仮面のサギザザ   作:マカロン

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 勇者ヒンメル一行にダベギ加わって三時間。

 一行は道中魔物の群れの襲撃を数度受けるもこれを撃退。ヒンメル、アイゼン、ダベギが前衛として迫り来る魔物を払い除け、ハイターが傷を逐一癒し、フリーレンの魔法が一気に群れを吹き飛ばした。

 ダベギは初めて共闘するヒンメル達との連携もそつなくこなせた。それどころか、仲間が戦いやすいようにサポートまでしてみせた。そのおかげでヒンメル達はいつもよりかなり楽に戦闘をこなすことができ、予定よりも早く次の村まで辿り着けそうだった。

 

「お前の棒術、まるで風のように疾く、鋭いな。どこの流派だ?」

 道すがらアイゼンが馬を引くダベギに尋ねた。ヒンメル達は気にしないで乗馬すればいいと言ったが、ダベギは一人だけ楽をしているのは気が引けたのでずっと徒歩でいる。

「えっと……流派とか、誰かに習ったとかはなくて……ずっと、一人で棒を振り回していたんです」

「我流……だと? それにしては余りにも研ぎ澄まされている……まるで何十年、何百年と戦いの中に身を置いてきた古兵のような……」

 合点の行かない様子でアイゼンが顎に手を当てて首を傾げる。最強の戦士と称される彼の目利きではダベギの戦闘能力は年齢(恐らくはヒンメルやハイターと歳は近い)には不相応だ。耳が丸いのでエルフでもないし、背もそこそこあるのでドワーフでもない。

 とてつもない才能なのか、或いは…………。

 

「私もよろしいでしょうか?」

 そこへハイターが割り込んできた。

「貴方と、この立派なお馬さんの名前ですが、あまりこの国では聞かないイントネーションですね。ご出身はどちらでしょう?」

「オレは…………海を渡って来ました。故郷は………遠いところにあります」

「なんと、渡来された方でしたか。道理で……。故郷はどんな所ですか? よければお聞かせ願えればと」

 するとダベギは顔伏せた。その背中からは悲壮感が漂っている。

「あまり……良いところでは、なかったです。みんな、殺伐としていて…………すいません」

 そこでダベギは口を紡ぐ。彼の過去に何があったのか、彼の故郷とはどんなところなのか、ヒンメル達には知る由もないがこれこの以上話はしたくないと誰もが察せられるだろう。

「ああ……これは大変な失礼を」

「で、でも……故郷を出て良かったんです。世の中……綺麗なものがたくさんあるんだなって知れましたし、食べ物は美味しいですし」

 そう言いながらダベギはパッと顔を上げてふにゃりとした表情で微笑んだ。

「辛いことも……嫌になることもたくさんありますけど……今はとても幸せ、なんだと思います」

 とてもほがらかな声色だった。旅立ったことに少しの後悔もない。寧ろ、旅の中で良いものを色々見れたとその笑顔が物語っていた。

「なあダベギ。よければ次の村で君の旅のことを色々と教えてほしい」

 

「村。見えてきたよ」

 ヒンメルの言葉を遮るように言ったフリーレンだった。彼女は魔法使いという後衛担当にも関わらず、ダベギが参入してからというもの戦闘時以外はずっと最前を歩いており、時折チラリと後ろに目をやる。ダベギは知らぬ間柄なのでフリーレンの事は無口なエルフとしか思っていないが、他のメンバーからしたら今日のフリーレンは異常なほど無口だ。

(人見知りするタイプ……なのかな? それとも、もしかして……)

 ダベギは棒を握る力を無意識に強めた。

 

 

「勇者様どうかお助けください。この村の近くに魔族が住み着き襲撃の機会を狙っているのです」

 村に到着するなりヒンメルたちはそう懇願された。どうやらこの村は危機に瀕しているようだった。一行が来るなり村人たちが集まり、村長が縋るように助けを求めてきた。

「いいだろう。報酬はあるかな?」

「生憎この村に価値がある物は何も………シャッフルしたカードが綺麗にばらつくようになる魔法や、鏡に映した文字が反転しなくなる魔法の魔導書くらいしか」

「乗った」

 村長が口にした報酬に飛びついたのはフリーレンだった。ダベギは驚く。他のメンバーもそれで納得している様子だった。魔族との戦闘ともなれば命懸け、そこらの魔物とは比べ物にならない可能性が高い。報酬を求めるのは人の当然の権利ではあるので、ダベギはそこに眉を顰めるつもりはない。しかしそれにしたってくだらない報酬で即答するとは。貰わないのと何も変わらないのではと。

 

「さて、ダベギ。僕たちはこれから魔族を討伐しに行く。君は正式にパーティメンバーというわけではないから村で待っていてくれてもいいし、今のうちに避難してもいい」

 ヒンメルの提示した選択肢の中にダベギが同行するとはない。ここまでの道中で彼らはダベギの戦闘力は見ている。ヒンメルやアイゼンには勝るとも劣らない。同行すれば十分に活躍するだろう。

 だがあくまで臨時メンバーでしかないダベギはどこかで別れるかもしれない。するとくだらない報酬すらない命懸けの完全なタダ働きをさせることになる。

「オレも、行きますよ」

 だがダベギは同行を申し出た。

「いいのか? お前にとっては何も得る物がない戦いになるかもしれないぞ」

 アイゼンがずいっと出てきてダベギを見上げる。だが彼は陰気な空気を纏っていても戦いに際する戸惑いは無いように見える。

「その……みなさんには良くしてもらったから、少しでもお助けしたいですし………、困っている人がいるのにじっとしているのは………えーと、性に合わない……って、言うんですかね」

 少し恥ずかしそうに頬をピンクにしてダベギは言った。困っている人がいるなら動きたい、それはダベギの同行を拒否する選択肢が消えた事を意味していた。

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