僕の恋路は壁が多い   作:銀楠

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みんな忘れてる初期設定

 

 

 ところで。

 生徒会選挙投票日の前日は、なぜか星川とパルコを練り歩くの会を相成った――つまり、デートである。

 

「テキトーに歩くだけでも楽しいから」

 

 とは、星川の談だ。

 星川はとかく、金のかからないカノジョである。物を強請られることはないし、デートは基本割り勘。あまつさえウィンドウショッピングですら満足してくれるほど。あまり懐に余裕のない学生の身としては、非常に助かっている。

 

 特筆すべきようなこともなく、ただパルコ内を歩き回るだけの平和な散歩の末に、僕らはソファに座った。

 三階の寝具屋に併設された家具売り場である。

 店内の隅っこで悲しくも型落ち商品として展示されてる特価品。その座り心地は、意外なことに悪くない。むしろ、睡眠不足の身には非常によろしい。

 前田の選挙演説のために毎朝早起きしているのだ。早起きを心がけても早寝は習慣づかないので、睡眠時間は削れていくばかりである。夜九時には就寝しているらしい相庭を見習いたいところだ――いや、やっぱりアイツを見習うのは屈辱なので、睡眠不足で結構。

 

「ねむ……」

 

 天井の照明を見上げて、大きく欠伸することしばし。

 ハタと気付くと、僕は星川に凭れ掛かっていた。

 いつからうとうとしていたのか記憶にないが、たぶん一瞬寝ていた。デート中に女を放置する男。女の細い肩でもって、体重を支えるのを強要する男。女に肩枕させる男。あらゆる角度から見てろくでもないな……。

 

「ごめん、寝てた」

 

 力を入れて身を起こすと、星川の肩がビクンと跳ねた。

 

「べっ……別にぃ⁉」

「うん……?」

「付き合ってるから、密着するくらい訳ないし……。そもそも肩に頭が乗るくらい普通だし。普通普通。全然ビックリしてないし、緊張もしてない」

 

 自分に言い聞かせるような文句をぶつぶつ並べながら、再度アップにした髪をいじいじいじいじ。フレアスカートで横移動して、大げさに距離を取る。

 そういえばコイツ、初心なギャルって設定だったなと思いだした。

 教室の中心で「あたし、処女だからね!」と宣言したことは、もう誰も覚えてないイベントだ。

 

 そんなことを考えていると、星川がじとりと睨んできた。

 

「まったく、隙さえあればすぐに女子にちょっかい出すんだから。行きずりの女とフラグ立てるなラブコメ主人公」

「そうか、顔真っ赤だぞ」

「うっさい!」

 

 星川はソファの上で器用に跳ねて、襟元をぱたぱた扇ぐ。コイツ色白だから、ちょっと赤くなるだけで目立つんだよな……。

 

「選挙」

 

 と。

 星川が呟く。

 まさか僕とは別れて新しいカレシを選挙で募るとか言い出したのかと思ったが、さすがにそんなことはなかった。

 

「前田の選挙、明日だけど、大丈夫なの?」

「……勝算はある」

 

 僕は答えた。

 何も答えてないに等しい、玉虫色の答えを。

 

「勝ってもおかしくないくらいには頑張った。逆に、負けてもおかしくないくらい相手が強い。町田が頑張ってるのは誰にも否定できないことだけど、何よりも加持が強い」

「加持?」

「町田の応援演説人――めちゃくちゃ頭がいいし、人心掌握を心得てる」

 

 趣味:行動心理学――などというやべー奴である。

 

「僕の作戦は、正直生徒会長なんて誰でもいいと思ってる奴の票を取りに行くものだ。真面目に生徒会長を選ぼうとしている奴の票は、端から捨ててる。町田陣営はその票を持ってる上に、僕が抱き込もうと思ってた票まで取りに来てる――正直、三対七で負けの方が濃い」

「不利対面で三割も勝てるならいい方じゃん」

「……格ゲーマーの考え方だな」

 

 どちらかと言うとアナログゲームを主戦場としているタイプの僕としては、三割じゃ満足できない。八割は勝てないと、作戦成功とは言えないのだ。

 ………。

 ……まあ、いまさら気を揉んだって仕方ない。人事は尽くした。あとは天命を待つばかりである。

 

「明日さ、時間空いてる?」

 

 星川が躊躇いがちに聞いてくる。

 

「いや、僕は応援演説人だから、投票前の演説をバックレるわけにはいかないんだけど……」

「そうじゃなくて、放課後のこと」

「ん? ああ、それなら、なんの予定も入れてないけど……」

「それならさ……」

 

 星川はそこで言葉を一度区切って。

 

「あたしの家、来る?」

 

 ――そういえば。

 明日は僕の誕生日なのだった。

 

 

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