僕の恋路は壁が多い   作:銀楠

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創作物の生徒会って、なんか権力持ち過ぎだよね

 

 

 放課後。

 茜の差す教室で、僕は自分の席に座って、ひたすらに反省文を認めていた。

 というのも、先日の文化祭の件である。即興劇と題打って、舞台上で好き放題した僕を、もちろん学校側は許してはくれなかった。

 本来なら、大波のハリボテが倒れてきた時点で中止にするべきだったし。

 一年四組の大道具を破壊したのはやりすぎだった。

 

 停学でもおかしくないようなやらかしだったが、実質的に一番の被害にあった一年四組の後輩たちがあっさりと許してくれたこと、担任の新庄先生が責任の大半を担ってくれたこと――ちなみに、クラスの責任者である新庄先生は減俸処分を受けたらしい。本当に申し訳ない――なにより、二年一組のみんなが罰を受けるなら全員でその罰を折半すると言ってくれたことにより、僕の起こした問題は、反省文一枚で済むことになった。

 もしかしたら。

 詳しくは知らないが、忘野先輩が一枚嚙んでいる可能性もある――というか、その可能性の方が高い。

 

「よっ、大納言。反省文はどうだ?」

 

 声をかけられたので顔を上げる。

 黒髪小柄な男子生徒。僕に大判の大納言役を譲ってくれた奴だ。

 

「……………………………………………………相良か」

「名前出てくるのにめっちゃかかったな!」

「これは最終的には出てきてる分いい方だ」

「……お前、相変わらずだな」

 

 文化祭以来。

 僕はこんな感じで、ちょくちょくクラスメイトに話しかけられるようになった。あと、大納言と呼ばれるようになった。ふざけんな。

 相良に限らず――どころか、クラスに関係なく、僕は校内でちょくちょく声を掛けられる。プチ有名人になった。それだけ、あの劇の反響は大きかったらしい。

 

 そしてそれはもちろん、僕に限った話ではなく。

 かぐや姫として、観客を魅了しまくった(しき)も、一躍クラスの人気者の座に上り詰めた。彼女の躍進に比べたら、僕なんて何の変化もしてないも同然なレベルで。

 髪を切ったのも、大きかったのかもしれない。

 以前の累を否定するつもりはないが、さすがにあの髪は長すぎた。

 人は見た目が九割なんて言葉があるが、ファーストコンタクトにおいては見た目が十割だ。だって、内面なんて知る由もないし。だから、さっぱりと髪を切って、あの無駄に偏差値の高い顔面を外界に晒したのは、好判断だった。

 話しかけやすさの激的ビフォーアフターを果たした累は、男女に関わりなく、話しかけられまくっている。と言っても、累のコミュ障が一瞬で治るわけでもないので、コミュニケーションは円滑とは言えない――が、さすがに周囲も高校生だ。累の反応から、周囲が適度な距離感を開けてくれる。

 徐々にクラスに馴染んでいっている彼女は、今日はなんと、クラスメイトと遊んでくるらしい。一般的な高校生の反応であれば「だから?」――って感じだろうが、以前の累を知っている身からすると、感涙ものである。

「今日、放課後友達と遊ぶ約束しちゃったから、一緒に帰れない」と、照れくさそうに累が言ってきたときの僕の内心は、この世界の言葉では表現できないだろう。とりあえず、言葉は失った――否、喪ったといってもいい。

 あまりの衝撃に、生涯口を利けなくなってしまったのではないかと思った程だ。喪ったはずの声を取り戻す、感動の最終回が思い浮かんだレベルである。

 

 僕が変わっちゃったから累も戸惑ってるのか~――と、厚顔無恥にも己惚れていたかつての僕を殴ってやりたいくらい、累は急成長している。僕ごときあっさり取り残して。

 幼馴染の躍進を忌憚なく祝う気持ちと同じくらい、放課後残って反省文を描いている自分が惨めだった。

 

 ――けど、思ってもない謝意を文字に起こすだけでいい僕は、まだマシなのかもしれない。

 

 放課後、僕と同じように教室に残っている前田は、もっと浮足立っていた。

 前田はひたすらプリントに目を通している。神妙な面持ちというか、張り詰めた空気というか、ともかく、緩い空気感でないことは確かだった。

 殊勝にも、放課後居残りで勉強しているわけではない。

 なぜなら、「選挙」の二文字がはっきりと見えたからだ。

 

 生徒会選挙、もうすぐなんだよな……。

 

 我が校の生徒会選挙は、十月末に行われる。三十一日が投票だ。

 で、前田は生徒会長の椅子を狙っているらしい。

 

 僕は、友人としてあまり賛同できない。

 

 理由のひとつは、勝算が充分とは言えないからだ。

 前田は学年問わずの人気者だが、生徒会選挙は生徒会経験者が選ばれやすい。現副会長は三年生だから対抗馬にはならないが、庶務でも書記でも、生徒会に所属していたという経験は充分なアピールポイントになる。前田にはそれがない。

 

 理由のもうひとつは、生徒会長になっても旨味が少ないからだ。

 生徒会長はもちろん内申を多くもらえるポジションではあるが、前田はたぶん生徒会長なんてしなくても充分に内申を貰える。メリットとしては弱い。だが、リスクがある――というのも、比べられるリスクだ。つまり、現生徒会長忘野響姫と、という意味である。

 忘野先輩は怪物だ。その驚異の人心掌握術によって生徒の心を余さず掴んでいるのはもちろんのことだし、その毒牙は先生にも及んでいる。この学校の生徒会にそこまでの力はないはずだが、彼女が生徒会長を務めていたころは、生徒の要望が学校に通ることが多かった――が、それはあくまで彼女の力量によるものだ。友人を貶すことはできないが、前田に忘野先輩ほどの能力があるとは思えない。

 有体に言って、周囲から蔑まれるリスクがある。前の生徒会長はここまでしてくれたのに――と。

 

 さて。

 つらつらと前田が生徒会選挙に出馬するリスクを語った僕ではあるが、じゃあ、彼女の出馬に反対するのかと言うと――それはしない。

 やりたいことをすればいいと思う。

 僕は賛成の立場も反対の立場も持たない。

 強いて言うなら、友人として応援くらいはする。もちろん。

 

「私が生徒会長に立候補しようと思ったのは……お世話になったこの学校に恩返しをするため……」

 

 小声で演説の練習をしているのが、静謐な教室なのでよく聞こえてくる。

 前田は聖人気質なところがあるので断言はしづらいが、恩返しなんて考えてないと思う。

 まあ、こういう選挙演説って大体のテンプレートが決まっていて、適当なおためごかしを言うのが主みたいなところはある。

 選挙演説で嘘を吐いちゃいけないなんてルールがあるなら、世の中の政治家は大体牢屋の中だ。

 

 ただ、反省文が全く進まないので、ちょっと口を挟もうかと思ったが――

 その真剣な表情を見て、クレームを言う気も失せた。

 かわいいというのは正義だ。

 なにをやっていても、フツメンの五倍はよく見える。

 正義であり、そして卑怯だ。

 結局人は見た目が十割だなと思いつつ――僕は反省文の残り百文字を適当なおためごかしで埋めて、立ち上がる。

 

 僕も、これから、可愛いカノジョとデートなのだ。

 

 

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