためのポーズ。
身長云々よりやばいくらい童顔なのと甘ったるい声が原因。
・百合の両親
大抵話の都合で仕事が忙しくなる予定なので覚えなくてヨシ
・アクアパッツァ
実はここだけの話なんですが……アクアパッツァってスープパスタの一種じゃねぇらしいですよ……?