火を点けた先、青空の下で。 作:FINDER EYE
まだ全然書き溜め出来てないですが、投稿しちゃおうかなと。
対策委員会へようこそ!
「レイヴン、ちょっといい?」
「どうしたの、先生」
ある日の朝、何気ない日常の始まり。
先生が手元の手紙を掲げ、レイヴンへと声をかけた。
「一緒に出張いかない?」
「……出張?」
「うん。えーっと……遠出……いや、
反応は──劇的だった。レイヴンの口元は引き締まり、目が鋭い物へと切り替わる。
それは、戦いへ赴く者の表情。
「わかった。すぐ出発する?」
「えっ……なんでそんな戦士の顔つきしてるの……」
「だって、遠足に行くんでしょ?」
「遠足に行くんだよ……?」
悲しきかな。相互理解が及ばぬが故の、すれ違い。レイヴンにとって遠足とは、戦地へ赴く事を指す物だった。
彼女は自身の記憶の中でも特に思い出深い、
あの戦いは──楽しかった。ウォルターも、エアも、ラスティも、ミシガンも、チャティも居て。カーラも準備を手伝ってくれて……もうひとりなんか居て、更には思い返したくもない不快なのもいたけど──それでも、楽しかったのだ。
触れるだけで致命的になりかねない巨躯を搔い潜り、ミサイルの群れを凌ぎ、跳ねる機雷を超え、微かな
レイヴンは微かな感傷を胸に押し込め、自身にとっての遠足がどういう物かを、淡々と語る。
先生は顔を両手で覆った。
「レイヴン……遠足はね、もっと穏やかで、和やかで、安らかなものなんだ」
「そうなの?」
「そうなの」
そんな会話があった三日後。
「先生、これも遠足?」
「…………ごめん」
彼らは遭難していた。
***
始まりは一つの手紙だった。送り主はアビドス高等学校の生徒、奥空アヤネ。内容は要約してしまえば「学校が地域の暴力組織より追い詰められていて、弾薬などの補給が底を突きそうになっているから、力になってほしい」との事だ。
受け取った先生は、善は急げと言わんばかりにすぐさま支援物資を準備し、レイヴンと共に勢い勇んでシャーレを飛び出した。
しかし、結果がこれである。
彼はアロナから「アビドス高等学校とは、かつてはとても大きな自治区だったが気候の変化で街が厳しい状況になっている」といった話を聞いていた。だが、街のど真ん中で道に迷って遭難する人もいる、等と聞いた時は、流石に誇張された物だと捉えていた。まさか本当にこうも広く、そして砂に覆われているとは思ってもいなかったのだ。
ただひとつ、彼の弁護をするのであれば。キヴォトスは学園都市で構成されているだけあって、各自治区を結ぶ鉄道の駅を出れば最寄りの学校へ誘導する案内看板等も多く存在する。故に、彼は駅まで行けばなんとかなるだろうと考えていたのだが──砂に埋もれ、意味を成さないオブジェと化したそれに愕然とする事となるとは。
砂の影響でゴーストタウンと化しているのか、人の気配も無い為、道を尋ねる事も出来ず。街を彷徨い歩いた、この三日間。正しく、彼らは遭難者であった。急がば回れとし、事前に情報を集めるべきだったのだろう。
「先生、歩けそう?」
「ちょっと……暫くは無理そう、かな」
更に言えば、先生の脚が限界を迎えていた。歩幅が異なるはずなのに、彼と比べ一向に疲れた様子を見せないレイヴンに合わせる形で歩き続けたのが原因だ。初日の時点で自身が背負っていたバッグをレイヴンへと預けていた事もあり、なるべく早く目的地へと辿り着こうと努力した結果でもある。
そんな事もあって。二人は現在、日差しを避けるべく、砂に埋もれきっていない大きな建物の軒下で身を休めていた。
幸いというべきか、支援の為にと物資は豊富に持ってきていた為、飲食については今のところかろうじて問題になっていない。持ち運ぶ物資を増やすためにレイヴンへと同行を提案した甲斐があった、と言えなくもないだろう。だが、勿論先生がそんな事を思うはずもなく。
彼は申し訳なさそうな顔でレイヴンへと声をかけた。
「……ごめん、レイヴン。こんな事になっちゃって」
「ううん。わたしは結構楽しいよ?」
その言葉通り、彼女自身はこの状況を苦に感じていなかった。自分の脚で歩き、先生と取り留めのない話をして過ごした三日間は、悪くない遠足だったのだ。
しかし、愉快な遠足ならぬ
「──音」
「レイヴン?」
「先生、音が聞こえる」
彼女が微かに聴いたのは、車輪が回転するような音。
発生源を探すべく、彼女は建物をよじ登って周囲を広く見渡せる場所を確保する。耳を澄ませ、音の方向へと視界を動かせば──見えた。
砂地に埋もれかけた道路を走る、ロードバイクに乗った少女。この三日間で見る事の無かった他人に向け、レイヴンはその小さな身体を目一杯使って手を振る。
すると、それに気付いてくれたのだろう。遠くから目が合うと、ロードバイクの少女はレイヴンの方へと進路を変えた。
少々の時間が流れ。
「えっと……手を振ってたのが見えたんだけど」
「うん。見つけてくれてよかった」
声の届く距離まで近づいた少女を、建物の下へと戻ったレイヴンが迎える。
そんな彼女と、その傍らで砂地へと座り込んだまま、軽く手を振る大人。奇妙な二人組を見て、少女が問う。
「強盗にあったって様子でもないけど……事故?」
「道に迷っててね、途方に暮れてたところなんだ」
「なるほど、遭難者だったんだ」
「あはは……」
身も蓋も無い言葉に、先生は乾いた笑いを漏らす。否定のしようがなかった。
「見た感じ、連邦生徒会から来た人たちみたいだけど……お疲れ様。学校に用があって来たの?」
「うん。アビドス高等学校に用事があってね」
「……そっか。久しぶりのお客様だ」
その反応にレイヴンが疑問を挟む。
「あなたはアビドスの人なの?」
「そう。アビドスの2年生、砂狼シロコ」
「っと、ごめん。自己紹介が遅れたね。私はシャーレの顧問先生で、こっちの子が──」
「レイヴン」
返された言葉から『シャーレ』の単語を拾い、聞き覚えがあるなとシロコは思案する。
答えは直ぐに出た。後輩の出した手紙の宛先だ。
「シャーレ……って事はもしかして、アヤネの手紙を読んでくれて?」
「うん。貰ってすぐ動いたんだけど、残念ながらこんな有様でね……」
「それなら、私が案内してあげる。すぐそこだから」
「ありがとう……助かるよ──って、うわっ」
「──っと、危ない」
シロコの申し出に礼を言い、立ち上がろうとした先生が体勢を崩す。すぐさまレイヴンが支えたが、彼の膝は可哀そうな程震えていた。
再び地面に吸い寄せられた先生へと、シロコが顔を向ける。
「えっと……」
「いやちょっと……動けそうになくてね。よければ、レイヴンだけでも……」
「行くなら一緒がいい」
「まあ、そうだよね……」
レイヴンとしては、流石にこの状態の先生を放置しておけない。場を離れるにしても、ある程度すぐ戻って来れる位置までが望ましいのだ。目的地であろうと、距離の不明瞭な場所へは移動したくない気持ちが強かった。
シロコは、座り込んだまま動けそうにない大人と、その横から動きそうにない少女を眺めながら考える。
レイヴンの抱えている荷物を預かり、彼女に先生を背負って貰う事は、自身より小柄な少女へ提案するには気が引けた。しかし、二人を放置してアビドスへひとり向かうのも心苦しい。
と、なると。
「……それじゃ、私が背負っていこうか?」
「………………うん。お願い出来るかな」
彼女の提案に、長い逡巡の末、先生は決断した。
脚が回復するまで二人を待たせる訳にもいかない、と判断したのである。彼の尊厳は砂地で死んだのだ。
そんな先生の心境を余所に、返事を貰ったシロコはロードバイクを道路の隅へと置いた後、彼の傍へと寄ってきた。
「……あ、待って」
と。背負うべく身を屈ませたところで、何かに気が付いたように、少し距離を取る。
「えっと……さっきまでロードバイクに乗ってたから……そこまで汗だくってわけじゃないけど、その……普段は学校のシャワー室を使うの。予備の服もそこにあるし……」
「……なるほど」
落ち着かない様子のシロコが何を気にしているか、先生は理解できたのだろう。彼が捨てる決断をしたばかりの物を持っていた彼女へと、顔を近づけ──すんすんと鼻を鳴らす。
そして、安心させる様に微笑み、口を開く。
「大丈夫。むしろいい匂いだよ」
「……」
一瞬──何をされたか把握が出来ず、シロコは硬直した。
少し間が空き。
再起動後、すすっと距離を取って先生を見る。見られた理由が不明なのか、首を傾げている。
続いて、傍らに佇むレイヴンを見る。見られた理由が不明なのか、首を傾げている。
二人の反応を見て、彼女は思う。あれ、これ私が気にしすぎなだけなのかな、と。不憫な事に、彼女の常識はこの場において少数派だった。
「……うーん。ちょ、ちょっとよくわからないけど……気にならないなら、まあいいか」
「そもそも……どちらかと言えば、私の方が臭うんじゃないかなって……」
「……」
何せ三日間の遭難だ。日差しの下で歩き続けた事も踏まえれば、その
そんな先生の言葉を受け。シロコは先程の意趣返しも兼ねて彼の側へ寄り、匂いを嗅ぐ。しかし、不思議と嫌な臭いはしなかった。いや、寧ろ──
「……ん、大丈夫」
「ほっ……よかった」
彼女は逸れかけた思考を戻して先生へと答え、彼はそれに安堵の声を漏らした。
傍から見れば互いの匂いを嗅ぎ合っていた状態なのだが、実際に傍から見てるレイヴンは何一つ気にしていない。つまり、誰に咎められる事のない、健全な行為だったと言えるだろう。
「……それじゃ、しっかり掴まってて」
気を取り直したシロコが先生を背負い、漸く出立の準備が整った。
彼女の背で身を安定させた先生は、礼を言うべく口を開く。
「ありがとう」
「────」
シロコはその囁きに、ミシリと身を硬直させる。出立は再び頓挫した。
その様子に暫く戸惑っていた先生が、理由を問うべくもう一度口を開く。
「……えっと、シロコ?」
「その……耳元で、喋らないでくれると、嬉しい」
「……」
彼女の言葉に先生はごめんねも言えなくなり。会話の無くなった三人は、黙々とアビドスへと歩いて行った。
***
「ただいま」
「おかえり、シロコせんぱ……い?」
アビドスの一室へと辿り着いたシロコがドアを開け、彼女にいち早く反応して顔を向けた黒髪ツインテールの少女が硬直する。
シロコが背負う、見慣れぬ荷物に動揺したのだ。
「うわっ!? 何っ!? そのおんぶしてるの誰!?」
「わあ、シロコちゃんが大人を拉致してきました!」
「拉致!? もしかして死体!? シロコ先輩がついに犯罪に手を……!!」
「みんな落ち着いて、速やかに死体を──」
「死体じゃないよ」
「──うわぁ、誰!?」
「わたしはレイヴン」
シロコに続いて室内へと入ってきたレイヴンが、先に教室内に居た少女たちの賑やかな会話に口を挟み、問われたのでマイペースに自己紹介をした。
そんな彼女はシロコへと顔を向け、会話に混ざろうにも混ざれないであろう先生の為に、声をかける。
「シロコ、先生たぶん喋れない」
「……ん、そっか」
「──っと、ここまでありがとうね、シロコ」
シロコの背から降ろして貰い、先生は声を発する権利を再び獲得した。
彼は自らの脚で立てる事の大切さを噛み締めつつ、状態を確認する。多少回復しているのか、この場でへたり込む事を心配せずともよさそうだった。それに安堵して、先程までの醜態を記憶の彼方に追いやってから、微笑む。
「こんにちは、シャーレの顧問先生です。よろしくね」
「こっちは支援物資」
先生の自己紹介のついでと言わんばかりに、レイヴンは持ってきた荷物を降ろす。自身の名乗りは先程既に終えたつもりなので、他に言う事が見当たらなかったのだ。
室内に居た少女たちは、日常に突如として現れた珍妙な二人組の言動に、処理が追い付かないかのように固まる。そして彼らと、彼らが持ってきた荷物を何度か交互に見た後、漸く口が動いた。
「……え、ええっ!? まさか!?」
「連邦捜査部シャーレの先生!?」
「わあ☆ 支援要請が受理されたのですね! 良かったですね、アヤネちゃん!」
その言葉に、先生は黒髪眼鏡の少女──アヤネと呼ばれた少女を見る。手紙の差出人と同名である事に気が付いたのだ。
一方、ひとり先に自己紹介をされていたシロコは、床に置かれた荷物の方に注目していた。
「その大荷物、支援物資だったんだ」
「ああ、うん。取り急ぎ持ってきた物だけど、受け取ってくれるかな」
「ありがとう、助かるわ! 弾薬と手榴弾に、応急処置セットも!」
「ガンオイルもありますね~。あ、でも。流石にミニガン用の弾薬はなさそうですね」
「必要な物を先に確認できればよかったんだけどね……調べても、連絡先がわからなくって」
「……あっ、す、すいません!」
「いや、謝る事でもないから。大丈夫だよ」
上着を着崩した少女が発した呟きを先生が拾うも、それがアヤネの謝罪を誘発する。
支援要請の手紙に連絡先も無いのは如何な物か、と言われる事があるかもしれない。だが受け取った先生はそれを気にしてない為、軽くフォローを入れるに留まった。
ただ、連邦生徒会のデータベースに存在していたアビドスの連絡先を軒並み試してはみたのだが、繋がる物はひとつとしてなかった事。それが、彼の気掛かりだった。
「君が手紙の差出人でいいのかな。良ければ、色々と話を聞かせて貰っても?」
「えっと……シロコ先輩からは、何もお聞きしてないんですか?」
「あはは……道すがら情報の共有とか、できればよかったんだけどね……」
「ん……」
何やら気まずい空気を纏う二人に、アヤネは瞬きを繰り返す。喋らないレイヴンと喋れない先生。シロコとしても口を開き辛い状況で、一行の情報量が増える余地はなかったのだ。
そんな彼らの道中を察する事ができるはずもなく。アヤネは気にはなりつつも一旦、それを隅に置く。先生へと状況を語るのは彼女としてもやぶさかでない。だが、できるなら全員揃ってからの方が望ましくはあった。
「その……お話の前に、あとひとり──」
突如。アヤネの言葉を遮るかの様に鳴り響く、複数の発砲音。
「じゅ、銃声!?」
「ッ!!」
出処は遠いのか、音の大きさは然程でもない。だが、音の届く距離ではあるという事だ。
その音に反応したノノミが声を上げ、シロコはいち早く動き出し、窓へと寄る。
外を見れば、ヘルメットの集団が学校へと向かってくる様子が見えた。
「わわっ!? 武装集団が学校に接近しています! カタカタヘルメット団のようです!」
索敵用の器材でも校外に仕掛けてあるのだろう。教室の一角で機器を確認したアヤネが、集団の正体を告げる。
カタカタヘルメット団。キヴォトスの各地で勢力を成す、ヘルメット団の分派の一つだ。
「あいつら……!! 性懲りもなく!」
憤りを露わにしたシロコにレイヴンが目を丸くする。これまでの物腰と大きく異なる姿に驚いたのだ。そしてレイヴンも、先生も。シロコの様子から、向かって来ている集団が手紙に書いてあった『地域の暴力組織』なのだろうと理解した。
そんな彼らを余所に、室内に居た少女たちが慌ただしく動き続ける。
「私、ホシノ先輩を連れてくる!」
言うが早いか、黒髪ツインテールの少女が教室を抜け出す。
それを横目で見送り、装備を整え終えたシロコが口を開いた。
「足止めに出るよ。先生のおかげで、弾薬と補給品は十分」
「はーい、出撃です☆」
「先生、わたしはどうする?」
「……レイヴンも迎撃に出れるかな」
「わかった」
シロコと、緊迫感の無い声を残した少女に続き、レイヴンが教室から出ていく。
その背を見送っていた先生へと、アヤネの声がかかる。
「私がオペレーターを担当します。先生はこちらでサポートをお願いします!」
「うん、よろしくね」
***
「出てきたぞ!」
「なんかやたら白いのがいるぞ」
「でもピンク髪がいないぞ」
「なんだっていい、学校を奪うチャンスだ!」
学校から出てきた
その様子を間近で見て、レイヴンは彼女たちが校舎へと押し寄せなかった理由を知る。あちらこちらに散らばる、バリケードとなりそうな物。どうやら陣地を構築していたらしい。
「……陣地構築?」
『恐らく、持久戦狙いなんだろうね。補給が絶たれてる事が把握されてるんだと思う』
「ん、もう何度も交戦してる。そのたびに、物資の枯渇目的みたいな動きしてた」
『……という事らしいよ』
「そっか」
先生とレイヴンの会話に混ざる、シロコの声。通信接続に問題はなさそうだった。話から察するに、先の銃声は外へと誘い出す為の物だったという事だろう。
その推測の通り、ヘルメット団はアビドスの面々と校外で交戦するつもりでいた。校内まで乗り込んで戦ってしまっては、設備が荒れ果ててしまう恐れがある。可能であれば綺麗な状態で確保したい。そんな意図によるものだった。
誘い出される形となったが、他に取れる方法がある訳でもなく。威嚇するかのように散発的に行われる発砲から逃れつつ、レイヴンたちが校門へと張り付いた。ここから先は交戦距離だ。
レイヴンは既に、何度か生徒との交戦経験がある。シャーレ付近で暴れまわっていた不良、その鎮圧依頼に駆り出された先生の要望を受けての事だ。
そこで、この世界での戦い方を、ある程度学んだつもりでいた。
即ち──割と頑丈だから気を遣わなくて良い。
ヘルメット団が挑発的な発砲を行い、シロコたちが応戦する。レイヴンも何度か相手へと撃ち返した。
「いってぇ!」
「くそっ、こっちは当たらないのに当ててきやがって!」
「ずるいぞ!」
最初に比べ随分慣れてきた射撃を行い、何発か当てる事に成功する。しかし距離の問題も大きく、銃弾があたろうと決定打にならない。それを、レイヴンはじれったいと感じていた。
仕掛けるのはいつにしようか。多数相手だろうと気にもとめず、向こう見ずに考えていたところへと、先生からの釘が飛ぶ。
『レイヴン、相手の数が多い。突っ込むのは無しで』
「……うん」
『相手はどんな感じ?』
「ちょっとまってて」
「わっ、あぶないですよ~!」
先生の質問を受け、レイヴンが校門から抜け出て身を晒し、別の遮蔽へと移動を開始する。それを狙い目だと思ったのだろう。何人かの銃口が向けられ、狙われた側はその様子を観察していた。
放たれた銃弾を躱しつつ、彼女は確認する。反動制御力が低いのにフルオートで撃つからブレが酷く、棒立ちでも全弾当たる気がしない。それに、照準を合わせる速度も遅い。
そんな移動中に放たれた銃弾をひとつ、掌で受け止める。結構いたい。
移動を終え遮蔽へと身を隠したレイヴンが、先生へと答えを返す。
「練度はたぶん、D.U.の子たちと大差ない。でも、銃か弾が良い物な気がする」
『レイヴン……無茶は、やめようね』
「これくらいなら平気」
レイヴンは先生の小言に軽く返しつつ、少し距離があいてしまったシロコたちを確認する。すると、どうやら彼女たちもレイヴンの移動に合わせたようで、ヘルメット団へと距離を詰めていた。
「うんうん、準備かんりょー!」
そんな軽い言葉と共に、重々しい機関銃が構えられ──
「全弾はっしゃー!」
「うわぁ! くっそ、あいつ弾を使い切るつもりか!」
「補給はないんだ、使い切らせるまでここを維持しろ!」
ミニガンが形成する弾幕に臆したのか、ヘルメット団の面々が詰めてくる様子はない。彼女たちとしても、
しかしレイヴンたちも、これ以上踏み込めば苛烈な射線に晒されるのが目に見えている。
そんな距離感で、微妙な拮抗状態が暫しの間、維持されたが──
「皆、お待たせ~」
レイヴンの耳に、のんびりとした声が聞こえた。声の主と思われる、ピンク髪の小柄な少女が出てきたのはアビドスの校舎。ツインテールの少女と共にいる事から味方なのだろう。
そんな彼女は大楯とショットガンを構え、声と似つかぬ機微な動きで最前線へと躍り出た。
「どいてどいて~」
「やっぱり居たか!」
「あいつをやればこっちの勝ちだ、気合入れろ!!」
「ホシノ先輩、援護する!」
「私も来たわよ!」
「セリカちゃんもいらっしゃ~い」
『皆さん、ヘルメット団にも動きが見られます。注意を!』
ツインテールの少女──セリカも合流して、アヤネの言葉通り戦況が動き始めようとしている。アビドス、ヘルメット団双方の手札が出揃い、ぶつけ合う時間だ。
そこに一手加えるべく、先生はレイヴンに問う。
『レイヴン、射線を増やしたい。いける?』
「任せて」
『うん、気を付けて……えっと、ミニガンの子。向かって右側面へ圧をかけれるかな』
「任せてください~☆」
『シロコ、手榴弾を持ってたら敵陣中央へお願い』
「ん、いくよ」
援護を受け、レイヴンが大きく距離を移動する。しかし、ピンク髪──ホシノの事を余程の脅威と捉えているのだろう。側面を取ったレイヴンへの注意は散漫で、彼女は随分と動きやすいと感じていた。
試しに何人かに向け、射撃を行う。
「あだっ、こいつ!」
「そっちの白いのは抑えるだけでいい! 先にピンクを狙え!」
「うへぇ、おじさん人気だ~」
やはりヘルメット団の多くはホシノへと意識が向いていた。
その様子を観察していた先生が、レイヴンへと指示を出す。
『……レイヴン。相手を3人落とそう』
「わかった」
先生に言葉を返し、一度弾倉を交換する。要は注意をこちらに寄せろという事なのだろう。まとめて落とすには、弾倉が心許なかった。
『こちらから仕掛けるタイミングを作る。皆、私の合図で前に出て貰ってもいいかな』
「ん、分かった」
「は~い☆」
「わかったわ!」
「まあ、おっけ~」
口々に返される反応を受け、レイヴンが動く。
ホシノへと意識を向けていた生徒の側頭部へと、数発叩き込む。
「ぐっ──」
「1」
「あいつめ!」
こちらへ反応した相手に反撃。腕に当たり、武器を取り落とす。
「──あだっ!!」
「2」
ついでに近くに居た人の脚を撃ち、体勢を崩す。
「──ぎゃ!」
「3」
『──今!』
先生の合図を受け、ホシノを筆頭にアビドスの面々がヘルメット団へと前進を開始した。
「クソっ、やっぱ先にこっちの邪魔な白い方から──」
「前は私に任せて!」
「火力支援を始める」
「覚悟しなさい!」
「お仕置きの時間ですよー」
「──って、やっばこっちも突っ込んできてる!」
「ちょ、まっ──」
***
瓦解したヘルメット団が、気絶した仲間を引きずりながら撤退していく。
それを見送る少女たちの表情はとても晴れやかだ。
『カタカタヘルメット団残党、校外エリアに撤退中』
「わあ☆ 私たち、勝ちました!」
「あははっ! どうよ! 思い知ったか、ヘルメット団め!」
『皆さんお疲れ様でした。学校に帰還しましょう』