オルフェノクになったので敵全員●す 作:スターク(元:はぎほぎ)
桐雨 茈。♀
箱入り娘で恋愛経験0、チョロい
好きな動物は馬
「以上が、先日発生した“オルフェノク事案-R60202.1”における最新報告です」
警視庁の一室で、プロジェクターを指しながら男性が〆る。それを受け、講聴していた者たちは浅く息を吐いた。
「オルフェノク同士の殺し合いか。稀と云うほどでは無いが、ここまで目立つ場所で勃発したのは今回が初めてで合っているな?」
「はい。同様の例が確認されているだけでも10件、しかしいずれも人目につかない場所及び時間帯で行われています。殺し合いに限らずとも、オルフェノクがこれ程多くの大衆に目撃された事例自体が初と言えるでしょう」
「情報統制の方はてんてこ舞いだ。特にSNSでの拡散には注意を払わせているが、二度三度と起きれば混乱は免れんぞ」
「“A”の尻尾を掴めればまた違うのだろうがな……」
Aとは、彼らの間で取り決められた「オルフェノク支援団体」の仮称である。しかし未だ正体を掴めず、苦労と苦悩の内にあるようだった。
不透明な先行きを前に空気は重い。そこへ一石を投じるように、発表者の男性が口を開く。
「これは私見ですが、今回の事案は組織Aが関わっている可能性は低いかと」
「……何故そう思う?」
「本件を引き起こした熊型オルフェノク──ベアーオルフェノクと呼称しますが、監視カメラに写っていた彼の行動には理性的な物が見受けられません。攻撃対象は危険性の高い順、次に距離が近い順と言った優先度のようですが、軽く挑発されただけで順番を変えてしまう短絡さも見られます。これは
「まぁ……確かに、Aの指示ならもっと上手く隠れさせて行動するだろうな」
「ならば後から現れた“馬型のオルフェノク”はどうなんだ?資料映像を見たが、あのナイフ捌きは人としての記憶と理性を保持していないと不可能だ」
指摘を受け、スクリーンに表示される映像。ベアーオルフェノクに馬乗りになってその上半身を
男性は一呼吸だけ唸るように思案。
「彼がAの関係者だと仮定すると、今回の行動理由としては“粛清”が挙げられるでしょう。指針から外れてオルフェノクの存在を公にしかねない不穏分子の排除……しかし彼、“ホースオルフェノク”は接敵後にその場で戦闘を始めています。それも逃げ遅れた民間人を庇うように、です」
「南阪君、申し訳ないが最後の部分は君の希望的観測が入り混じり過ぎているように思う。少し慎みたまえ」
「……申し訳ありません。ただ、本件に関係したオルフェノクは両名共に、自身を隠蔽する気など更々無かった可能性は非常に高い。これが、本件にAが直接的には無関係であると判断した理由です」
「ふぅむ……筋は通っている」
仮説は立った、後はそれをどう証明するか、どう活かすか。
会議に参加した各々が、これからの方針について話し合おうとした、その時の事。
「組織に属してないから、何だって言うんだ?」
全員の視線が発声源へと向く。
南阪と呼ばれた男性と同性・同年代の人物がそこで、背もたれに体重を預けて寛いでた。余りにも堂々と、それが当然の権利であるかのように。
「……火伽さん、何か異論が?」
「異論か。異論ねぇ。南阪君、君もしや“ホースオルフェノクを味方に出来るかも”とか、そんな戯言考えてない?」
「交渉の余地はあるかと。こちらの安全を完全確保した上で、という前提ですが」
「温い」
火伽は断じる、そんな物は甘えに過ぎないと。
絶対零度まで冷え込んだその声音に、会議室の空気は緊張感を増した。それは偏に、彼がオルフェノクを
「皆さん、事案050731は覚えてませんか?091205だって。130921.2・3なんか1日で立て続けだ」
「交渉決裂事例か」
「“それによって犠牲者が出た”事例でもありますよ、長官。奴らは獣だという認識を、何度忘れたら気が済むんですか」
明らかな侮蔑に、しかし上の地位に立っている筈の長官は咎めない。内心に抱える思いは同じだからだろう、それに
「殺さなければいけないんですよ。オルフェノクは人間じゃない、人理を解さない害獣だ。それに対し、皆さんが手に持ってる銃は持ってて嬉しいだけのコレクションですか?」
「火伽さん、あなたは……っ」
「やる事は変わりません。世のため人のため、オルフェノクを絶滅させる!迷う要素なんてある筈が無い……!」
語気を強める彼の、その腰に輝く
その様を目にし、南阪は深くため息を吐いた。
(いつにも増して過激な事を……幼馴染が事案に巻き込まれたのはご愁傷様ですが、ねぇ)
オルフェノク同士の戦闘中、それを一番近くで見ていたのがその幼馴染だという。ならホースオルフェノクには寧ろ感謝するのが道理なのではないかと思うが、しかし彼のオルフェノク不信にも一定以上の理屈が備わっているので口には出さない。
儘ならないものだ、と思いながら南阪は動画を巻き戻す。場面は最初の警官到着直後、民間人がベアーオルフェノクを足止めするシーン。
「この人が生きてたら、話の一つでもしてみたかったんですが」
勇気ある人だ、と南阪は思った。同時に愚かだとも。
多くの人を逃すために、警官と共に殿を引き受けた青年。奇跡的な回避力で以て怪物を翻弄した彼はしかし、最後は投げ飛ばされてカメラの視界外へフェードアウトしてしまう───恐らくは、現世からも。
どんな人となりだったのだろうかと思いを馳せながら。紛糾する議論に参加するべく、南阪はパソコンを閉じたのだった。
アレから1ヶ月強。色々と分かった事を纏めていく。
まずこの身体、分かってた事だが鬼強い。サラブレッド一頭で三馬力なんだが、軽く1500馬力はある。これじゃジェンティルドンナも真っ青だ……生憎丁度いい鉄球とか無かったから直接比較は出来んが。
そして、まぁ当然として速い。走力がバカ速い。上手い事変形すれば360km/hくらい出る。こんな生物がこの世に居て良いのか、いや良くない(反語)。
「牧路ぃ、最近変わった?」
「ちょっと友達出来て」
「ウッソだぁ、親方コイツVガンダムです!これ……母さんです」
「ネットで拾ったネタをこれ見よがしに……」
「ちなみに原作で“これ”は言ってないぞ若造ども」
「「マジですか!?!?」」
あと、俺と同種の化け物は割と蔓延ってる。都会を歩いてたらチマチマと見かけるぐらいいた。とは言っても、探さないと見つからない程度ではあるんだが。
なんというか、鋭敏になった五感が捉える以外にも、第六感的なセンサーが同族の存在を捉えるらしく。前の休日に都内を歩き回ってみただけでも100人くらい見かけて吐き気がしたわ、頼むからそれで全員であって欲しい。
「でもですよ、でもですよ親方!以前はまるでファッションなんか気にしてなかったコイツがですよ、この前服屋で真ッ剣に格好良い服物色してたんですよ!女を捕まえてますよ十中八九、もしくは捕まったか!」
「なぁにぃ〜!?ヤっちまったなぁ!」
(ぅへぇ見られてた)
んでもって最悪な事に、その同種が人間を襲う案件を1週間に2件ぐらいの頻度で探知しちまってる。それも茈の家から半径10キロ圏内でだ。その度に急行してブッ殺してるが、着く頃には犠牲者も灰になって死んでるのが通例。
まぁ、俺が同族殺しをするのは別に人命救助が目的じゃないから、茈以外の誰が何人死のうが気に病むなんて事は無いんだが。一応全速力で駆けつけてはいるんだから、犠牲者には呪うなら俺が来るまで生き残っていられない自分の脆弱さを呪って欲しい。
「まぁ……友達とつるむに当たって、俺の所為でソイツの品格を貶めたくないんで。最低限の体裁は整えたいっていう寸法ですわ」
「おうおうカッコイイねぇ。彼女さんは幸せだぁ」
「だから彼女じゃねーですって、友達ですって」
そしてその過程で気付いた事として。以前判明した「怪物が死ぬ時の青い炎を浴びると満腹になる」という要素だが。
どうやらそれだけじゃなく──本当に不思議なんだが──
「じゃ、俺は約束あるんで」
「ヒューッ!」
「彼女さん、今度俺にも紹介してくれよな!」
「友達だっつの!!」
まぁそんなこんなで、茈の生活圏内でハッスルしてる化け物を見つけ次第コロコロしてる生活にも慣れ始めた頃合い。その中で、彼女自身とも護衛*1をしながら交友を深めちまった結果が……これだ。
「凱歌さん!この教会とかどうですかっ!!」
「牧路って呼んでくれ」
「牧路さん!式場を見に行きましょう!」
「1歩引いたと見せかけて5歩くらい一気に詰めてくるのやめない?」
懐かれた。完膚無きまでに!
「落ち着け桐雨。俺たちまだ出会って1ヶ月だよな?交際してる訳でもないよな?」
「そうなんですか?」
「そうなんだよ!……ともかく、人生の伴侶をそんな軽率に決めるなおバカ」
喫茶店にてコーヒーを嗜みながら小突く。すると「もっともっと」とでも言いたげに頭を擦り付けてくる茈が可愛い、可愛いからこそ理性が不味い。ただでさえ甘えさせて、そしてその分だけ甘えて
「でも私、牧路さんと一緒にいると楽しいし、嬉しいし、一緒に居ない時は切なくなるし寂しくなるんです。牧路さんは違うんですか?」
「……違わねぇ」
「両想いですね!結婚しましょう!!」
「そうじゃなくてぇ!!!」
ああ、くそっ!調子が狂う、いっそ狂いたくなる、まるでタチの悪い麻薬だ!!そもそも目の前の茈は
とにかく!俺に!この沼へ浸る権利は無ぇッ!!!
「フゥーッ………桐雨、俺が前科持ちだってのは前言ったよな。それも重犯罪、
「……また、それですか」
「何度だって言うさ。俺は人殺しの血を後の世に遺したくないし、人殺しの体液でお前を穢したくもない。頼むから俺よりマシな男を見つけてくれ、マジで」
中学生の頃だった。実の父を2階の窓から放り捨て、這いつくばるソイツの後頭部へトドメにテレビを投げ落とした。痙攣する身体を何度も蹴って死亡確認すらした。
こんな悍ましい習性と経歴を持つ男だぞ?身体が怪物になる前から心が怪物なんだ、そんな奴が人間社会でこれ以上大きな顔して良い訳が無いだろ。
「俺は幸せにはなりたくないし、その分お前に幸せになって欲しいんだ。だから俺との関係を恋愛だなんて思うな。勘違いだと思ってくれよ」
「……牧路さん。私は……」
「ちょっと良いかしら?」
刹那、怖気。
全身の産毛が逆立つ。以前より遥かに鋭くなった五感を潜り抜けてきたその存在に、本能と理性がダブルで警鐘を鳴らしていた。思わず立ち上がりそうになったその肩に、手を置かれる余裕さえ見せられていっそ恐怖すらした。
正体は女性。だが間違いなく……化け物。
「えっ、どちら様ですか?」
「名乗るのが遅れたわね。私はこういう者よ」
「……スマートブレイン!?世に名だたる大企業じゃないですか!」
会話が耳に入って来ねぇ。だってコイツ……化けの皮を被ってやがるんだぞ。そんな状態での会話に何の意味があるってんだ?
コイツの気紛れ次第でこの場にいる全員死ぬってのに、迂闊な事を話せるか。
『勘がいいわね。そういう子も嫌いじゃない』
ほれ案の定。テレパシーまで使い出す規格外だった、意味が分からん。
頭の中に響いた声は間違いなくこのアマの物d『アマとは頂けないわ。オイタする子にはお仕置きが必要かしら』ッッッ……!!
「牧路さん?どうかしましたか?」
「憂鬱になってるんでしょう。貴女の事が大切だから、傷付けないように、壊さないようにって必死になってるの。健気よね」
こっ……コイツ……!
「不躾な真似を先に謝っておくけれど、さっきの会話を聞いちゃってたのよ。軽々しく他人を傷付けた経験を持つ自分が、彼女を傷付けない確証が無い。そう思ってるのかしら」
違う。完全な間違いじゃないが、そういう問題じゃない。
でもコイツに情報を渡したくねぇ、何か他の事を考えないと。そうだ競馬だ。さぁ真っ向勝負、サイレンススズカのリード3馬身!叩いてビッグサンデー、久々グラスワンダー、エルコンドルパサー海老奈!坂を登る!!サイレンスまだ逃げるっ!!!
「……強情ねぇ」
「私はそういう所も含めて好きです」
「お嬢ちゃん、好意を素直に伝えるのはプラスポイントだけど連発するのは悪手よ。引く事を覚えないと」
ダメだ、もう限界。これ以上意識をコイツ以外には割けないと、恐怖心が現実逃避を粉砕した。
せめてもの反撃として威嚇の視線を送れば、返ってくるのは余裕の微笑。一矢報いる事さえ叶わぬまま、女は席を立つ。
「私はね。いっそ
「……は?」
「誰にだって破壊衝動はある物、それを受け入れるのよ。自分の中の一要素を意地になって否定し続けてたら前には進めないわ。ねぇ、お嬢ちゃん?」
「わ、私ですか?」
「だって、彼が自分を受け入れた時、真っ先に壊されるのはきっと貴女よ。そしてその事を喜ばしく思ってもいるでしょ」
「私が牧路さんに……壊される……え、ぇー……」
違うぞ桐雨。コイツが言う破壊とは比喩でもR18的な意味でもない、そんな柔な話じゃないんだ。直球の肉体破壊、つまり人としての死なんだよ!
(テメェ……俺に茈を殺せってのか)
『道はそれに限らないわ?貴方にもあるでしょう、“使徒再生”の力が』
そんな単語は知らない、だが予想はつく、人間に自分の体の一部を突き立て、自身のエネルギーを注入する事。
大抵の人間は灰になり……ごく一部の人間は、同じ怪物となって蘇る。誰に教わった訳でもなく、怪人としての本能がそう叫んでいる。
…… 茈をオルフェノクにしろ、ってか。
『飽くまで提案よ。強制力も締切も無いから安心しなさい』
(は?じゃあ何しに来た)
「では私はこれで失礼するわ。元気でね、お嬢ちゃん」
「は、はい!ありがとうございました、照峰さんっ」
予想という名の梯子を外された俺を無視して、女は立ち上がる。目を合わせる事も無くレジへ向かう後ろ姿は、まるでおれを挑発してるかのように上機嫌で。
しかしレジで一瞬、視線が俺へと向けられた。
「ッッ……ッ!!!」
今度こそ戦慄した。奴の姿が店の外に消えた瞬間、茈の腕を掴んで立ち上がらせる。そのまま出口の方へ。
「あっ、あのっ!?牧路さん、何を!!」
「聞くな!会計は俺がやっとくからとっとと帰れ!!!」
「さっきからおかしいですよ牧路さん?!そんな貴方を置いて行ける訳無いじゃないですかっ!」
最悪だ!俺が守る筈が、俺の存在が茈の周囲に危難を呼び寄せた!こうなっちまった以上は、是が非でも距離を取る他無い!
店の外に押し出して、料金精算して、タクシー呼んで押し込む!まずはそれを……
「あっ」
「牧路さn」
「伏せろォッ!!」
反射で地面に組み伏せる。次いで粉砕音、全面ガラスが軒並みカチ割れる音。
悲鳴と断末魔が店内に木霊した。俺に降りかかった生温い液体が、引き起こされた出来事を物語っていた。
一瞬だけ外を見やれば、シルクハット状の頭部をした怪人が1人。白昼堂々、衆目の中で2丁拳銃を構えて俺を狙っている。
「クソがァッッ!!!」
「待っ……凱歌さんっ!!」
茈を奥に押し込み、転がるように外へ飛び出る。俺は向く照準、引き金が引かれるより先に喫茶店からくすねた小麦粉袋を投擲した。
撃たれ広がる粉塵。その中に紛れて蒼炎を纏い、変われ!
『ガァァアアア!!!!』
望み通りの変身。望まない顛末。
茈の平和を俺が壊した、その事実を噛み締めながら、俺は迫り来る敵へ駆けた。
「オルフェノク出現報告!」
「何体出た!?」
「2体です。内1体は馬型、前事案と同個体と思われます」
「部隊編成急げ!南阪、火伽はどこにいる!?」
鳴り響くアラートが合図。オルフェノクが発する波長、その活発化を感知するセンサーが僕達を動かす。
犠牲者が出るまでに間に合う時と、間に合わない時が半々。その天秤を前者に傾けるべく、僕達は懸命な積み重ねを試みている最中だ。
「南阪ァ!」
「分かってますよ」
その中でも、彼がいる場所は先頭だ。誰よりもオルフェノクに追随し、凌駕する唯一の人類。
「彼はもう出てます」
「なにっ!?」
警報が鳴った瞬間には飛び出していた。僕がお世話係みたいになっているけれど、一体どれほど助力出来ているのやら。
「……頼みますよ、火伽さん」
いつか追いつく。しかし残念ながら、その日は今日じゃない。
だからこそ彼の活躍を祈り、僕は手にした銃を強く握った。
マシンが風を切る。
火伽がそれを駆る。
睨み付けるはまだ見ぬ仇敵。オルフェノクという名の虚像だ。
「そんなに死にたいんだったら……」
憎悪の形相で取り出したのは携帯。昨今においては著しい絶滅危惧種ともなった、折りたたみ式のガラパゴスケータイ。
しかしその実──彼がオルフェノクに対するジョーカー足り得る、最も重要な
「望み通りにしてやるッ!!!」
“9”、“1”、“3”。アラートが合図なら、この数列は合言葉。
「変身ッ!!」
黄。その一色の、
仮面ライダーカイザ。異世界にて、呪われた戦士がその刃を翳す。
Open your eyes for the next Χ-ZA.
冴子姐さんが人間の姿を取り戻してるのは自己解釈になります。後日説明しますね