透き通る青の仮面(ペルソナ)   作:仮面をつけた一般キヴォトス人

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エデン条約編スタートです!


エデン条約編
エデン条約編プロローグ


――柔らかい毛布に、全身包まれてるようなふわふわとした感覚。

あぁ、これは夢なんだろう。微睡みの中、コトネは思った。

 

「おや、君は……」

 

響く筈の無い、他人の声。はて?と思い少し重たい瞼を上げると、眼前には知らない景色が映っていた。

 

仄かに灯りのあるテラス、随分と高級そうなテーブル、格式張った食器に乗せられた洋菓子。そしてその奥に、小柄で狐耳が特徴的な萌え袖(?)の少女が座っていた。

 

「まさか、ゲヘナの子と繋がるとはね。いや、ただの生徒という訳では無い見たいだね。不可思議で温かい神秘をその心の海に宿している子か」

 

「君は?」

 

コトネは状況が理解できないながらもその少女に質問をする。少女は目を瞑り、ゆっくりと開いて答える。

 

「百合園セイア。トリニティ総合学園、サンクトゥス分派の長をやらせてもらいティーパーティーのホストもしていた者だよ」

 

「ティーパーティーのホスト!?は、初めまして!ゲヘナ風紀委員会、副委員長兼万魔殿外交官の有馬コトネです!」

 

コトネは慌てて頭を下げる。セイアは

 

「頭を下げないで欲しい。私達は学園こそ違えど、同学年だ。それにここは夢の中だ立場は考慮せずに接して欲しい。こうして夢で繋がったのだ、これからの未来を変える変数になる縁かもしれない」

 

セイアはコトネを興味深そうに見ながらに言う。コトネもセイアを前にして緊張しなくていいと言われたので深呼吸して話す。

 

「これからの未来?百合園さんは未来を見る事が出来るのですか?」

 

「そういう認識で構わないよ。自由に見れる訳ではないがね」

 

「なるほど」

 

コトネは頷きながらセイアを見ていた。

 

「君の力も便利ではあるが不便なところもあるみたいだね?行使する力は奇跡そのものと言って差し支え無いが……強くなれば成程に消耗も激しくなる見たいだね」

 

コトネは心臓を掴まれる感覚を覚える。

 

「どうしてそれを?」

 

「私の神秘で見えてしまったからだよ。その力を人のために使うのはいい事だが、自分の限界を超えたら……身を滅ぼす事になり、それは多くの人に悲しみを齎す事にもなる。でも、君はその道を進む事になる。君には似つかわしくない光景が目に映り、苦悩することだって少なくない。それでも君は進むしかない。『その軌跡』を選んだのだから」

 

「それって……っ!」

 

一体何のこと?そう聞こうとした時、体が急に強く引っ張られるような感覚を抱く。時間切れ、秘密のティーパーティーの終わりの合図だった。

 

「待って!まだ……話が!」

 

「……たとえ、どんな未来が来ようとも、どうか……見失わないでくれ。君の……君を周りを繋ぐその絆を」

 

悲しそうな顔をするセイアのその言葉を最後に、コトネの意識は目覚めへと浮かんでいった。

 

 

 

 

 

 

 

『次はトリニティ総合学園前。トリニティ総合学園前です。出口は右側です、お足元にご注意してください』

 

電車内放送で目が覚める。コトネは被っている帽子を上げながら荷物を持ち電車から降りる。

 

……なにか、夢をみていた気がする。改札を通り駅の外に出て、忘れてしまったその夢のことを思いながらコトネは目的地へと暫く歩いた。

 

「ここがトリニティ総合学園か……。本当にゲヘナとは全然違うなぁ……」

 

ゲヘナ学園三年生、有馬コトネはトリニティ総合学園を訪れていた。

 

いつもの制服ではなく、万魔殿のコートを羽織り、帽子を被った正装姿。ゲヘナにおける外交用の礼装である。

 

(この堅苦しさ、良くも悪くも久々だなぁ……。初めて取引先に行った時を思い出すよ)

 

何とも言えない初心を思い出しながら、コトネは鞄を片手に校門の前へ立つ。首からは事前に送付された入構許可証が下がっていた。

 

事の発端は二週間前まで遡る。

 

 

 

「トリニティ総合学園でエデン条約についての交渉があるから、私に行って来いって!?」

 

「そういうことだ! 事情は以前説明した通りだ!」

 

トリニティ総合学園とゲヘナ学園の間で持ち上がっている不可侵条約――通称、エデン条約。

 

伝統的に対立関係にあり、断続的な小競り合いを繰り返してきた両校。その状況に終止符を打つべく、連邦生徒会長主導の下で設立が進められていたのが、エデン条約機構――ETOである。

 

本来は同機構を通じて自治区間の紛争解決を行い、全面戦争を未然に防ぐ構想だった。しかし、連邦生徒会長の失踪によって計画は半ば空中分解した状態となっていた。

 

だがその中で、トリニティ総合学園の生徒会「ティーパーティー」、そのフィリウス分派代表である桐藤ナギサが、改めてゲヘナへ接触を図ってきた。

 

マコトはそれに応じつつも、自ら赴くことはせず、外交官となったコトネへ交渉役を任せることにしたのである。

 

「二週間後、トリニティへ向かい、しばらく滞在してもらう! 報告は戻ってからまとめて聞こう!」

 

「マコト!?その間の風紀委員会の業務はどうしたら――一応私副委員長なんですけど!?」

 

「ヒナには既に話を通してある!まぁ色々詰められたがな!キヒヒ!」

 

高笑いするマコトを見ながら、コトネは何となく万魔殿生徒会室を見渡すと風通しが良くなっており、ここで何が起こったか想像する必要が無いほどだったのでこれ以上の追及を諦めた。

 

「向こうからの申し出で入校許可証も送られてきている。当日は万魔殿の正装で行くようにな! あと、くれぐれもペルソナの使用には気を着けるように。コトネ、お前自身の情報は必要最低限にするようにな!」

 

 

――そんなやり取りがあり、現在に至る。

 

思い返すだけで、コトネは小さく溜息を漏らした。

 

「はぁ……ゲヘナも広いけど、トリニティも広いなぁ……。ティーパーティーってどこにいるんだろ」

 

周囲を見渡す。

 

すると、近くを歩くトリニティ生達がこちらを見ながら、ひそひそと何かを囁き合っていた。その視線に含まれるのは、露骨な嫌悪感と警戒心。

 

ゲヘナの生徒――しかも万魔殿の正装を纏った相手など、彼女達からすれば警戒対象以外の何者でもないのだろう。

 

この空気の中で道を尋ねられるほど、コトネは図太くはなかった。

 

むしろ刺さるような視線に晒され続け、段々と胃が痛くなってくる。

 

(……とりあえず場所を移そう。人の少ないところで落ち着きたい……)

 

そう考え、足早にその場を離れようとした――その時だった。

 

「あっ!いたいた!すみません!待ってください!」

 

背後から声を掛けられる。

 

振り返ると、他のトリニティ生とは異なる黒と赤の制服を着た少女が、小走りで駆け寄ってきていた。

 

長い黒髪に、腰の辺りから伸びる黒い翼。近くまで来て初めて、自分より背が高いことに気付く。

 

「はぁ、はぁ……。ゲヘナ学園の外交官、有馬コトネさん……で合ってますよね?」

 

「あ、はい。そうですけど……」

 

コトネが頷くと、少女は露骨に安堵した表情を浮かべた。

 

「あっ、自己紹介まだだったですね。私はトリニティ総合学園二年、正義実現委員会所属の仲正イチカっす」

 

そう言ってから、イチカは軽く姿勢を正す。

 

「ティーパーティーからの要請で、お迎えに……その、迎えに来ました」

 

途中で少し言い直した後、イチカは困ったように頭を掻いた。

 

「いや〜……本当は校門で待機してる予定だったですけど、ちょっと立て込んじゃって。遅れて申し訳ないっす」

 

「あ、いや! 謝らないでください!」

 

慌ててコトネも帽子を取って頭を下げる。

 

「私も勝手に進んじゃいましたし……。付き添いがいるって聞いてなかったので、その……他校なのに勝手なことしてすみません」

 

「えっ!?いやいやいや!そんな謝らなくていいっすよ!?」

 

逆にイチカの方が慌て始める。

 

「こっちが遅れたのが原因なんで!有馬さんは悪くないです!」

 

その反応に、コトネは少しだけ肩の力が抜けるのを感じた。

 

少なくとも、彼女は周囲の生徒達のような敵意を向けてはいないらしい。

 

「じゃ、じゃあ……お互い様、ってことにしませんか?」

 

「お互い様?」

 

「はい。そういうことにすれば、どっちが悪いとか無いですし」

 

一瞬きょとんとした後、イチカは「あははっ」と笑った。

 

「確かに!それじゃ、お互い様ってことで!」

 

そう言って笑う彼女を見て、コトネはようやく少しだけ、緊張が解れるのを感じた。

 

「それと、私に敬語とか良いから。いつも通りにで良いよ。堅苦しく接されるの馴てないし」

 

コトネは笑みを浮かべながらに言う。イチカは少しキョトンとして頷き

 

「分かったっす。それじゃあトリニティを案内しますね。着いてきて欲しいっす」

 

イチカの案内のもとトリニティ総合学園を歩き回る。

 

「あそこに見えるのがトリニティ大聖堂っす。シスターフッドが本部としている場所っす。向こうが中央図書館っす」

 

案内を受けながらトリニティ総合学園内を歩くコトネ。初めて来る場所という事もあり、目に映るものが新鮮であった。半ば観光とかしていた。

 

「全然ゲヘナ学園と違う……図書館で建物ひとつあるなんて……こっちは図書室がいい所なのに……大聖堂とか凄いなぁ」

 

「それじゃあ、そろそろティーパーティーが待つ所まで案内するっす」

 

「お願いします」

 

ティーパーティーの待つ部屋に行くまでの間。

 

「有馬さんって思っていた人と印象違うっすね」

 

「え?」

 

コトネは首を傾げながらに頭にハテナを浮かべる。

 

「先輩から聞いていたゲヘナ学園の印象と違って丁寧だったので」

 

「あー、なるほど」

 

コトネは思わず苦笑いを浮かべる。ゲヘナ学園がどう言われているか大体の察しが着くので何とも言えないなぁと内心思う。

 

「そう言う人が多いのは事実だけど、少数派でそういう人じゃないのもいるという事だよ。全員が全員やりたい放題何て破綻してるでしょ?まぁ……やりたい放題されてるから苦労もするんだけど」

 

「はは……向こうの生徒会も苦労してるっすね」

 

イチカがそう言うとコトネは更に苦笑いをする。コトネは生徒会……万魔殿の外交官としてトリニティを訪れている。しかし、本来は風紀委員会所属で副委員長の立場である。正義実現委員会と似た立ち位置なのだ。

 

「そう言えば気になっている事があるんっすけどいいですか?」

 

「ん?どうしたの?」

 

コトネはイチカの気になることがなん何か気になり質問に応じる。

 

「あの、キヴォトスで、ゲヘナ学園の生徒なのにどうしてヘイローが無いのですか?本当にゲヘナ学園から来た生徒っすか?」

 

イチカは目を開きながらに尋ねる。それを言われてコトネは思い出したようにハッとする。案内等で楽しんでいたり、イチカが近くにいる事でトリニティ生からの危害が無い事が確約されていることもあり忘れていたのだ。自身が今ヘイローを出した状態では無いことに。

 

(説明、しないと行けないよね。でも、マコトが私に関する情報の扱い方は気をつけろって言ってたなぁ……。まぁ、召喚機が無い私はタブレットの無い先生何だろうけど……いや、本当にどうしようも無いからただの小娘か……うっわ……なにそれ最悪)

 

悩ましい状況になったと唸りながらも、身の潔白の為、事実を話す。

 

「……聞いても面白くないと思うけど、二年前にとある委員会の仕事でね、事件に巻き込まれて、ビルの倒壊の下敷きになって長い間眠っていたらしんだよ。目覚めたのもここ数ヶ月、おまけに目覚めた日より前の記憶は無いし、ヘイローも消えて、ゲヘナの皆が知る以前のような事は出来なくなったけどね。ヘイローが無い理由なんて私が知りたい程だよ」

 

多くは語らず、大まかに事情を話す。話した事に一切の嘘は挟まずに、けど多くの情報も出さずに伝える。

 

「失礼しました。話したくないことを話させた見たいっすね……」

 

申し訳なさそうにするイチカにコトネは

 

「まぁ、ヘイローが無いのは疑いたくなるには重々承知してるし気にしてないから良いよ。機会があれば詳細くらいは話しても問題無いからね」

 

そんな雑談も終わりを迎え、とある一室の前に辿り着く。イチカはドアをノックして

 

「正義実現委員会 二年仲正イチカです。ゲヘナ学園 外交官有馬コトネさんをお連れしました」

 

扉の奥から

 

「お疲れ様です、どうぞお入りください」

 

と返答に声が聞こえる。

 

「失礼します」

 

イチカは扉を開け、コトネと共に入室する。

 

開かれたベランダにティータイムを楽しむ机があり、その上にはアフタヌーンティースタンドがあり優雅に椅子に座る少女が待っていた。少女は立ち上がり、コトネとイチカの近くまで歩み寄り優雅に一礼をした後、挨拶をする。綺麗な長い薄いベージュ色の髪と花の髪飾り、背中から白い翼が特徴的な少女である。

 

「遠いところから御足労ありがとうございます。私はトリニティ総合学園三年生、ティーパーティー所属、桐藤ナギサと言います。よろしくお願いします。万魔殿、外交官。有馬コトネさん」

 

柔和な笑みを浮かべたナギサと対面を果たす。




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