僕の恋路は壁が多い   作:銀楠

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激動の一学期を終え…

 

 

 そんなわけで夏休みは、ぬるっと始まった。

 湯川とだらだらと過ごしながら、時折来る友人からのメッセージに適当な返事を打つだけの日々。

 もちろん、駅のホームで愛を叫んだ影響はあったのだが……。

 これまでの様々な看板は下ろすことになって、新たに『イタイ奴』という称号を得ることになった。軽く学校の掲示板を覗いてみたこともあるが、ものすごい言われようだった。学校の居心地はますます悪くなりそうだ。まだ七月なのに、夏休みが開けるのが既に憂鬱である。

 けれど、星川と付き合うことができたのだから、「別にいいや」と開き直ることにした。

 

 湯川からは、

 

「篠宮って意外とバカだよね」

 

 と、腹を抱えて笑われた。

 

「一生、篠宮を揶揄うネタができた」

「僕はよぼよぼのおじいちゃんになっても、そのこと言われんのか」

 

 それもそれで悪くない。

 湯川と一生馬鹿やれるなら。

 

「僕と雪姫の関係に関しても、実はシスコンだった生徒会長が妹の男避けに知り合いの僕を雇ってただけってことになったからな」

 

 そんな出鱈目がどうして通用しているのかは謎だが、まあ推測するなら、以前忘野先輩から送られてきた「貸しふたつだね」というメッセージがヒント――というか、答えそのものだろう。

 あの天才にかかれば、全校生徒のコントロールも容易いということだ……マジで関わりたくない。お願いだから一刻も早く僕のことを忘れてくれ。

 どうもそう簡単にはいかないみたいで、二日に一回くらいのペースで忘野先輩から連絡が来る。

 今日の出来事を他愛もない雑談として教えてくれることもあれば、今度モールで遊ぼ――みたいな、お誘いのメッセージが飛んでくることもあった。

 もちろん僕は遠慮なく断っているのだが、しかし、『貸し』がふたつもある以上、無理矢理誘われたら断れない。

 だから。

 頼むから僕のことはもう忘れてくれ、忘野先輩。

 

 妹の雪姫の方に関しては、未だに没交渉だ。

 いっそ不気味なくらい何の音沙汰もない。

 僕としても気まずいので願ったり叶ったりではあるのだが、嫌われたのかもしれないと思うと、心当たりがあるだけにはらはらした。

 

 前田と千種には、それぞれお礼をした。

 千種には自転車を返さなければならないのもあったので、夏休み初日に千種と前田を纏めて呼びつけて、めちゃくちゃ高いパフェをふたりに奢った――後になって冷静に考えてみると、夏休みに入って彼女とデートするより先に、他の女の子(しかもふたり)とパフェを食べに行くのは、マジでヤバかったかもしれない。やばいぜ。

 

 星川とは、ぼちぼち連絡を取り合っている。

 デートの約束的なものもいくつかはした。メッセージで他愛ないやり取りもしている。夏の前半は友達との予定を入れてしまったらしく、あまり会えなそうだが、八月にもなればそれなりに予定が空いているみたいだ。

 

 とにもかくにも、夏が始まった。

 そして、僕の春もやっと始まった。

 

 

「おはよ」

 

 声を掛けられて、僕はゆっくりと振り向いた。

 八月も半ば。今日は自慢のカノジョと縁日デートの約束を取り付けている。

 約束の時間から既に十五分。

 遅刻ながらも、やっと来たのかと呆れながら振り返った僕の眼に映ったのは、カノジョの姿ではなかった。

 

 真っ直ぐとストレートに下された黒髪。

 水色の生地に色とりどりの金魚が泳ぐ浴衣。

 紅の帯によって強調された、豊かなふくらみの胸。

 顔はどことなく見覚えがあるが、メイクのせいか、判別はつかなかった。

 

 総評、知らない人。

 だから僕は、こう口にするしかなかった。

 

「えっと……どちら様?」

 

 と……。

 

 




 

 これで一応、三章的なものが完結になりますので、今回は後書きありです。

 いきなり内部事情から話しますと、今回は前回までの『あくまでギャグコメ、恋愛要素は添えるだけ』という偏りまくっていた作品世界を、えいやっ、とバランス調整するために構想したお話です。なので、終盤の方ではあえてギャグをうっっっすらとしか使いませんでした。
 そして、今回は主人公の篠宮涼太にフィーチャーしました。今まではなんかふざけたことばっかり言ってる奴、みたいな感じでしたが、ちゃんと男の子なんだぜ――というキャラクター性を明示するために見せ場をいくつか作った次第です。……実は、篠宮の過去については書き始めた段階から構想はあったのですが、ギャグコメだと使いどころが難しいな、と思っていました。ただ、せっかくアイディアがあるのに作者だけが知ってる状態で話を進めてもな……と考え直し、お話を再構築しました。

 そんな裏話がありながらも、今回の主題は『嘘』です。『嘘』で始まった『嘘』の恋人。その結末も『嘘』による決着――そういうハッピーエンドとは言えない、胸にちょっとしこりの残る話を書いてみたいと思い、このような話運びにさせていただきました。まあ、それだとあまりにも救われない話になってしまうので、最後に主人公に愛を叫ばせてみたのですが……。

 忘野姉妹については、当初の構想通りの使い方になりました。『亀裂があるけど、実は愛し合っている姉妹』というありがちな設定から少し捻って『妹はお姉ちゃん大好きだけど、姉はそうでもない』という関係。今回のテーマの『嘘』を交えたら、エグいことになるな――と、最初はうっきうきで書き始めたのですが、今となっては、エグすぎるな――と、少し反省しております。

 感想をくださった皆様に多大なる感謝を。皆様の心の籠った感想のお蔭で、作者は執筆意欲を維持できています。誤字脱字衍字ばかりの稚拙な文章に、懲りずに修正を入れてくださる皆様にも感謝を。お気に入り登録や、評価の形で応援してくださっている皆様にも感謝を。
 そして何より、ここまで本作を読んでくださった皆様に心の底からの感謝を捧げます。

 では、今回はここまでとさせていただいて。
 次話からも笑って読んでいただけることを願いつつ。
 後書きを締めさせて戴きたいと思います。


 さ、最後の黒髪少女は誰なんだー

 
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