オルフェノクになったので敵全員●す 作:スターク(元:はぎほぎ)
牧路凱歌。♂
生涯独身希望で職業は建設業者下っ端
殺人経験有り
「病み上がりとは思えないよなぁ牧路は」
「そうですか?」
2月2日の金曜日。土曜を翌日に控えたその日、作業後の事務所で不意にそう言われた。
「だって、川に落ちて6年も寝てたんだろ?そこから起きて半年も経ってないのに、現場の誰よりもパワフルじゃねぇか」
「ちょ、おやっさん!俺達が情けないみたいじゃないですか」
「他に何がある!半人前のくせに調子こきやがってこのっ、このっ」
「みぎゃ〜」
「……個人差じゃないですかねぇ?」
和気藹々と戯れ合う先輩方を見ながら首を傾げる。まぁ医学的にも考え難い筋力回復だとは聞いてるが、個人の実感としては特に体に異変があるようには思えない。
「それにおかしいってんなら、前職無し・前科持ちな外道を雇ってるこの職場の危機管理の方ですよ。俺みたいなのをよく面接で通しましたねホント」
「まーた言ってんのか、刑期はちゃんと終えて反省してんだろ?じゃあ問題無い、それに俺は人を見る目には自信があんだ!」
「……アンタが良い人だからこそ、その能天気さが心配でなりませんわ」
「おいおい凱ちゃん、年上の厚意は素直に受け取っとくモンだぜぇ〜?」
他の先輩に肩を組まれて嗜められては、乾いた苦笑と共に頷く以外無い。せめて役には立とうと再度決心して、俺は作業着から普段着へと着替えを進めていった。
「そういや凱よ、先月の給料は何に使ったんだい」
「大体競馬に消えましたねぇ。このGⅠ馬のぬいぐるみとかもそうです」
「「「ギャンブルは良いけどちょっとぐらい貯蓄しろ」」」
「他に使い道が無いんで〜」
失礼しまーす、とだけ言ってとっとこ退散。皆揃って陽気な分、俺にはすこぶる居心地が悪い。
……逃げるように外に出た瞬間、ギュッと固められたような冷気が服に浸透してきた。
「ふぅーっ」
吐く息が白いのも見慣れ、人混みに溢れた街並みをただ歩く。嗚呼平和、産めよ増せよ地に満ちよリア充ども。なお俺は孤独死するから人類の未来は任せた。
……唐突な、違和感。
(催し物?)
前の方で人が騒いでいる。パリピが躍動でもしてんのかと思ったが、それにしちゃどうにも……?
「悲鳴?」
「通り魔だ!!」
……マジか。
具体的に何が起きたのかを示す叫び、それを受けて騒ぎは一気に広まった。波状に広がる大混乱に、人々は訳も分からず逃げ惑う。
その向こうに確かに見えた。噴き出る血飛沫と、それを齎す着ぐるみに似た何か。
(ヤバい)
こっちに来る。こっちの方角へ近付いてきてる、呑気に眺めてられる時間も無さそうだ。俺は人の流れに逆らおうとして、
「きゃっ!」
ぶつかって来た
急にロマンチックな表現に走ったとでも思うか?本当に残念ながら、ただの事実なんだなこれが。
「あ、ご、ごめんなさ──」
「───ッ」
血まみれ、明らかに重体な誰かしらを抱え込んだ女性。漆黒を帯びた紺の髪とその下に見えた紫の瞳に、全てが重なった。
抱き締めたのは反射。あの時の俺は多分、もう二度と離したくないとか考えてた筈。純粋にキモい。死ねば良いのにな。
……奇遇にもそれが功を奏したのは、彼女の背中に凶刃が迫っていたからだ。
「危ねぇッ!!」
「!?」
庇うように転がれば、ジャベリン?か何かが俺のアホ毛を持っていった。あと5センチ上だったら脳髄を吹っ飛ばされて、5ミリ上なら首が折れてたと思う。
なんにせよギリギリ無事。改めて見上げれば、俺達の命を刈り取ろうとした下手人の全貌が目に入った。
「……ダビデ像……?」
腕の中の彼女がそう言うのも、まぁ分からんでもない。一見それは、大理石から削り出された
だがその図体と輪郭は、どちらかと言えば熊のそれだ。そんでもって、右手に持ったハルバード状の得物が粘ついた赤を滴らせている。
「──立て」
「へ?」
「行け!その死に体を連れて逃げろッ!!」
最低限の現場把握は終わった、兎にも角にも此処は死地だ!お前をそんな所に居させられる訳無ぇだろ!?
「 早 く ッ !!! 」
「ひっ……!」
立ち上がらせてから突き飛ばす。瞬間、俺とアイツの間に刃が振り下ろされる。オイオイオイふざけんな、コンクリートが豆腐みてぇに抉れたぞ!!
アイツは……よし逃げたな。
「そこを動くなぁ!!」
(遅ぇよ権力の犬!)
その時、逆側からサイレンを鳴らしてパトカーが到着。俺を狙おうとする彫像野郎に拳銃を向けていた。
これでひとまず安心か。動くって事は生きてるって事、生きてるなら基本銃で止められる。後は逮捕か、抵抗次第じゃ射殺して終いだろ。
そう思っていた時期が、俺にもありました。
「武器を捨てろ!さもなくば撃つzオブリュッ」
「「…………は?」」
銃を構えた2人1組の警官、その片割れの姿が衝撃と共に消えた。彼らが背にしたパトカー諸共。
投擲されたハルバードが、後方20m程の場所でひき肉とスクラップを生み出した事を、俺達は認識すら出来なかったんだ。
「う………ぅ、おおおおお!!?」
恐慌を来した警官が撃つ。タンと1発、パンと2発と連続で。
『………ルルルル……』
無効果。まさかのノーダメージ。変質石灰岩みてぇな見た目をしておいてその実、肌の硬さは銃弾なんか軽く弾くらしい。
流石の俺もここで悟った。
(あっコレ不味い)
自衛隊案件だわコイツ。立ち回り方によっては町一つ滅ぼせる化け物だ。
拳銃でこの有様じゃ、有効打を望めるとしたら対物ライフルとか必須。これは勘だけど、多分戦車砲でやっと殺し切れるかとかそんな雰囲気がする。コレが俺の錯覚である事を祈りたい。
防御力の事を置いといても、ただの投擲1発で車をあの有様にできる膂力が危険過ぎだろ。二足歩行生物が持っていい火力じゃないし、その速度からして射程範囲もバカ広い。一般人が一度目視圏内に入っちまえば、逃げ切るのは困難だ。
つまり。
「来るな、来るなぁ!」
『………』
「本部応答願います、応援を!本部っ!!」
そこで喚き散らしてる警官がやられたら、この化け物はまた市民を狙う。
また
(──ふざけんな!)
ヒーロー願望なんかありゃしない。何かを為せるだなんて思い上がったつもりも無い。
だがこの身で、挽肉になるまでの0.1秒でも稼ぐ。アイツが逃げ切れるまでの時間を作る、俺が駆け出した理由はそれだけだ!
「待てよ、化け物!」
散らばってた瓦礫を鷲掴み、相手の後頭部へシュート!恐怖が一周回ってるって意味じゃ実にエキサイティングだが、勿論相手の体は揺らぎもしない……が、立ち止まらせる事には成功した。
「きっ、君!危ないから離れるんだ!!」
「うるせぇッ!無視なんかさせて堪るか!」
サツの制止にも構わず、振り返って来た化け物を手招き。勘違いの余地のない挑発に、奴の身体は完全に俺の方へ向き直った。そのまま歩み寄ってくる奴に対し、その歩行速度を超えない程度の速さで後ずさる。
「そうだよ、来いよ。得物を捨てたテメェなんか怖か──っ!!」
壁に背が付いた、その刹那。5mは開いていた筈の間合いが0になっていた。
見えてた訳じゃない。鋭い爪が俺の顔面めがけて振るわれていたなんて知ったこっちゃない。
けど……躱せた!
『?!?』
「ブァーカ!!」
訳あって高速物体は見慣れててな!視線がずっと俺の脳天に向いてるとあっちゃ、どこ狙われてるかなんて簡単に見切れんだよアホ!
という事で、脇をすり抜けるように飛び込み前転して回避。空振りでバランスを崩す奴の体を尻目に、這いずるように距離をとって繰り返しだ!
「ホラどうしたよ!?武器が無きゃ糞土方の1人も仕留めきれねぇか?」
「逃げなさい!ここは警察に任せて、」
「さっきサツが役立たずだって証明したのは手前だろうが!とっとと増援呼べや──ッ!!!」
茶々入れて来た無能を恫喝してる間にも、再び急接近して来た化け物が右腕を振り上げる。多分ラリアット、狙いは首。
変に口を動かしてた所為で反応が遅れた、がギリ間に合う!
「ふっ……!」
チッ、と肘に掠る音。それ以外は全く当たらず、余裕すら持って横転してから立ち上がった。
正確には、立ち上がろうとした。
「…あれっ」
フニャリ。地面に着こうとした左手が、そんな効果音すら伴いそうに歪んだ。
ブラリ。持ち上げてみれば、前腕が血を噴き出しながら垂れ下がった。
あーあ。やっぱり掠るとアウトだった。
「おゴッ……!!」
『ルルォォォォ……!!!』
起き損ねた俺の首を、後ろから掴み上げられる。チェックメイト、はいはい詰み詰み。
乱暴に掴み潰された頸椎がゴリゴリと悲鳴をあげ、激痛として俺に訴えたが何も出来やしない。
「カッ……アッ………!」
「やめろーっ!彼を離せぇ!!」
銃声と、弾かれる虚しい音を微かに耳が拾った。そこまでだった。
ゴキリ、という音が全てを物語った。
(───逝った)
鮮明に感じ取れたのは多分、人体の奇跡とか神秘の類による物。脊髄を折られた以上、そんな物は誤差に過ぎないと分かり切ってる。
あぁ………クソッ。
分かってる。
また行きたい。
また、見たい。
お前の走る姿を。
『グゥルルォオオアアァァアアアーー!!!』
振り回され、投げ飛ばされた。流れる視界の中に、砲弾と化した俺を喰らってひしゃげる警官が見えて、次に
死ぬのなんて、怖くなかった筈なのに。
「……テ……オ………」
俺の激突による衝撃が、最後のトドメだったらしい。垂れ流されたガソリンに点火。
俺の怨嗟は、肉体もろとも爆炎の中へ消えた。
「大丈夫ですか!?もう直ぐ病院ですからね!!」
「…………」
人混みに揉まれながら語りかけるけれど、肩を貸した青年から反応は無い。でもそれは諦める理由にはならないと思った。
最初はただのガヤ騒ぎだと思った。そうじゃないと分かったのは、それを引き起こした何者かが次々に人の身体を切り裂く光景を目にしたから。
怖かった。でも、目の前で倒れた人を見捨てるなんて出来なかった。だから私は今こうしている。
(あの人は……っ)
私達を庇って逃がしてくれた彼を思い出す。身を挺してくれた彼の為にも、その無事を祈りながら、この人を安全な場所へ送り届けなければ。
そう思っていた私の目の前に、絶望が舞い降りた。
「キャッ……!?」
「うわぁ!!」
「ガッ───!!!」
突然の風圧が、土煙を乗せて私達を襲う。目の前に何かが墜落して来たとしか考えられないその中で、堪え切れずに尻餅をついた。
なんとか目を開ければ……倒れた人々の中に立つ、白い影。
「ぁ……!」
あそこから結構な距離を逃げてきたのに、なんでよりによって。疑問が一瞬頭をよぎり、でもそんな場合じゃないと立ち上がろうとした。
そんな私に向けて突き付けられる刃。嫌が応にも理解させられる、私達を追いかけてきたのだと。
「こ、ない、で…っ」
「うわあああ!!」
「痛い!痛いよぉ!!」
『──フゥルルルルゥ……』
倒れた人達を蹴り飛ばして彫像が迫る。この人達だって、私がこっちに逃げてきた所為で。
嫌、そんなの嫌。死にたくない、誰も傷付けたくない。でも逃げれない、逃げたらまた誰か巻き込まれて、私が抱えるこの人だって。
「いや……ッ───」
目前に立った異形を、もう直視出来ない。何もかも受け入れられないまま、これ以上の情報認識を拒んで目を瞑る。
肌に感じた風が、武器が振り上げられた事を雄弁に告げていた。ああ、私、殺されるんだ。
「誰かぁっ!!」
助けて。それだけしか、願う暇なんて無かった。
……本当に助かるだなんて、考えもしなかった。
ガギャンッ、という重厚な衝突音。それと、押し出された風圧が私の肌を撫でる。
いつまで経っても来ない死に、恐る恐る目を開いて──その姿を見た。
『───フゥゥウウウウ───ッ』
白騎士。まるで絵本から飛び出てきたかのような純白の、それこそ先程まで私に殺意を向けてきた怪人と同じ色の筈なのに、何故かとても綺麗に見えた白い灰。その色を纏った、まるで騎士。
どう見ても同種の怪物なのに、何故か私は目が離せなかった。思わず見惚れてしまっていた。
……好きな動物の顔をしていたから、だけとは今でも思えない。
何にせよ、
緊張に満ちた静寂。彼が私を庇うように立った、その刹那。
『ルガアオオオオオオオオッ!!!』
『グオォアアアアアアアアッッ!!!』
爆発する。
音が衝突する。
肉体が激突する。
衝撃波が周囲の窓という窓を割り散らし、ネオンというネオンを砕き回った。その阿鼻叫喚の中で、私は彼の背をただ見つめる事しか出来ない。
これが、私の“オルフェノク”との最初の遭遇。
そして、“ホースオルフェノク ”との邂逅だった。
Open your eyes for the next Ω.