ポケットモンスター剣盾二次創作シリーズ   作:dwwyakata@2024

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2、加速する鍛錬

兎に角、徹底的にマタドガスに粘らせる。エルフーンが根負けするまで、徹底的に、である。

 

エルフーンは今までのように、速さと火力だけで上を取れなくなったと判断すると、回復技や防御技まで解禁するようになった。更に言うと、速さを更に上げる技まで使ってきた。

 

そのまま脳筋で戦っていたら絶対に勝てなかっただろう。

 

だが、クララのポケモン達も地力を挙げている。

 

マスタードが、ミツバに扱いを任せて、訓練をした後本土に送っているポケモン達。その中の一割ほどは、現在はクララが捕まえた者達になっている。

 

洞窟での十五匹ポケモン捕獲で、文字通り死にかけたが。

 

それでもやりきった。

 

その後は二十匹。三十匹と捕獲する数が増え。洞窟だけではなく、海や密林にも出るようになった。

 

自分の力が嫌でもついていくのを感じた。手持ちのポケモン達も、クララの強さを認めて、ついてきてくれるようになった。

 

だからこそ、自信を持って指示を出せる。

 

そしてその過程で嫌でも分かった。今まで手持ち達が、クララの実力を見て、故に信頼を寄せてくれなかったことも。ずっと一緒にいるヤドラン以外は皆そうだ。考えてみれば、チャンプとの戦いの時だって、一方的に叩きのめされるばかりだった。そんなトレーナーを、ポケモンが信頼してくれるはずもない。

 

力が上がってきた分、ポケモン達も強くなってくる。

 

そして、ついに決定的な機会が来る。

 

隙を見せたエルフーン。ガス欠を起こしたのだ。マタドガスがエルフーンの火力に耐えきったのだ。攻めあぐねたエルフーンが、一瞬躊躇する。其所でペンドラーを交代させ。更にダイマックスさせる。負けじとエルフーンがダイマックスしたところに、ダイマックスで強化した毒液を叩き込む。

 

恐らく、始めて完全にクリーンヒットが入った。

 

だが、恐らくエルフーンは頭に来たのだろう。

 

今までより更に上の火力を繰り出し、処理に掛かってくる。

 

サイコパワーに押し潰されるペンドラー。ダイマックスが、一撃で消し飛んだ。

 

この辺りは、相手が格上故。だが、それでも相手に痛打を与える事には成功したのだ。此処まで完全に頭に来ているエルフーンは初めて見た。格下相手に痛打を与えられて、それは頭に来るだろう。

 

更に激怒しているエルフーンの怒濤の猛攻は続く。

 

もう少し時間を稼げと繰り出したマタドガスも、ドラピオンも、文字通り瞬時にねじ伏せられる。

 

だが、これで最後だ。

 

マスタードに教えて貰った捨て石のやり方。実戦ではやってはいけない。だが、試合でなら。相手のダイマックスを枯らすために、敢えて捨て石になって貰う手はある。

 

繰り出したヤドラン。同時にダイマックスが解けるエルフーン。

 

笑顔で浮いているエルフーンだが、もう完全に余力無し。此処で、とどめを刺させて貰う。

 

だが、加速したエルフーンがなお早い。最後の一撃に出てくる。そして、その最後の一撃が、此方を倒せるのはほぼ確実。元々格上の相手なのだ。

 

駄目か、と思ったが。

 

瞬間的に毒液を手につけている巻き貝の先端から噴出したヤドランが、ついにエルフーンを吹っ飛ばした。チャンプに一矢報いた技である。馬鹿の一つ覚えだが、それでも勝ちは勝ちだ。

 

呼吸を整えながら、コートを見る。

 

目を回しているエルフーン。頷くと、マスタードは、親指を立てた。

 

「ごくろうちん。 よくやったねクララちゃん」

 

「ありがとうございます、師匠」

 

「ふふふ、それじゃあ皆を休ませてあげてちょん。 限界が来ているだろうからね」

 

「はい」

 

少ししゃべり方が快活になっている気がする。

 

そういえば。

 

無駄に色気を意識したしゃべり方をするようになったのって、いつからだったか。これに荒んだ心が加わって、何だかろくでもないしゃべり方になっていた気がする。

 

少しずつ、しゃべり方も戻したい。

 

アイドルをやるつもりはない。

 

毒ジムのあの豚野郎を叩きのめした後。毒ジムを自分好みに変えるとしても。芸能界を意識するつもりもない。

 

休憩に入る。

 

皆に労いの言葉を掛ける。

 

そうすると、分かるのだ。主力にしている手持ち達が、自分を信頼してきてくれているという事が。

 

特に超格上のエルフーンを倒せたことは大きかった。

 

確かに今までは、特にドラピオンはクララに対して、何処か一線を引いて対応していた気がする。

 

クララ自身も、チャンプに対してまとめてけしかけて、自分は逃げるとか。トレーナーとしてはやってはいけない事をしていた気もする。

 

だからこそ。

 

これから、取り返していきたい。

 

精神論は何の役にも立たない。

 

だが、戦闘で手綱を引く以上、信頼関係は重要だ。

 

ポケモンに乗る事が地方によってはあるらしいが。これなどは顕著で、ポケモンも信頼していない相手なんて乗せるわけがない。特別に訓練されたポケモンは誰でも乗せるそうだが、その代わりストレスが尋常では無いと聞いている。

 

一眠りする。

 

ちゃんと眠った後起きだす。早朝。早朝に起きることはもう苦では無い。身繕いをして、朝ご飯を食べて。

 

トレーニングも自主的にする。

 

そういえば、前みたいに分厚く化粧はしなくなったし。訓練の時は道着にするようになっていた。

 

少しずつ貯金もしていて。

 

自分の美意識に沿った服も、ちょっとずつ揃えるようになりはじめていた。

 

もしもトレーナーとして。ジムリーダーになったら。

 

昔、詐欺事務所に押しつけられた服でなく。

 

自分で選んだ服で、ジムリーダー戦のコートに立とう。

 

そう決める。

 

更に早くから起きていたマスタードが呼びに来る。昔はいけ好かない爺だと思っていたが。いつの間にか。尊敬できる相手に変わっていた。

 

「今日から相手を変えるよん。 コートにおいで」

 

「分かりました。 すぐに」

 

「それと、次の相手を倒せたら、手持ちのヤドン用に進化の道具を用意しておいたからね」

 

ヤドンの進化。

 

何だろう。

 

冠だろうか。

 

彼方此方に棲息しているヤドンは、進化方法が違っていると聞いている。貝のポケモンであるシェルダーと融合することにより、シェルダーも形を変え。更にヤドンも別物で変わる。

 

具体的には知能が上がるのだが。それをやるためには、地方によって方法が違う。

 

ガラルでは、ガラナツという植物の枝を用いる。ヤドランに進化させるときもそうだし、ヤドキングに進化させるときもしかり。

 

ヤドランに進化させるときは、それこそ有り金をはたく覚悟で行った。

 

ヤドキングは更にお金が掛かると聞いている。

 

ちょっとひやりとしたが。

 

マスタードは、まあ甘くは無いだろう。

 

コートに出ると、マホイップがいる。チャンプが使っていた、血のような体色の、目つきからして殺意に満ちていた個体じゃない。ごく普通の、人間に友好的な、ピンク色の愛くるしい見た目のマホイップだ。ホイップクリームを人型にしたようなこのポケモンは、実は戦闘力が高く、充分に実戦に投入できる力があると聞いている。

 

「エルフーンよりも更に頑強で、毒は効くけれどエルフーンよりは効きが悪いマホイップが次は相手だよん。 この子を倒せたら、今度は毒が効きづらい相手を用意するから、頑張ってみてね」

 

「はい、分かりましたァ、師匠!」

 

「少し返事も元気になったね。 じゃあ、無理はさせすぎない程度に戦うんだよ」

 

ポケモンを潰すな。

 

そういう意味だ。

 

自分は極限まで磨け。そういう意味でもある。

 

コートに突っ立っているマホイップは、決して隙だらけには見えないが。あのマスタード師匠が育てた個体だ。

 

弱い訳がない。

 

早速マタドガスを出すが。戦闘態勢に入ると、瞬時に雰囲気が変わった。

 

文字通り、マホイップが手を振るっただけで、叩き潰されるマタドガス。

 

エルフーンよりも、更に動きが速い。

 

これは、毒にエルフーンよりも強いだけではなく。

 

基礎能力からして更に一段階上の相手を出してきた、と言う事か。

 

ともかく今の技を解析。

 

恐らくはエルフーンも使って来たサイコキネシスだと思うが、火力も展開速度も段違いだ。

 

流石師匠。

 

乾いた笑いが漏れる。

 

スパルタだ。一勝したくらいで、油断なんてとてもではないけれどさせてくれない。

 

一回目の戦いは、文字通りコテンパンにされた。

 

相手は油断どころか、消耗すら殆どしていない。

 

少し時間をおいて、ポケモンを回復させてから二度目を挑む。攻略の糸口が見つからない。単純な動きはエルフーンほど早くは無いのだが、その代わり技の展開速度が凄まじく、ついでに堅牢極まりない。毒を浴びせることには成功したが、なんと超再生力を駆使して一瞬で回復してみせる。

 

仏頂面だ。大きさだって子供の背丈にも届かない。

 

だが、あれは要塞だ。

 

ただでさえ、強力なサイコパワーで此方の攻撃を軽減してくる。それに加えて、多少打撃を与えても回復されるのでは話にもならない。

 

だが、あの鉄壁に思えたエルフーンを攻略できたのだ。

 

此奴はまだ、毒が弱点のポケモン。

 

毒を文字通り無効化する、鋼タイプのような天敵ではない。此奴を倒せないようでは。毒ジムでクララに暴虐を振るったあの豚には絶対に勝てない。

 

三戦目で一旦切り上げると、マスタードに自分から申し出る。

 

ヨロイ島の強いポケモンを捕まえてくると。

 

マスタードは頷くと、門下生数人に声を掛けた。一人で三十匹を捕獲してきたクララだ。必要はないと言おうと思ったのだが。違っていた。

 

「門下生と協力して、今日中に三十匹捕まえてきてちょん」

 

そうか、そう来たか。

 

今までは期限無しでの捕獲だった。連携しての作業。それも、かなりの必要捕獲数。簡単ではない。

 

それに、一時期のクララは、怖くて他人の目も見られなかった。

 

今、それを完全に克服しなければならない。

 

頷くと、狩りにでる。

 

急げ。マスタードだって、いつまでもクララにばっかり時間を掛けてはいられないだろう。

 

あのマホイップは強敵だが、いつまでも手間取っている訳にはいかない。

 

もっと強く。己を鍛え上げ、ポケモンの力を引き出せ。

 

自分に言い聞かせながら、クララは。自転車でサメハダーのいる海でも平然と爆走していたチャンプを思い出しながら。危険なポケモンがうようよいる密林に、敢えて足を踏み入れていた。

 

 

 

粗い呼吸のまま、コートを見据える。

 

コートの上で、ついにマホイップの鉄壁を、ドラピオンの豪腕が打ち破った。

 

目を回しているマホイップを、ミツバが回収していく。

 

ドラピオンもボロボロ。

 

ダイマックスも使い切っての死闘だったが。それでも、どうにかなった。

 

尻餅はつかない。だが、膝はがくがくで、座り込んでしまうのは避けられなかった。

 

呼吸を整えていく。やっと、倒せた。自分の力を上げ。手持ちの実力を伸ばし。

 

ようやくだ。

 

頭をかきむしる。随分時間が掛かってしまった。

 

恐らく次は、毒を弱点とするフェアリータイプじゃない。毒に対して別に弱点でもなく、耐性があるわけでは無い。例えば電気タイプとかが出てくる筈だ。

 

電気タイプと言えば、チャンプが出してきたデンチュラを思い出す。

 

彼奴はとんでもなかった。

 

今でも身震いがある。あれだけハンデを貰って、それでも勝てなかった。今でも、そのままでは勝てないだろう。

 

ともかく、笑っている膝を黙らせて。

 

ポケモンを回収すると、休む。

 

夕食の時間くらいにやっと動けるようになったので。

 

食事は食べに出た。

 

其所で、思い出す。

 

そういえば、ヤドンの進化用道具を貰えるという話だったではないか。

 

食事を済ませると、案の定コートに呼び出される。

 

前に捕獲した、いや譲り受けた神速のヤドンを連れてコートに向かう。

 

ポケモンの進化は、段階を経て強くなる場合と。途中で分岐する場合があるのだけれども。

 

ヤドンは後者。

 

ヤドランからヤドキングになる事はない。

 

こういう進化の仕方をするポケモンは、基本的に進化先がそれぞれ違う性質を持っていて。一概にどっちが強いとは言えない。

 

コートでは、笑顔のミツバと、マスタードが待っていた。

 

用意されていたのは、ガラナツを編んで作った王冠。

 

やはり、ヤドキングにするのか。

 

コートで、ヤドンに王冠をかぶせる。

 

そうすることで、ヤドンが光を帯び始める。

 

進化の過程は様々だけれども。ともかく、ヤドンがシェルダーと融合して、高い知能を持つようになる。

 

それがヤドキングだ。

 

光が収まったときには。

 

二足歩行になり。何だか目つきが悪くなったヤドランが、巻き貝の冠を被っていた。噂によると、ヤドンではなく、巻き貝の形になったシェルダーの方が意思を持っているらしいが。あくまで噂。真相は分からない。学者にでも聞いてみなければ、その辺ははっきりしないだろう。

 

「さて、此処からはトレーナーと戦って貰おうねん」

 

「トレーナーですかァ?」

 

「そうそう。 丁度ジムリーダーになったばかりの子が、来てくれているからね」

 

コートの奥から姿を見せるのは。

 

あのチャンプと同年代に思える女の子だった。

 

黒い髪の毛にそり込みを入れていて、ツインテールにしていると言う、攻めに攻めた激しい髪型をしている。ついでに爪も真っ黒。どういうネイルを入れているのか。

 

服もレザー系で固めていたりと、何かやばそうな雰囲気だが。

 

その割りに表情は仏頂面で、極めて寡黙だった。化粧もしていない。

 

「紹介しようね。 悪ジムのジムリーダーになったばかりのマリィちゃん。 もうメジャーリーグ所属なのよん。 マリィちゃん、よろしくちゃん」

 

「よろしくお願いします、マスタード師匠」

 

笑顔の一つも浮かべない仏頂面だが、ツインテールがひょいと跳び上がるくらい頭を下げている。

 

これはひょっとしてだが、単に他人づきあいが苦手なだけか。

 

そう思うと、ちょっと面白い。

 

これだけ攻めまくったファッションで身を固めておきながら、本人は恥ずかしがり屋というのは。

 

なんというか、強烈だ。

 

それも、アイドルがやっているような「作り」ではなくて素の性格だろう。

 

ちょっと羨ましい。

 

手持ちはモルペコだけか。

 

電気タイプと悪タイプを切り替えながら戦う珍しいポケモンで、直立した鼠に似ている。電気の鼠というとかのピカチュウが有名だが、モルペコをはじめとして似た姿のポケモンは数種類いる。モルペコは、耐久力には欠けるが、火力は高い。更に弱点を切り替えるその特性を生かして、変幻自在の戦い方をすると聞いている。

 

実物が戦うのは見た事がないので、座学で教わっただけだが。

 

まさか、いきなり新米とは言えジムリーダー、それもメジャー級が相手か。

 

此方の手持ちは五体。しかし、数的優位なんぞ圧倒的な力の前には役に立たない。それは身に染みて分かっている。

 

しかも、手持ちのうちヤドキングは、進化したばかり。まだ信頼関係も何も無い。

 

最初は、胸を借りるつもりで行くか。

 

多分、年が半分くらいの相手に、胸を借りるというのもおかしな話だが。

 

勝てなくても仕方が無い。

 

むしろ、技を見せて盗ませて貰おう。

 

それくらいの心理的余裕が、いつの間にかクララには生じていた。

 

コートで、向かい合って立った後、礼。

 

そのまま距離を取って、試合開始。

 

話は既に向こうには行っているらしい。マリィが使ってくるのはモルペコだけ。対峙してみて分かったが、今まで戦ったエルフーンやマホイップと比べると、一段格が落ちる相手だ。

 

しかしながらトレーナー付きである。

 

そういう意味では、どれくらい相手が化けるのか分からない。

 

すぐにマタドガスを出し、毒を浴びせて持久戦という、毒タイプの型通りの戦い方に出ようとする。

 

初手で潰しに来る事も想定している。

 

だが、相手の動きは。クララが想像しているよりも、遙かに早かった。

 

今、マリィはメジャーリーグにいるそうだが。

 

そういうトレーナーは、いちいち声を掛けて技なんか指示しない。

 

そういえば、彼奴も。チャンプも、殆ど指示をしている様に見えなかったのに、意のままにポケモンを操っていたっけ。

 

どうやっているのか。

 

何の迷いもなくオーラぐるまと呼ばれる技で突貫してきたモルペコに、マタドガスが吹っ飛ばされる。

 

動きを見るどころじゃない。

 

そのまま、五体ごぼう抜きにされ。

 

緒戦は散々な結果に終わる。

 

流石は魔境と言われるガラルのメジャーリーグに所属している現役ジムリーダー。力の差は歴然だ。

 

しかも、一体しか手持ちを使っていない。

 

こんなに力の差があるのか。

 

だが、まだクララは弱いのだ。当然である。

 

「もう一戦、お願い出来ますかぁ、先輩」

 

「先輩!?」

 

「うふ。 だってぇ、ポケモントレーナーとしての経歴はずっと上でしょう?」

 

「それは、そうだけんども」

 

何か妙な訛りもある。

 

色々面白い子だなあ。だが、先輩だと思って敬意を払うことに対して嘘は無い。実際問題、経歴も才覚も上の相手だ。

 

モルペコは、今までの要塞のような相手とは違う。

 

動きさえ見きって一発大きいのを叩き込めば、多分勝負は出来る筈。

 

更に言えば。野良のポケモンを捕まえる過程で、手持ちのポケモン達にも、毒以外の技を色々覚えさせている。

 

特に毒にとって天敵となる鋼対策として、炎や格闘関連の技もしっかり覚えさせるようにはしている。

 

何度か戦って、観察させて貰う。

 

これは公式試合じゃない。

 

更に言えばハンディキャップマッチ。

 

相手は手の内を簡単には見せてくれないかも知れないけれど。

 

それでも、もしも負けるようなことがあれば。ムキになって、奥の手を晒してくれるかも知れない。

 

そうなればしめたものだ。

 

二戦目。

 

いきなりマタドガスに防御をガチガチに固めさせ、オーラぐるまを耐えさせる構えに入る。

 

だが、いきなり近距離にすり足で超高速にて寄ってきたモルペコが。マタドガスに、強烈な電気を纏った拳を叩き込んできた。

 

インファイターでもあるのか此奴。

 

小柄なポケモンでも、パワーがある奴はある。ブースターという炎を使うポケモンも怪力で有名だが。モルペコも見た目とはまるで裏腹のパワーだ。

 

遠距離からのオーラぐるまかと思っていたマタドガスが、モロに不意を突かれて、空中に吹っ飛び。

 

地面に叩き付けられる。

 

当然、即戦闘不能である。

 

更に続いて、電気技の代名詞、雷撃をぶっ放す通称10万ボルトを叩き込んでくるモルペコ。マタドガスの代わりに出たペンドラーがエジキになり、黒焦げになって倒れる。

 

無表情のまま淡々と戦うマリィは、言動のかわいらしさと裏腹に。戦闘ではそのポーカーフェイスというか仮面ぶりが武器になる訳か。

 

しかし、どうやって指示を出している。

 

心が通じているというにしても、極端ではあるまいか。

 

ポケモンに自己判断させているとは思えない。あの先を読んだ近接戦闘への持ち込みっぷり、明らかに手慣れている人間的戦術判断だ。

 

観察しろ。やり方が何かある筈だ。

 

色々教わったはずだ。座学での知識を思い出せ。そう言い聞かせるが、戦闘中に覚醒するほど世界は甘くない。

 

三回やって、三回とも負けた。

 

三度目の戦いが終わった後、一休憩入れる。

 

マリィは何かに備えて訓練に来たとかで、今夜だけしかいないらしい。明日の朝一には帰ってしまうそうだ。出来れば、可能な限り技を見せて欲しい。

 

軽く休憩しながら、チャンプの話を聞く。

 

マリィはたどたどしく通常語で喋る。本人も訛りを気にしているのだろう。

 

「あの子は完全にスペシャルだから。 同期にも何人か凄いのいるけど、あの子は別格で、勝てたことない」

 

「アタシもなのよぉ。 何食ったらあんなに強くなるんだか……」

 

「食べ物? 何でも食べるみたいだけれど……そうだ、一度一緒にキャンプしたとき、ポケモンと一緒に木の実とかその辺で拾った得体が知れない骨とかどばどば入れたカレー食べてた。 流石にその時は遠慮させて貰ったかな……」

 

「……」

 

まさか素で返してくるとは思わなかった。そして、思わず真顔になる内容である。

 

そうか、あんにゃろう。とんでもない悪食なのか。

 

チャンプが育ちが良い事は一目で分かったのだが、逆にそれが故にゲテモノくらいは全然大丈夫なのかも知れない。

 

普通、カレーは人間用とポケモン用で具材から何まで分けるのが当たり前なのだが。

 

そうか、平然とポケモン用の木の実とか食べていたのかあのバケモノ。

 

強い理由に更に謎の説得力が出来たが。

 

それでも、負ける訳にはいかない。

 

休憩を挟んだ後、更にもう何マッチか試合をさせてもらう。

 

どうやら日中、マリィはマスタードやミツバと散々試合をしたらしく。別にそれで不満を見せる事はなかった。

 

或いはハンデキャップマッチそのものが修練扱いなのかも知れない。

 

結局六試合やって、モルペコの雷光のような速さと、文字通り岩を穿つ火力に圧倒されて、一勝も出来なかった。一回だけ攻撃を擦らせることがで来たが、それだけだった。

 

かなり強くなってきたはずなのに。

 

チャンプにしても、後でマスタードに聞いたけれど。クララとの戦いで使ったデンチュラは試合用の個体では無かったと聞いている。

 

力の差は、まだとんでもなく大きいのだ。

 

だから貪欲に、全て取り込みたい。

 

握手して試合を終えるが、マリィは意外に気前よく教えてくれた。

 

「ああ、モルペコへの指示なら、ハンドサインで出してるの」

 

「ハンドサイン」

 

「そう。 それも、モンスターボール投げるときとか、次の相手が出てくるときとかに」

 

そういえば。

 

確かに、モルペコは。クララのポケモンを一体倒すごとに、マリィの方を見ていた。マリィは仏頂面で何か口にするようなことは無かったけれど。そうか、手元を動かして指示を出していたのか。

 

あれは褒めてくれと言うような意思表示では無く。

 

綿密に打ち合わされた上で、戦術判断を仰いでいたのか。

 

そうか、それでは確かに変幻自在の技を繰り出してくるわけだ。モルペコの特性に沿った、最も賢いやり方とも言える。

 

採用しよう。すぐにクララは決める。

 

そもそも、動きにラグが生じていて。それで素早いポケモンには苦労していたという事実がある。

 

ハンドサインというものがある事は知っていたが。ポケモンの目は基本的に人間よりも良い。

 

覚えさせれば、それこそ今までのラグを帳消しに出来る筈だ。

 

翌日、マリィが帰って行く。

 

手を振って駅で見送る。

 

そういえば、チャンプが姿を見せた日。他人と関わり合いになりたくないから、随分失礼な対応をしたっけ。

 

今思うと恥ずかしい。

 

チャンプは何とも思っていないようだったけれど。

 

今後は気を付けようと、クララは自戒していた。

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