僕の恋路は壁が多い   作:銀楠

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もう言っちゃうと、ショートブリッジなんだよね

 

 

 忘野響姫(ひびき)生徒会長が僕の知り合いであるところの忘野雪姫(ゆき)の実姉であると言われても、すぐには鵜呑みにできなかった。

 いやもちろん、苗字がふたりとも同じである以上、それも『忘野』などという珍しい苗字で繋がっている以上、その姉妹関係は疑うべくもないのだけれど、しかしそうはいっても、ふたりはあまりにも似ていなかった。

 

 生徒会長で成績優秀、スポーツ万能、学年は三年生、みんなの人気者。

 嫌われ者を自負する忘野(後輩)のちょうど真反対に位置するようなキャラクターの持ち主である。

 

 その容姿はどこか涼やかでありながらも人懐っこい印象を受ける雰囲気の人なのだが、これもまた妹とは正反対だ――人を拒絶する美貌の妹と、人を寄せ付ける美貌の姉。

 ふたりとも美人であることは間違いのない事実だが、しかし、似ていない。

 

 似ていないどころか、人種から違うようにすら見える。

 

 忘野響姫生徒会長は北欧風の顔立ちだった。

 顔の彫が深く、髪や肌の色素は薄い。瞳はサファイヤのように美しい青で、どう見ても日本人顔ではない。

 妹とは似ても似つかない。

 唯一似ているところがあるとすれば、それは髪にひと房だけ入れた青のメッシュくらいなものだろう。

 

「母方の祖父がスウェーデンの人なんです。私と姉はどっちもクオーターなのですが、祖父の遺伝子は姉にだけ顕著に出たみたいです」

 

 日本人である僕には直感に反することだが、海外では兄弟で髪色や肌の色が異なるのは珍しいことではないらしい。

 そんな豆知識を僕は忘野から授かった。

 

 現在は球技大会の閉会式の最中だ。

 閉会式は全生徒整列して行う――みたいな、生真面目なことを言う我が校ではないので、僕らは三々五々、自由に散らばって閉会式を眺めている。

 本当は湯川と合流しようと思ったのだが、同じように相庭を探している忘野と先に合流してしまったため、こうしてふたりで閉会式を眺めているのだ。

 

 壇上では、忘野響姫生徒会長が表彰を行っている。

 閉会式を率先して取り仕切るその姿はどこまでも『できる人』って感じだ。

 

「昔から姉は私の憧れでした」

 

 憧れている、と口では言った。

 そして、妬んでいる、と心で言っているような気がした。

 

 姉妹間の優劣で仲に亀裂が走るというのはどこだって聞く話だが、これは些か捻じれた話なのかもしれない。

 髪に入れた青のメッシュがそれを物語っている。

 僕の憶測だが、たぶん忘野は姉の真似をしたのだろう。

 単に憧れの姉の真似をして同じようにメッシュを入れたのだというなら、微笑ましさここに極まる愛らしい話なのだが、それが劣等感の裏返しだと邪推するなら、話のややこしさは途方もないものになる。

 

 いやいや。

 やめよう。こんなのは邪推も邪推。無礼千万だ。

 忘野が憧れだというのなら、きっと憧れなのだろう。

 妬み嫉みなんてものは欠片もないのだろう。

 

 ――たとえ、忘野が一度も姉の方に目を向けていなかったとしても。

 

 ここで僕は見ない振りをした。

 水に流して、風に流して、知らない振りをした。

 先輩としては、彼女にしっかりカウンセリングして、心の闇を、心の泥を一切合切吐き出してもらうべきだったのかもしれない。それを受け止めてあげることが、先輩の務めだったのかもしれない。

 だけど僕はそれをしなかった。

 できなかった。

 知り合って間もない後輩に、そこまで込み入ったトークを振ることが、僕にはできなかった。

 勇気がなかったというか。

 良識が働いた。

 

 だから罰が当たった――というわけでもなかろうが。

 

 忘野に対して先輩の務めを果たせなかった僕は、もう二度と、彼女から『先輩』と呼んでもらうことはできなくなった。

 

 

 ところで、ここからは全くの余談でおまけで本編とは無関係で、言うなれば蛇足のボーナストラックなのだが。

 閉会式が終わった後に、

 

「……せん――」

 

 校庭の片隅で、忘野の手が僕の袖を引いた。

 その黒瞳は真っ直ぐ僕を見詰めて、唇が緩く形を変える。

 

「涼太さん――」

 

 一瞬、誰のことか分からなかった。自分の名前なのに。

 虚を突かれて当惑する僕を置いていくように、忘野の唇は次々と形を変える。

 

「涼太さん、好きです。ずっと前から」

 

 ………。

 

「好きです、涼太さん。付き合ってください」

 

 そんなことを口にする忘野の瞳は、いつものように無感動で、ちらりとも揺らぎを見せなかった。

 

 




 

 これで一応、二章的なものが完結になりますので、今回は後書きありです。
 今回は書きたいことが色々とあるので、長々とした後書きになりますが、本話の分量の少なさを加味して、しばしお付き合いください。

 今回は千種や相庭など尖りに尖ったところから、忘野のような平凡なキャラクターまで、色々書かせてもらいました。実は千種と忘野は、主人公より先に作った最初期のキャラクターだったりするのですが、まさか出番がここまで遅くなるとは、作者も予想していませんでした。それもこれも、星川が予定より人気で構想段階より分量を取ってしまったせいです。皆さん、ギャルがお好きなんですねぇ。
 ちなみに相庭は、忘野のキャラクターの薄さを憂慮して唐突に突っ込んだ、場当たり的なキャラクターです。とりあえず濃けりゃどんなんでもいいや、と適当に書いたのですが、それなりに良いスパイスになったのでは、と自負しております。
 千種のラブレター騒動は、本来最初に書く予定だった話で、こんな感じの話ばかりを書こうと思っていたので『僕の恋路は壁が多い』というタイトルにしたのですが、星川とかいうちょい役にするつもりだったギャルに全てを持っていかれました。
 物語を書いていると「キャラが勝手に喋る」というのは割としょっちゅう起こる現象なのですが、星川に関しては「なんか勝手に喋るし、なんか勝手にデートとかするし、なんなら勝手にキスとかする」というハチャメチャなキャラです。誰かコイツを制御してくれ。
 その点、相庭は勝手に喋るけど勝手な行動はしないので作者的には扱いやすくて助かっています。
 普通の可愛いギャルより、頭の可笑しい狂人の方が扱いやすいとか言ってる辺り、作者もだいぶキマっちゃってますね。
 作者がキマっちゃってるといえば、千種のラブレター(怪文書)の回を更新したときに、コメントでこれを書ける作者がヤバい、とかなり言われたのですが、やめてください。僕は至ってノーマルな物書きです。
 あの怪文書はあくまで千種のセンス。
 作者のセンスだと思った人はとんだ失礼さんですね。

 では、今回はここまでとさせていただいて。
 次話も変わらずご愛読いただけることを願いつつ。
 一旦の幕引きとさせていただきます。


 星川との仲がもうちょっと進展すると思ってた人は手を挙げて―


 
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