下北沢の大天使をデロデロに甘やかしてドロドロに依存させたい 作:百合好きの獣
※いつも感想高評価ここすきにお気に入りありがとうございます。多分今全部の感想とかここすきは10周くらい見返してます。嬉しい~~。
※基本的にほぼコメディですが、おまけでちょっとしんみりした感じになってますので許して。
「アー写を撮ろう!」
郁代が結束バンドに正式加入してから、少しして。
郁代はひとりに教わりながらギターを練習し、リョウはいつも通りマイペースに過ごしながらも曲を作り始め、虹夏はバンドの今後の活動の為に準備を進め、百合は百合で各メンバーの練習やら活動に顔を出しては甘やかしたり撮影したりしていた。
そんな風に日常を過ごしながら各々で出来ることを進めている中に、虹夏が招集をかけた。結束バンドミーティング、第二回目の開催である。
虹夏からの開幕の宣言を聞いて、郁代がオウム返しに問う。
「……アー写? アーティスト写真の事ですか?」
アーティスト写真とは、その名の通りアーティストや、またタレントなどが宣伝のために撮影しマスコミに提供する写真の事。バンド活動においては、主にSNSでの宣伝に使用したり、ライブハウスに提供して出演バンドの紹介として使用されたりするので、バンド活動を行う上で必要なツールなのだ。
「そうそう! 五人揃ったし、暇なうちに撮っておこうかなと!」
「……ライブやるにも、必要だもんね」
百合がカウンターにかけながらパチパチノートPCを打ち込んでいる星歌を見ると、耳はこちらに傾けていたのか仕事を続けながら無言で頷いていた。
「あっ、この前のライブの時はどうしたんですか……?」
「……これ。郁ちゃんが居る時には撮れなかったからこんなんなってるけど」
ひとりの疑問に、百合がスマホを操作して見せた写真は、百合を抱きすくめる虹夏とそれを見守るようなリョウ。そして集合写真撮影時に欠席した人として右上にバストアップで添えられた郁代。それを見たひとりは内心「こんな酷いアー写初めてみた……」と思ったがそれを口に出すことは無かった。
アー写の撮影場所としては、本来の用途で使うような場合はしっかりとカメラマンを雇ったりスタジオで撮影をしたりするのだが、これが結構お金がかかる。少なくとも学生である彼女たちに払えるものではないので、アー写の撮影場所を外に求めることにした。
「今ここでパっと撮るのじゃダメなんですか?」
「ナシではないけど、せっかくだし息抜きもかねて外に出よう! ほら、こういうのも作ってきたんだよ」
郁代が少しでも追いつこうと練習に根を詰めていることはひとりからの相談を受けた百合の報告によって把握していた為、ここらで一度気分転換を図ろうという虹夏なりの気遣いもあった。
虹夏が鞄を漁り、じゃじゃんと取り出したのは留めてヨシ纏めてヨシの便利グッズ――結束バンドだった。
「みて! バンドグッズ!」
「結束バンド手に巻いただけですよね!?」
「色も結構種類あるんだよ。黄色があたしで~、白が百合。青はリョウで、ピンクと赤はぼっちちゃんと喜多ちゃん! メンバーの色! 物販では500円で売るよ!」
「ぼったくり!!」
バンドメンバーは五人いるので、全員分集めるとすると2500円。ちなみにこのグッズの原価は300本で1500円なので1本あたりの粗利は495円。すがすがしいほどにぼったくりだった。なんなら百合の分に至っては原色そのままである。
「……虹夏ちゃんすごい。天才だね」
「そうかな? えへへ……これで少しはバンド活動の足しになるよね!」
おもむろに虹夏に近づいた百合はそのまま頭を撫でたので、虹夏はだらしなく頬を緩めた。
あまりにも自然にスキンシップを取るので郁代は一瞬呆気に取られてしまい、反応が遅れた。
そしてこっそりと隣に座る後藤に耳打ちをする。
「ねえ後藤さん、二人って幼馴染って聞いたけど距離近くないかしら? しれっと手首に巻いてるのもお互いのカラーだし……」
「あっ、えっ、そ、そうなんですか……? でっ、でも私幼馴染が居ないので、こういうのが普通なのかなって……」
「そ、そう言われると私も幼馴染は居ないけど……え? 私がおかしいの? これが普通なのかしら……?」
ひとりは順調に『普通の幼馴染の距離感』について誤解を進めていたし、郁代もひとりからの影響で誤解への第一歩を踏み出した。
この場においてその誤解を正せる唯一の人物であるリョウは面倒なのと『放置してた方が面白そうだから』という理由で何も言うことは無かった。最低。
◇
先導する虹夏に連れられてふらふらと下北沢を散策する結束バンド一行。
虹夏曰く、『金欠バンドマンアー写のすすめ!!』では屋外での定番といえば階段や森・草木の前、海や公園・フェンス等とのこと。
「あとは何かよさげな壁!」
「なんですか……そのふわふわしたやつは」
ふわふわとした指令に、郁代がやや呆れ気味に周囲を見回した。
「……えっとね。こういう感じのやつ」
百合がネットで検索して見せた写真には、けだるげな表情とポーズで壁にもたれかかるバンドマンが並んでいた。
「あー、なるほど。落書きとかボロボロとかで退廃的な感じの壁だと雰囲気でるんですね」
ただのコンクリの壁では体調不良の患者が撮った集合写真にしか見えないが、背景として落書きされた壁を置くことで不健康さや病的さが強調されある種のデカダンス的な印象を与える写真となっている。
「そういえば、楽器持ってくればよかったですね。百合先輩が見せてくれた写真も皆楽器持ってたし」
「あっ、た、確かに。楽器持ってればさらにかっこよくなりそうですけど……」
郁代とひとりの提案は、アー写をよりよいものにしようという気遣いから出たものだった。
だがそれが、逆にドラムの虹夏の逆鱗に触れた!
「君たちはね」
虹夏は表情に凄みを持たせながら、低い声で言った。
「でも絵になるのはギターとベースとキーボードだけでドラムは可哀想なことになるんだよ! セットなんて持ち運べないから手に持つのはドラムスティックだけだし!!」
虹夏がどこからか取り出した画用紙には、やたら上手にデフォルメされた結束バンド全員が描かれており、リョウ、ひとり、郁代、百合がキラキラと周りに描かれているのに比べ、虹夏は二本のスティックを無表情で持っている。その周りには注釈なのか「つらい」「なんで私だけ……」「ドラマーを大切にしろ」と書かれている。
その様子を横目で見ていたリョウが、フォローを挟んだ。
「可愛いじゃん」
「じゃあ今日だけ楽器交換しよ!」
ドラムスティックをずいと差し出した虹夏を、フォローしたはずのリョウがばっさりと切り捨てた。
「カッコ悪いからヤダ」
キレた虹夏が「ぬ”ぅぅぅぅぅん!!」と怒りの声を上げながらリョウを追い回し始めてしまったので、郁代は百合へと話を振る事にした。スルー力が鍛えられている。
「あ、百合先輩ってキーボードは普段持ち歩いてないですよね」
「……うん。重たいし、常に持ち歩くのはやだ。軽いのもあるけど……こういうショルダーキーボードみたいなのとか」
「わ! かわいい! ギターみたいですね!」
「あっ、あ、あの……二人を止めなくていいんですか……?」
その後、百合が虹夏を抱きしめることで怒りを鎮め、事態は収拾したのだった。
◇
ツチノコという生物の名前をご存じだろうか。
正確には、日本に生息すると言い伝えられている未確認動物――UMAの一つで、胴がずんぐりと太く、尻尾は短く細い事が特徴だ。数メートルジャンプするだとか、尻尾を咥えて大車輪と化し坂を転がったとかUMAらしくなんとも不思議な生態をしているとされている。
このツチノコはもともと京都や奈良、三重や四国北部などで用いられていた方言での名称だったが、現代に入ってからこれを取り上げた漫画や番組によって広く知れ渡られるようになった。
知れ渡ったのが現代なだけで、存在自体は古くから目撃されているようで、縄文時代の土器にツチノコと酷似した姿が描かれていたりするらしい。
なんでこんな話をし出したかというと、現れたからだ。
何が? ――ツチノコが。
どこに? ――下北沢に。
それでは御覧いただきたい。古くは縄文時代から生息しているとされ、それでもこれまで発見することが出来なかった幻の未確認生物。
ぴくぴくと震える、ピンク色の怪生物が郁代の前に横たわっていた。
これはツチノコと化したぼっち。通称ツチノコぼっち。
コミュ症人見知り科に属する生物で、暗いじめじめした場所を好む。人と目があっても話しかけられても気配を感じても即瀕死になる虚弱な性質を持ち、ギターの音色が好き。
……経緯を説明すると、無事良さげな壁を見つけた結束バンド一行が何枚か写真を撮影していたところ、郁代の写真写りの良さに気づいた虹夏がその理由を聞き、ひとりが不用意に郁代のイソスタ画面を覗いて青春コンプレックスを発動させてしまった結果だった。何? 意味が分からない? ……後藤ひとりの生態に意味を求めるな。
「私が……私が下北沢のツチノコです……」
「キャーーーーッ! 後藤さんが変な事言ってるわ!」
「いつもこんなんだよ」
ひとりの譫言に慣れていなかった郁代が取り乱すが、虹夏の反応は冷ややかなものだった。
「百合、頼んだ」
「……がってん」
ツチノコと化したひとりを百合が抱きかかえ、何事かを囁いた。
するとどうしたことだろう、ツチノコぼっちが光に包まれ、光の中でツチノコのシルエットが拡縮していき――。
「うへ……わ、私も今や陽キャのリア充……そう、さしずめ『光のぼっち』……」
「……おかえりぼっちちゃん」
ひとりは人としての姿を取り戻した!!
副作用として調子に乗ってしまうのはご愛敬だ。
「えっ? 後藤さっ、えっ? ……………えっ?」
「郁代、ぼっちの生態は気にするだけ損。こういうものだって諦めて」
「あたしたちも慣れたのは最近だけどね。溶けちゃっても百合がすぐ直せるから」
「溶けるんですか!?」
「うん。割と」
「”割と”!?」
後藤ひとりの生態は不思議に包まれており、日夜学会による研究が行われているものの、未だ解明が出来ないという。
尚、アー写については知将山田リョウによる提言により、全員が手を繋いでジャンプをする青春感のあるものとなった。
◇おまけ 星に手向ける百合の花
「そういえば百合ってさ、よくぼっちちゃんを直してるじゃん」
「……うん」
人に対して行う行動として『直す』という単語は非常に不適切ではあるのだが、実際に不定形のものを人の形に戻す作業をしているので何とも言えないのがもどかしい。
「あれって褒めたり慰めたりしてるって言ってたけど、何を言ってあげてるの?」
ひとりが人としての形を無くしてしまうと、大抵百合が何事かを囁きあやすことで元の形を取り戻す。以前に百合が「励ましている」とは言っていたが、実際はどういう言葉を言ってあげているのかは知らなかった虹夏は疑問に思った。
「……んー、ほんとに特別な事は言ってないよ。頑張ったねとか偉いねとか。ぼっちちゃん、自己肯定感が低いからたくさん褒めてあげたくなっちゃう」
「あぁ、大体ぼっちちゃん青春コンプレックス? が発動するとおかしくなるもんね」
後藤ひとりの生態①
青春コンプレックスが刺激されると人としての形が保てなくなることがある。
「でもよくそれだけでぼっちちゃんに自信取り戻させられるね。多分あたしが頑張れーっとか言っても効果無いと思う」
「……わたしは、虹夏ちゃんに頑張れって言われたら、いっぱい頑張れるけど」
「あたしもだよ!」
バカップルはさておき、百合の励ましには虹夏が疑問を覚えたようにちょっとした絡繰りがある。
百合の声は、所謂萌え声という可愛らしい声であるのもそうだが、高く澄んだような声音でかつゆっくり、はっきりと喋るために非常に癒されるような声となっている。
1/fゆらぎと呼ばれる、聞いていて心地の良い声が百合の持つ性質だった。
その声でささやかれる言葉はすとんと落ちるように心に滑り込むので、励ましや慰め、褒めるという行為においては無類の強さを発揮する。
ただ、副作用で天狗となってしまうのは百合の特性というよりも後藤ひとりという少女が褒められ慣れていないため起きてしまった不幸な化学反応だ。
「まあ、百合の誉め言葉ってすっごいキクからね。ふわ~ってしてくるし」
「……それほどでもない」
薬の話かなんかをしてるんか?
「………………昔っからそうだったよね。百合の言葉にあたし何度も励ましてもらった」
「……虹夏ちゃん」
突然しんみりとした空気になったが、今の二人はベッドでお互い抱き合っている体勢であり、眠くなるまで雑談をしている最中なのでいつもどおりイチャついているだけだった。
二人が9歳の頃、虹夏の母が交通事故で亡くなった。
突然の訃報に、幼かった百合はショックを受けた。幼馴染の母親というだけの関係性とはいえ、よくお世話になっていたし、百合にとって第二の母と言っても過言ではない人物だったから。
だが、それ以上に、葬儀場で泣き喚く虹夏、そして感情が全て抜け落ちたかのような表情をしていた星歌の姿がどうしようもなく胸を締め付けた。
それから星歌は現実から逃げるようにバンド活動へとのめり込み、家にいる事がこれまで以上にほとんど無くなり、彼女の父親もまた、仕事に没頭していった。
そして虹夏も、それ以来一度も笑顔を見せる事は無かった。
残された虹夏はこれから、独りぼっちで、これまで居てくれた大好きな母親が『居なくなってしまった』という現実を受け止め続けなければいけない。
そんなふざけた事は、百合は絶対に許せなかった。
禊萩百合は伊地知虹夏の母親には決して成れない。この世の誰にも、母親の代わりなんて務まるはずがない。けれども、辛いときに傍にいて支えてあげる事くらいはしてあげられる。
幼い百合にはその方法しか思いつかず、文字通り四六時中虹夏の傍に居続けた。一人じゃない、わたしが居ると言い続けた。
才能が開花し「天才だ」と持て囃されていたピアノすら捨て去って、自身の時間の全てを虹夏に捧げた。すべては、大好きな幼馴染にもう一度笑ってもらうために。
結果として、百合は支えることは出来ても立ち直らせる事は出来なかった。その時の百合では、『家族』には成りえなかったから。
ので、必要な最後のピースである星歌を探しだし、往来でギャン泣きしてまで虹夏と向き合わせ、その後はご存じのように元の鞘――いや、それ以上に仲の良い姉妹と戻る事が出来たのだった。
ただ、まあ。
百合が虹夏に自分の持ち得る全てを全ツッパした結果――。
「百合……」
「……虹夏ちゃん…………」
互いを抱きしめ、虹夏は自身の足を百合へと絡めるようにしてすり、と擦り合わせた。
滑らかでしっとりとした素肌がふれあい、オキシトシンが二人の脳内からドバドバと放出されていく。
「大好きだよ」
「……わたしも、大好き」
幼馴染の関係性が友愛から別の形態へと大きく変わってしまったのには、天国で愛娘たちを見守っている伊地知母も少し困ったような笑顔を浮かべているのだった。
・幼馴染の距離感
ぼっちは誤解しているし喜多ちゃんも誤解し始めた。そのうちチューしてる場面を目撃しても「仲がいいなぁ」で済ませそう。そんなことは無いのである。目を覚ませ。
そのあと「リョウ先輩はああいうのしないんですか?」って喜多ちゃんに爆弾投げられそう。因果応報。
・光のぼっち
陽の意志を感じ取りエオル〇アに降り立った救世主。見て聞いて感じて考えて。
・アー写
きららジャンプ。百合は虹夏とぼっちの間に挟まった。ぼっちとリョウの間に挟まっていた場合、身長差で捕まった宇宙人みたいになっていた。
・伊地知姉妹と百合
虹夏と百合はお互いどでかい感情を向けあっているが、実は星歌からもそこそこでかい感情が百合に向いている。
過去編はどう頑張ってもシリアスにしかならないので、この二次創作では多分がっつり1話使うことはない。百合が介入したことで虹夏は一人で思い込んで突っ走る悪癖がなくなったし、星歌も虹夏に対して素直になったことが原作との相違点。
もう殆どの人が読了済みだと思うけど、アニメのみ視聴の方はぜひ原作5巻の巻末を読んでほしい。読んで♡ 読め。
・足を絡めて擦りあう。
癖!!!!!