下北沢の大天使をデロデロに甘やかしてドロドロに依存させたい   作:百合好きの獣

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私の中の劉鳳が性癖を開示したら感想数が倍増してて草でした。嬉しい。こんなにも同志が居たなんて……!
※いつも感想高評価ここすきお気に入り登録ありがとうございます。私の中の承認欲求モンスターも喜び咽び泣いておられます。

ちょっと見直しとか含めると12時までに書き上げられなさそうなので今回若干短めです。ご容赦。明日もちょっと遅れてしまうかもしれません。陳謝。


♯7 おさななじみ と 再会

 

 

 

 伊地知虹夏・禊萩百合・山田リョウの幼馴染トリオは、下北沢高校の中でも知名度の高い集まりだった。

 それぞれが系統が異なるものの整った容姿を持ち、その個性も『下北沢の大天使』『人をダメにする妖怪』『ミステリアスな孤高の美女』と注目を集める。……今なんか変なの混じらなかった?

 

 リョウは気まぐれな猫みたいな性格をしているので、一人になりたい時はふらふらと勝手に外れていくが、食欲という人間の三大欲求の一つを百合に握られている為昼休みは必ず一緒に居るし、他二人は言わずもがなマジで四六時中一緒に居る。

かわいいとかわいいとうつくしいが仲睦まじくしている姿は大変目の保養になり健康にも良いので、いつしかこの三人の集まりは、進学校という勉強のストレスが溜まりやすい環境においてC ・ P ・ C(Cute Passion Cool)というグループ名をつけられ、下高の聖域として扱われているのだ。

 

 恐ろしい事に聖域扱いは生徒だけでなく教師にも範囲は及び、何らかの力が働いたのか一年時も二年時も三人はそろって同じクラスに配属されている。同クラスになったものは歓喜に沸き、違った者は血涙を流したとか、してないとか。

 

 そんな三人が、今日も連れたって下校の準備をしていると、虹夏のスマホが着信を知らせ震えた。

 

「あれ? ぼっちちゃんからだ」

 

 メッセージを送ってきたのはひとりだった。百合とリョウが画面をのぞき込んで一緒に確認する。

 急に密着度合いが上がったので、近くで見ていたCPC信者が血を吐いて倒れた。事件では??

 

「……えー、と。『EDMガンガン流してリョウさんとエナジードリンク片手に踊り狂いながらバイトしててください』……?」

「なにこれ」

「さぁ……?」

 

 三人はひとりから送られてきた怪文書に揃って首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

「とりあえずエナドリはいっぱい用意したけど、何に使うんだろ。飲む用?」

「……うぅん。実際に声を聞ければ、どういう感情で出力されたのか分かるんだけど。ぼっちちゃんは読み取るのが難しい」

「ふぅん、百合でもそうなんだ。ぼっちの事だから、突拍子もない事考えてそうだけど」

 

 ひとりからの怪文書は理解できなかったが、とりあえずやりたい事があるのかなとSTARRYに向かう前に驚安の殿堂へと寄り、エナジードリンクを大量に仕入れておいた。

 百合はバイト禁止令が出ているが、EDMを流して欲しいそうなので演奏者として同行している。

 三人で手分けをしてガコガコ音を立てながら――リョウは一本勝手に拝借して飲みながら――通りを歩いていると、見慣れたピンクジャージを見つけた。

 

「……あ、いた」

「ほんとだ! おーい! ぼっちちゃ~ん! 良くわかんないけど、エナドリたくさん買ってきたよ~~!!」

 

 あの孤独なシルエットはひとりに違いない、と虹夏は手を振りながら駆け寄った。百合もそれに続き、リョウはマイペースに歩いている。

 

 そして前を行く虹夏が、見覚えのある赤髪の少女を見つけ

 

「あーーーーっ!! 逃げたギターーーーっ!!」

 

 と、叫び声をあげた。

 

 ――逃げたギターこと、喜多郁代という少女について話をしよう。

 彼女は結束バンド発足当初、幼馴染三人でバンドを組もうと意気込んだはいいものの、非常に珍しい事にドラム・ベース・キーボードは揃っているのに人口の多いギターが居ないという問題に直面していた時。

せっかくならギターボーカルが欲しいよねということで各々探していると、リョウが路上ライブで釣ってきたと非常に失礼な紹介をしてきたのが、郁代だった。

 

「ギターはそこそこできます!」

 

 と言っていたのだが、バンドの打ち合わせには参加するのに合わせの練習は何かと理由をつけて避けられてしまっていたので、その実力は分からずじまいだった。

 それもそのはず、リョウの言っていた「釣ってきた」というのはまさに言葉通りで、顔に釣られてついバンドに入りたいと口にしてしまい、かつ拒絶されたくないという思いからギターを弾けるという嘘までついたが、郁代自身はギターどころかコードのメジャーマイナーすら知らないド素人だったのだ。

 

 それでも嘘を本当にするため、親に頼み込んでお小遣いを数年分前借りしてまで楽器を買い、必死に練習をしていたが上達する気配もなく。

 失望されたくないという恐怖と迷惑をかけるわけにはいかないという緊張感でパニックになってしまい、結果、逃げ出してしまった。

 

 そのことを郁代はずっと気に病んでおり、楽しいはずの友達との遊びの最中もずっともやもやを抱えていたほど。

 そうして、何の因果かひとりと出会い、ギターが上手くなってから謝罪をするためひとりに師事をして下北沢に連れて来られ。

 

 よりにもよってひとりが所属しているバンドが逃げ出したバンドであり、決心もついていない状態で鉢合わせてしまった郁代の取った行動とは――

 

「何でもしますからあの日の無礼をお許しください!! どうぞ私をめちゃくちゃにしてくださああああああいっ!!!」

 

 往来で渾身の土下座をかます事だった!!!

 

「ちょぉっ!? 誤解を招く言い方ぁ!!!」

 

 天下の往来でそんなことを言われてはたまらないと虹夏が悲鳴を上げた。

 そして後ろから追いついた百合が郁代のそばに屈みこみ、一言。

 

「……郁ちゃん、今なんでもって、言った?」

 

 何をする気だ貴様。

 

「うぐっ……い、言いました!! この喜多いk――女に二言はありません!」

「おぉ、潔い」

 

 かかってこい! と言わんばかりに胸を叩いて覚悟を決める郁代に、リョウはパチパチと乾いた拍手を送った。

 百合は「……その返事が聞きたかった」と言い――

 

「……じゃ、とりあえずSTARRYでお話しよ」

 

 にっこりと笑った。

 

 

 

 

 

 

「え~~~! 喜多ちゃんギター弾けなかったの~!?」

 

 STARRYにて、郁代失踪事件の真実を聞かされた虹夏は素っ頓狂な声を上げた。

 

「……だから合わせの練習だけは参加しなかったんだ」

「はい……すみません……」

 

 百合は得心がいったというように頷き、リョウも心配をしていたと口にした。

 

「突然音信不通になったから。……死んだかと思って最近は毎日お線香をあげてた」

「殺さないでください……」

 

 郁代はリョウの容姿に憧れて加入した経緯があり、その尊敬は崇拝の域に達しており、バンドに加入したのも「バンドは第二の家族」→「バンドに入ってリョウの娘になりたい」とだいぶサイコな理由からだった。そんな憧れの相手に脳内で殺されていたと知って、流石にしょんぼりと肩を落としていた。

 

 それからの話。

 

 郁代は罰を求めた。しかし、結束バンド――虹夏・百合・リョウの三人は、ひとりに出会えた事を引き合いに出して結果オーライの無罪を主張。

 なぜか厳罰を求刑する被告と、特に罰を与えたくないしなんならもう一度戻ってきてほしいと伝える結束バンド。

 ひとりがずっと主張も何も出来ていないが、郁代を甘やかしてあげたい百合が、まだバンドに帰ってきてくれるか分からないので代わりにひとりの姿勢矯正を試みており、ひとりはそれをされるがままの状態になっているからだった。何やってんだお前。

 

「……はいひとりちゃん息吸って~」

「はっ、はい。すぅ……」

「吐いて~~」

「はぁ~~」

「……えい」

「うっ」

 

 コキ、と小気味良い音とひとりのうめき声を無視して、裁判官星歌による判決が下された。

 

「じゃあ今日一日ライブハウス手伝ってくんない? 忙しくなりそうだから」

 

 お沙汰が下った。

 

 そしてもっと重い罰を求めた郁代に、何故か持っていたメイド服を貸与し、コスプレ姿でバイトをするという羞恥刑を命じることで決着となった。

 

  

 

 バンドの皆が目の前で働いているので、百合がうるうるとした目で星歌を見つめ、十数分に渡る説得の末に頭を抱えた星歌からもぎ取った『開店までならヨシ』という許可のもと、甘やかしの妖怪が野に放たれた。

 

「あ、百合。今日は手伝ってくんだ」

「……うん。おねーちゃ――店長が、開店までならいいよって」

「そう。じゃ、私の分も「いいけど、その場合お前の給料は百合に渡すからな」……くっ。無念」

 

 しれっと百合に仕事を押し付けようとしたリョウが星歌に釘を刺され、悔しそうに歯噛みした。尚、釘を刺されなかった場合百合は普通にリョウの分まで開店前の準備をしていたし、それに気づいた虹夏からリョウへの折檻が待っていた。リョウは命拾いをしたとも言える。

 

「……それで、ぼっちちゃんはどうしてまたゴミ箱に?」

「さあ? なんか急にギター弾き出して面白いから見てた」

 

 ちら、と百合が視線を落とすと、ゴミ箱の中から腕とギターを取り出したひとりがじゃんじゃかと悲哀の曲をかき鳴らしていた。

 知らない曲だった。曲名は、リョウ曰く“その日入った新人より使えないダメバイトのエレジー”だそうだ。

 死者の魂を悼む悲しみの音が、天へと昇っていくひとりの魂に安らぎを与える。死者が自分で哀悼すな。

 

「……ぼっちちゃん、戻っておいで」

 

 ギターを鳴らしながら天へ帰ろうとしていた魂の尾っぽを掴んだ百合が、ひとりの胸にそれを押し込む事で力尽きていた彼女は息を吹き返す。死者の蘇生はここに成った。

 

「はっ!? あれ、ここは……」

「……おかえり、ぼっちちゃん。それで、どうして死んじゃってたの?」

「あっ、百合ちゃん……。それが――」

 

 およそ人が人と行う会話では無いが、ひとりという生物は気軽に生死を往復したり別のナニカにメタモルフォーゼしたりを良く繰り返す不思議生命体なので、少なくとも現状郁代を除く結束バンド内ではもう慣れたもの。

 

 ひとり曰く、郁代はあっという間に接客のイロハを習得してしまい、ひとりもまだやったことのない(出来ない)受付の仕事まで任されそうになった事から「一瞬で新人に抜き去られたダメバイト」として心を刺激されてしまい亡くなったとの事。

 涙目でそう語るひとりを、百合は優しく微笑みながら頭を撫でてあやしてあげた。

 

「……大丈夫だよ、ぼっちちゃん。ぼっちちゃんが頑張ってるのは、虹夏ちゃんからいっぱい聞いてるよ。ぼっちちゃんにはぼっちちゃんの良いところがあるんだから、ちょっとずつ慣れていこうね」

「わっ、私の良いところ……ですか……?」

「……うん。ぼっちちゃんは、人とおしゃべりするのが苦手なのに、今は頑張ってドリンクスタッフ出来てるでしょ? それは、ぼっちちゃんが勇気を出して前に進んだからだよ。だから、大丈夫。ぼっちちゃんは、ダメバイトなんかじゃないよ」

「あっ、ウェヒ……っ、そっ、そうですかね……うぇへへへ……」

「……それに、わたしも、ぼっちちゃんよりも前にお手伝いしてるけど、受付はダメって言われてるから。一緒だよ」

「えへっ、えへっ……うへへへ……ゆっ、百合ちゃんも、おんなじ、ですね……」

 

 こうして、励ましを受けたゴミ箱つむりなひとりは、のそりと殻(燃えるゴミ箱。ひとり専用に星歌が用意したもの)から出てくる事が出来、わずかに自信を取り戻すことが出来たのだった。

 一部始終を見ていたリョウはこうつぶやいた。

 

「また百合殿が人をダメにしておられる」

 

 と。 

 




・下高のサンクチュアリ
触れるべからず、侵すべからず。ただその有り様を受け入れるべし。

・エナドリ買った虹夏ちゃん
良くわかんないけど、いっぱい買ってきてくれる大天使。好き。
本当は「ぼっち頑張ってたね」に対するぐでぐで虹夏ちゃんの「そだね」とか、「ツンツンツンツンツンツンツン、デレ~」とか書きたかったのに気づいたら百合が勝手に新宿FOLTに行きやがった。でもこのエナドリガシャガシャしながら「買ってきたよ~」って笑顔で近づいてくる大天使ニジカエルはどうしても書きたかった。可愛い。

・後藤の姿勢矯正
初ライブの時に背筋しゃんとすれば今よりもっともっとかっこよくなれると褒めた結果マスク・ド・後藤になっていた。なので会うたびによくコキッてしてあげている。ひとりは不思議生命体なので問題ないが、素人がやると大変危険なので良い子は真似しちゃだめ。

・ひとり専用燃えるゴミ箱
ひとりはよくゴミ箱に引きこもってしまうので、使用済みの物だときちゃないので百合が進言し星歌が購入してあげた。
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