人間とは変化の生き物である。
高速で変化する社会の中で、その変化に適応しながら生きている。去年の自分と今の自分、全く同じ人間だと言い切れる人はそうはいないはずだ。
時には、自分は変化する社会に合わせるのが苦手だと言う人もいるだろう。でも、そういう人だって、多かれ少なかれ、自分を変化させながら生活している。変身はニチアサの特権ではない。
老若男女問わず、人は何か問題に直面したとき、自分を変化させることでその問題をクリアしていく。それは例えば友人との関係だったり、学校の成績の問題だったり、上司との軋轢の問題だったり……或いは、恋愛の問題だったり。
……いったい何の話をしているかって?
忘野雪姫の話だよ。
◆
図書館でみんなと集まって(何故か呼んでない人まで集まって)から三日後の朝。
僕は電車を乗り継いで、待ち合わせ場所のゴンドラ乗り場に向かった。
僕と僕の恋人であるところの星川との住む街の間にはいくつか小さな丘があって、そのうちのひとつの頂上に、地域で一番の規模の遊園地が展開されている。
その名も『スプラッシュランド』。
水の都をコンセプトに、とにかくびしょ濡れになりまくる遊園地だ。冬の間は普通の遊園地としてやっているらしいが、冬に行ったことはないのでわからない。とにかく何度も水面に叩きつけられる木造コースターやループ中に水の膜に突っ込むループコースター、雲のように噴霧された霧を貫通するタワー型の垂直落下絶叫マシン、などなどとにかく濡れまくる絶叫マシンが大豊作。
ついでに、大観覧車のゴンドラにはなぜかショッキングピンクのカーテンが取り付けられていて(カーテンで遮って、中で何をするんだろう……ぼくわかんなーい)、色々な意味で若者に大人気のアミューズメントパークである。
このあたりに住む人は、毎年、夏が来るたびにスプラッシュランドで遊ぶ。僕も中学生の頃は、友達とよく来ていた――湯川は究極のインドア派なので、相当幼いころに一度行ったことしかない。
遊園地に接続するロープウェイに着いた途端、
「――やほ」
星川が小さく手を振ってアピールしてきた。まあ、アピールされなくても髪色が目立つので気づいていたが。
今日はデートである。
正式にお付き合いを始めてから、初めてのデート――緊張も一入である。
「ごめん、遅れた?」
「や。あたしが早く着いただけ――じゃ、行こっか」
と。
星川は流れるような挙措で僕の手を取ると、そのまま引っ張って、ゴンドラに乗り込むことと相成った。
「……おや?」
首を傾げている僕を尻目にゴンドラは丘の頂上に着き、またもや手を繋がれて、あっという間にチケット売り場へ。
標高が高いからか、それともスプラッシュランドの水が気化熱を奪っていっているからか、酷暑を感じさせない涼やかな気温だ。たくさんの中高生で混雑する中を、星川に引っ張られるままに窓口のひとつに並ぶ。
スムーズだ。そしてスマートだ。
「……おやおや?」
僕はぼんやり首を捻り続ける。
今日という日を迎えるにあたり、一応僕も僕なりにデート雑誌などを読んで、いろんなエスコートプランを頭に入れてきたのだが。
なんだか――僕がエスコートされてしまっている。
先導する星川は、オフショルの白いカットソーにパステルカラーのフリルスカートを着用している。ギャルギャルしさはなりを潜め、お嬢様みたいな恰好をしている。ありかなしかで言えば、大好物だ。
……でも、彼女のファッションらしくない。
考えているうちに列が進み、僕らの番が来た。
「えっと、高校生二枚――」
「ねえ、これ」
お金を払う前に、星川が窓口に貼られたチラシを指差した。
曰く、『本日カップルデ―』。
男女二人でチケットを購入すると、ワンデイパスが安くなったりアトラクション割引が付いたりナントカカントカ。ただでさえ恵まれているカップル様に、さらに恩恵を与えていく逆累進課税スタイル。
「ああ、だからやたらと浮ついたやつらが多いのか……」
周りを見回してみれば、どいつもこいつもカップルがカップルしてやがる。
今こそ断固たる階級闘争が求められる。非暴力不服従でリア充カーストを撲滅! 天におわす我らが父よ、世のカップルどもに破局というラグナロクを!
――そこまで願ったところで、僕はやっとこれが天に唾を吐く行為だということに気が付いた。ごめんマイゴッド、やっぱさっきの願いキャンセルで。
と、願いをキャンセルしたタイミングで、チラシの一番下にメルマガ会員であることが条件――と、書かれていることに気が付いた。マイゴッド―、やっぱさっきのキャンセル、キャンセルで。
「これお願いします」
と、僕が心の中で一人遊びをしていると、星川がメルマガ登録済みのスマホを窓口に差し出す。
なんてこっただよ星川さん。今日のアンタ、スマートすぎるぜ。僕が女だったら惚れてたかもしれん。
そんなこんなでカップルチケットを購入した。
「――よしっ、さ、行こっか」
「あ、はい」
星川はごくごく自然な形で僕の腕を取って、
「最初は何に乗る? やっぱ、混んでないところが良いよね?」
「そだね」
いつの間にか絡まった腕と共に園内を案内してくれる。
僕の手足は彼女に拘禁されてしまった。圧倒的ナチュラルかつスムーズなエスコート。君は何なの? 僕のカレシなの?
なんだか男として情けない気持ちになりかけたが、まあ、ほら、令和はダイバーシティの時代だ。男前な彼女がいたって良いじゃないか。帳尻合わせの為に、僕も女々しい彼氏になろうかしらん?
「じゃ、手始めに軽めのアトラクションから回ろうか?」
「うん。それでいいと思う」
僕は考えるのを放棄して、遊園地を楽しむことにした。