オルフェノクになったので敵全員●す 作:スターク(元:はぎほぎ)
某猫ミームで知りました
「オルフェノクとは、西暦2004年に初めて出現が確認された人型生物の事を指します」
『それ以前は無かったのか』
「えぇ。歴史資料にも該当し得る存在は無く、急発生したと言っても過言ではありませんね」
掌サイズの球体を手慰みに弄びながら、南阪の御高説を強化ガラス越しに賜る。今回の内容は、俺や俺が戦っていた怪物──“オルフェノク”とやらの起源について。
「彼らは生まれるメカニズムとしては二通り。外的・内的要因を問わない自然死からの蘇生、もしくは他のオルフェノクによる“使徒再生”が挙げられます」
『あー、火伽が言ってた“死に損ない”ってそう言う意味ね。ところで、前者のケースと後者のケースを分ける意味ってあんの?』
「詳しく分かってはいませんが、どうやら使徒再生した時の方が覚醒確率がやや高いようですね」
『へぇ〜』
使徒再生。これは、通りすがりの
体に流れる変な力を、人間の心臓に刺して破壊するのだとか。上手くいけば心臓を失った人間がそのままオルフェノクとして動き出す、誰に教わるまでも無く本能が俺にそう示してくれた。
……ちなみに、変な力を注ぎ込む時の感覚は射●に近い。誰がやるか。
「そして覚醒後のオルフェノクは、弱い個体でも戦車の装甲を突破し得るだけの膂力を発揮します。更に上位の個体になればなる程、強力な特殊能力を秘める事例も確認されており……貴方の場合は俊足と剣の生成能力が当て嵌まるでしょうか」
『バットオルフェノクの場合には銃と飛行能力ってか?糞強かったもんなぁアイツ』
「後天的に新たな力を得る場合もあるようですがね。そして全てのオルフェノクに共通する事として、」
『死んだら燃えて灰になるんだろ』
球を握り込む手の甲が、サラサラと崩れ落ちる様を幻視した。いつか訪れる未来だ。
『今まで殺して来た奴らも皆そうだった。生命維持が出来なくなった途端、まるで心より先に
「その側面が大きいですね。ウチのカイザに倒された時も同様で、科学的には人間が燃え尽きた時と全く同じ組成の物質に成り果てます。その時に発生する炎に熱は無く、加えて物体で触れても干渉する事が無い」
『不気味な話だ』
自分の身体だってのに、その得体の知れなさで身震いすら起こす。 こんな化け物が存在してて良いのか?いや、良くない(反語)。
滅ぼさなきゃ(使命感)。
………あっ。
『マジで出来ちゃったよ圧縮……』
「いやぁ本当ですね……置いてて下さい、後で直径測りますから」
苛立ちが手に籠っていたのか、気付けば小指の先っちょぐらいまで小さくなった球がそこにあった。元の材質は何かって?鉄ゥ!
……話はそこまでだった。次に口を開こうとした俺を遮ったのは、喧ましいアラート音である。
『………どこ?」
「相模原に2体のようです。ポイントYにて実働部隊と合流するように」
「了解〜」
「──ご武運を」
「そう畏まらずとも安心しろって、分が悪くなっても逃げやしねぇよ」
降りて来たエレベーターに乗り込む際、首輪に指を引っ掛けてアピール。
今の俺は飼い犬、字面通りの馬車馬だ。それに倣ってせっせこ、働かせてもらいますかね。
なぁんて考えてる間に鉄の箱が閉じられ、軽いGが掛かってからまた開く。目の前には駐車場と、到着したばかりのトラックと荷台に詰め込まれるサイドカー。久方ぶりの空はとっくの昔に夜で閉ざされていた。
「火伽君よぃ、オトモよろしく」
「ああ。死んで来い」
「酷ぇや」
───特殊部隊“
そこに属して、俺達は闇を駆ける。
牧路凱歌さんから齎された情報は非常に有意義な物だった。ただでさえオルフェノクに対する知見が不足しているこの状況下において、天の恵みとすら呼べるほどの。
正確な
「人道に悖る側面さえ考慮しなければ、な」
「長官……」
空室となった牢獄を見つめていた僕へ、訪ねてきたのは部隊の
「不満かね?」
「与している僕に異論をかざす権利なんてありません……ですがそれでも、もう少し何とかなりませんか」
「無理だ。彼は既に死亡扱いとなっている、もう戻せんよ」
問いに対する答えは残酷。今この場で、彼に対する救いは存在し得ないと。
全身にGPSを埋め込まれ、内臓に爆弾を仕込まれ、僕達に
牧路さんは、部隊の信頼を得るべく多くの物を手放している。自由、住処、戸籍。人権と呼ばれる物を打ち捨て、“
苦痛を伴う実験が度々催され、中でも記憶に色濃く残っているのは……
「麻酔無しの解剖だなんて、日本で見たくは無かった」
「効く麻酔が無いものは仕方ないだろう」
「彼は生きてるんですよ……!?」
「戸籍は既に
オルフェノク化した状態で、
全身を厳重に拘束し、万一の抵抗すら許さない為に五感の総てを封じられて開腹される彼の姿は……直視に耐えない物でしかなく。
それだけに留まらない。彼が来てから、オルフェノク事案発生時には……!
「南阪君……オルフェノクは人類の癌なのだ」
迷う僕へ釘を刺すように、思考を遮って長官は告げた。
「感情論や差別心の問題ではない。人が死から蘇るというだけでも既に致命的なのに…その死者が殺人衝動に突き動かされて虐殺を引き起こすんだぞ。そんな事が公に知られればどうなる?」
「………っ!」
「秩序の守護者たる我々の勝利条件は、市民の生活に何も影響を出さないまま鎮圧する事なのだ。その意味で現状、対症療法に徹する我々が真に勝利した事は、一度たりとも無い」
分かるな?という言外の問いに頷く。僕たちには一刻も早い勝利が必要で、その為にも
「既に作戦は始まっている。彼に贖罪したいのなら、君も持ち場に就け」
「っ、はい……!」
「“彼女”ももうオペレーションルームにいる。サポートしてあげてくれ給え」
猶予など最初から無い。天敵が現れた以上、人類はもう、余計な事に気を割けるような霊長ではなくなったのだから。
感情と倫理を理性で抑え込み、冷徹に徹そうと必死だった。
「……君の言う通りだよ。だから我々はきっと、平和な世で地獄に堕ちるべきなんだ」
だから、長官の最後の言葉は聞き取れなかった。
両親を
相手は恐らく国家権力。一筋縄にいかないだろう事は分かってたから、「望み通りにしてくれなきゃ
これは甘え。私一人がどれだけ喚こうと簡単に封殺できるだろうし、だからこそ幼馴染の
それを飲み込んででも、両親のようなオルフェノクの被害者を減らす貢献をしたかったし……何よりあの日、総てを投げ出してしまいそうだった凱歌さんを独りにしたくなかった。
要求が通ったのはやはり、火伽君の温情があってこその物。最前線で戦う彼には相当な権限が与えられているようで、私の要望を叶える上で無理やり捻じ込んでくれたらしかった。ありがたいと同時に、専門の訓練や課程を受けていない私がマトモに業務をこなせるのか不安にもなる。
……足を引っ張りそうになったら、すぐに降格を申し出よう。それでいて、追い出されないよう泣き付いてでもしがみ付こう。恥も外聞も投げ捨てて、彼らの戦いを支えよう。
「7時半の方角から奇襲の予兆。3時方向へ退避の後反撃を」
《了解…ッ!》
そうならなかったのは。
幸運だったのは、私にも一欠片の
「南阪さん、ポイントγへのカイザ誘導をお願いします。標的Bの一人が其方に逃避しそうです」
「分かりました。カイザ、存在を主張しつつポイントγへ。牽制射撃を許可します」
「引き続きホースオルフェノクは……っ、凱歌さん左!!」
《分かった!》
発見されたオルフェノク二体、それらを同時に相手取る凱歌さんとその様子を俯瞰する火伽さん。彼らに配られたカメラから共有された視界を用い、戦況を分析する。
立ち位置、動き、所作、その傾向。全ての情報を目で拾い集め、彼らを遠くから助けるのが私の職務。
(南阪さん曰く、“筋がいい”とは言ってくれたけれど……!)
お世辞かも知れない、気休めかも知れない、そもそもが素人からのスタートで高が知れてる。そう戒めて目を皿にし、モニターと向き合い続けた。
──現在、νは以下の通りの編成と工程を経て運用されている。
オルフェノクが活発的になった時に発するエネルギーを検知し、出動命令。凱歌さんと火伽君、彼らを援護する実働隊が動き始めると同時に、現地警察と連携して現場を封鎖。市民に露見する可能性を可能な限り抑えつつ被害者の保護を試み、その間に現場に向かう人達へ
現着・接敵し次第、凱歌さんがホースオルフェノクに変身して作戦開始だ。前衛を彼が務めている間、火伽さんも“カイザ”を装着して遠方より戦場全体を補足し、万一の逃走を阻む。その更に外側を囲うように狙撃班が展開して凱歌さんを援護。
(……あっ!)
この布陣に思う所が無い、なんて無理だった。今まさに最前線で戦う彼に傷が付く。青い火花が血の代わりみたいに飛び散って、でも火伽さんは動けない。彼が戦うのは敵の不慮の増援か、もしくは凱歌さんが倒れた時だけだと決められているからだ。
それを知った時には勿論反対した。全力で止めて、でも無理だった。他ならない凱歌さんが、他の人達と話合って、納得した末の結論だと説明されてしまえば。
そも、火伽君が傷を負うのだって嫌なのに。でも誰かが体を張らなければ終わらないのなら。
死地に立たない私に、言える事なんて。
「狙撃班、σより標的Bへの狙撃を打診します。当てなくとも構いません、一瞬意識を逸らせば十分な隙になる」
歯噛みする私を叱咤するように、横で南阪さんの指示が響いた。発射される弾丸がBの進路を阻み、次の瞬間に凱歌さんの刃が立ち止まったその足を両断する。
それに目を見開いた私へ、南坂さんは無言で頷いた。
(悔しがってる暇なんか…無い!)
今は私達に出来る事を。彼にしてあげられる総ての事を、全力で!
そんな私の決意に答えてくれたかのように、画面の向こうで白騎士が呵成の咆哮を上げた。
・
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・
警報発令から、現着まで1時間を要した。
戦闘開始から決着までは15分。
最後に、彼の
「凱歌さん、火伽君、お疲れさまでした」
《ま、軽いモンだこんなの》
《そもそも俺は見ていただけだからな》
《拗ねんなよ俺に出番取られたからって》
《ハッ。言っていろ、応援だけはしてやる》
その軽口に心が救われる。凱歌さんと火伽君も上手くやれてるようで、どこか不安に思いつつも思わず笑みが零れてしまった。
こんな風に小突き合えるのも、生きててこそだから。
「凱歌さん、一応口頭でも確認します。外傷及び身体機能の異常などはありませんね?」
《無い無い皆無。お前が来るまでの4日間で
「それでも心配ぐらいさせて下さいよ」
苦笑してから、撤収指令を出してもらうべく南阪さんへ目配せ。すると何故か苦虫を噛み潰したような顔をして、彼は目を逸らしてしまった。
謎の間が1秒ほど。それを経て南阪さんから部隊リーダーに伝達され、ようやく号令が掛けられる。
「これより作戦終了を通達・撤収作業に移る。各員、現場に痕跡を残すな!」
「《「《了解!!!!》」》」
「……二人とも。また、後で」
通信が終わる寸前に一言。彼らが帰って来た時、改めて
彼らが剣であろうとするなら。私はせめて、その矛先を示す鞘であろう。
刃を収め、憩いを齎す“帰る場所”であろう。
そんな誓いと共に、私は彼らと闇夜を駆ける。出口を探して走り続ける。
それぞれのジレンマを、胸の裡に抱え込んで。
次回は火伽回
「茈を脅かす奴は邪魔なんだよ!」
「お前マジでゾッコンなのな」