オルフェノクになったので敵全員●す   作:スターク(元:はぎほぎ)

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零れる命、集う力

茈が現場にいる事は分かっていた。監視カメラをハッキングしてその姿が映った時、怒りのボルテージが10個ぐらい引き上がった。

 

(オルフェノク……ッ!)

 

俺の世界を壊すに飽き足らず、茈の日常も壊す気か。下等生物が図に乗るな。

絶滅させる。人類社会に取り憑く薄汚い寄生虫どもを、この手で皆殺しにする──!

 

《火伽さん、聞こえますか!?》

『何だい南阪ァ!』

《聞く耳はまだ捨ててないようですね!まず朗報です、貴方の幼馴染さんは隠れて無事とのこと!ただし悪い報として、2体目のオルフェノクが出現した模様です!!》

『ほう』

 

そうか。茈が無事なら何も問題は無い。むしろ2体出たというのも僥倖、纏めて撫で切る格好良い所を彼女に見せられるじゃあないか!

 

《……ん?ちょっと待って下さい、2体目のこの波長ってまさか》

『現着した』

《もうですか!?》

 

愛機(サイドバッシャー)を待機させて駆け上がったビルの屋上。給水タンクが撃ち落とされ視界が広がったそこで、戦場となった広場を見下ろす。

うんなるほど。確かにオルフェノクが2体で殺し合って、しかも内1体は!

 

『ホースオルフェノク!しかも死に掛けてる!!』

《えぇ!?彼は一応重要参考人です、交渉の可否は置いといても捕縛の方向d》

『関係無いねッ!!』

《指示を聞いて下さいっ?!》

 

\Exceed Charge/

 

制止なんか無視だ。必殺のキックを打ち込む為、専用デバイスを足に装着。

黄色い光が全身のラインを伝って、両脚に伝わった──瞬間、俺としても予想外の事が起こる。

 

(茈!?)

 

眼下、急に外に躍り出た彼女が何かをオルフェノクに投げつけたのだ。なんて危ない事を、死ぬ気か!?

 

『ええい、やるしか無い!!』

 

迎撃された何かが煙を起こし、眼下を覆う。正確な狙いをつけられず、でも奴らのターゲットが茈へ移る前に殺すべく、俺は山勘でポインターを投射した。

そのまま跳び出し、高高度からの両足蹴り──ゴルドスマッシュ

 

(あわよくば2枚抜きしろォーッ!!!)

 

……という俺の願いは叶わず。健在の方のオルフェノクのみを捉えたポインターへ急加速した俺の蹴撃は、敵一体の身体へ大きなダメージを与えるのみに留まった。

苛立ち紛れに銃剣(ブレイガン)を腰から抜き、這いつくばったままのホースオルフェノクへ撃つ。けど流石に時間を与え過ぎたのか、寝たままの姿勢で地面を蹴って避けられてしまった。

 

『ああもうっ……!』

 

追撃を諦め、()()()()()弾丸を斬り払い。もう1人のオルフェノクは既に俺へと標的を写してるようだ。

 

『しょうがないか。順番が変わっただけだ』

 

いずれにせよ死んでもらうんだ、そこに差なんて有りはしない。とっとと俺の踏み台にして、王子様として茈との再会に洒落込もうじゃないか。

 

『俺の為に死ね、死に損ないッ──!!』

『………っ!!!』

 

俺の弾丸と奴の弾丸、空中でその二つがぶつかり爆裂する。一発だけでなく、連射したそれらが全て。

その爆炎の中に、俺は光の剣を携えて斬り込んでいく。

 

 


 

 

我慢出来たのは、彼が斃れるその瞬間までだった。

死ななかったのは、奇跡的な幸運を拾ったおかげだという自覚はあった。

 

「大丈夫ですか!?意識はありますか!」

「おおぉお嬢ちゃん!なに化け物引き摺り込んでんだ、捨ててこい!」

 

第三者が乱入した隙を突いて、白騎士姿の、私を二度も守ってくれた人を必死に抱えて物陰に引き摺り込む。けど彼はさっきからピクリとも動いてからない、傷が深いから?それとも何か別の理由が?

 

「銃孔が全部貫通してる、なんて威力……しかも全部が的確に急所だなんて、包帯で巻いてなんとかなるかな」

『……』

「流血は見られませんが、取り敢えず患部の圧迫を行います。痛かったら叩くなりなんなり反応を下さい!」

「もうこんな所に居られるか!俺は裏口から逃げるっ」

「ほんとにすみません!!」

 

未だ応答の無い彼に対し呼びかけながら、ガーゼ代わりに袖を引きちぎって当てがう。どれほど意味があるか分からないけど、意味なんてないのかも知れないけど、それでも──!

 

「えっ」

『……ハナ、セ……』

 

その時、彼が初めて見せた反応。それは拒絶。

私の肩を掴み、死に体とは思えない膂力で、応急処置を阻んでいた。

 

『バケモノヲ、ナンデ…タスケル……』

「何でって……恩人を見捨てられる訳無いじゃないですか」

()()()()()カッ!?』

 

眼前まで詰め寄られる形相。目と鼻の先から、人外の姿を以て彼は私を脅す。

生気の無い、石のような白い肌。私を掴む手はヒヤリ冷たく、濁り切った眼球には瞳など見当たらない。平時なら恐怖で失禁さえしていただろう。

荒げるその息にすら温度は無く。私の口から喉を伝って、ストンと肺に落ちていった。

 

……分かり切ってる。

 

「食べませんよ、貴方は」

 

上っ面の言葉だけじゃない。態度で示すように、私はボロボロの瘦躯を体いっぱいに抱き締める。

幾ら腕を掴んでたって、彼は本当の意味で私の動きを拒めはしない。そう確信しているからこその、ある種卑怯な手段だ。

けどそれが効果的だったことを、肩越しに伝わった彼の動揺(震え)から察せた。それだけで充分だった。

 

「だって───凱歌さんでしょう?

『……!!!』

 

分かってたんです。それも最初から。

ぬいぐるみが見えてたというのは、なにもリュックからはみ出してただけの話じゃない。変化した身体に巻き込まれて、模様の狭間に微かに垣間見えてたのを、灰白の背に庇われた瞬間から知っていた。

 

でも言わなかった。貴方が知られたくなさそうだったから!

 

「私と付き合ってくれたのも、守る為なんでしょう?」

『……騙シてタラ、どうすル』

 

治癒が進んでるのか、私の知る凱歌さんの音にどんどん戻ってくる声。けどそれでも取れない特殊なエコーは、もしかすると貴方の強がりそのものなのかも知れない。

 

「騙されてても後悔なんか無い」

 

そのお返しは、より強いハグで。この答えも気持ちも嘘じゃないって。

 

あの日、突き飛ばした上に囮になってくれた貴方へ好感を抱いた。

刃の前に身を晒して、助けてくれた勇姿に見惚れた。

事件現場で再会して、悩みに寄り添ってくれた貴方を……たった三度の出会いだけで、どうしようも無く好きになってしまった。白馬の王子様だって決定づけてしまったんです。

 

恋に恋してる自覚はある。その暴走が始まりだったとも。

 

「だからこそ、もっと貴方を知りたい」

 

でももうそれだけじゃない。強いだけの貴方じゃない、拒絶の果てに孤独で自壊しそうな貴方も知っている。強さへの憧れだけが、私の知る貴方じゃないから。

 

「なので、何度でも言います。私が貴方に掛ける言葉は変わりません……っ」

 

頰を離して、再度真正面から見つめ合う。今度は私の方から詰め寄る。

彼は逃げない。逃がさない!

 

「諦めないで…!」

 

私が貴方をより深く知る、その日まで。

 

「死なないで、生きて───っ!!!」

 

本当の貴方に寄り添えるまで。

どうか私に、貴方を、()()()()()下さい。

 

 

そう願った私の目の前で、濁っていた瞳に光が灯った。

 

 


 

 

(しぶとい!!)

 

カイザ、その力は圧倒的である。

相手──バットオルフェノクが凱歌によって深傷を負わされていた事を加味しても、使い手の技量も相まって絶対的な優位を築ける程に。

 

『くたばれ蝙蝠ッ』

 

相手の弾幕を掻い潜り、反撃の射撃を見舞う。ただでさえ機動力を削がれたバットオルフェノクは、無事な方の右足に複数の着弾を許した事でいよいよ選択肢を失いつつあった。

完全に動けなくなる前に、接近戦を試みる。それを待ち受けるように、カイザはブレイガンより光の刃を展開。

 

『見え見えなんだよ!』

『グゴ…!』

 

姿勢を崩すべく突っ込んできたタックルを見切り、交錯と同時に斬撃。腹に一文字を刻む。

振り向きざま、左腰に取り付けていたカメラ型機材こと“カイザショット”を右手に装着。ENTER。

 

\Exceed Charge/

 

『!?!』

『セァアッ!!』

 

──グランインパクト

激烈なライダーパンチが、灼かれた裂傷に突き刺さった。宙を舞うバットオルフェノクの身体は、一直線に建物の壁を突き破って吹き飛ぶ。

しかし、倒せてはいないのだ。

 

(まただ……!)

 

このオルフェノク、ダメージコントロールが非常に巧い。斬撃は後退し、打撃は受け流し、吹っ飛ばしには抗わない事でカイザからの致命打を絶妙に軽減している。今の一連の流れだって、カイザはその場で腹をブチ抜いて(ころ)すつもりだったにも関わらず。

 

『しつこいんだよ、踏み台の分際でぇ……!』

《火伽さん、熱くならないで下さい。もう少しで応援部隊が到着します》

『俺はこの手でオルフェノクを死なせたいんだ!!』

 

誰の手も介在させない自分自身の手で。それを生き甲斐として、彼はこの戦線に参加している。

目の前の敵を今度こそその戦績に加えようと、カイザはブレイガンに起動キー(ミッションメモリ)を装填。三度(みたび)の必殺を臨む。

土煙を掻き分けて出てきたバットオルフェノク、その満身創痍な有様に笑みを深めて引き金を引こうとして……出来なかった。

 

『なッ……人質!?』

《吹っ飛ばされたのはそういう意図もあったようですね……》

 

建物の中に隠れていたのだろう老齢の婦人。その首根っこを掴んで、オルフェノクはカイザへと突き付ける。言葉は無くとも言いたい事は明瞭だ、「命惜しくば動くな」という事。

カイザを駆る火伽は()()()()のを意に介する人間ではないが、しかし彼の所属する組織は公的な機関だ。取れる手段は一気に限られてしまった。

 

《狙撃部隊展開まで残り30秒!火伽さん、無闇な攻撃は控えて時間稼ぎをお願いしますっ》

『いや、アイツは既に逃走の準備をほぼ終えてる!15秒経ったら逃げられる前に老人ごと斬るぞ!!』

《正気ですか!?》

『正気が通じる戦場じゃないだろう!』

 

錯綜する指示を度外視してカイザが引き金に指をかける。それを見て、バットオルフェノクが逃亡用に開いた翼を羽ばたかせる。老人が上げたのは悲鳴。

どちらが早いか、老人の道連れとなるのは誰か。それを分かつ時が残り5秒と迫った、刹那。

 

またもや小麦粉袋が飛んできた。

最早その手は飽いたとばかりに、バットオルフェノクは拳銃で狙撃した。遠くで撃ち落とした事で、彼の視界は依然カイザを捉えている。

カイザは動けない。オルフェノクが隙を見せなかったのもあるが、それよりも。

 

『茈……?!』

 

袋を投げた下手人が、よりによって幼馴染だった事。それに気を取られてしまったのだ。

これ幸いと、天敵の不注意に付け込んでバットオルフェノクが羽ばたく。老人を攫ったまま、空へと逃走経路を拓く。戦いの結末は、オルフェノクの戦術的撤退によって〆られた。

 

 

かに思われた。

 

白影が弾け跳んだ。

 

バットオルフェノクの首が、そこから上を喪った。

 

 


 

 

「逃げましょう凱歌さん!え?傷が深くて一瞬ぐらいしか動けない?あの怪人を倒して青い炎を浴びればなんとかなるかも??うーんそうですね……じゃあ、こういうのはどうでしょうか!?」

 

茈の作戦はこうだ。

 

まず、ここから予想される展開は二通り。黄色の戦士(ライダー)が順当に怪人を倒す場合。そうなったら、茈が出て行って戦士の気を引いてる内に、死体を俺が簒奪(ハイエナ)する。戦士は人間を出来る限り巻き込まないように戦ってるし、茈も同じ筈。これが一番安全で望ましい作戦だ。

いやそれでも、正体不明の奴の前にアイツの身柄を曝け出すなんてやりたくないんだが。

 

もう一つの展開は、戦士の敗北もしくは怪人の逃走。なんらかの要因で逆転か敗走を許せば、俺が積極的に動く必要が出てくる。

しかしそこに至るまでには必ず趨勢の逆転、それに起因する戦況の停滞がある筈だ。俺達が突くとしたらその点だった。

 

「武器は小刀(ナイフ)でいきましょう。最初に凱歌さんが有効打を与えた攻防を踏まえると、コンパクトに振るえる得物の方が有利を取れそうです。逆に大剣だと大振りでカウンターを狙われる危険か……ってうわぁ!?その武器って骨から作ってたんですか?!?」

 

物陰でで刃を眺める。刃こぼれ無し、準備OK。

人質を取った化け物の姿を視認し、状況が後者の場合は流れつつある事を悟った。左足を引き、構えた。

跳躍の時を待つ。

 

「当たり前と言えば当たり前ですが、相手は視界外からの奇襲に弱いように見えます。凱歌さんと私が投げた小麦粉袋には2回とも引っかかって隙を晒してますし、あの戦士の突撃キックも完全な不意打ちだから当たりました。よって、今回も小麦粉を使おうかと」

『……3回も同じ手が通じるかぁ?』

「やってみない事には何とも。なので……」

 

まだだ。ギリギリまで溜めろ。全ての力を左足へ、骨も筋肉も全て接続して瞬発力に賭ける。自壊する勢いで弾け跳ぶ為、さぁ。

 

合図。

 

来る。

 

来た。

 

飛び出た茈が袋を投げ付け、しゃがんだ。即座に撃たれて破裂する袋、睨まれたままの戦士は動けない。

だが───

 

 

「安直ですが、二手に分かれて挟撃しましょう!こちらの手が目眩しだと気付いてるなら、怪人は直近の戦士により注視するでしょうから!」

 

(ドンピシャリだ───ッッ!!!)

 

全力で飛び掛かった俺の存在に、奴が気付く事は最期まで無かった。

一閃。的確に首を獲る。着地は考えてなかったので、無様に地を転がる。

何とか止まった視界の端で、落ちた首へ続くように、人質を離して倒れる五体が見えた。

 

………勝っ、た。

 

 

(やった……!)

 

ふっと気が抜けかけて、持ち直す。後は死体だ。炎を浴びなきゃ逃走用の力も得られない。茈が体張って作ってくれた機を逃す訳には……!?

 

『わっ?!』

『貴様ァ!何をする気だ!!』

 

俺が近寄るまでも無く、なんと立ち上った炎の方から俺に被さって来やがった!倒した化け物の“格”の問題か?いや助かるんだけど、構図的に戦士を刺激しちまっててヤバい。トドメを刺される……!

……それを止めてくれたのは、またもや茈だった。

 

「待って下さい、彼は味方です!!」

『なっ、どいてくれ茈!ソイツは人類の敵なんだ!』

「違います!彼は……えっ、なんで私の名前を?」

 

割って入って仁王立ち。危険に瀕させた挙句なども助けられるなんて、情け無い事極まりねぇや……が、お陰様で目論見通りに炎を吸収し切って回復を終える。

久し振りに両の足で起立。その間にも、彼女と彼の話は進んでいたようで。

 

「えっその声……もしかしてだけど真也君?」

『……ご名答。君には隠し事は出来ないなぁ』

「………世界って狭いね」

 

なんか気の知れた感じで話し始めてた。知り合い?なら話が早くて助かるんだが。

逃走か待機で迷った末、刺激しない為にも沈黙を選択。やがて一段落ついた所で、戦士の方から此方に話が振られる事となった。

 

『で。そこのオルフェノクとはどんな関係なの?』

「彼氏です」

オイ待て!!』

「えっ、なんで2人とも臨戦状態になってるんですか!?武器を下ろしてくださいっ!!」

 

振られた結果がこのザマだ。全部茈に任せるんじゃなくてちょっとくらい自分で喋れば良かったかなぁ!?

 

『貴様ァ!死体の分際でどのツラ下げて茈を誑かしたァ!?』

『誤解だ、そういうのじゃない!聖四文字に誓っても良い!!』

「違いませんよ!!これ以上大切な人同士で傷付け合わないで下さいっ」

((お前が原因なんだよなぁ……!!))

 

何が悲しいって、相手も彼女の事を大事にしてるのが言葉や態度から伝わってくる所。こんな出会いじゃなければ良かったのになぁと思いながらも、俺は生きる為にナイフを大剣に変えて構えていた。

 

『南阪!狙撃班はもう配置についたんだろ、コイツを蜂の巣にしろぉ!!』

《すみません。状況が変わりました》

『……南坂?』

 

全てが一変したのは、聞き覚えのある名が聞こえたその瞬間の事。

 

《オルフェノクがもう一体出現しました。場所は──》

『──は?』

 

戦士の様子が変わる。怒りから困惑、そして……絶望。

彼は茈を見、俺を見る。舌打ちと同時に、何かを決意し。

 

『……来い!薄汚いオルフェノク!』

「真也君!?」

『そういうのじゃない!落ち着いて聞いてくれ茈、世田谷にオルフェノクが出現した』

「え」

 

世田谷区。俺の家が近い、だが要点はそこじゃない。俺にだって意味は分かっている。

だってそこは……

 

『家も壊せるぐらいの大型で、既にかなり暴れているらしい』

「……嘘」

 

茈の家が。

 

彼女の家族がいた。

 

暗雲が、俄かに立ち込め始めた。

 

 

 

 

 

到着したエージェントに茈を任せ、俺は戦士と行動を共にした。どういう心境の変化か、彼は俺をサイドカーに乗せて現場まで連れて行ってくれた。

オルフェノク自体は雑魚だった。こちらを見つけ次第突っ込んで来たので、大剣で待ち構えて頭をカチ割ってやった。共闘する必要も無く、青い炎を全身に浴びれた。

 

その中で見遣った先に、崩壊した家々。

“桐雨” の表札が踏み砕かれている。

 

 

 

 

 

「やはり貴方でしたか。会えて嬉しいです、ホースオルフェノクの変身者さん」

 

南坂。いや、()か。

茈と同じく俺の方だけ見知った顔で、再会で。なのに頭に入ってこない。

 

「……そんな事を言える状況ではありませんでしたね。失礼しました」

 

犠牲者達が担架で運ばれていく。その中の二つに、茈が縋り付いていた。叫ぶ彼女に、戦士の仲間らしい青年が寄り添っていた。

 

俺が……俺が“敵”を刺激して、呼び出した所為で。

それで公機関の手が割かれて、対応が間に合わなかった所為で。

 

茈の家族が、死んだ。

 

「オルフェノク事案はここ最近急増の傾向を見せています」

 

南阪が口を開く。一方的に、返事の必要は無いと。ただ聞くだけで良いと。

 

「彼らは未だ未知な事が多い……なればこそ備えとして我々がいるのに、この有様です。このままでは何も守れない、救えない」

 

俺と同じだ。俺もこの身体を得てから、手探りで、何も分からないまま茈を巻き込んだ。情報も手数も不足していた。

 

「ですから我々は……少なくとも私は、貴方の助力を欲します。貴方もそうであるなら、いつかこの手を取って下さい」

 

今でなくとも良いと、そう言外の配慮がありがたかった。俺の足は既に固まっていて、でもその前に()をしないと何も始まらなかったから。

償いにはならない。取り返しなんてつかない、けれど。

 

「茈」

「……牧路さん」

 

救急車に乗せられていった母を見送り、そして次の車を待つ父を見下ろしてから、その目は俺を見た。涙を流して、必死な思いでそれを飲み込んでいた。

 

「俺が死なせた」

 

茈の背後で、真也とかいう奴が俺を睨む。この光景を作る為に連れて来たのか?悪趣味だが大賛成だ。

茈の心を守る、その点で。

 

「俺を恨め」

 

両親の死の責任は俺にある。お前じゃない。俺を責めろ。

俺を憎む事で、どうか、心を壊さないでくれ。ただそう願った。

 

……茈は、俺達の思い通りにならない女だという事を、俺はここに至っても理解し切れていなかったらしい。

 

「誰も悪くない」

 

茈の心は強かった。強過ぎた。

俺達が救えるような、小さい器じゃなかったんだ。

 

「私がただ、サヨナラを言えなかっただけですから」

 

微笑まないで欲しかった。泣いて、喚いて、俺を睨みつけて責任を押し付けて欲しかった。真也とやらに、嬲るよう仕向けてすら欲しかったのに。

それを選ばない心根こそが、彼女を追い詰める。

 

「私が……お父さんと、お母さんを、見送れなかった、だけ……っ!」

 

 

時は、戻らない。過去の事はどうしようも無い。

だから死を背負う。死者に意味を持たせるべく、俺は生きる。

意味とは、何だ?

 

 

(殺す)

 

 

茈を傷付けた敵を全員、殺す。

 

 

敵とは何だ?

 

敵とは、誰だ?

 

 

((おまえ)だ)

 

 

お前(オルフェノク)だ。それを殺し尽くす。

それが、俺が世に為せる唯一の貢献。茈に捧げられるただ一つの償い。

 

……ポツリと降り始めた雨に、水たまりに映った自分(オルフェノク)の姿に、その覚悟を誓った。

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