ポケットモンスター剣盾二次創作シリーズ   作:dwwyakata@2024

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3、合格までの道

分かる。

 

今コートで向かい合っているガラル空手の達人、格闘ジムリーダーのサイトウは、己の動きでポケモンをコントロールしている。ハンデキャップマッチだが。既にジムリーダーとは七人と戦った。何かの理由があるようで、皆ヨロイ島に来ては鍛錬しているようなのだ。その度に、マスタードに声を掛けて貰い。対戦させて貰った。

 

実はジムリーダーそのものは、チャンプがヨロイ島を訪れる前から来ていたらしい。

 

マスタードと模擬戦をしていたらしいのだけれど。それは全く知らなかった。

 

まあ、その時のクララは、まだジムリーダークラスのトレーナーと戦っても、何の勉強にもならなかっただろう。

 

マスタードの判断は正しかったと言える。

 

サイトウのポケモンは、格闘タイプのジムリーダーの手持ちらしく、とにかく荒々しく攻めてくる。サイトウ自身、普段は甘味好きの穏やかな女性らしいが。格闘技になると人が変わるし。試合になると文字通り目の色が変わる。

 

守りを固めても。ガードの上からブチ抜きに来る。

 

呼吸を整えながら、伸されたヤドキングを手元に戻す。

 

ハンドサインを出しながら、切り札のヤドランに変える。同時に、サイトウが何の躊躇も無く、エースらしい四本腕の人型ポケモン、カイリキーをダイマックスさせた。

 

此方もダイマックスさせるが、一瞬遅い。

 

カイリキーはその四つの拳から、山をも砕くというラッシュを放つポケモンだ。流石に山を本当に崩せるかはかなり疑問が残るのだが、図抜けた力持ちである事は事実である。それも、トラックくらいなら素手で叩きつぶせる程度の。

 

ましてや、サイトウは今ダイマックスさせたが。よく見るとこれはキョダイマックスだろう。

 

降り下ろされた拳が。まだ対応出来ずにいるヤドランを、容赦なく捕らえて。コートの外まで吹き飛ばす。

 

文字通り、全身ごと拳を振り抜いていた。

 

ただでさえ力が強いカイリキーなのに。格闘技の動きを、完全にマスターしているという事だ。

 

要するにポケモン並みの身体能力を持った巨大な格闘家と戦っているようなものだと理解して、戦慄する。

 

これは魔境のガラルリーグのメジャーリーグで現役活躍している筈だ。

 

サイトウは比較的若いトレーナーで、メジャーで活躍しているトレーナーの中ではゴーストタイプのオニオンや。この間来たチャンプの同期であるマリィ、最近フェアリージムのリーダーになったビート達よりも、少し年上くらいだそうである。

 

だがこの様子では、恐らく幼い頃からガラル空手一本で過ごし。ついでにポケモンとも一緒に過ごしてきたのだろう。

 

実質数年程度しかポケモンと一緒に過ごしておらず。更に言えば真面目にポケモントレーナーやり始めてから半年も経過していないクララとはそれこそ次元が違うのも当たり前である。

 

ヤドランは戦闘不能。言われるまでも無い。モンスターボールに戻す。ただ、すぐに治療は必要ないだろう。他も含めて、目を回しているだけである。

 

「そこまで」

 

「ありがとうございました」

 

「ありがとうございましたァ」

 

マスタードの言葉を受けて、サイトウと礼をする。

 

最近はハンデキャップマッチが少しずつ緩くなってきていて、ジムリーダー側に二体、というケースが増えてきていた。

 

一体を倒せる事はたまにあるのだが。大体二体目を攻略できない。

 

それも、ジムリーダーは、試合用の個体を出してきていない。

 

まだ力が足りないと言う事だ。

 

だから、聞く。アドバイスを。

 

取り入れる。自分に。

 

サイトウは、非常に礼儀正しく。自分がおない年くらいの頃はアイドルに憧れて何もかもふわふわした人生を送っていたことが恥ずかしくなるぐらい、動作の隅々までしっかりしていた。

 

鍛え抜かれた体というのが一目で分かるサイトウなのに。それでいながら非常に肉体が美しい。

 

女性の体と筋肉は必ずしも親和性が高くないと思っていたのだが。サイトウの屈強でありながら美しい肉体を見ると、これはこれで良いなあとクララは思うのだった。

 

「うちのトレーナー達よりは強いと思います。 ただまだマイナーリーグのジムリーダーに勝てるかは微妙な所にも思いました」

 

「ありがとう。 他にも気付いた事があったら何でも教えてください?」

 

「そうですね、ポケモン達とは良く心が通じていると思いますが……反応速度がもう少し足りないように思います」

 

やはり鍛え方が足りない、か。

 

礼を言うと、サイトウは夜のうちに帰っていく。メジャーリーグのジムリーダーは忙しいのである。

 

試合をするだけでは無い。

 

地区最強、それぞれのタイプ最強のトレーナーがジムリーダーだ。警察に頼まれて仕事だってする。他にも色々な仕事がある。

 

サイトウの所属する格闘ジムは、警察などで稽古をつけることもあるらしく。

 

凶悪犯がポケモンを暴れさせたとき。或いは凶器を持った凶悪犯が暴れたとき。どう制圧するかなどを、徹底的に叩き込む教習もしているらしい。

 

ガラルの経済的シンボルだったローズ氏が、この間スキャンダルを起こして、刑務所に入ったことを最近やっとクララは知った。

 

ガラルが発展したのは、ローズ氏のおかげである事くらい、クララですら知っている。

 

だから、ローズ氏がいなくなった今。

 

社会の混乱につけ込もうとする悪党を抑えるためにも。

 

汚れ仕事をする人は、必要なのだろう。

 

サイトウが空輸タクシーで帰っていくのを見送った後、マスタードにアドバイスを聞く。

 

「師匠ォ、もっと反応速度を上げるのにはどうしたらいいですかァ?」

 

「そうだねえ。 鍛える、というのはあまりにも無責任な言葉だから、ちょっと具体的にやってみようか」

 

マスタードが出してきたのは、超高速を誇るポケモン、テッカニンである。

 

セミのような姿をしているが。文字通り残像を作る勢いで空を飛び回る。速度を武器に、色々な戦いを組み立てるポケモンである。

 

コートに出向く。

 

戦うのかと思ったのが、違うと言う。

 

「しばらくこの子と遊んでご覧。 サイトウちゃんに反応速度が足りないと言われたのなら、それは後一歩と言う事だよ」

 

「……」

 

「サイトウちゃんは、文字通り生まれた時から瞬きが即座に負けになる世界に生きてきた子だからね。 そんな子に取って、反応速度ってのは普通の人と感覚が違うのよん。 だから、テッカニンの姿をしっかり追えるようになって来たら……最終試練に入っても良いかな」

 

「はい……」

 

最近は、妙な言葉遣いもかなり治ってきている。

 

何処かで染みついたアイドルと言うものが、クララの中から消えていっているのだろう。

 

アイドルをやりながら、ポケモントレーナーをやれる奴もいるだろう。

 

それこそ、現役のトップモデルでありながら、魔境であるガラルリーグでメジャーに残っているルリナのように。

 

ちなみに今までのマスタードが組んでくれた組み手の中でルリナとも対戦したが。

 

兎に角あらゆる意味で尋常で無く努力している事が一目で分かって、その時点で勝てないのも当然だわと納得出来た。

 

テッカニンを見つめる。

 

マスタードに言われた。

 

もう少しで最終試験には入れる。

 

そろそろ、チャンプにぼっこぼこにされてから、五ヶ月が経とうとしている。

 

今は外のニュースにも興味を持ち始め。また何処かでチャンプが悪の組織を潰したとか、国際警察がどうにも出来なかった腕利きの犯罪ポケモントレーナーを逮捕したとか、そういうニュースに興味を持てるようになって来ている。

 

スペシャルに負けたことは恥では無い。

 

むしろ、一緒に並び立てることがあれば。

 

それは誇りだ。

 

そう思って、テッカニンを見つめる。

 

確かに、これはちょっとやそっとで分かる動きでは無い。文字通り、いつの間にか違う所にいるのだ。

 

速いなんて次元じゃない。

 

だが、サイトウの反応速度を思い出す。サイトウは、多分こう言う動きをする世界に生きてきて。

 

だから強いのだ。

 

チャンプにも、多分テッカニンの動きは見えている。それこそ、手づかみで捕まえて見せるくらいの事はして見せるのではあるまいか。

 

数日、テッカニンの世話をして過ごす。

 

テッカニンはかなり気むずかしいポケモンで、世話をしていると、頻繁に文句を示してくるし。毒を持つクララのポケモンが近くにいるのを嫌がるようだが。

 

腕が良いトレーナーは、それこそ天敵同士であるポケモンを、それぞれ仲良くさせて見せたりもするという。

 

これくらい、克服できなければ駄目だ。

 

じっとテッカニンを見つめているうちに。その翼の動きや。一瞬で移動したと見せかけて。実はぬるりと視界の隙を突いていることもわかり始めた。

 

見えていなかった世界が。

 

見えてきている。

 

そうか、こんな世界が、他の人には見えていたのか。

 

勿論見えている人はごく一部だろうけれども。それでも、新しい世界が見えるというのは、感動を伴う。

 

テッカニンの世話をするだけでは無い。

 

手持ちのポケモンともトレーニングを行う。

 

苦手とする技を克服するべく練習を重ね。技の発射速度、命中精度、全てを上げるべく努力をする。

 

汗まみれになって努力するなんて大嫌いだったけれど。

 

今は、効率よく、結果が出る努力を教えて貰っているので、それはとても嬉しい。

 

昔接していた努力は、単なる根性論だったのだろう。

 

それから、更に二週間が過ぎて。

 

テッカニンの動きは、完全に見えるようになった。

 

それを見計らい。

 

マスタード師匠が、ジムリーダーを、三人連れてきた。

 

 

 

ジムリーダーになる方法。

 

基本的に、ジムリーダーか、ポケモンの業界で大きな業績を上げた人間の推薦状がまず必要になる。

 

マスタードは、一時期スキャンダルをでっち上げられ、業界から追放されていたらしいのだが。

 

今はそのスキャンダルをでっち上げた八百長野郎が牢屋に放り込まれているそうで。

 

名誉の回復が為されているらしい。

 

この推薦状が何枚かあれば。基本的にジムリーダーに挑戦できる。最低でも三枚は必要だそうである。

 

その後、ジムリーダーに、リーグを管轄している委員会所属の立会人ありで勝てば。

 

晴れてジムリーダーの座を奪い取ることが出来る、というわけだ。

 

地方によってはこの手続きが色々と違うらしく。座学が求められたりするケースもあるらしいが。

 

ガラルの場合は、ポケモンバトルの実力が全てに優先する、という話である。

 

ただし、メジャーリーグに上がれなければ、当然世間の風当たりは強くなる。

 

ジムの収入源は、サイトウの格闘ジムがそうであるように、多くの場合は社会貢献である。

 

試合での興行収入はささやかなもので。

 

殆どの場合は、最強のトレーナー。つまり武力としての活躍を要求される。

 

まあ、あのバケモノ。

 

現ガラルチャンプのユウリが、外で暴れ回り。聞いただけで卒倒しそうな額を稼いでいると知ってから。色々と納得も行った。

 

メジャーリーグはまだいい。

 

仕事もどんどんくるのだから。

 

マイナーリーグはそうはいかない。

 

マイナーリーグで負けがかさめば、そもそもトレーナーも雇えなくなるし、仕事も来なくなる。

 

故に、マイナーリーグのジムリーダーになるのは手始めに過ぎない。その後は戦績を挙げて、社会貢献もして。メジャーリーグへの昇格を目指さなければならないのだ。

 

余程の田舎地方は兎も角、殆どのガラルも含む地方では基本的にタイプに合わせてジムは一つだけ。

 

毒ジムとなると、活躍の場は限られる。毒タイプのポケモンは扱いが難しいし、下手をすると周囲に大きな被害を出すからだ。

 

昔は、色々なジムが乱立した事もあったらしい。

 

色々揉めた結果、各地方でジムはそれぞれタイプ別に一つずつというルールが作られ。不文律からやがて明文法に変わったという。これについては、座学で習った。眠くなるような話も多かったけれど、ジムリーダーになるには必須だったから、勉強して覚えた。

 

ともかく、毒ジムのリーダーになるには。

 

今いる毒ジムのリーダーを蹴り落とすしかない。

 

それには、幾つかの手順を、法に沿って行わなければならないのだ。

 

まず最初の一人。草タイプのジムリーダー、ヤローが前に出る。

 

気は優しくて力持ち、という言葉通りの人物で。その恵まれた縦にも横にも大きな体格と裏腹に、とてもおおらかな農業青年である。地元では、彼がパワフルに農業をしているのが名物にさえなっているそうだ。純朴な青年である一方、ルリナとの恋仲が噂されているが、はてさて真相はどうなのやら。まあ、その辺りはクララにも興味はある。勿論此処で聞くほどアホでは無いが。

 

ヤローが展開したのは多分、そこそこに鍛えたポケモンなのだろう。クララの展開した五体と、かなり苛烈な勝負になる。

 

あれ。ジムリーダーと。多分、相手が本気では無いにしても。

 

まともに戦えている。

 

そう思うと、歓喜がわき上がってくる。

 

だが、その気の緩みが徒になったか。五対五の戦いで、最後まで持ち込まれ。僅差で押し込まれて負けてしまう。相性は良い筈なのに。しゅんとするが、ヤローは合格の推薦状を書いてくれた。

 

「これなら大丈夫じゃあ。 少なくとも、挑戦できる実力は充分にあるぞ」

 

太鼓判を押して、屈託のない笑顔でばんばんと背中を叩いてくるヤロー。

 

噂通りの馬鹿力である。地面に埋まるかと思ったが。昔と違って鍛えているので、其所までヤワでは無い。

 

続けて、以前も来ていたマリィと戦う。今度はモルペコだけでなく、フルメンバーを出してくる。前回手合わせした時と、戦力が桁外れである。

 

だが、此方は以前と違う。

 

モルペコの動きが分かる。オーラぐるま一発で封殺されることもない。インファイターとしての顔だって知っている。同じようには行かない。他のポケモンも、初見でも対応出来る。

 

苛烈な戦いの末、五対五の接戦の末になんと勝利する。

 

勿論マリィも、試合用のポケモンを出してきたわけでは無いだろう。本気だって出してはいなかった筈。それでも、勝ちは勝ちだ。

 

そして、勝ちを実感できなかったのは。

 

他ならぬクララ自身だった。

 

嘘。

 

思わず声が漏れる。棒立ちしているクララに、マリィは例の如くの仏頂面で、推薦状を書いてくれた。

 

随分とまあ可愛い字である。思わず見ていてにやけるほどに。

 

それに気付かれたか、マリィが真っ赤になって、ついと顔を背ける。また随分と可愛い。兄である前悪ジムリーダーネズの後継らしいのだが。これは随分と兄に可愛がられて育ったのだろう。家族に溺愛されているらしいと言う噂を聞いたが、まあ無理もない。こんな攻めたファッションをしていなければ、周囲から普通に愛されるだろうに。その辺りは、クララも同じか。毒タイプのジムリーダーとしてメジャーに昇格したら、少し格好を落ち着かせても良いかも知れない。

 

最後の相手はカブ。

 

有名人だから知っている。メジャーリーグでも盤石の実力者。チャンピオンリーグに挑むトレーナー殺し。カブの所で挑戦を諦めるトレーナーは珍しくもないと聞いている。炎という分かりやすいタイプを扱い、更にその上で粘り強い戦いを持ち味とする分かりやすく強いトレーナー。既に老境に片足を突っ込んでいるが、それでも全然現役で、若々しいスポーツ選手のような格好をしている。自分に厳しい人物で知られるが、若い相手への言葉遣いはとても柔らかい。文字通りの紳士である。

 

何年だか前に、ガラルの中心都市の一つエンジンシティに千体を超えるポケモンが押し寄せて、たくさん死人が出て。警備体制を根本から改める事件が起きたらしいが、最前線で押し寄せるポケモンを食い止めたのもカブだ。そういえば、その時デタラメに強いマホイップがポケモン達を率いていたとか言う噂を聞いたが……チャンプが連れていた、怨念に塗れた視線のマホイップを思い出す。まさかな。ともかく、試合に集中である。

 

流石にカブは別格に強い。一気に三体を抜かれるが。その後必死に粘り、二体を沈める。だが、其所まで。後は押し切られて負けた。

 

カブほどのトレーナー相手だ。

 

充分な戦いだと自分を慰める事も出来るが、負けは負け。しゅんとするクララだが。カブは推薦状を書いてくれた。

 

「これならばマイナーリーグのジムリーダーとしては充分だよ。 ただ、メジャーリーグに昇格するつもりなら、もっと力をつけなさい」

 

「はい」

 

素直に頭を下げることが出来る。

 

昔だったら悪態をついていただろうに。今はもう、その辺りは自分を改めることがで来ていた。

 

最後はマスタードか。

 

今は、喋るときは師匠と素直に呼べるようになっている。

 

厳しい訓練も受けたが。

 

理不尽な訓練は受けなかったし。

 

論理的な訓練は、確実に力をつける役に立った。

 

こう言う場所なのに、根性論や精神論は一切口にせず。どうすれば具体的に強くなるか教えてくれた。

 

そんな人だ。

 

もし戦うとなったら、今でもとてもかなわない。客観的にある程度実力を判断出来るようになったクララは、それを理解していたが。

 

マスタードは戦わなかった。

 

「これで推薦状三枚と。 はい、それじゃあ監査よろしく」

 

「はい」

 

進み出てきたのは、黒衣のサングラスで表情を隠した厳しそうな人達だ。ちょっと警官やこの手の人には苦手意識があるので、少し背が伸びる気がした。

 

どうやらジムリーグを管理している人らしい。

 

ジムリーダーへの挑戦を賭けた推薦状などについても、管理している「委員会」の所属者らしかった。

 

色々あって今は委員長を降りたローズ氏が、この委員会については徹底的に整備をしたらしい。

 

その整備は古い時代に不正が蔓延っていた委員会をたたき直し、今ではすっかりまともな組織に。……まともすぎて非常に厳しい組織になっているそうだ。

 

音を遮断する壁を張るポケモンを出し、その向こうでああだこうだと委員会の人達が話し合っている。手続きに不正がないか、確認をしてくれているらしい。

 

試合内容のチェック、更には現役メジャーリーグジムリーダー達の採点についてのチェック。更に試合を斡旋したマスタードに聞き取りなどをしている様子だが。

 

あくまで音を遮断する壁の向こう。

 

具体的な内容は聞こえなかった。

 

マスタードが戻ってくる。ジムリーダー達に声を掛けて、帰ってもらっていた。

 

手を振って見送る。委員会は、今はもう聞き取りを追えて、手続きに入っている用なので。ジムリーダー達は忙しいし、帰っても大丈夫なのだろう。

 

「師匠は、推薦状を書いてはくれないんですかァ?」

 

「わしは身内だからね。 斡旋はするけれども、実際に推薦状を書いたり実力を見るのは、身内では無いトレーナーというルールがあるのよん。 だから、わざわざダンデちゃんに声を掛けて、三人もキミと利害関係がないジムリーダーに来て貰ったの」

 

「本当に有難うございます」

 

「良いんだよ。 今、エスパージムの方でも新しいジムリーダーを入れるって話をしているらしくてね。 ガラルのリーグはレベルが上がっているけれど、マイナーリーグの方にはまだちょっと駄目なジムがあるから、其所の人員を入れ替えてから、リーグの体勢を本格的に入れ替えるつもりみたいだよ」

 

そうか、そうなるとクララもいきなり魔境で揉まれて来たトレーナー達と戦う事になるのだろうか。

 

まだまだメジャーのジムリーダーとやりあうには実力が足りない。

 

それはヤローにもカブにも言われたので、事実なのだろう。

 

ジムリーダーになってから、力をつけなければならない。やはり、毒タイプの手持ちをもっと増やしておくべきか。

 

考えているうちに、委員会の人達が来た。

 

緊張する中、出来るだけ無機的にしている様子の声で言われる。

 

「それでは、ジムリーダーへの挑戦を認めます。 相手は毒ジムの現ジムリーダー。 期日は、一週間後です」

 

書類を幾つか渡される。

 

試合は、委員会立ち会いの下で行われるという。

 

不正を絶対に行わせないために、念入りに準備も行うそうだ。なお、試合前にはポケモン達のチェックも行うと言う。

 

興奮剤とかの妙なクスリなどを飲まされていないかとか。

 

或いは、試合会場に変な仕掛けをされていないかだとか。

 

なお、毒ジムでもダイマックスはできるらしい。そうなると、ダイマックスを想定しての戦いになるだろう。

 

挑戦者のバッヂを受け取る。

 

それを絶対に無くさないように、と言われた。

 

委員会の者達が、マスタードと何か話をしている。マスタードは、非常に険しい顔で応じていた。

 

聞かない方が良い話だろう。

 

そう思って、その場を離れる。

 

ミツバが夕食を用意してくれていた。今更だけれども、すごくおなかが空いていた。

 

「此処に行き倒れて辿りついた時には、本当に酷い有様だったのに。 もうすっかり綺麗になって。 ただ毒気がまだ少し抜けていないわね」

 

「ありがとうございます、おかみさん」

 

「……そろそろ、ご家族に連絡をとってあげなさい」

 

「ジムリーダーに昇格したら連絡します」

 

勿論、絶対に勝つ。

 

それに、ジムリーダーに昇格できなくとも。その時に、家族へは連絡をするつもりだ。

 

今になって思えば、本当に心配させていると思う。だって、クララの足取りは。インディーズアイドルとして挫折してから、完全に途絶えてしまっているだろうから。

 

さて、一週間後。

 

其所までに、更にベストな状態に、自分もポケモンも仕上げておきたい。

 

チャンプに負けたときの比じゃない。

 

今回は。人生で、絶対に負けてはならない戦いなのだから。

 

 

 

ガラル地方本島に渡る。久しぶりだ。情報をずっと遮断して生きてきた。だから、今どんなアイドルがいるのかとか、又聞きでしかしらない。

 

本島に渡る途中、スマホロトムで情報を確認。同期で目立っていたアイドルの子は、殆ど生き残っていなかった。クララを騙して金をむしり取った悪党達は。そもそも会社が残っていない。多分悪辣商売が摘発されて、牢屋行きなのだろう。ガラルはそれだけ治安がしっかりしている。悪党がいつまでものさばれる場所では無い。

 

本島に到着。駅で委員会のメンバーと合流。

 

黒服の威圧的な人達だけれども。恐らくダンデとかの実力者から借りた強力なポケモンを護衛につけて、一緒に車で移動する。

 

厳重すぎるくらいだが、他の地方では悪党と癒着して好きかってしているジムリーダーや、酷い場合にはチャンピオンがいると聞いている。

 

それならば、この扱いも妥当なのかも知れない。

 

毒ジムに到着。

 

前の、ままだ。

 

ここに来るまでに調べたが、毒ジムとエスパージムは、マイナーリーグでも成績が最底辺。エスパージムも毒ジムも、それでもジムリーダーが変わっていない。エスパージムは同族経営でやっているらしく。毒ジムは地元の有力者でもあるらしい。

 

何となく今なら分かる。周囲をイエスマンで固めていた毒ジムのリーダーは、いうならばタチが悪い悪徳企業のボスと同じだったのだろう。グレーゾーンスレスレの商売にも手を染めていたのかも知れない。

 

委員会が気合いを入れているわけだ。

 

やがて、委員会の人間が内部に入って、そして取り巻きとジムリーダーと一緒に出てくる。

 

驚いた。殆ど顔ぶれが変わっていない。

 

本当に、イエスマンとボス。ボスザルとその取り巻きだけで、このジムを動かしていたというわけだ。

 

それは、マイナーリーグでも最底辺の成績しか残せないわけだ。

 

負ける訳にはいかない。

 

「ハッ、誰かと思えば、前に此処を速攻で逃げ出した根性無しの小娘じゃねえか」

 

「口を慎みなさいジムリーダー。 試合前試合中の非紳士的な言動は、それだけで失格の対象とします」

 

「……チッ」

 

委員会の人の痛烈な言葉に、舌打ちする毒ジムリーダー。

 

相変わらず柄が悪い。毒ジムのリーダーは二足歩行した豚のような男で、全く似合っていないタキシードを着て、ジェントルハットまで被っている。前に比べて老けた。そして、近くで見て分かる。

 

此奴になら、勝てる。

 

ジムから全員を追い出した後、委員会が徹底的に調べる。不正が行えないようにチェックしているのだろう。

 

クララの手持ちも、毒ジムのリーダーの手持ちも徹底的に調べられる。

 

不愉快そうに見ていた毒ジムのリーダーだが、そもそも委員会に目をつけられているのだろう。文句の一つも言えなかった。この手の輩は、強い相手には下手に出て。弱い相手には強気に出る。

 

文字通りのクズ。此奴にだけは。絶対に負けない。

 

最強という言葉を恣にするチャンプや、その前任者であったダンデ、それにマスタード。そういったスペシャルにクララはなれないかも知れないけれど。それでも、此処では、絶対に勝つ。

 

コートの調査が終わる。豚野郎とコートの端と端に向かい合って立つ。

 

一礼だけはするが。既に、視線は殺意に満ちていた。

 

「はじめ!」

 

委員会の人が、試合開始の合図。同時に殺気が爆発した。

 

クララは最初にマタドガスを出す。相手側は、ドグロッグ。二足歩行するカエルのような姿をしたポケモンだ。結構汎用性が高く、格闘戦能力も高い。

 

殆ど奇襲的に接近戦を挑んでくるが、マリィのモルペコに比べたら遅い遅い。余裕を持って、マタドガスがシールドを展開。文字通り弾き返す。

 

弾かれて空中に浮かび上がったドグロッグに、マタドガスが間髪入れずに突貫。全質量を叩き込む。

 

ギガインパクトと呼ばれる大技である。

 

予備動作が大きいので、相手が素早いドグロッグだと外すこともあるが。空中で姿勢を崩している状態だ。

 

避けようがない。

 

直撃。

 

文字通り吹っ飛んだドグロッグが、毒ジムリーダーの真上。狭いコートの壁に叩き付けられ、そのままずり落ちる。ぴくりとも動けない。

 

「ドグロッグ、戦闘不能」

 

委員会の人間が、容赦なく宣告する。

 

クララも煽るつもりは無い。舌打ちして、真っ赤になった毒ジムリーダーが、次を繰り出してくる。

 

この辺りは。流石に腐ってもジムリーダーか。すぐに切り替えてきている。

 

続いて出てきたのはドヒドイデ。

 

ヒトデを傘のように被った人型のようなポケモンで、サンゴの姿をしたサニーゴというポケモンの天敵として知られている。守りに兎に角手篤いポケモンで、マタドガス以上の要塞である。

 

毒タイプが他と戦う場合は、文字通り毒を生かす場合が多いのだが。今回、互いに毒は通じない。

 

大技を打った直後のマタドガスに、泥の塊を叩き込んでくるドヒドイデ。

 

マッドショットと呼ばれる技である。視界を封じ、更に毒が苦手とする土の解毒効果を併せ持つ。

 

ふらついたマタドガスに、飛びかかってくるドヒドイデ。

 

クララは冷静に、そのままマタドガスにハンドサイン。

 

飛びついてきたドヒドイデを巻き込んで、マタドガスが自爆する。

 

全エネルギーを放出し、自身は身動きが取れなくなる代わりに、相手も黒焦げにする大技である。

 

マッドショットで動きを鈍らせて、じわじわ嬲るつもりだったのだろうが。

 

此奴の考える事くらいお見通しだ。

 

ドヒドイデの中身は、可愛らしい人型なので。吹っ飛ばされて目を回している様子はちょっと可哀想に思ったが。

 

容赦はしてやらない。

 

試合は実戦とは違う。こういう風に、必要な犠牲を切っていくやり方はありだ。

 

「ドヒドイデ、マタドガス、戦闘不能」

 

これで損害は二対一。優位に試合は進んでいる。

 

間髪入れずに、次を出す。クララのペンドラーに対して、毒ジムリーダーはエンニュート。大型のヤモリのような姿をしているポケモンで。とにかく動きが速い。そしてペンドラーが苦手とする炎を得意としている。

 

毒ジムリーダーの顔に、凄絶な笑みが浮かぶ。本当に立ち上がった豚だなと、軽蔑する。豚さんの肉は美味しいけれど。此奴は軽蔑すべき豚だ。

 

即座に、炎を吐き出してくるエンニュート。そう来るだろうと思った。

 

此方はずっとテッカニンを見て、反応速度を上げているのだ。

 

何が来るか分かっていれば、対応は出来る。

 

コートに炸裂する灼熱の炎。

 

エンニュートが体勢を低くしたまま、ちろちろと舌を出している中。

 

炎を突き破って突貫したペンドラーが躍り出る。

 

ペンドラーにも、マタドガスと一緒に、シールドを展開する技術を覚えさせていたのだ。出会い頭の炎くらいどうにでもなる。

 

そして、トレーナーの油断が、此処で致命打になる。

 

次の炎を噴き出そうとエンニュートが構える前に、突貫したペンドラーが全力での体当たりを叩き込む。

 

元々華奢なエンニュートは、兎に角脆い。

 

毒タイプについて、徹底的に勉強してきたのだ。弱点についても把握している。

 

吹っ飛ばされて、壁に叩き付けられながらも。それでも炎の塊を叩き込んでくるエンニュート。

 

最後の意地か。

 

ペンドラーが炎に包まれ、転がり回る。苦しいだろうが、ちょっとの我慢だ。頼む、耐えて。そう、クララは内心思いつつも、ハンドサインを出す。

 

エンニュートの戦闘不能が告げられる中、即座に間髪入れず、毒ジムリーダーが次を繰り出してくる。

 

次に出てきたのはダストダス。巨大なゴミの塊のようなポケモンだが。

 

其奴が、質量に任せて転がり回っているペンドラーを押し潰そうとしたときには。もうペンドラーはその場にいない。

 

コートの地面に潜り、掘り進み、後ろに回っていたのだ。

 

巨体故に動きが鈍いダストダスに、背中から全力での体当たりを叩き込む。

 

思い切りつんのめるダストダス。だが、其所まで。ダストダスが振り返り様に振り払ったことで、ペンドラーが吹っ飛ぶ。充分。頑強なダストダスに、此処までの打撃を与えられれば、それで仕事はしたと見なせる。

 

戦闘不能を告げられるペンドラーをモンスターボールに戻すと、ドラピオンに切り替え。

 

弱っているダストダスを、ドラピオンが、出会い頭の一撃に粉砕。極限まで育ったドラピオンのハサミは、自動車を粉砕する。今のクララのドラピオンにはそれができる。

 

これで、敵の残りは一人だ。

 

凄絶な表情が、毒ジムリーダーの顔に浮かぶ。負ける。この小さな城を好き勝手にして来た猿山のボスが。追い出される。それを悟った、壮絶な顔だ。

 

顔を真っ赤にしながら、毒ジムリーダーが、切り札らしいストリンダーを出してくる。

 

電気を操る蜥蜴型のポケモンで、性格によって大きく姿を変えることで知られている。

 

ストリンダーは非常に強力なポケモンで、確かキョダイマックスする個体もいる筈。特にキョダイマックスした個体がワイルドエリアの街に近い巣穴に住み着くと、ジムリーダークラスの手練れが退治のために呼ばれる事もあるそうだ。

 

此奴がそれを持っているかは分からないが。多分今までで一番手強い相手だ。

 

ドラピオンを引き上げる。

 

そして、代わりに。以前、クララとともに此処で虐められた経験がある、ヤドランを繰り出す。

 

「ハッ! 負け犬が、そんな弱いのをまだ連れているのか!」

 

「ジムリーダー! 再三の非紳士的な言動、次は失格にしますよ!」

 

「うるせえっ!」

 

委員会の監査役の警告に、怒鳴り声で返す。

 

馬鹿が。コレで勝負は決まった。

 

相手にせず、ダイマックスさせる。ジムリーダーも、ストリンダーをキョダイマックスさせてくるが。

 

今まで一番長く一緒にいてくれたヤドランは、即応。ストリンダーよりも速く、敵の頭の上から、強烈なサイコパワーを叩き込んでいた。

 

この世界に超能力は実在する。ヤドランは超能力も得意としている。

 

サイコパワーで押し潰され。更に巨体のままサイコキネシスで持ち上げられるストリンダー。

 

キョダイマックスで極限まで強化された雷撃を叩き込んでくるが、ヤドランは踏みとどまると。

 

全力で、サイコパワーのおまけ付きで。ストリンダーを地面に叩き付ける。

 

ジムが揺れる。古いジムが、ガタが来ていたからか。彼方此方崩れるのが分かった。

 

ストリンダーが、縮む。ダイマックス、或いはキョダイマックスしたポケモンが力を使い果たすとこうなる。まだ動こうとしたが。委員会が止めた。

 

「其所まで。 ストリンダー、戦闘不能! よって、毒ジムのリーダーは、これより交代となります」

 

「ま、待てっ! 八百長試合だ! こんな奴が、こんな……」

 

「委員会に不服を申し出ると?」

 

「当たり前だっ! 俺が、こんなのに、負ける訳が……っ!」

 

不意に。第三者がジムに来る。

 

警官隊を連れた、ダンデだった。

 

驚いた。昔から、テレビではよく見ているが。まさか本人がここに来るとは。思わず背筋が伸びる。少し年下でまだ少年のダンデが無敵のチャンプとして君臨するのを見て、随分勇気づけられた世代であるクララだ。緊張しないわけがない。それに二十歳を過ぎたダンデは、ドラゴンジムのキバナほどではないが女性人気も圧倒的。少年時代から順調に育って、精悍な威丈夫になっている。クララもそれを間近で見られれば嬉しいに決まっている。

 

流石の毒ジムリーダーも黙り込む。チャンプを降りたとは言え、ダンデのガラルにおける影響力は圧倒的なのである。現チャンプがダンデを立てている事もあり。当面影響力は衰えないだろう。

 

ダンデは淡々と、恐縮している毒ジムリーダーに告げる。

 

「酷いジムの有様だ。 補助費は出ているはずだが、ジムの何処に使いましたか。 それに試合の様子も見たが、往年の切れ味はもう失っていますね」

 

「こ、これはその……」

 

「この試合は貴方の負けですよ。 俺がそれを保証します。 それと貴方には、地元の犯罪組織にジムへの補助金を横流ししていた疑惑が掛かっています。 身内人事で、新しく入門してきたトレーナーにパワハラをしていた容疑もね。 昔の貴方を知る俺としては残念です」

 

既に警官達が、毒ジムリーダーの周り。更に取り巻き達の周りに、威圧的な壁を作っていた。

 

詰みだ。抵抗しようにも、相手はダンデである。勝てる訳がない。

 

肩を落とした毒ジムリーダーと、取り巻き達が連れて行かれる。委員会が、クララの勝利を改めて宣言。クララは、呆然としていたが。やがて、ダンデが声を掛けて来たので、我に返った。ダンデは、年長者に言動が丁寧だった。

 

「新リーダー就任おめでとうございますクララさん。 俺としても、新しい風がジムリーグに吹き込むことは歓迎しますよ」

 

「あ、いえ、その……」

 

「今の戦いぶりなら、数ヶ月も鍛錬すればメジャーリーグに昇格は出来るでしょう。 それに俺は近々、メジャーとマイナーのリーグの差を取り払おうと思っています。 それに野良のトレーナーも参加できる大規模な大会を企画しています。 チャンプは降りましたが、俺はまだトレーナーとしては現役。 貴方と戦える日を楽しみにしていますよ」

 

握手を求められた。

 

ダンデに。

 

思わず、涙がこみ上げてくる。

 

やがて、少し躊躇した後。

 

クララは、ダンデの手を採っていた。

 

ぶつかったときには、ぜってえ負けねえ。

 

そう、自分に言い聞かせながら。

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