仮面のサギザザ 作:マカロン
1
ある山道の脇に腰掛ける男が一人、白い馬が一頭いた。彼は一仕事終えたように背中を丸め、持っている長い棒に寄りかかりながら深く息をしていた。馬は主人の身を案じるように顔を寄せている。
「すーっ…はーっ…すーっ…はーっ………」
その棒は魔法の杖などでもなく、何も特殊な力は宿っていない。頑丈で柔軟であると言うだけの木の棒だ。ただ片側の真ん中より先と両端部が若干ながらすり減り、ささくれ立っている事から戦闘に使われた事がわかる打擲棒だ。
実際、男は先程まで戦闘をしておりそれを終えたところだ。彼の目の前にはいくつもの錆びた剣や鎧が転がっている。徒党を組んだ魔物、コボルトたちが襲いかかってきたのだ。武器を持ち防具を纏った厄介な相手ではあったが幸いなことに兜は被っていなかった。サイズが合う物を略奪できなかったのか、或は頭に何かを被るのを嫌がるのがコボルトの習性なのか。理由は定かではないが、そのおかげで男は必要以上の力を使う事なく魔物を倒す事ができたのだ。
だが疲れた。数は多いし連携は厄介だった。戦闘後、旅を再開する気力の回復を待つ意味で彼は一休みしていたのだ。
「大丈夫かい?」
「っ!」
この場所には自分しかいないと思い込んでいたため、突然声をかけられた男はビクリと肩を震わせて跳ねるように頭を上げる。そこには海のように青い戦闘装束を纏った美丈夫がいた。
「すまない、驚かせるつもりはなかったんだ。ただ、見たところ何かの魔物と戦った後なんだろう? 怪我なんかしていないか、気になって声をかけさせてもらったんだ」
「…………大丈夫です。すいません」
男は美丈夫から目を逸らして打擲棒を抱き締めるように身を縮めた。
「? 何も謝ることはないよ? まあとにかく、怪我とかがなくて何よりだ」
「ども……」
身を案じる素振りを見せる美丈夫に対して男の態度は陰気で素っ気ない。だがそんな様子も気にすることなく、美丈夫は爽やかにはにかんだ。
「よかったら、この先の村まで同行しないかい? ここの山道は旅人やキャラバンが魔物に襲われやすいと聞く。一人よりも何人かで歩いていた方が安全だと思うんだ」
「え………あの………」
男はそこで気がついた。彼と美丈夫から少し離れたところに更に三人いる。一人は眼鏡をかけた背の高い僧侶、バイキングめいた角付き兜を被ったドワーフ、一人は大きく尖った耳を持った珍しいエルフの魔法使い。
男は顔を伏せて固まった。少し考えた。人は苦手だ。だがなるべく力を温存した状態でいたい。彼らの身なりや雰囲気からして背中から襲ってくるような輩では無いようにも見える。仮に上手いこと擬態していたとしても最悪逃げ足には自信がある。結論は出た。
「よ、よろしくお願いします……」
立ち上がって美丈夫と彼らの仲間に深く頭を下げた。
「よかった。みんな! ちょっとの間だけど新しい仲間だよ!」
美丈夫の声掛けにより三人が歩み寄ってくる。
「自己紹介をしよう。僕はヒンメル。魔王を倒すために旅をしている勇者だ」
美丈夫、ヒンメルが胸に手を当てて名乗る。それを聞いた男の肩がピクリと震えた。
「私はハイター。僧侶です。道中、怪我をしたり毒を受けたりしたら仰ってください。私がすぐに治療します」
眼鏡をかけた背の高い僧侶ハイターが温和な笑みを浮かべる。
「俺は戦士アイゼン。お前、なかなかやるようだな」
「き、恐縮です……」
ドワーフの戦士アイゼンの評価に男は畏まる。
「…………」
「えっと………」
残ったエルフの魔法使いは無言で男を見つめている。それは観察するような、見透かすような、その内彼女の翠の瞳へ吸い込まれてしまいそうなほど、深く男を見ていた。
「フリーレン」
ヒンメルが嗜めるように言う。
「………フリーレン。見ての通りエルフの魔法使いだ」
魔法使いフリーレンはそれだけ言うと男の横を通り抜け、一人でさっさと先へ進んでいってしまう。
「あ! フリーレンったら!」
ヒンメルが叱るように呼び止めようとするが彼女の足は動き続ける。仕方がないと四人も彼女について行くように歩き出した。男は馬の手綱を引く。
「そう言えば、君の名を聞いていなかったね。この立派な馬も。聞かせてくれないか」
ヒンメルは横に並んで尋ねる。男は肩をすくませてもごもごと口を震わせ、静かに名乗った。
「ダベギ……です。この子はギムムグです」