「───ん、なるほど。ヴィレムは人の望みは汲み取ってあげられるのに、両思いの筈のクトリの恋愛願望に関してはちっとも応えられてあげていない。それをパニバルに指摘されて、うーあー唸りながら悩んでいたと」
「はい。そういうことになります…」
ヴィレム・クメシュという男は、基本的にはコミュニケーション強者である。昔はぶっきらぼうなところもあったけど、そういう幼さもとっくに脱した。さすがは元養育院の最年長というべきか、老若男女誰とでも、フランクかつ誠実に接し、対等な関係を構築することが可能。齢十八にして既に、一人前の大人として立派に成熟を果たしている。
無論クトリのことは一人の男として好いてるし、ここ妖精倉庫の正式な管理者となり一生を添い遂げたい気持ちも確かにある。
それなのに、人としてこれだけ完成度が高いのに。
こと恋愛に関してだけは、度胸も才能も経験も、致命的なまでに全ての要素が欠落している。何ともバランスの悪い男である。
「ヴィレムの悩みはよく分かった。じゃあ、プロポーズするのが怖いなら、わたしが手を繋いでてあげる?」
さも名案とばかりに、頭を優しくなでながら言うネフレン。
あまりにずれた気遣いに、彼はがっくり肩を落とした。
アホかよお前は。あいつはあの通り、強気で言いたいことははっきり口にするタイプだが、一皮剥いて出てくるのは重度の恋愛脳女だぞ。自分からもアプローチはガンガンするが、最後の一線は男に堂々リードしてもらいたがる、根と業の深いロマンチスト。
そんな女を前にして、後輩のちっこい女を連れ添って、手を握ってもらいながらプロポーズを申し込む? あまりに情けなさすぎて即刻破局、復縁なんざ俺が護翼軍の総師団長にまで出世したって不可能に決まってるだろうが。てゆうか俺だって、もしテッドの野郎がカイヤかエミッサを侍らせながら『お父さん! 絶対幸せにしてみせますから、どうかアルマリアさんを僕に下さい!』なんて挨拶に来ても誇りにかけて渡しやしねえしむしろパーシヴァル二刀流で全身なますに斬り刻んで墓にすら埋められないよう亜竜の餌にしてやるところだわバカ野郎。
…などというツッコミが彼の脳内に超高速で流れたが、脱力しすぎてそれを口に出す元気もない。
ああもうマジでどうすりゃいいんだよ。世の男達はどうやって、男らしくスマートに 、異性を愛を伝えているというのだろうか。
グリックは緑鬼族の中でははぐれ者らしいからあんまり当てに出来そうにねえ。スウォンはワーカーホリックの引きこもりだしライムスキンは論外だ。やつに相談したら最後、嫁ののろけ話を延々聞かされるだけ聞かされて、有益な助言なんて何一つもらえないに決まってる。
青年は心中での愚痴が止まらない。浮遊大陸で目覚めて以降、同性の友人も出来てることは出来てるのだが、相談相手としては全然機能してくれそうにない。先に述べたバランスの悪さ然り、こと恋愛に関してはとことん恵まれない男である。
「───む。もっといい案を思い付いた」
ネフレンがなでるのを止めて、ぽんといい音を立てて手を打った。
「何だよ、お前が代理告白でもしてくれるってのか」
「ヴィレムは馬鹿なの? それはさすがに情けなさすぎて、クトリも別れを切り出すと思う」
「手を繋いでプロポーズという発想が真っ先に出る女に馬鹿呼ばわりされたくはないんだが?」
「むわわわわ、止めてほしい、目が回る。酔う酔う酔う」
なでられた仕返しとばかりに頭を掴み、ぐわんぐわんと振り回す。ネフレンもネフレンで、ヴィレムの足をげしげしげしと蹴りまくる。反撃に次ぐ反撃。年少組の五歳児すら呆れ返るであろう、低次元すぎる争い。一分ほど繰り返し、ようやくその事実に気付いたらしい。両者は目と目で何もなかったことを了承し、大人しく話を進めることにした。
「───ん、それでね。ヴィレムは小さい子供達が相手なら『お前らみんな、世界で一番かわいいぞー』って、自然に好意を伝えられているでしょう?」
「は? そんなの当然だろ? あいつらみんな、歴史上誰より何より最高にかわいいってのは紛れもない事実なんだから」
さすがは無自覚の愛情過剰おとーさんである。常人であらば『うわあ分かっちゃいたけど改めてこの男の精神性はやばすぎる』と、薄ら笑いで十歩は引き下がるだろう言動が全くの真顔で飛び出した。…が、その更に上へと軽々行ってしまうのが、妖精倉庫の鉄面皮代表にしてヴィレム専門の世話焼き係ネフレンという少女なのだ。彼女は先の反省も踏まえ、愛の大波を無言でさらっとスルーすると、
「ん。だからこれからヴィレムには、わたしと一緒に訓練に励んでほしいと思ってる」
「訓練? 何の?」
「決まってる。クトリに告白する為に、クトリは十歳足らずのちっちゃくてかわいい女の子だと芯から思い込む訓練」
全く純然たる好意によって、彼を社会的に死ぬ方向へと導きだした。