ポケットモンスター剣盾二次創作シリーズ 作:dwwyakata@2024
がつがつとクララは食事を取る。今は見かけよりも強さ優先。だから食べる。
道場に辿りついたあの時の事はまだ覚えている。
ヨロイ島に運良く辿りついて。食事をして。数日がかりで、少しずつポケモンの回復技などもあって、体調を取り戻していって。
そして、鏡を見せられて。
戻っていた体力もあって、絶叫していた。
其所に映っていたのは、知らない奴だった。
ボロボロ。ガリガリに痩せている。髪の毛はばさばさ。服なんて脱ぎかけで、そもそも服の役に殆ど立っていない。
インディーズアイドルになろうとしていたとき、周囲が勧めるままに買った服とか靴とかアクセサリとか。
そんなのは、全部売ってしまった。
それを思い出したのだ。
今になって思うに、あれは多分タチが悪い商売に引っ掛かったのだと思う。何も知らないで夢を抱いて都会に来たような小娘をだまくらかして稼いでいるような悪徳業者。マクロコスモスが経済を整備してから、そういうのは減ったというのだけれど。たまに間抜けが引っ掛かるとは聞いていた。
そう。その間抜けこそ、クララだったのだ。
何よりも、悲惨な体。
ダイエットに気を付けていたアイドルデビュー前と根本的に違う。
殆ど骨と皮だけ。
皮膚も栄養不足でボロボロ。痣が彼方此方に残っている。擦り傷は化膿しかけている。
爪なんか、ギザギザで。手入れどころでは無かったとは言え。余りにも悲惨すぎる姿だった。
なによりも全身の酷い臭い。
涙が零れてきて、止まらなかった。
動こうにも、満足に動く事さえ出来ず。
ミツバという此処の奥さんに手伝って貰って、風呂に入るのさえ一苦労。フロから上がったあとは、道着を用意して貰ったけれど。それでも、何だか痩せこけたミイラが何か服状のものを来ているようにしか見えなかった。まだ二十歳を少し過ぎたばかりでそれだったのだ。
周囲の奇異の視線も、当然だったのだろう。
そう。それがヨロイ島にクララが辿りついた時の現実。
更には、それだけではなかった。
道場にいる誰もが、クララよりもポケモンバトルの腕が上だった。
手持ちが少ないと対応力が落ちる。だからまずは手持ちのポケモンを増やそう。
そう言われて、外で弱そうなポケモンを探して。何とか毒ガスをまき散らすドガースというポケモンと。スコルピというサソリ型のポケモンを捕まえた。手持ちは四匹になったが、それだけ世話も大変になった。
これ以上の世話は難しいという現実に直面した後は。
まずは一緒に生活してそれぞれと心を合わせ。
進化させられるようなら進化させ。
その後は、戦略を練ってそれに沿って育てようと言われた。
生活費は気にしなくて良いとも言われた。
その代わり、体が治るのとあわせて、道場の手伝いを要求されたが。
道場主のマスタードという老人は飄々としていて余裕があって。絶望の淵にあったクララに、そう根気強く接してくれた。
とはいっても、マスタードはただの気が良い老人などではなかったが。
どんと、食べ終えた食事を置く。片付けを手早やく済ませると、門下生達に混じって、トレーニングマシンに向かう。ポケモン達にも訓練をさせる。
少しでも、やれることはやっておきたい。
奥にあるコートで、今「あいつ」と手合わせしている怪物のようなポケモントレーナー。それがここの道場主、マスタードだ。
マスタードは老境に入っているが、超現役である。トレーナーとしても、格闘家としても。
今まで時々見て来た「もどき」じゃない。テレビに出てくるようなエセじゃない。
本当に人を殺せる格闘技を自在に扱える、本物のプロ。
ここに来た直後は、その実力を感じ取れなかったが。今は違うし。思えば心身が立ち直り始めた頃から、色々としてくれてはいた。
道場で生活し始めて一年くらいした頃だろうか。
やっとの事で、手持ちのポケモン達を進化させた頃に、言われたのだ。
アルバイト代わりに、ポケモンを捕まえてきてほしいと。
小遣い代わりだと。
実の所、道場での衣服は自由だった。道着以外でも良かった。
ここに来て一年もした頃には、精神が不安定ながらも、多少は精神的な安定も戻り始めていて。
汗臭い道着ばかり着るのも嫌になっていた。
だから、頑張ってポケモンを捕まえて。
その過程で、自分の手持ちの力不足を悟らされたのだ。
それでも、その頃には、道場での実力は真ん中くらいまで上がっていたし。昔、一番輝いていた頃の格好を再現しようと思って、お金も欲しくなっていた。
多分だけれども。
マスタードは、クララに経験を積ませようと思っていたのだろう。
それは図に当たった事になる。
今では、マスタードと、ジムリーダークラスの実力を有しているミツバに次ぐ実力を得ている。
この道場のあまり多く無い所属者の中では、だが。つまり大した事は無い。
丁度今来ているゲスト。
彼奴。今、マスタードと、文字通り次元が違う攻防をしている現ガラルのチャンプ。ユウリの足下も及ばない。
悔しいが、それは事実。
バキバキにハンデを貰った戦いで勝てなかった。
その時点で、やっとの事で、前に進む事が出来るようになった。
今は、とにかく力をつけることに躍起になっている。
半年頑張れば、毒ジムのリーダーにしてやる。
負けた後マスタードに言われたその言葉が、クララの力になっていた。
やがて、彼奴とマスタードの戦いが終わる。
どっちが勝ったのかは分からない。
いずれにしても、今はレベルが違いすぎて分からないから、どうでもいい。
互いに礼をしている二人。
ユウリという小娘。
クララにはないものを何でも持っているバケモノ。
身体能力もセンスも、金も社会的地位も優れた容姿もある。性格だっていい。あんなのがいて良いのかと、クララは今でもドス黒い何かを心の奥に感じる。
だけれども、それはそうとして。
今は勝てないという現実は受け止めている。
鍛えなければならない。
そういう事実も、しっかり認識していた。
ユウリが道場を出て行く。二週間ほどだった。二週間で、道場を嵐のように引っかき回し。クララの人生観まで変えてしまった。
彼奴はあのダンデと同じスペシャル。しかも十歳でダンデを破ったという。ガラルどころか、世界最強クラスのトレーナーだというあのダンデを。
それは勝てる訳がない。
そこで、すっかりあきらめがついた。同時に、色々と踏ん切りもついた。
小さく手を振って見送る。
次は、ぶっ潰してやる。
内心でそう呟きながら。勿論ユウリはそれくらいは分かっているのだろうが。それでも笑顔を一切崩さなかった。
そもそもユウリは、あの年で海外の地方の犯罪組織をぶっ潰して回っているとかで。文字通りの実戦の中に身を置いて、国際警察にまで頼られていると聞く。それどころか、国際的な影響力を持つ犯罪組織すら、ユウリの名を聞くと怖れて逃げ出すそうだ。
悔しいが、今は完全に役者が違いすぎる。
だが、見ていろ半年先を。
半年で、まずはマイナーリーグのジムリーダーになってやる。
今なら分かる。
毒ジムのマイナーリーグのリーダーは、万年マイナーリーグをやっているだけの理由がある。
屁理屈をこねくり回し、閉鎖的な環境でイエスマンだけを集め。それでいながら試合で結果を出せないのを自分のせいだと認められない。
だが、そんなのにも勝てないのが今のクララだ。
まずはあの毒ジムの豚野郎をぶっ潰し。
マイナーリーグのジムリーダーになった後は、あの饐えた虐めに満ちたジムを全面改装して。
その後は戦績を重ねてメジャーリーグに昇格し。
やがてユウリと戦って。今度は、勝つ。
今は全く勝ち目が無くとも。
その時には、必ず勝ってやる。
ユウリが行った後、皆に交じってトレーニングをする。まずは体力。身繕いは基礎をしっかりつけてからで良い。
ユウリが行った後、汗臭くて嫌だった道着にまた着替え直した。
これは戒めだ。
貰ったお小遣いをこつこつ貯めて、昔の格好を再現した。服もアクセサリもどれもこれも安物ばかりだけれども。
それでも、インディーズのアイドルとしてデビューする前の格好っぽくする事は出来た。
だが、それはただのさもしい虚飾。
安物で繕ったただの哀れなみすぼらしい蛾。
今度は、ちゃんとしっかり力をつけてから。本物の高級品を買い直して。実力を伴った存在になるのだ。
他の門下生は老若男女様々。
現在十一歳だと聞くユウリと同年代の子から、親のような年の相手まで。同年代の女子もいるが、禁欲的な性格で、殆ど話はあわなかった。
基礎トレーニングをした後、模擬戦をする。
他のトレーナーよりはマシだが。ミツバやマスタードが相手になると、ハンデを貰っても手も足も出ない。
少し前までは、この二人は殆ど門下生との勝負をしなかったのだが。
実際に手合わせをして貰うと、その圧倒的戦力差に愕然とするばかりだった。
特にミツバ。
ポケモントレーナーとして、幼い頃から経験を積んだわけでもない。
孫と祖父ほども年が離れた夫の手ほどきで、此処まで腕を上げたのだという。
元は貿易会社をやっていたお嬢様。
最初は格闘技の経験すらロクになかったとか。
それが今では、その気になれば大岩を持ち上げ、重量級のポケモンを担いで歩き。そればかりか、格闘技でもガラル空手の黒帯クラスを苦も無く捻る実力になっている。正拳突きで、文字通り岩を砕く所も見たことがある。
マスタードの指導力がそれだけ優れている証拠で。
クララだって、負けてはいられなかった。
「クララちゃん、今日から予定通り特別メニューにはいるからね」
「は、はいぃ……」
他の門下生を下がらせた後、息が上がっているクララにマスタードは言う。
見た目は好々爺だが。
少し前から、「今までのように手加減はしない」と言っていて。
実際微塵も容赦が無い。
ただし、歪んだ教育とか、過剰なトレーニングとかを課してくる訳では無く。
ごくごく理論的な事を教えてくるのだった。
まず毒を軸とした戦い方。
ポケモンをどう利用して、場合によっては斬り捨てることを考える。
実戦なら絶対にやってはいけない戦いと、試合ではやらなければならない事をそれぞれ切り替える。
心理戦は相手に対して言葉を投げかけるのではなく、ポケモンの技や動作そのもので行う。
一つずつ、座学で丁寧に教えてくれて。
更に実践もしてくれる。
マスタードは数百を超える手持ちを有しているらしく。それらの大半は基本的に本島に出向いて仕事をしているそうだ。
警察に貸し出されて警備をしたり。
彼方此方で土木工事をしたり。
野生のポケモンが多い地区で見張りをしたりと。場合によっては、軍隊のような仕事もするらしい。
マスタードの専門は格闘タイプのポケモンだが。
格闘以外も殆ど使いこなせるらしく。
多数の手持ちを、門下生のスパーリングに貸し出している。
今日も、座学の後は訓練だ。
しばらくは、多少格上だが相性が良いポケモンと戦って見る。
勝てるようになって来たら、同レベル帯の相性が悪いポケモンをどう攻略するか。
その先は、相性も悪くレベルも上の相手をどう倒すか。
そういう話となって来た。
なお、マスタード自身はスパーリングで指示を出さない。ポケモンに自己判断させている。
要するに、そういう事。
まだマスタードが手を出してしまったら、クララでは手も足も出せないと言う事だ。
まずは典型的な、毒を弱点とするフェアリータイプや草タイプ。更にはその複合型。
ポケモンにはそれぞれ「属性」が存在しているが。それらが複合している場合もある。
そのどちらもが毒に弱い場合、それは決定的な弱点となる。
文字通りの天敵、と言う訳だ。
例えばフェアリータイプのエルフーン。このエルフーンそのものは極めて強力なポケモンで、良くプロの試合にも採用されるそうだが。毒に対しては決定的に弱く、直撃を貰うとかなりの痛打になるという。
空に浮く羊のような姿をした愛らしいポケモンだが。
その一方で、汎用性が極めて高く、器用なポケモンである。
毒が弱点とは言え、油断すると一瞬で落とされかねない。
こういう相手を確実に攻略する所から始めて行く。
手持ちを出して、順番にマスタードの手持ちのエルフーンと戦わせていくが。決定的弱点をつけるというのに勝てない。
七戦やって七連敗。
しかも、エルフーンは余裕でふわふわ浮いている有様である。
完全に伸されている手持ちを回収すると、治療に持っていくクララ。無言で、子供もいるのに若々しいミツバは、手当をしてくれる。
道場で、組み手をする以上怪我人は絶えない。
下手な医者以上に、この人の手当は手慣れていた。
「エルフーンに手も足も出ないようね」
「反則ですよぉ。 マジでどうなってんだかあの強さァ……」
「エルフーンも毒は苦手だから、対策をしているの。 その対策をどうにかして破るのが腕の見せ所よ」
ミツバはあまり余計な事を言わない。
マスタードがあくまでクララを指導しているのであって、あまり横から口出ししない方が良いと思っているのだろう。
エルフーンはふわふわ浮いているようで、今のクララのどの手持ちより動きが速い。
そして毒を持つポケモンに対しての切り札を幾つも持っている。
詐欺だとぼやきたくなるが。
それでも、まだ勝ち目がある相手だ。
マスタードがついていないのだ。
どうにかして裏をつけないか。クララの手持ちはみんな人間がサポートしている上に、訓練を積んでいるポケモンなのである。ポケモン単体の自己判断より強いはずだ。
鍛錬を重ねて強くするのもありだろう。
事実、チャンプ。ユウリのポケモン達は、どいつもこいつもバケモノのような強さだった。重武装し、重量級のポケモンをたくさん持っている犯罪組織とやりあって、真正面から制圧するという話を聞いているけれども。それも頷ける。
ともかく、相手の速さを抜けない。
ポケモンをピンポイントで強くする道具類もあるけれども、高くてとても手が出せない。ジムリーダーになれば買うこともできそうだけれど。今小遣い稼ぎに行っているポケモン捕獲では、とても買える品では無い。
何回か、マスタードに相談してみるが。
聞いた事は丁寧に答えてはくれるが。
聞いた事以上は教えてくれない。
考えるように。そう促されているのが分かる。上手に誘導はしてくれるが、決定的な所では自分で考えるように仕向けられている。
悔しいけれど。今は考えながら、試行錯誤をして行くしか無い。
ユウリが去ってから、一週間が経過。
まだエルフーン相手には、一本も取ることが出来ずにいた。
訓練を重ねて、手持ちのポケモンを鍛える。
マスタード師匠から貰った、神速を誇るヤドンはまだ実戦に投入できそうにない。野良のポケモンと戦わせたり、ピンポイントで技を鍛えさせたりして。マタドガス、ドラピオン、ペンドラーを鍛える。それぞれドガース、スコルピ、フシデから成長したポケモン達である。
ヤドランとは、昔から一緒にいるので、息があっているが。
だからこそ、どういう風にこれ以上鍛えて良いのか、よく分からなかった。
他の門下生と組み手をさせてみて、少しずつ分かってくる事がある。
どうもペンドラーの動きなら、もっと加速させられるかも知れない。
ペンドラーは元々そこそこに強いポケモンだと聞いた事もある。
エルフーンの動きを抜いて、ペンドラーが得意とする毒技を叩き込めば。或いは。
しかしながら、エルフーンは守りも堅く、火力もある。
要するにあらゆる全てが強い。
やはり、基礎的な能力を上げるしかないのか。
守りを得意とするマタドガスを起点にして、持久戦を挑む策も今まで何回か試したことがあるのだが。
毒での持久戦は初歩の初歩。
チャンプにまるで通じなかったように。
エルフーンもその手は食わないとばかりに、超火力で容赦なく沈めに来る。その上此方の足を止める搦め手もたくさん持っているので、手に負えない。
ポケモンを変えて見てはどうか。
そういうアドバイスも受ける。
事実、タイプ統一のジムでは。基本的に、弱点をどう補完するかが大事になっていると聞いている。
少し悩んだ後。マスタードに話をしに行く。もっと強くするにはどうしたらいいのか、と。
やはりクララの手持ちは基礎能力が足りていない。
チャンプに一矢報いた一撃も、長年一緒にいるヤドランによるラッキーヒットだった。
それなら、力をつけるしかない。
「ふーむ、そういう結論もまたアリかな」
「アタシも行き詰まるのは辛いんですよォ」
「……ジムリーダー戦では、基本的にポケモンの能力に制限を掛けるような方法は採っていないからね。 極限まで鍛え上げたポケモンが、相性をひっくり返して相手をねじ伏せる事はままあるよん」
頷くクララ。
多分だが、ペンドラーなら、極限まで鍛えればエルフーンの守りの上から相手をねじ伏せられると見ている。
チャンプが連れていたような強力なポケモンにまで鍛えれば。
だが、マスタードは言う。
「だが其所までの強さを得るには、ポケモンとの信頼関係が重要になるんだよん」
「信頼関係?」
「ポケモンは動物だからね。 言葉は通じても動物は、基本的に自分よりも弱い相手には従わないの。 特にペンドラーみたいに自分自身の強さで生き抜いていくようなポケモンは、家族を守るよりも、まず自分が生き残る事を優先するわけよ」
それは、そうかも知れない。
チャンプは兎に角、ガキなのに圧倒的に強かった。身体能力が無茶苦茶に凄まじかった。
あの強さには説得力があった。何食ったらああなるのか知りたい程だ。
あれならば、生半可なポケモンでは逆らおうとしないだろう。
そもそも、野良のワルビアルが、チャンプに恐れを成して、近づけないのを目にもしている。
力だけでチャンプが手持ちを従えているとは思えないが。
逆に言うと、力もないと、信頼関係も生じないと言う事か。
でも、クララには。そんな圧倒的な人外じみた力はない。
ミツバみたいに、拳で岩を砕いたり。
マスタードみたいに、黒帯クラスのガラル空手の達人を赤子扱いでひねり潰したり。
チャンプみたいに、階段だろうが沼地だろうが自転車で爆走し、高木から飛び降りて怪我一つしないとか。
そんな異次元じみた力は無い。
現状では、恐らく従えられる限界点までポケモンは強くなっていると、マスタードは追い打ちの言葉を発する。
分かっている。言われなくても。
何だか、涙が零れてくる。
結局、弱いのが原因じゃないか。
前だって、余程の間抜けしか騙されないような悪徳事務所にだまくらかされて、デビューライブは地獄になった。
あれだって、クララはライブのためにたくさんお金をだした。そのお金は、悪い奴らが高笑いしながら使ったのだろう。
毒ジムでだって。クララが弱くなければ、あんな連中くらい返り討ちに出来た筈。
何度か情けなく目を擦っていると。
マスタードは言うのだった。
「ならば、クララちゃん。 少し早いが実戦訓練をはじめてみるかい?」
「命のやりとり、と言う事ですかァ?」
「そういう事よん」
マスタードは、視線で指す。
ヨロイ島に幾つかある危険な洞窟。其所に行って、十五匹以上ポケモンを捕まえてこい、というものだった。
その洞窟は知っている。中には強力なドラゴンポケモンもいる。
ドラゴンポケモンは、十五匹の中に三匹以上混ぜること、という厳しい条件もついた。
おもわず、息を呑んでしまうけれども。
マスタードは、静かに笑みを浮かべている。
精神的な壁はどうにかなったのだ。だったら次は物理的な壁か。
しばらく、ぎゅっと拳を握りしめていたが。クララは決意して、顔を上げていた。
「うち、やりますっ!」
「ん、良い決意だ。 それでは、早速今から行っておいで。 ああそうそう、これは遊びじゃないから。 本当に死ぬって状況になったら助けてあげるけれど、それ以外は助けないからね?」
ぞっとする事を笑顔のまま言われるけれど。
それくらいやらないと、これ以上どうにかすることは出来ないだろう。
頬を叩く。
これ、確かダンデがやっている奴だっけ。試合の時に気合いを入れるためにやっているのを、何度か見たことがある。
誰の真似でも良い。兎も角、今は基礎能力を上げるしか無い。
マスタードは本当に容赦しなくなった。今まで適当に手を抜いていた分を、取り返すように。
だったら、その分クララも応えなければならないだろう。
勝つ。少なくとも、クララの人生を滅茶苦茶にした奴らには勝つ。
一生、チャンプにはなれないかも知れない。彼奴、ユウリの圧倒的過ぎる強さを思うと、それはどうしても感じる。
しかもユウリの天下は十数年は安泰だろうと、マスタードが太鼓判を押していた程である。
クララがどうにか出来る相手では無い。それでも、万が一以下の確率にでも賭けたい。駄目だとしても、少なくとも意地は見せたい。この世に生きた証を作りたい。
もう、伸びる年頃はとっくに過ぎている。
それでも、なんとしてでも。やれるところまで、やりたかった。