星川瑠璃。
髪を金色に染め、派手な化粧、爪にはネイルを施し、制服を校則ギリギリな範囲で改造しているクラスメイトの名前だ。
年上の彼氏がいるとか、夜の街で遊んでいるとか、果ては援助交際しているとか、そんな噂の絶えない女子生徒であり、なぜか湯川が嫌っているギャルだった。
そんな彼女が、僕を睨みつけ、舌打ちをしている。
これはいったいぜんたい、どういうことなのだろう?
「星川、だよな?」
確認のため、言葉を重ねる。
その言葉に、彼女は閉ざしていたその口をやっと開いた。
「…そうだけど? あんたは篠宮、だっけ? クラスの陰キャの」
どことなく攻撃的な、そんな声音。
敵意むき出しのその態度に、僕はほんの少しだけ怯んでしまった。
嘘だ。
本当はまったく怯んでなどいない。むしろ、この状況で冗談を言ったらどうなるのか気になってすらいる。
というわけで、僕はちょっとちょけてみることにした。
「ん? 篠宮? 全然違うけど?」
「えっ、あっ、ごめっ……あたし、人の名前覚えるの得意じゃなくて。なんの言い訳にもならないかもだけど…」
「いやいや、気にすんな。接点ないクラスメイトの名前なんて、普通、把握してないって」
「そう、だよね…」
「じゃあ、自己紹介するね。篠宮涼太です」
「やっぱり篠宮で合ってんじゃん!」
星川が張り上げた怒声に、道行く人がなんだなんだと目を向ける。星川はそれに気が付くと、恥ずかしそうに身を竦めた。
そして直後に、僕をキッと睨む。
「あんたのせいで恥かいたんだけど」
「ま、それは置いておくとして」
「置くな! 謝罪しろっつぅの!」
「置いておくとして」
努めて無視する。
こういうのは、湯川と関わって得たスキルだ。
「星川が【紅茶猫】で合ってるんだよな?」
「…だったら何?」
「なんだということもないけど……あ、もしかしてお前も代理か?」
「そんなわけないでしょ。そんな失礼なことするわけないじゃん。馬鹿じゃないの?」
「言われてんぞ湯川」
僕はスマホに向かって言った。
…ちっ。切れてやがる。あいつ逃げやがった。
「星川って……なんというか、意外と……」
「…なに、ギャルがゲームするのが意外とか言うわけ?」
「いや、黒髪になると可愛いなって」
「なっ……急に口説くな!」
「一目惚れです。付き合ってください」
「急に告白するな!」
「ずっと言おうと思ってたんだけど、僕たち合わないね。別れよっか」
「急にフるな! 違う! そもそも付き合ってない!」
「お前、意外とおもしろいな」
湯川はここまでパッションを持ったツッコミをしてくれないので新鮮だ。これはもっと揶揄いたくなる。
「なかなか愛情の籠ったツッコミだね」
「愛情なんかないっつーの」
「もしかして、僕に惚れてしまったんっですか、お姉さん」
「…そう見える?」
「おっとごめん。僕に惚れてしまったんですか、お兄さん」
「誰が性別のことだって言った!」
「僕に惚れることはできても、僕を掘ることはできませんよ」
「一発で良いからぶん殴りたい…」
拳を携えてわなわな震える星川に、僕は引き際を見た。揶揄いも、度が過ぎれば煽りになってしまう。この程度にしておいた方が良いだろう。
というわけで、話の本題に入ることにする。
「こんなところで立ち話もなんだし、どこか座って話せる場所でも行かない?」
「急にナンパするな! ていうか、あたしは【
「それに関してもうまく取り計らうよ。直接会うのは厳しいかもだけど、話くらいはしてみたいだろ?」
「それは…そうだけど…」
星川はそう言って、逡巡する。
「…わかった。その辺の喫茶店で良い?」
「もちろん。へへっ、ちょろい女だぜ…」
「あんたね…」
「おっと、本音が」
そんな軽口を交わしながら、僕らは適当な喫茶店に足を向けた。