ポケットモンスター剣盾二次創作シリーズ 作:dwwyakata@2024
ポケットモンスターソード&シールドの本編開始数年前。
とあるケーキ屋で起きた悲劇と、それによって生まれた復讐者の物語です。
醜いが善良だったケーキ屋の主人が迫害で殺されたマホイップは、人間を学習し復讐をする事を決意します。
本来温厚なポケモンであるマホイップであるが故に、その怒りは燃え上がり、周囲の人間を容赦なく焼き尽くすのでした。
序、葬儀
ガラル地方の一角。とても栄えているエンジンシティと呼ばれる場所がある。
蒸気機関と最新鋭の動力であるダイマックスエネルギーが融合して発展し。ガラル地方の中心の一つとして栄える大きな都市である。
概ね人々の生活幸福度も高く。犯罪組織の類が跋扈することも殆ど無い。
実の所、昔はそうでもなかった。
だが、現在ガラル地方のポケモンリーグにて、カリスマ的なチャンピオンとなっているダンデが現れ。ダイマックスエネルギーの利用を一手に担うマクロコスモス社をローズが発展させる前後から状況は変わった。
一説には。他の地方にも現れる「英雄」のように。ダンデがガラル地方に存在していた犯罪組織や悪党を一掃してしまい。
ローズが安定で盤石な態勢を整えたのが原因だとも言われている。
だがそれらは噂に過ぎない。
事実他の地方では、ポケモンを悪用している邪悪な組織が存在していたり。村社会からはじき出された者達が反社会的行動をしていたり。
ポケモンと人がともに住まう世界は、決して平和なだけの場所では無い。
昔は当然のようにポケモンを用いての戦争も行われていたし。
国家という枠組みが存在しなくなり、地方と言う枠組みで世界が区分けされるようになった今でも。
世界の秩序を担う「国際警察」でも手に負えぬ悪の組織は存在し。
そしてその国際警察すらも、時に腐敗している事があるのが実情なのだ。
人と寄り添ってくれるポケモンと呼ばれる不思議な生物たちがいるこの世界においても。誰もが幸せな訳では無い。
それが現実である。
エンジンシティの一角。周囲から評判が良いケーキ屋がある。
フェアリータイプに分類されるポケモンの一種、マホイップが手伝いをしていて。その愛くるしい様子から、地元で愛されている店だが。
此処で働いているアルバイトも含め、この店のオーナーが誰かを誰も知らないし、見た事もない。
故にマホイップはこう呼ばれていた。
店長、と。
マホイップはホイップクリームを産み出す事が出来るポケモンで、人間に極めて友好的な存在である。
人間社会に馴染む事も多く。ケーキ屋などで良く慣れたマホイップを扱える者がいると、其所のケーキはとても美味しくなると評判だ。
草食で穏やかな性質のマホイップだが、ポケモンは超常的な力を扱えるのが常で。
三十センチほどの、クリームを身に纏った人型のような姿をしたマホイップも例外ではない。
獰猛な事で知られるドラゴンタイプに対して絶対的な力を発揮するフェアリータイプという事もあるが。
けっしてマホイップは愛玩用としてだけのポケモンではなく。
ポケモンを戦わせる世界中で行われる競技、ポケモンリーグにおいてもプロが使用する事がある強い能力の持ち主である。
そんな店長がいる美味しいケーキ屋は、穏やかな日々を過ごしていたが。
それがある日一転した。
開店時間。
バイトをしている女子高校生が店を訪れると。店長が血相を変えて何かを訴えかけてくるのである。足下を引っ張りさえした。
「なんすか店長。 これから開店でしょう」
首を必死に振る店長。
マホイップはかなり知能が高いポケモンで、人間の言葉を理解しているとも言われる。
そんな店長の様子に、バイトは何事かと鬱陶しがりながら応じる。
そもそも売り物のケーキは、いつも店長が奥からよちよち歩いて持ってくるのだ。
店長がケーキを出してこないと、商売にならないのである。
面倒くさがりながら、バイトが店長に引っ張られて店の奥に行くと。
其所には、世にも醜い何かが突っ伏していた。
顔は凄まじいあばたに覆われて、非常に大きな図体をしている。まっとうな仕事をしている輩だとは思えない。
ひっと小さく悲鳴を上げたバイトは。
すぐに警察に連絡を入れた。
恐らく物取りか何かだろうと判断したのだ。
だが、マホイップはその男に縋り付くと、必死に何かを訴えかけ続ける。マホイップには相手を回復させる能力を持つ者もいるが。多くは自分が作り出すクリームを食べさせることでそうする。マホイップは外敵と戦うときには催眠作用などがあるクリームを使用する。味方や自身の能力を底上げしたりも出来る。クリームと密接に関係があるポケモンなのである。
故に、クリームを食べさせようとして。それが出来ない事に、悲鳴に近い声を上げるマホイップ。
やがて警察が来て。
死体の身元が確認された。
バイトも聴取されるが。こんな相手は見た事がなかったので、知らない奴だと応えた。
程なく結果が出る。
その結果は。
この店の、本物の店長だった。
それを聞いて、バイトは開口一番に言った。
「えっ。 こんな気持ち悪い奴の所で、アタシ働いていたんすか?」
「雇われたときに顔を見なかったのかね」
「それがロトム越しだったので」
「……」
呆れた様子の警官達。ロトムというのはポケモンの一種で、機械に憑依して機能を様々に引き上げるため、世界中に普及している。
司法解剖のために死体を回収しようとする救急隊員は、マホイップが必死に死体に縋り付くので、困り果てていた。見かねた警官がマホイップを引きはがすと、悲鳴を上げてばたばたともがいた。
「この男のポケモンだったのか」
「ええー、幻滅っす。 此処のケーキ、バイトのアタシがいうのも何だけど、凄く美味かったんですよ。 てっきり店長が作ってると思ってたのに」
「店長が作っていたんだろう」
「いや、そのマホイップの渾名ッすよ。 店長が姿を見せなかったから、そのマホイップが店長って呼ばれていて」
そしてバイトが吐き捨てる。
趣味悪、と。
マホイップが悲鳴を止めて、バイトを見る。完全にゴミを見る目で、マホイップをバイトは見下していた。
「このツラで、マホイップみたいな愛玩ポケモン側に置いてたとか、気色悪いったらねーっつーの。 どーせセンズリこくのにでも使ってたんだろ」
「君、死者に対して……」
「死人に口無しでしょ。 マジで吐き気がするわ」
バイトが外に出ていく。
呆れた様子で、救急隊員達が、既に冷たくなっている店長を運び出し。そして病院で死亡が確認された。
店長の素性も確認された。
名前はカーネーション。
地方によって人の名前はそれぞれ違う傾向がある。場所によっては色だったりするが。ガラル地方では花を名前に使う事が普通だ。
このカーネーションという男、学校も殆ど行っておらず。ほぼ無学の状態で親から店を引き継いだこと。ポケモンの捕獲免許は持っているものの、マホイップが進化する前のマホミル以外のポケモンを捕まえた形跡が無いことが判明した。
マホミルは彼方此方にいるミルククラウンを思わせる姿をしたポケモンで、空中を浮遊して主に移動する。このマホミルに特殊な糖分を与える事でマホイップに進化する。こういう風に、ちょっとした刺激で大きく姿を変えるポケモンは珍しく無い。
カーネーションという男は、免許をこのマホミル捕獲のためだけに取った様子で。周辺の住民から、姿を見られた形跡が無いことなどが分かった。
カーネーションの側で、「店長」と渾名されていたマホイップは、ずっと泣いていた。こんなに悲しそうにマホイップが泣くのを初めて見るというスタッフもいたし。まるでバケモノのような容姿のカーネーションを見て、暴言を吐いた店のバイト同様気味悪がる者もいた。
「よっぽどこのマホイップを溺愛していたんでしょうね。 何に使っていたのやら」
「ケーキの評判は良かったようですが……」
「いずれにしても家族もいないんだろう。 無縁墓地行きだな」
「検死だけ済ませたら、後は行政機関に手数料だけ請求しておいてくれ。 まったく、死体が腐る前だったのが幸いだったな」
泣きながらカーネーションの死体に取りすがっているマホイップが、看護師達に引きはがされる。
三十センチほどとはいえ、マホイップはポケモンだ。
必死に縋り付くと。相応に引きはがすのは大変である。
舌打ちした看護師の一人が、鎮静剤をマホイップに打ち込んで、動きが弱った所で引きはがし。
そして病院の外に放り捨てた。
ぐったりしたマホイップを、不思議そうに住民達は見ていた。
それから二日後。
無縁墓地で泣いているマホイップがいると噂になったが。一週間もしないうちに噂は消えた。
エンジンシティの一角にあったケーキ屋は取りつぶされ。
そして、そこのケーキ屋では、いかがわしいやり方で作られたケーキが売られていたという噂が流された。
噂を流したのは、主に其所で働いていたバイトだったが。
人脈が相応にあったらしく。あっと言う間に噂は広がった。
曰くバケモノのようなツラをした店長が、マホイップを虐待してケーキを作らせていた。
それどころか、マホイップに口に出来ないような事を連日していた。
あのケーキには依存性の強い薬物も含まれていた。
ガラルには悪人が少ない。概ね気が良い連中が暮らしていて、幸福度も高い。
それは事実だ。
だが、それでもこういった噂は流れ飛び交う。
愛されたケーキ屋は一瞬にしてその信頼を失い。潰された後は、ただ中傷を受けるだけの店になった。
そして潰されており、店長だったカーネーションも、その親族も一人もいない今。
その噂を酷いものだと否定する者も、一人もおらず。
むしろ噂を広めるのに荷担するばかりだった。
いつの時代も、人間は他人を貶めるのが大好きだし。
自分より下の存在を作って見下すのが大好きなのである。
それから少しして。
ポケモンを扱う人間が通う総合施設、ポケモンセンターにて、愛くるしくお客にクリームを載せた木の実を振る舞ってくれるマホイップがいると噂になった。エンジンシティには何カ所かポケモンセンターがあるのだが、その全てでマホイップの目撃例があった。
元々マホイップはとても人間に友好的なポケモンである。
クリームを載せた木の実はとても美味しいという事で。一時的に名物ポケモンを見に来る客も増えた。
だが、ポケモンセンター側は困惑した。
人間に仕える事を主とする小型のエスパータイプポケモンであるイエッサンや、警備などを得意とする大型犬に似たウィンディなどのポケモンなら兎も角。マホイップがなんで自主的にポケモンセンターに来て、しかも客に愛くるしく振る舞うのか分からなかったからである。
更に、そのマホイップは。ポケモンセンターで放映される、チャンピオンリーグを必ず見に来ていた。
ポケモンを使い、特定の条件で行われる戦い。
その中でも上位に君臨し。
各地に存在する「ジム」のリーダー達がトップを競うポケモンリーグは、地方を問わず世界の名物だし。
当然ガラルでも人気がある。
ましてや今は、10歳でチャンピオンに就任して以降、負け知らずのチャンピオン。「英雄」ダンデが圧倒的な強さで人気を誇り。同じく10歳でジムリーダーに就任して以降、好成績を常に維持している「若きドラゴン」キバナも女性ファンに圧倒的な人気を獲得していた。
これに限らず。ポケモンの試合を、マホイップは必ず見に来ていた。
ポケモンには二十に近いタイプが存在し。それが複合しているケースも多い。
そんなタイプごとに各地方でジムが存在しており。
更にリーグにはメジャーリーグとマイナーリーグが存在するため、タイプの倍以上の数、ジムが存在している。
ガラルにおけるフェアリータイプのメジャージムリーダーは、18歳でジムリーダーに就任後、老人になるまで現役でジムリーダーに君臨しているポプラである。
腰が曲がり、鷲鼻の老婆であり。常に紫色の衣服を着込み、ピンクが大好きだと公言している怪人物であり。
その冷静かつ緻密な戦術展開から、魔術師の異名を取る高い力量を誇るトレーナーである。
基本的に成績が落ちるとマイナーリーグ落ちがある厳しいガラルのリーグ制度においても、数十年前からずっと第一線におり。一度もマイナー落ちを経験していない上。
ダンデの前。
少し空白期間が空くが、十八年にわたって無敵のチャンピオンとして降臨していた格闘タイプのトレーナーであるマスタードとは良きライバル関係であり。
そして、ガラルがもっとも悪かった時代をしる人物でもある。
所用でエンジンシティを訪れたポプラは、足を止めると。魔女のようだと言われる鋭い目を不意に光らせる。
お供のポケモンを側に歩かせているトレーナーは多い。
ポプラはポニータを連れ歩いていることが多い。
小柄な馬のような姿をしたポニータは、跳躍力が有名だが。それ以上に、人間の悪意を敏感に察知することで知られる。このため警察などでも採用例があり、犯人などを追い詰めるために、勇敢で忠実なウィンディと組む事が珍しくない。人にもっとも友好的な上に、愛されているポケモンの一種だ。
馬の姿をしたポケモンは、ポニータの進化形で更に大型のギャロップや。更には逞しい農耕馬を思わせるバンバドロなどが存在しているが。力仕事で活躍するバンバドロと比べると、ポニータは小柄で、むしろ速さや心理の洞察に向いている。
当然ポプラのポニータは良く仕込まれていて、いつでもギャロップに進化させることが可能である。
ポプラがリーグ戦で用いるエースのポケモンはマホイップなのだが、普段から彼女はポニータを連れている。それも何代にも渡って、ギャロップに進化する前の個体を、である。
これは、ポプラがガラル地方が腐敗していた時代を知っていたからと言う説があり。
年かさの人間が語りたがらない時代。
ダイマックスエネルギーをマクロコスモスが専売し、現在の豊かで平穏なガラルが出来る前の時代を知っていて。
用心のためにしているという話があった。
今でこそ、子供が平然と路地裏で遊べるくらい平和になったガラルだが。
ダンデが無敵のチャンピオンになる前には、暗黒の時代が存在したのである。誰もが語りたがらない、希望のない世代が。
そのポプラが、買い物を終え。
エンジンシティの顔役との会合も終えた後。
帰ろうとポニータを促して、そして足を止めたのだった。
「どうしたね」
ポニータが怯えている。
良く仕込んだポプラのポニータでなければ、間違いなく逃げ出していただろう。ポニータは悪意に敏感で、慣れていない個体の場合、すぐに逃げ出すのだ。周囲を見るポプラだが、物取りや与太者の類はいない。
念のため、スマホロトム(ロトムを憑依させた携帯デバイス)を取りだし、警察に連絡を入れるポプラ。
他の人間の通報なら兎も角、フェアリータイプのガラルにおける権威の通報である。すぐに警察も駆けつけた。
「ポニータが強烈な悪意を感じている?」
「尋常じゃ無いね。 調べた方が良いだろうよ」
「分かりました。 すぐに調査します」
ポプラがポニータを促すと、怯えきった様子で、ポケモンセンターの方を示す。
目を細めるポプラ。警官隊がすぐにポケモンセンターに向かうが、しばしして小首をかしげて戻って来た。
「特に物取りやスリ置き引き、強盗の類はいませんでした。 関係者に話も聞いてみましたが、トラブルは起きていないそうです」
「この子は特に良く仕込んでいるからね。 それがこんなに怯えるってのは、相当なことだよ。 チャンピオンの坊やがぶっ潰したならず者どもでも、此処までの狂気じみた悪意は放っていなかったものさ」
「一応巡回は入れますが、そこまで心配するほどでしょうか」
「アタシを疑うのかい」
鋭い目に、警官達は明らかにたじろぐ。
だが、ポプラはため息をつくと、スマホロトムを取りだす。
連絡先は、このエンジンシティに居を構える、炎タイプのジムリーダー、カブ。
壮年から老年になろうとしている人物であり。生涯現役を旨とするような人物である。
一度マイナーリーグ落ちも経験している波瀾万丈な経歴の持ち主だが。故にハングリー精神が強く、そして粘り強い戦い方をする。ポプラよりは若いが、高齢でも現役にいるだけの事はある実力者なのだ。
そもそも、どうしてジムが主要都市に必ず存在しているのか。
それは簡単な話で。
昔はポケモンによる犯罪が絶えず。また、強力なポケモンが人間に悪意を持って街などを襲撃する事が多かったからである。
カブは兎に角ストイックな男で、大まじめにトレーニングを行い、常にポケモンとともに自分を磨くことを怠らない。
今も丁度、巨大なムカデのような姿をしている相棒のポケモン、マルヤクデと共にランニングをしていたところのようだった。
「カブかい。 ちょっと伝えておこうと思ってね」
「ポプラさんが僕に連絡とは珍しいですね。 伺いましょう」
「このエンジンシティで、近々大きな問題が起きる可能性がある。 備えておいてくれるかい。 アタシも出来るだけ足を運ぶようにするよ」
「ポプラさんがそういうなら、注意をしておきます」
スマホロトムでの通話を切ると、ポプラは黙々と自宅に戻る。
アラベスクタウンにジムを抱えるポプラは、其所で手飼いのポケモンを多数有しているが。
調整を行うためだ。
ガラルでは、移動手段は主に二つ。一つは鉄道。もう一つは大型の鳥のポケモン、アーマーガアによる空輸タクシー。
そのタクシーでの空路にて、ポプラは連絡を行う。
現在ガラルを事実上支配しているマクロコスモスのリーダー、ローズにも、である。
……結果として、この早期対応が後に、悲劇を多少緩和することになる。
だが、それもあくまで多少。
血の雨が、ガラルに降ろうとしていた。