…家族みんなを観察し、家族みんなの役に立つ?
何だそれ。わたしは納得いかないぞ。
わたしの目的を達するのに、そんなの何の関係が───
ある朝の妖精倉庫の読書室。木製の古びた本棚が立ち並ぶ中、新古様々な子供向けの童話や絵本が収められた一角がある。
ネフレン・ルク・インサニアは、その棚の傍に座り込み、一人黙々と蔵書の整理を行っていた。
「ん、これはそっちであれはそこ」
やれやれ、我が家のちびっ子達にも困ったものだ。本を読んだら所定の場所に戻すべきとクトリが何度も注意してるのに。
サイズ別、作者別に整然と並べていた筈なのに、所々がグチャグチャになっている。ついでに背表紙が上下逆、小口が表になってるものも多数あり、思わず「むう」と不満げな息が漏れてしまう。
だけどわたしはこの通り、大声を出したりビシッと注意することは苦手だし。あまり細かいことを指摘して、未来の読書家の芽を摘むような真似もしたくない。そんな事情で仕方なく、クトリが留守の間を縫って整理し直しているという訳なのだが。
「───めんどくさくなってきた」
誰かに依頼された仕事なら。或いはヴィレムの為ならば。背筋が一気にしゃんと伸び、やってやろうという気持ちも湧き起こってくるのだけれど。
床に敷いた布の上。二十冊ほど積み上げた、未整理の本の山があと七つ。窓越しに響くのは、運動場ではしゃぎ回る子供達の楽しげな笑い声。今度こそ「はあ」とあからさまなため息が出てしまった。
「───もう大体でいいかなあ」
繊細で細やかなようでいて、実際は良く言うのなら大胆不敵、悪く言えば適当で大雑把なちびっ子は、自ら始めた仕事を中途半端に放り出そうとして、
「───ふむ。察するに年少の子達の尻拭いか。なかなか大変なようだね先輩。わたしでよければ手伝おうか?」
「うわ」
飄々として掴みどころのない性格。右目を隠すように伸ばされた、紫色の長い髪。気配も音も全くなく、いつの間にかネフレンのすぐ傍にまで忍び寄っていた、年中組のミステリアス少女パニバル。灰髪の先輩は、全く動揺してる風には見えない声と表情で後輩に向け驚いてみせていた。
───むう、パニパルが自ら手伝いを申し出るとは珍しい。もちろん家事や年少組の世話をさぼるということはないのだけれど。
どっちかといえば、余暇は剣の修行をしたり、くだらないいたずらを仕掛けたり、制止するラキシュを巻き込んでティアットやコロンらと大暴れしてる。そういうイメージしかないものだから、失礼ながらちょっぴり戸惑いを覚えてしまう。
「ははは、何をぼんやりしてるんだい? これも修行、達人への道の一環。わたしに出来ることなら何でもするから遠慮なく指示を出してくれたまえ」
右腕で肩を抱き、いささか馴れ馴れしくぽんぽんぽんと叩いてくる。
───まあもともと気紛れな性格の子だし、そういう日だってあるのだろう。楽できるなら何でもいいや。
ネフレンは思考を切り替えて「ん」と潔く好意を受け取ることにする。
しかしパニバルの善行は、彼女一人へ施すに留まることはしなかった。
「やあノフト先輩、今日は料理当番だったよね。先輩は包丁の扱いが苦手だし、下拵えは済ませておいたよ?」
台所に入ると、野菜と肉がボウルに分けられ奇麗に切り分けられていた。
「ナイグラート、今日は山狩りに行くんだろう? いつでも出発できるよう、準備は完璧に整えておいたからね」
バックパックには、食糧と水、薬と包帯、救難用の発煙筒などが整然と詰め込まれており、ついでに裏庭には解体用具一式もばっちり用意されている。
「こらこら、ラキシュはもうすぐアルバイトに行くんだから。コロンもティアットも、無茶な遊びで困らせてはいけないよ?」
倉庫の敷地の隅にある、十メーター近い危険な崖。そこからバンジーチャレンジしようとしてた、年中組のバカ二名。普段なら一緒になってやらかしていそうなものだが、テンパるラキシュの代わりとなって二人の暴走を止めていた。
ネフレンの判断通り、一つや二つなら気紛れで済まされていただろう。
しかし四つも重なれば、誰もがこう断ぜざるを得ない。
「パニバルがおかしくなってるうーーーーーっっ!!!」
妖精倉庫は大混乱に陥った。