下北沢の大天使をデロデロに甘やかしてドロドロに依存させたい 作:百合好きの獣
なので星歌さん、お前もめちゃくちゃ幸せにしてやるから覚悟しておけよ……。感動で何度も泣かせてやるからな……。
※感想高評価ここすきにお気に入りありがとうございます。私は気持ち悪いタイプの作者なので、定期的に感想欄とか小説情報を見返してはにやにやしてます。毎日の栄養。きっとガンに効く。
ギターを握らせ弾かせたらその実力は随一。颯爽とバンドのピンチに駆けつけ救った(尚演奏はスピードキング)姿はまさにヒーロー。
そんなギターヒーローな少女、後藤ひとりは、今人生最大のピンチに陥っていた!
(わ、私がバイト……? む、無理無理無理無理!!!)
先日の打ち合わせ時に、ノルマの話が出た。
ライブハウスを使ってバンド活動をする上で、必ず避けて通れないチケットノルマの話。
何かを始める・続けるためには何かと入用なご時世だが、バンド活動は中でも売れるまではかなり費用が発生する。
それゆえ、よほど資金力の強い人物でもない限り、バンド活動とバイトは切っても切れない関係なのだ。
なので、当然のように虹夏とリョウはひとりにバイトをするように勧めた。
そして、当然のようにひとりは母親の結婚貯金を捧げようとしてまで逃げようとした。
しかし悲しいかな、そこできっぱり「嫌です」と言えるのであればぼっちはぼっちでは無いのだ。
結局押し切られる形でアルバイトをする事になってしまった。勤務先は虹夏の家――ライブハウスSTARRYであり、虹夏もリョウも一緒なので、完全に見知らぬ世界に一人飛び込むのではないことは不幸中の幸いといったところ。
(でもやっぱり働きたくない! お客さんに不敬を働いたで賞で処刑されてしまう……)
やっぱり不幸中の不幸だったようだ。賞をもらったのに刑罰を科されるとは如何に。
働きたくない。けどあの場で「YES」と頷いてしまったが運の尽き。やっぱり無理ですと言える勇気はひとりには無い。
バイトは明日からだ。悩みに悩んだ結果、ひとりはある結論を下した。
「か、風邪を……風邪を引く事が出来れば……」
選んだのは病欠でした。
ひとりはどこからか手に入れてきた大量の氷を、水を張った湯船に放り込み、なんとそのまま中に浸かってしまった。
けして女の子がしてはいけない表情で、口の端から謎の液体(唾液でも血液でもない緑色のナニカ)を垂れ流しながら、震える事30分。
更には上がったあとに下着姿のまま扇風機の前でギターを演奏し続け、風邪を引くための行動とはいえ「私は今、命を削りながら音を奏でている……!」と妙なロック魂が芽生えてしまった為収録もして、流石にこれはアップロードする事は出来ないとお蔵入りにして床に入るという暴挙に出た。
その一部始終を目撃していたひとりの母は、どうしてその行動力を友達作りに活かせないのかと嘆いていたが、自分一人で完結する行動と他人を介する必要がある行動には必要な勇気が全然違うのだ。少なくともひとりにとっては。
尚、ひとりが行ったアイス風呂チャレンジや半裸演奏は体温を急激に下げる為低体温症を引き起こす可能性もあって非常に危険である。良い子は真似をしないように。悪い子もだ。ひとりは特殊な生態をしている為、例外とする。
さらに、風邪を引くためには免疫力の低下だけでなくウイルスを取り込まなくてはならないので翌日も普通にバリバリ平熱であった。ひとりの野望はここに敗れた。
結局、ひとりの良心が痛んで仮病を使って休むことを選択できず(そもそも、休んだところで先延ばしにしかならないので)ついに放課後、STARRYにまでたどり着いてしまったひとり。
(う、うぅ……怖い。怖すぎる。けど、リョウさんも一緒だし、虹夏ちゃんもフォローしてくれるって言ってたし、それに――)
ひとりはある少女を思い出していた。
誰よりも小さいのに、誰よりも包容力があり、小さな事でもべたべたに褒めて甘えさせてくれる、百合の事を。
(ゆ、百合ちゃんなら、きっと優しく教えてくれるし、出来たらいっぱい褒めてくれる……はず……。よ、よし、ぼっち頑張れ、ぼっち頑張れ、ほっち頑張れ……!)
ひとりは何故かべたべたに甘やかしてくれる百合にバブみを感じ始めており、順調に依存が進行していた。いいぞ。
そして出社前の星歌――目つきの鋭い元ヤンっぽい雰囲気のあるお姉さん――とバッティングするというハプニングを挟みつつも、ひとりのドキドキ初バイトがスタートし――
「え? 百合? 百合はここでバイトしてないよ」
「百合を働かせるとなぁ……ちょっと見た目的なあれで問題っていうか一度ガチで警察呼ばれかけたっていうか」
「ぼっち、ロリに労働は見た目が犯罪的になる」
「ぇ………………」
始まりから挫折しかけた。
◇
「……へくちっ」
どこかで噂されたような気がする。そんな気配を感じて、百合は小さくくしゃみをした。
百合は見た目が非常に幼い。身長が低い事もそうだが、バチバチの童顔に加えロリボイスということもあり、顔と声を認識されるとほぼ必ず小中学生に間違われる。
高校に進学してから、夜間に出歩いて補導されかけた事は数知れず。一度STARRYでスタッフとして働いた時なんかは普通に警察に通報されてしまった事もあり、それ以来星歌からバイト禁止令が発令されてしまった。
まあ、百合の場合スタッフとして働くと、虹夏だけでなく無差別に甘やかしが発動してしまい、駄目になってしまう者が続出したというのも理由の一つではある。この妖怪は力をコントロールできないタイプの妖怪なのだ。
そんな百合は、幼馴染達やひとりがアルバイトをしている間何をしているかというと、ざっくり纏めるとバンドの為になる活動である。
例えば、近場で路上ライブが出来そうな場所を調べたり、最近作った結束バンドのチャンネルに自分のチャンネルからの導線を作って登録者数を増やしたり、キーボードの練習風景を撮影してアップロードしたり。
有態に言えば、メジャーデビューに向けた広告や下調べを行っている。
ライブのノルマについては問題ない。毎月両親から少なくないお小遣いを貰っている(伊地知家への遠回しな金銭支援でもある)他に、自分が投稿した動画の広告収入という収入源もあるので。
というわけで、今日は付近のライブハウスの中でもひときわ大きな箱である新宿FOLTへ視察に来ていた。
「あらお嬢ちゃん。一人かしら? お父さんかお母さんはどこ?」
そしてまた誤解をされていた。
「……え、と」
しかも話しかけてきた相手が目つきの鋭い、唇にピアスを数個つけているパンクなお姉さま。
声からして成人男性なのだが、口調と身振りはお姉様というギャップに百合の脳が一瞬フリーズした。
「あ、ごめんなさい怖がらせちゃったかしら? 怖くないわよぉ、あたしは吉田銀次郎。このお店の店長さんよ。銀ちゃんって呼んで?」
思考が硬直してしまったので返事がまごついてしまい、それを怖がらせてしまったとパンクなオネエ様に更に誤解を重ねてしまったようだった。
再起動を果たした百合は状況を理解し、誤解を一つずつ解いていこうと弁明を始めた。
「……えっと、わたしは禊萩百合。いちおう、高校二年生です」
「……えっ? わ、悪いけど、ちょっとそうは見えない――」
「……これ、学生証です」
知ってた。
いくら口で言ったところで信じて貰えないのは重々承知の上。伝家の宝刀、学生証を抜き放つ。
「…………ほんとだわ。あらあらまあまあ……。えーっとごめんなさいね? 失礼な事を言っちゃって」
「……いえ、勘違いされるのは、慣れてるので……」
お互いにぺこぺこと平身低頭。高校二年生とはいえ、社会人からみればまだまだ百合も子供であるのに非常に丁寧な対応をしてくれる。百合はこの時点でこの銀次郎と名乗ったオネエ様への好感度を上げていた。
「えーっと、それで――あ、百合ちゃんって呼ばせてもらうわね? 百合ちゃんはどうしてここに来たのかしら。 あ、悪い意味じゃないわよ? 誰かの紹介だったりする?」
「……下北沢で最近バンドを組んだので、一度大きな箱の雰囲気とかを知っておこうと思いました。あと、ここは有名なライブハウスなので、先輩バンドマンの演奏を見れば勉強になるかなって。誰かの紹介とかでは、無いです」
「あら! 勉強熱心な良い子じゃない! 丁度いいわ、今日はウチの看板バンドがライブするからぜひ観てって頂戴! あ、これ当日チケットね」
「……ありがとうございます」
機嫌を急上昇させた銀次郎から百合はチケットを受け取り、そこに書いてある料金を確認する。
記載された金額は、決して高額過ぎるわけではないが、それでも前回STARRYで百合達がライブをした時と比べると倍くらい違う。
百合は財布から樋口を取り出すと、銀次郎に渡してお釣りをもらう。ただし、ちょうどチケット代金を引いた額を。
あれ? と百合は銀次郎の顔を見た。ライブハウスは飲食店扱いの為ワンドリンクが必須となる。その場合のドリンク代はチケットとは別なのだ。
百合の視線を受けた銀次郎は苦笑しながら言った。
「さっきのお詫びってわけじゃないけど、ドリンク代は奢るわ。せっかく来てくれたんだし、良かったら楽しんでいって?」
百合は銀次郎が好きになった。
良い出会いがあったと、ほくほくとした顔でライブハウスの中を百合は見回している。あれから銀次郎と連絡先も交換出来たし、結束バンドが今後実績を上げていけばこの箱でライブしたいなと思う。
新宿FOLTは近郊でもひと際大きい箱であり、収容人数は500人ほど。
これだけ大きな会場だというのに、既にそこそこ人で賑わっている。開演が近づけばきっと満員だろうなと百合は思った。
満員になった場合、身長の関係で前が見えない事が予想される。百合としては演奏技術だけじゃなくてステージングも学びたいと考えていたので、出来るだけ前の方に移動しようとした瞬間。
「ちょっと、そこの貴女」
後ろから声をかけられた。
「……はい」
振り向くと立っていたのは、ツリ目で、茶髪で、自分よりもちょっと身長が高いくらいの少女だった。
百合は一目でこの子は「ツンデレだ」と確信した。
何か用だろうか。見たところ同年代に見えるし、周りは大人の人ばかりなので声をかけてくれたのだろうかと思い――
「ここは子供が来る場所じゃないわ。お母さんかお父さんはどこ?」
百合は無言で
◇おまけ やれば出来る子
「百合ってさ~、ほんとかわいい顔と声してるよね~」
ある日の休日の夜、やることをすべて済ませ、あとは寝るだけの状態となった虹夏は、ベッドに寝転がりながらしみじみと言った。
「……どうしたの、急に」
ここは虹夏の家であり虹夏の部屋であるのだが、当然のように寝巻の泊まる気満々の姿で、当たり前のように虹夏の机に向かって授業の復習をしていた百合が椅子ごと振り向いて返事をする。現在連泊5日目である。
「いや、百合ってちっちゃくてかわいいキラキラ系じゃん? 結束バンドってロックバンドだし、リョウがどんな曲作るかによるけど、百合が浮いちゃわないかな~って」
「……よくぞ言った。そこに直れ」
地雷を踏んだ虹夏が百合によって全身くすぐりの刑に処された。
「はぁ……はぁ……♡ で、でも事実だし……はぁ……」
「……まだ言うか」
追撃発生。
「……はぁっ……♡ ま、待って……これ以上はダメ、変な扉開いちゃう……♡」
ぴくぴくと痙攣しながら、新たな性癖に目覚めかけた虹夏はたまらずギブアップ。百合は無言で天に拳を突き上げた。
「……ていうか、虹夏ちゃん。もしかして、わたしがクール系出来ないと思ってる?」
「だ、だってぇ……こんなに可愛いんだから……」
幼馴染大好きウーマンである百合も、流石にムカチン! と来た。
ので、ちょっと本気を出して"わからせる"ことにした。
「……ちょっと待ってて」
百合はそう言って、前髪をピンで止め、ゴムで軽く後ろ髪を縛ることで髪型の雰囲気を変える。
普段のゆるふわガーリィな感じから、ややフォーマルな雰囲気のするそれへと変貌する。
「お、おお。後ろ結びすると結構大人っぽく見えるね……でも声までは変えられないんじゃない?」
「……まだまだ。……あー、あ~、あ~~~」
百合は喉を押さえ、声の感じを調律する。とろりとしたソプラノボイスから、徐々に色を変えていく。
禊萩百合は、特別な感覚を持っている。
色聴という、共感覚の一種で、ざっくりと言うと音を聞くと色が想起されるというもの。
百合はこの色聴が生まれつき強く備わっており、かなり細かく音と色を結び付けられる。
そして、それを利用――悪用し、他の人が出した色と自分の色を合わせる調律を特技として習得していたのだ。
つまり。
「……"虹夏ちゃん"」
「っ!?!?」
過去虹夏がドラマを見ていて「この人の声かっこよくて好きだな~」と言っていた声色を、百合の声音で再現をすることが出来るのだ。
もちろん、女声と男声という違いはある。違いはあるのだが、虹夏の聴覚は「これは自分が好きな声」と錯覚してしまう。
「ゆ、ゆゆゆ百合……?」
「……"虹夏ちゃん、どうして目を逸らすの? わたしだけを見てよ……"」
「……………………ぁ…………………♡」
ベッドに押し倒され、顎を持ち上げられ、視線を固定される。
輝く若葉のような翠緑色の瞳に閉じ込められ、虹夏はごぼごぼと溺れるような感覚を味わった。
「……"可愛いよ、虹夏"」
「……ゆ、り…………………」
そのまま顔をゆっくりと近づける百合に、虹夏はそっと目を閉じ――
「……はい、終わり」
百合が唇にぴと、と指をあてて悪戯が成功した子供のように笑った。
突然の終了宣言に虹夏は目を丸くして呆気に取られている。
「…………………………え?」
「……本気出せば、虹夏ちゃんをメロメロに出来ちゃう、の。分かった? だから――」
くい、と百合の寝巻の袖が引かれた。
視線を落とすと、弱弱しい力で身体を離そうとする百合を引き留める虹夏の手が見えた。
「…………………やだ」
虹夏は、顔を真っ赤に染め、でもそれを見られないように顔を横に背け腕で隠しながら、消え入りそうな声で呟いた。
「………………………………もっと、して」
その日、帰宅した星歌が目撃したのは、妹が顔を真っ赤にして幼馴染にあすなろ抱きにされ、耳元でささやき続けられて悶絶する姿だった……。
ぼざろで一番好きな大人のキャラは銀ちゃんです。あの人絶対いい人だし友達になりたい。
・バイトヒーロー
百合への依存が始まってる冷たいヒーロー。しかし百合は見た目的にバイトできないので依存進行度は加速しなかった。
なんとか一歩だけ前進することが出来たらしい。
・銀ちゃん
百合は言葉に込められた色から気持ちや感情を大体読み取れるので、めちゃめちゃいい人だと見抜いた。(人として)好き。
・絶対ツンデレなツインテの少女
一体何槻ナニコなんだ……
・百合の特技
共感覚の持ち主。絶対音感。人を甘やかす時にはその人が好む声色で甘やかすなど悪用している。あくまで音の感じ方を変えるだけなので、声自体は変わらない。女性声優さんが男性パートをやるときのような感じ。