僕の恋路は壁が多い   作:銀楠

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プールイベはラブコメの王道

 

 

 そして迎えた三日後、すなわちゴールデンウィーク初日。

 僕と湯川、そして星川を加えた三人はバスを使い、隣町の屋内プール施設を訪れていた。

 そこは雑誌で紹介されるくらいにはレジャーの整った施設で、ウォータースライダーや波のプールなど、豊富に遊び場を有しているらしい。

 学生料金で入館した僕らは、男女に分かれて更衣室に入った。

 手早く着替えを済ませ更衣室を出た僕は、プールサイドで呆然と利用客を眺めながら二人が来るのを待った。オフシーズンだからか、ゴールデンウィークにしては利用客も少ない。人波に揉まれて喜ぶ趣味はないため、これは僥倖だった。

 

「おお……思ってたより、すごい施設だな」

 

 ドーム状の天井、広大な波のプール、岩山を模したウォータースライダー。忘れかけていた心の底の男の子が、嬉しい悲鳴を上げていた。

 

 そんな冒険心を擽られる光景を眺めていた僕の背に、声がかけられる。

 

「お待たせ」

 

 僕が振り返るとそこには、着替えを終えた湯川と星川が立っていた。

 湯川の装いは、おそらく先日買ったビキニを装着しているのであろう。『おそらく』というのは、湯川はその上に野暮ったい黒のパーカーを着こんでいるから、中がどうなっているのか不明だったのである。フードまでかぶったその姿は、湯川なりの完全防御形態なのかもしれない。上半身を完全に防御したことによってパーカーの裾から覗く生足が強調されているのは、湯川的にどう思っているのだろう。セクハラになりかねないので、星川の手前、訊くのはやめておいた。

 件の星川だが、普通のビキニ姿だった。それはもう、普通のビキニ姿。布面積が過度に削られているとかもなく、どちらかといえば清楚よりなデザイン。もっと派手なものを予想していたため、残念というか安心というか。色は黒。ピアスを含めた小物類の一切を着けていないので、いつものキラキラ感は薄れていた。だが、それが悪い意味になりえないのが、星川の星川たる所以なのかもしれない。

 

「どうよ?」

 

 星川が問うてくる。

 

「ああ、おっぱい……間違えた。普通にかわいくておっぱい……じゃなくて。素敵だと思う」

「台無しだっつぅの」

「台無し? それはこっちの台詞だ、星川。どんな悩殺水着が来るかとワクワクドキドキ期待していた僕に謝れ」

「死ねっ!」

「まあ、水着は清楚だけど、胸がデカいせいで普通にやらしいな」

「あんま胸ばっかみんな!」

 

 と、言われたので、僕は星川の全身を嘗め回す様に見ることにした。

 大きな胸と尻、エロい。しかしそれは、湯川とはタイプが違う。湯川は肉付きが良いという印象だが、星川は締まるところは締まっている。特に腰なんかは、ちょっと心配になるくらい細い。モデル顔負けのプロポーションは、他の利用客の視線を独り占めしていた。

 

「で? 湯川、お前はどうしたんだ? パーカー着てたらプールは入れないぞ」

「陽キャオーラが……」

「陽キャオーラが?」

「カラダ……トケル……オデ……シヌ……」

「なぜ野生児に?」

 

 バカなことを言っている湯川に、僕と星川は揃って苦笑する。問い詰めればもっと色々珍妙な言い訳が聞けそうだったが、僕は深掘りはしないことにした。要は、恥ずかしいだけなのだと思う。時間をかければ、そのうちパーカーを脱ぐこともできるだろう。

 

「どうする? まだ何もしてないけど、休憩にするか?」

 

 と、一応気遣ってみるが、湯川は拒む様に首を横に振った。

 

「いい。私はその辺で休んでるから、篠宮と星川さんは先に遊んできて」

「うい。強引なナンパに遭遇したら大声出せよ。湯川との友情が星川への下心より上回ったら、きっとたぶん助けに行くから」

「絶対に来ないってことね、了解」

 

 というわけで、僕は星川と連れ立って普通のプールに向かった。

 これだけのレジャー施設で、いの一番に向かうのが一番面白みのないエリアなのはどうかとも思ったが、そもそも、本来の目的は星川に泳ぎを教えることなのだ。本分を忘れてはならない。

 

 もともとガラガラだったこの施設だが、普通のプールの閑散具合は一入だった。女性客が一人すいすいと永遠に泳いでいるだけで、他には誰もいない。これはラッキーだった。

 

「水に入る前に訊いておきたいんだけど、星川はどのくらい泳げないんだ?」

「だから、犬かきもできないくらいだって」

「それはつまり、水に顔を付けることもできないのか?」

「それは……微妙かも」

「そっからか…」

 

 泳げないと一口に言っても、それには二種類のタイプが存在する。すなわち、泳ぎ方を知らないタイプと、水に入ることすらできないタイプだ。前者であったなら、体の動かし方を教えるだけでいいのだが、残念ながら、星川は後者のタイプだったらしい。この場合、教えることが少し多くて面倒だ。

 

「ま、何とかなるか」

 

 為せば成る、というやつだ。やってみないことには何も始まらない。

 僕は星川に先立ってプールに入水し、水の中から星川に手を差し出した。

 

「ほらっ」

「え、ええ?」

「いいから、掴まれって。最初は溺れないように掴んどいてやるから」

 

 水泳教室に入会したての頃を思い出す。幼すぎて記憶は曖昧だが、最初の方はこんな感じで水に慣らすところから始まった。

 

 おずおずと、星川が水に入ってくる。泳ぐためだけのプールだけに深く、星川は首上あたりまで水に浸かった。

 

「ひっ」

 

 星川の喉からくぐもった悲鳴が鳴る。

 水は抵抗が強い。慣れないうちは身動きを封じられたような錯覚を受けて、恐怖することもある。泳げるようになるには、この水中の感覚を理解しなければならない。

 

 水に恐怖した星川は掴んでいた僕の手を手繰って、両腕で抱き着いてきた。当然のように、その豊かな胸が肘に当たる。星川にしてみれば命綱に縋りついているようなものだろうが、僕からすれば、ラッキースケベ以外のなにものでもなかった。

 星川は自分の胸が僕に当たっていることに気づいていないようだ。或いは、気づいたうえでそれどころではないのかもしれない。

 僕は鼻の下を伸ばしながら、これは長くかかりそうだと思った。

 

 

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