誰がパニ子を壊したか   作:すかすかのタキ

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誰がパニ子を壊したか③

 

 数日を家族の観察に費やして、わたしは今日いよいよヴィレムの教えを実践に移すこととした。

 

 自分ではなかなか、良い手応えがあったと思ったのだが、

 

 

「パニバルお前! 頼んでもいねえのに勝手に下拵えしてたけど、どんだけ刃物に飢えてんだ!?」

 

「駄目よ! いくらご機嫌を取ったって、熊狩りなんて危険行為に同行を許すことは出来ません! 包丁だけで挑むなんてもっての外!」

 

 いや、ノフト先輩にナイグラートよ。わたしは己の剣を磨き、レベルの高い打ち合いをすることが目的であり娯楽なんだ。別に斬ることにこだわってはないし、野生の獣と戦うこともあんまり趣味ではないのだが。先日ぐしゃぐしゃむにゅむにゅされたばかりなのだから、二人してがくがく揺さぶるのはやめてくれ。

 

「怖い怖い怖いパニバルが怖いパニバルがあんなにまともな思考回路でわたしを助けてくれる訳がないわたしはこれから代償にどんな無茶振りをされちゃうの」

 

「むう、メンタルが壊れかけている。早急なる癒しが必要。ぴとと」

 

 ああ、ラキシュよ。ネフレン先輩のぽかぽかハグが受けられるとは羨ましい。ところでだ、確かにわたしは品行方正な子供とはとてもじゃないが言えないが、少々過剰反応しすぎでは? そんなに君に苦労かけることばかりした覚えはないぞ。

 

 そうだな、最近では精々が、

 

①夕食に、わたしの嫌いなピーマンが出た。その日は食べる気がどうしても起きなかったので、剣の修行で身に付けた手首の柔軟性を用い、隣りの君のお皿へと超高速で移し替えた。思った以上に誰にも全然気付かれず『こら、好き嫌いは駄目でしょう!?』と、君がクトリ先輩に叱られた。

 

②どうしても遺跡兵装を触ってみたくて、地下倉庫の鍵を盗みに管理者室に侵入した。その間ナイグラートを外で食い止めておく為に『よ、よかったらわたしを食べてはもらえませんか…?』と、もじもじしながら色っぽく誘惑していてもらってた。ちなみに鍵は見つからなかった。

 

③話の分かるアイセア先輩に頼み込み、おやつ三日分と引き換えにヴァルガリスを貸してもらった。『あああ危ないから無理だってえええええ』忠告を無視し振り回そうとしてみたが、やはり身の丈に合わない大剣だった。『お、お、おおお?』重量に負け、バランスを崩し、君を巻き込みクッションにする形で思い切り地面に倒れ込んだ。ちなみに先輩はにゃはにゃは腹を抱えて爆笑した。

 

④近所の森で遊んでいたら、全長二メーター近くはありそうな毒々しく巨大な蛇と遭遇した。岩や木の幹、障害物を巧みに利用した曲線的かつ変則的な動き。おお、もしかしてこれは、わたしの剣技に転用できるのではないか? そう直感したわたしは、彼の動きをもっと引き出し観察する為に『はわわわわわわわーーー無理無理無理無理無理無理無理なんでわたしがこんなことしなくちゃならないのー!?』『ラキシュよがんばれ! もっと強く、もっと激しく大胆に! 限界を超え、更なる一歩を踏み出すんだ!』嫌がる彼女に頭を下げて頼み込み、棒でつついてつかず離れず挑発し続けてもらってた。

 

 ………………………………うん。振り返ってみると、相当酷いことを繰り返しやらかしているかもしれないなわたしは。

 

 気まずさに指先で小さく頬をかく。まあ何だ、このまま四人を暴走させておくのも忍びない。素直に事情を説明して、この奇矯なテンションを治めさせてもらうとしよう。

 

 とゆうか、このままがくがくがくがく揺さぶられ続けたら多分吐く。目を回して嘔吐する。ナイグラートにノフト先輩よ。君達は自分の馬鹿力とメンタルの熱されやすさをもう少し自覚した方がいいと思うぞーあはははは。

 

 

 

 娘には自分の望む道を歩みつつ、家族達とも末永く良い関係であり続けてもらいたい。ヴィレム・クメシュ二位技官は、実に真っ当な親心から真っ当すぎる助言をパニバルへと与えたのだが、その善意はまたしてもろくでもない大騒動を巻き起こす結果に終わるのだった。

 

 ちなみに本編でのパニバルは、思考回路が独特かつ言葉足らずなのも相まって余計な誤解を与えることも少なくないが───基本的には思慮と優しさを兼ね備えた、立派な剣士へと成長している。ただし、そちらとは全く違う方向に分岐した、毎日わちゃわちゃトラブルまみれな今ここにある世界線。こちらでどんな大人に育つかは、神も死に伏せているが故どうにも予測しようはない。

 

 

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