下北沢の大天使をデロデロに甘やかしてドロドロに依存させたい 作:百合好きの獣
大変喜ばしいとともに、こんな酒の勢いで書いたトンチキ怪文書がそれほどの方々に読まれたという事実に震えています。
※いつも感想高評価ここすきにお気に入り登録ありがとうございます。ストレス社会で日々を生きる糧です。
粘ついた液体の中から、気泡がごぼりと浮かび上がり、パチンと消える。
百合が感じたのは、そういう、急激に意識を取り戻すかのような目覚めだった。
目を開けて真っ先に飛び込んできたのは、天井に張り付けられた有名なパンクロッカーのポスター。つまりここは自室である。正確には、虹夏の部屋だった。自室……?
どうやらいつの間にか眠ってしまっていたようだ。起きた百合は肌のべたつきを感じたので、ゆっくりとベッドから上体を起こすと、かけられていた布団がずれて滑らかな素肌が露わになる。
「………………?」
何もつけていない。布団で隠れているが、肌感覚で下も何も穿いていないという事が分かる。つまるところ、百合は今素っ裸だった。
「……………………????」
百合は裸族では無いし、寝るときはきちんと寝巻を着る。夏場にどうしても寝苦しい時は服を脱ぐことはあるが、それでもナイトブラだけは外した事が無い。就寝用とはいえない方が楽なのだが、百合は身長に反してなかなかご立派な物を持っているので虹夏からの厳命であった。
ではどういうことか。というかそもそも寝る前までの記憶がさっぱりない。なんとか思い出そうとすると、頭に鈍痛が走った。
「いたっ…………」
なんだか身体もだるいような気がする。喉もカラカラだ。風邪でも引いたのかな、と百合は思案する。
百合には分からない事であるが、現在彼女が感じている諸症状は二日酔いのそれであった。
「んぅ……」
もぞ、と百合の隣で何かが動いた。
視線をやると、見慣れた金髪が目に入る。虹夏だ。
一緒に寝ていたのはいつもの事として、なんとびっくり、眠っている虹夏も何も着ていない事が見えた肌から察せられた。
「………………………???????」
ますます意味が分からなかった。
当然、虹夏も裸族ではない。念のためこっそり布団をめくって確認し、上も下も何も着ていない事が確定した。
百合はハッとした顔で一つの可能性に思い至った。
もしかして、ヤっちゃった? 一線を越えちゃった? と。
眠る虹夏から真相を聞き出すまで真偽は分からないが、もしその場合は責任を取らねばなるまい。
百合は虹夏と生涯を共にする覚悟を決めた。この間約1秒。判断が早すぎる。
まあ、そもそも百合は7年前から一生虹夏の傍にいると覚悟完了をしているので。決意が秘められているか外部に出すかの違いでしかなかった。
パートナーシップ宣誓はどうすればいいんだったかな……と、光の速さで身を固める検討を進めながら、とりあえずお水を飲もうとベッドからそっと抜け出そうとして。
もう一人いる。
自分を挟んで、虹夏の反対側。
虹夏と同じ金髪で、顔立ちは大人びている。いつもの鋭い目つきは、閉じられている事であどけない表情に変わっていた。
つまり、星歌だった。
まさかと思い確認すると、同じく服を着ていなかった。
全裸が三人、同じベッドで寝ていた。
「………………どゆこと?」
こっちの台詞だ、バカチンが。
◇
時は昨夜に戻る。
新宿FOLTにて、ツンデレ(仮)少女に話しかけられた後。
「悪かったわ、変に疑っちゃって」
「……別に、気にしてない。慣れてるし」
「それでもよ。私もそういう経験あるし、言われた側の気持ちは分かってるつもりだから」
ツンデレ(仮)少女は名を大槻ヨヨコと名乗った。学生証を見せた事で無事誤解は解け、ついでに同い年という事もあって気兼ねなく接する事が出来るほど打ち解けていた。
ヨヨコは「ちょっと待ってなさい」と言い残し、人ごみの中に消えていった。お手洗いだろうか?
少しして、ヨヨコが戻ってきた。手に二つのドリンクを持って。それを見た百合の脳内に、とある歌が過った――どうした? おい、まさか。
「間違って二個買っちゃったからこれあげるわ。べつに、さっきのお詫びなんかじゃないから。勘違いしないでよ」
大槻ヨヨコはラフ・メイカーだった。それも本人は無意識なタイプの。
勘違いしないでと言っているが、自販機でもそうそう無いのに、尚更ドリンクスタッフ相手で間違って二個注文する訳がない。勘違いのしようもなくさっきのお詫びの印でしかなかった。
「……ありがとう」
「だから、お礼なんていいってば」
ツンデレ(確)のヨヨコからドリンクを受け取り、銀次郎からもらった分のドリンクチケットはもぎり券と一緒に記念に取っておこうと百合は決めた。
さて、先ほどからちょいちょい感じていたが、ヨヨコという少女はポンの気配を感じる。
口調は高圧的なのに、声に乗っている色は気遣いとか、親しさとか、そういったものに近い。気遣いはいいとして、親しさはどういうことだろう、と百合は思った。この色が出始めたのは同い年であると判明してからで――
ああ、そういうことかと。
ヨヨコの身長は低い。虹夏よりも、さらに。さすがに自分よりは高いが、それほど差があるわけではない。そして冒頭のセリフ。
要は、ちっちゃい者同士でシンパシーを感じているらしかった。
とすると、先ほどのさっきのお詫びじゃないけどという言葉もただのツンデレではなく、お近づきの印にといった意味も含まれていくのかもしれない。
「……っ……」
「ちょ、ちょっとどうしたの? いきなり変な顔をして」
「……今、戦ってる最中」
「何と??? あ、もしかしてお腹痛い? お手洗い行く?」
百合は必死に内なる甘やかしモンスターを押さえつけていた。このっ! 止まれ! 止まれってんだ!
だってどう考えても不器用なのだ。コミュニケーションの取り方が。声には仲良くなりたいという色は感じるのに、どこかおっかなびっくりな色も混じっているのだから。
『素晴らしい……極限まで練り上げられた甘やかし適性の究極形……これほどの逸材を拝むのは……それこそリョーちゃんやぼっちちゃん以来……』と甘やかしモンスターの戦闘力は尚も上昇している。
封! と丹田に力を込めることで荒ぶるモンスターを何とか鎮めた。さすがによその子に飛びついてドロドロに溶かしてしまうわけにはいかないので、百合はほっと息を吐いた。
ただし、この封印は一時的なものなので、次に家族認定を受けた甘やかし対象が視界に入った場合に貯まった力が解放される。そのころSTARRYバイト組はもれなく全員が悪寒を感じていた。やつらは全員が妖怪のターゲットなので。
大丈夫であることを告げ、百合とヨヨコは、それからライブが始まるまでいくつか会話を重ねていった。
その中で、バンドを組んでいる事と、ヨヨコがそのギターボーカルであることを知った。ついでに、自分がキーボードで、そのバンドのギターボーカルが居ない事も話した。
「へえ、あんた達も大変ね。まあライブ直前にメンバー蒸発した時の焦りは、私も分かるわよ」
「……ヨヨコちゃんも、経験あり?」
「まあね。それでも会場は盛り上げてやったけど!」
ふふん、と得意げに話すヨヨコを、百合は「可愛いなぁ」と内なる獣を押さえつけながら微笑ましげにそれを眺める。
「あ、そうだ。禊萩百合、あんたここには視察と勉強で来たって言ってたけど、今日のファーストアクターはしっかり目に焼き付けておいた方がいいわよ」
「……? えと、『SICK HACK』……?」
百合は手元にあるセトリを確認し、そこの一番先頭に書かれているバンド名を読み上げると、ヨヨコは「そう!」とまるで自分の事のように誇らしげに胸を張った。
「レーベルには所属してないからあくまでインディーズだけど……――私の知る限り、間違いなく日本トップレベルのバンドよ」
瞬間、暗転。
機材トラブルではなく、演出の一環だ。
暗がりの中、ステージだけがぼうっと妖しく照らされる。
ベースの一弦が無造作に弾かれ、重低音が無音のライブハウスに響いた。
誰かの息を呑む音、そして、センターに立つシルエットが息を吸う。
――百合の記憶は、ここで途切れた。
◇
電子ドラッグというものをご存じだろうか。
薬物――麻薬などのドラッグに譬えられるような映像や音楽などのコンテンツを指し、それらは視聴することで高揚を感じたり恍惚としたり、はたまた多幸感を抱いたりする中毒性の高いものだ。
百合が観たSICK HACKというバンドは、サイケデリックロックというドラッグによる幻覚を音楽として表現したものを主とするバンド。女性三人のガールズバンドでありながら、メンバー全員のバチクソに高い演奏技術と、リーダーであるベースボーカルの卓越したカリスマによって、本来は幻覚を再現しただけであるサイケデリックを本当の電子ドラッグへと変貌させてしまっている。
お気づきだろうか。
音を色としても認識する共感覚が優れた百合にとって、サイケデリックロックは最悪と言っていいほどに相性の悪い音楽ジャンルだった。
音と色、両方でドラッグをぶち込まれた百合はどうなったかというと――
「あ、百合。おかえり~」
「…………」
おぼつかない足取りで、自宅――伊地知家へと帰宅した百合。
意識がない状態で働いた帰巣本能の発揮先が伊地知家であることもおかしいし、それを当然のように受け入れている虹夏もおかしいが、その辺はまとめて置いておくとして。
帰宅した百合を出迎えたのは、夕飯の準備をしていたのかエプロン姿の虹夏だった。
笑顔で出迎えに来た虹夏を、百合はぽーっと熱に浮かされたような表情で見つめると、にへら、とだらしのない笑みを見せた。
「えへ、えへへ……」
「わ、百合、どうしたの? なんかご機嫌だね」
そのまま満面の笑みで百合が抱き着いてきたので、虹夏は疑問に思いながらもそれを受け入れた。
身長差から、百合は虹夏の薄い胸にぐりぐりと顔を押し付けた後、虹夏を見上げるように顔を上げ、にぱっと笑う。
「えへ~」
「かわいい~~っ。甘えたいのかな? いいよぉ~虹夏お姉ちゃんにどんどん甘え――んむっ!?」
「ちゅ~~」
初手、キス。
しかも両手で虹夏の頭を押さえるようにして、深く唇同士を押し付け合うような情熱的なキスだった。
「ん……ちゅ……♡」
「む……!? ん……っふ……♡」
おや? 満更でもないご様子??
「ぷはっ! ほんとにどうしたの百合? 今日は激しいね」
突然の熱いベーゼ。恋人同士ならまだしも、幼馴染かつ同性の少女にされたにもかかわらず、虹夏の反応は驚きこそすれケロリとしたものだった。というか、口ぶりからして恒常的に行われているらしい。
それもそのはず。ファーストキス? そんなもの、7年前にとっくにイベントを消化していたので。いつかそのことを語ることもあるかもしれない。
「……虹夏ちゃん」
「ふふ、なぁに?」
普段は甘えさせてくれる相手である百合がこうもべろべろに酔っているような状態で甘えてくれるのは非常に新鮮で、虹夏の中の大天使が雄たけびを上げながら顕現した。
「――すきっ♡」
「!! 百合~~! 私も好き~~~っ!!」
このバカップルがよ。
……ここで終われば、ただのバカップルのイチャイチャで済んだのだが、ここまでお読みの読者諸君であればお察しの通り、この程度で終わるわけがないのだ。
「……虹夏ちゃん、こっち」
「へ? あ、ちょちょ――」
そして――
「ひゃっ!?♡ 百合……? 目が怖いよ……?」
「……虹夏ちゃん、わたし、いまとってもきもちいの。ふわふわして……」
「も、もしかして百合酔ってる!? でもお酒の匂いはしてないし――なんっ!? ちょちょちょ! なんで服脱がすの!?」
「……? だって、服着てたら、気持ちよくしてあげられない……」
「何する気!? やっ、別にいやってわけじゃなくて、百合なら……でっ、でも! もうちょっと雰囲気って言うか流れって言うか――わひゃぁ!?」
虹夏は抵抗むなしく裸に剥かれ――
「あぁ~~♡ そこ効く~~~♡」
「えへへ……虹夏ちゃん、きもちい?」
「気持ちいよ~……ぼっちちゃんじゃないけど身体が溶けちゃう~……」
「えへへっ、虹夏ちゃん、お尻大きいね! すきっ♡」
「ちょ、やだっ……気にしてるんだから言わないでよ、もう!」
普通にマッサージを受け――
「んっ……♡ ちゅ……♡ んぅ……♡」
「ちゅ……♡ ぷぁっ……! ま、まって、百合、溺れる、溺れちゃ――」
「じゅる……♡ んじゅ……っ♡」
もちろんそれだけで終わってもらえるわけもなく――
「……………………何やってんだ、お前ら」
「ちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ♡ ちゅぱっ♡ あ、おねーちゃん……」
「………………………………(抜け殻のような虹夏)」
「うぉっ!? きゅ、吸魂鬼……??」
「……求婚……? おねーちゃんも、わたしと結婚する?」
「……は? ちょちょちょちょっ!? 待て待て待て!! 話せば分かる! 別にお前と虹夏がそうなるのは反対しやしないがな、私を巻き込むなって――」
「……はい、脱ぎ脱ぎ~っ」
帰宅して即衝撃映像を目撃させられた星歌を巻き込み――
「くっ……!! や、やめっ……、百合っ! やめてくれ! これ以上やられたら――」
「……腰と、足、肩も……いっぱい疲れてるね……ぜーんぶ、きもちよくしてあげる、ね♡」
「私が、私で無くなってしま――ぐぅおおおおおおおっ!!!」
そして、伊地知家から一切の物音が消えた。
要約すると、大体全部妖怪のせいであった。
・ツンデレ(確)
自分と同い年でバンドをやってて、自分より身長も低い為めちゃめちゃシンパシーを感じてた。また世話焼き気質な天然物のツンデレ。共通項の多い百合と仲良くなれるかも……? って思ってたらライブ後に夢遊病患者みたいにふらふらしながら帰ったのでめっちゃ心配した。一応ロインは交換してた。
・電子ドラッグ
視覚と聴覚両方でドラッグをキメた結果、音楽で酔っぱらった。ツンデレと話していたので最前列に行けず酒をぶっかけられる事は無かった為マジで音楽だけで酔っぱらった。そして解放的になったので封印されしモンスターも解放されてしまった。
ところで虹夏ちゃんを初めてアニメで見てから、毎日虹夏ちゃんのかわいいまとめを見ないと気が済まない身体になってしまったのですが、虹夏ちゃんも実質電子ドラッグでは……?
・天才美少女ベーシスト
百合の特性を知っている星歌から存在をひた隠しにされていた為、ライブには一度も行ったことが無くバンド名すら百合は知らなかった。なんなら星歌と虹夏両名によって遠ざけられていたため顔も知らない。悪影響があるというより、どう考えても百合の中に潜むモンスターが暴れ出してしまうので。
・伊地知姉妹
翌日やたら身体の調子が良かったし、虹夏はしばらく百合の事を熱の籠った視線で見るようになった。リョウは首を傾げていた。
・虹夏ちゃんお尻大きいね
オレはオレの中のルール(性癖)によって、虹夏ちゃんを「お尻が大きい事を気にしている女の子」と断定する!!