僕の恋路は壁が多い   作:銀楠

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デート相手の服装を褒めるのは常識

 

 

 デートというのは一般に、男女が二人っきりで遊ぶことを総称するのだと思う。より正確にいうのなら、そこに恋愛的な要素が加わっていればデートだ。いや、このご時世、必ずしも『男女』である必要はないのかもしれないけれど、その話はまあ、今回は割愛しよう。

 

 星川をデートに誘った件に関しては、まあ、結論から言うと成立した。

 それはもう、あっさりと。「いいよ」と、軽く。

 湯川は僕に気があるからオーケーと言ったんだと言っていたが、まあ、そんなわけがない。湯川も本気でそんなことを言っているわけではなかった。おそらく、星川のような陽キャにしてみれば、男と二人で遊ぶくらいなんということでもないのだろう。

 

 と、それはともかくとして、デートである。

 言うまでもなく、僕にとっては初デートだ。緊張しないわけがないし、不安にならないわけがない。一応、僕にとって一番信のおける湯川に相談してみたが、もちろん無駄だった。知ってはいたが湯川にもデートの経験はない。

 そうなるともう早速手詰まりだ。実は僕も湯川の世話を焼けるほどの交友関係を持っていない。少なくとも、デートの相談をできるほどの友人というのは心当たりがなかった。

 最悪、最終手段として……本当に苦肉の策として、湯川のお母さんを頼るという手段もなくはなかったのだが、その案は結局却下した。あの人はなぜか僕と湯川をくっつけようと画策している節があるので、星川とデートなどと知れたらどうなるか分からない。そもそも、可能な限りあの人と話したくない。

 

 というわけで、僕は変に衒わずにデートへ赴くことにした。

 服装は着慣れた服を、鞄は中学生のころから愛用しているボディバッグを持っていった。髪型もセットしたりせず、水をかぶって乾かしておしまい。逆に気取らなすぎと言われれば反論のしようもないが、これが僕にできる最低限(・・・)だった。

 

 待ち合わせの駅前にはのんびりとした時間が流れていた。昼過ぎの駅前はこんなものなのだろう。漫然と流れる人を眺めていると、パタパタと足音が近づいてくる。

 

「お待たせ」

 

 視線を寄越すと、星川が傍らに立っていた。

 デニムのショートパンツにふんわりとしたブラウス。靴は小洒落たスニーカー。バンクルやネックレスなどの小物も、全体の雰囲気を損なわないように着けられている。眩いばかりの金髪は下され、カントリースタイルで結わえられていた。

 おそらくデート初心者の僕を気遣ってくれたのであろう、簡潔でさわやかな印象のコーデ。

 

 正直に言って魅力的だった。清楚派の僕が見惚れてしまうくらいには。

 

 そんな何も言わない、言えない僕に、星川は「なんか言え」と目で訴えかけてくる。故に僕は得意の軽口を出発進行させた。

 

「おう、お待たされ」

「そんな返事、聞いたことないんだけど」

「そうか。じゃあ、僕が星川の初めてってことか。光栄だなー」

「キモッ」

「なんで僕、遅刻された上に罵られてるんだ?」

 

 集合の約束は二時だったはず。星川が来たのはその五分後だった。

 

「しょうがないじゃん。女の子には色々準備があるの」

「準備ねぇ」

 

 星川の全身をまじまじと嘗め回す。なるほど、確かに準備したらしい。納得の服装だ。

 

「てか、篠宮さ。デートの待ち合わせで最初っから遅刻を責めるのとかないから。まずは相手のお洒落を褒めろっつぅの。こっちもそれなりに悩んで服決めてんだからさ、スルーとか普通に傷つくんですけど」

「あ、わりっ…」

 

 そう言われて、脳内で相手のお洒落を褒める言葉を検索する。

 ヒットゼロ件。

 付き合いのある異性なんて湯川しかいないし、湯川はお洒落なんてしない。あいつは上下の下着がバラバラなことがしょっちゅうあるくらい服装に無頓着なやつなのだ。

 だから、お洒落の褒め方が分からない。

 

 というわけで、簡単な言葉を言うことにした。

 

「ま、かわいいな」

「は? そんなありきたりな言葉で満足すると思ってるわけ?」

「…じゃあ、どんなことを言えば満足してくれるんだ?」

「もっとポエミックに、一つの詩にして表現するとか?」

「仮に僕が実際にそんなことしたら、お前、どうするんだ?」

「文字に起こしてクラスのみんなに配るけど?」

「イジメじゃねぇか」

 

 ほとんど空気な僕が、一気にクラスのやり玉に挙げられてしまう。そんなのは勘弁だ。

 

 とはいえ「かわいい」の一言で済ませてしまうのは確かに礼節に欠いていたかもしれない。ここは星川の言う通り、もうちょっと言葉を尽くそうではないか。

 

「僕はミニスカートの方が好きだけど、ショートパンツも良いな。生足が眩しい」

「キモッ。あんま足見んな」

「安心しろ、僕は脚派じゃなくて胸派だから」

「なにも安心できないっつぅの」

 

 星川は自らの大きな胸を搔き抱いて、すすすっと離れていく。これ以上やると蹴りが飛んできそうなのでセクハラはこのくらいにしておくことにした。

 

「で、どうするの?」

 

 と、星川が言う。

 そして、この場合の「どうするの」とは「なにするの」と同義であろう。つまり今日のデートプランを聞かれたのだ。

 そしてこれに関しては、実はあらかじめ回答を用意してきていた。湯川と相談した結果、デートプランだけは決めてある。

 

「星川、魚は好きか?」

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