ポケットモンスター剣盾二次創作シリーズ 作:dwwyakata@2024
ヨロイ島。
昔、18年間の無敗記録という、ダンデをも超える記録を作った元チャンプ。マスタードが個人所有している島である。正確には島と言うよりも、群島というのが近いだろうか。以前何度か足を運んだことがあるが、マスタードは全く実力が衰えておらず。門下生と一緒に揉んで貰ったものだ。
ガラル本島の東にあるこの群島は、凶暴なポケモンがわんさか棲息しており。
特に海には、サメハダーをはじめとする危険なポケモンが山のようにいる。このため、どんなに綺麗な海でも海水浴はおすすめ出来ない場所だ。
そんなところに降り立ったユウリとマリィ。まず顔を見せるのは、マスタードの道場である。
マスタードは、相変わらずの好々爺である。
戦闘になると空気が変わるのだが。
普段はとても優しいお爺さんだ。
なお娘のような年の若々しい奥さんと。
孫のような年の息子さんがいる。
息子さんはポケモンバトルには興味が無いようだが、発明が好きな様子で。色々作っては天才天才と両親に褒められている様子だ。
マリィは兄貴が。ネズがいてくれたからあまり寂しくはなかった。
ユウリは時々お父さんがいないことをぽろっと零したりする。
少し変わっていても、お父さんとお母さんが揃っている家は、ちょっと羨ましいなと思う事もある。
軽く挨拶をした後。
マスタードが、一緒に外に出て。スマホロトムを操作して、空中に地図を出していた。
「ほいこれこれ。 これがヨロイ島の地図だよん」
「ファイヤーはどんな感じで飛んでいますか?」
「丁度此処からこういう風に飛んでいるね。 わしはもう引退した身で、伝説ポケモンに手を出す事は好ましくない。 若い者がやるべき事だね。 だから今日は頼むよ」
見ると、道場の結構近い場所を飛んでいる。
しかも、マスタードの話によると。
ファイヤーは見かけた生物を手当たり次第に襲っている様子だ。ヨロイ島の彼方此方には、黒焦げにされて食われたポケモンが点々としているという。
危険だから、今は弟子達も全員道場に避難させているという。
「分かりました。 対応します、師匠」
「うんうん、よろしくね」
ユウリがびしっと頭を下げる。
前にも見たが、ユウリはスランプになっている頃、マスタードと話して気づきを得たことがあるらしく。マスタードに対してはとても態度が丁寧だ。
普段飄々としているマスタードは、見ていて反応が分かれる人物の見本だと思うのだが。少なくともユウリは嫌いではないらしい。
いずれにしても、サンダーをあああっさり下したユウリである。
それに、木を奪い合っているとき。ファイヤーはユウリを見て即座に逃げの一手を選んだ。
海岸を歩く。
確かに、点々と黒焦げになったポケモンが散らばっている。食い荒らし方も残虐で、ファイヤーが狩りと言うよりもむしろ殺しを好んでいる様子が分かった。
とはいっても、不意に現れたと言う事だし、ずっと眠っていたのかも知れない。
だとすると、腹が減っていて、こう食い荒らしているのかもしれないし。
何とも言えなかった。
ポケモンの事情は分からない。
人間の理屈でポケモンを計るのは、好ましい行動では無い。
善意でやった行動が、ポケモンにはただ苦しかったり、イヤだったりすることも珍しくはない。
人語を解するポケモンは時々いて。
そういうポケモンに通訳して貰うと、そういう事が分かったりするそうだ。
そういえばユウリの持ってるあの血のような色のマホイップ。
人間の言葉を喋る事は出来ないが、文字を書いたり人間の言葉を正確に理解することは出来たっけ。
身近にもいるな。
マリィはそう思いながら、ユウリについていく。
「この辺が良いかな……」
ユウリが呟いて足を止めたのは、道場の比較的近くの丘。ちょっとした坂になっていて、その向こうに湿地帯が拡がっている。
前に来たときはわんさかポケモンがいたのだが。
今はファイヤーという凶暴な無差別殺戮者が現れたからか。姿を全く見かけない。
しばらく周囲を手をかざして見回した後。
ユウリは棒立ちしているマリィに言う。
「此処で待ち伏せるよ。 マリィはそっち。 私は此処に隠れる」
「マスタードさんが、ファイヤーが巡回するっていってたけん。 それで?」
「そういうこと。 気配を消して、ファイヤーに気付かれないようにするか、それともエサを使うか……まあ気配を消して不意打ちで充分かな」
物騒な事を言い出すユウリ。
気配の消し方なんか知らない。
困惑するマリィだが。ユウリはそれを先読みしたように言う。
「気配を消すのは私だけやれば良いから大丈夫だよ。 周囲には小さな気配がたくさんあるけれど、ファイヤーを怖れて隠れてるんだろうね」
「そうねん?」
「そうそう。 じゃ、隠れて隠れて」
ユウリが側にある倒木を見る。
とんでもなく嫌な予感がしたが、口にしない。怖くて口に出来ないというのが正解だが。
「んー、適度にしめっていて丁度良いね。 これでいいかな」
何がいいのか分からないけれど。
兎も角隠れる。
珍しいポケモンを捕獲するために、ずっと隠れて粘ることはやった事がある。マリィもチャンピオンリーグに参加するとき、手持ちを揃えるために。或いはジムリーダーに就任するときに。
ジムリーダーになった後にも。
それぞれ、戦略に沿って必要なポケモンを揃えるために。
ワイルドエリアや、他にもポケモンが見つかる場所に足を運んだ。
場合によっては丸一日隠れて、獲物を狙った日もある。
そういう日は、家に戻ると兄貴のネズが無言で暖かいココアを淹れてくれたりして。
普段はパンクロックで見るからにいかれている格好の兄貴が、どういう人なのか分かるのだった。
念のため、最悪の事態に備えてモルペコも出しておく。
ファイヤーの炎は、有名なドラゴンに似たポケモン、リザードンのそれと同格かそれ以上とみて間違いないだろう。
リザードンはダンデの切り札にもなっている強力なポケモン。
その火力は、何度も試合で見たが。
凄まじいの一言だ。
伝説のポケモンともなれば、それに近い実力を持っているのは当然と判断するべきで。とにかく最悪の場合、守りを展開出来るポケモンがいないとまずい。
ユウリならどうにか出来るかもしれないが。
マリィはあんなパワーを持ち合わせていない。
しばし、待つ。
三時間くらい経過した頃だろうか。
空に、赤黒い点が見え始める。
優雅に翼を羽ばたかせ、近付いてくるそれは。
あの木で見た、ファイヤーに間違いなかった。
原種は神々しい姿にすら見える事があるらしいのだが。ガラルのファイヤーは赤黒く、兎に角恐ろしさが際立っている。顔立ちも凄まじい凶悪さで、確かに獲物を食い散らかしそうである。
強さもびりびり感じる。
というよりも、殺気を全く惜しまず放っているのだろう。
怖れる者がいないからだ。
少なくとも、ファイヤーは此処にユウリがいる事に気付けていない。
だから、ああも殺気をダダ漏れに飛んでいるのだろう。
息を殺したまま潜む。
立ち会いということだから、これでいい。
ほどなく、頃合いとみたか。
ユウリがひょいとモンスターボールを放り投げる。出てきたのは、雪原で見たツンベアーである。そのツンベアーに、ユウリは複雑なハンドサインで指示を出す。
頷いたツンベアーが、さっきの倒木を抱えると。
丁度ファイヤーの死角になっている角度から、完璧な速度、勢いで投げ込んでいた。
これには、流石に残虐な炎の使者を気取っている悪魔の鳥もひとたまりもない。
突如飛んできた倒木。
自分以上に残虐な一撃。倒木をモロに腹に喰らい、体勢を思いっきり崩して墜落する。
ひっと思わずマリィは声が漏れたが。
真の残虐ショーはこれからなのだと思い出して、更に寒気が全身を駆け上がっていた。
ユウリが悠々とモンスターボールにツンベアーを戻すと。
いきなり投擲攻撃を食らって撃墜され、地面で七転八倒しているファイヤーに近付いていく。
ファイヤーはあの走り回るサンダーと違って、飛ぶ事に特化している姿をみるからにしている。
そして鳥と言う生物は。
飛ぶために、色々な体の部分を犠牲にしているのだ。
これはトレーナーの免許を取るときにならった。
鳥の体は屈強に見えるが実はとても繊細で。猛禽などでも翼が折れたりすると取り返しがつかない。
鳥は強く賢い生物であり、空、陸、水中全てにいける世界でも珍しい存在の一つでもある一方。
飛ぶために体を極限まで軽くしているため、色々無理をしているとも。
また恒温動物でもあり、体温を保つために大量のエサが必要な点も弱点で。
機敏な動きと空を飛べる利点はあるものの。
必ずしも無敵でも最強でもない、ということだった。
そんな鳥のポケモンである。
如何に伝説級とは言え。
あんな倒木の一撃をもらったら、それは七転八倒だろう。ユウリが見下ろしている事に気付くと、ファイヤーが悲鳴を上げて、必死に跳び上がろうとするが。
その尻尾を、ユウリが踏んづけた。
「だめ、逃がさない」
悪魔は、其所にいた。
マリィの所からは見えないが、ユウリは多分満面の笑みを浮かべていることだろう。
ファイヤーが破れかぶれになったか、凄まじいなんかよく分からないものをぶっ放してくる。
精神攻撃か何かか。
マリィは腕で顔を覆ったが、猛烈な倦怠感を覚えて、思わず膝をつく。
恐らくこれで獲物を弱らせ。
炎で焼いて。
バラバラに引き裂いて食べるのだろう。
吐きそうになって、でも耐える。
エスパータイプをはじめとして、精神攻撃を得意とするポケモンは別に珍しくもない。トレーナーを狙って来る野生のエスパーポケモンだっている。だから、訓練くらいは受けている。特に格闘タイプのトレーナーは、どういうわけか超能力には耐性が弱くなるらしく。特に念入りに訓練を積むらしい。ジムリーダークラスになると、専門の耐性訓練まで受けるそうだ。マリィは必ずしも格闘タイプにはあまり造詣がないが、それでもなお、膝に来る強烈な精神攻撃の類だった。
ユウリは。
微動だにしない。
むしろ、今のが勘に障ったのか、その場で微動だにせず、しかし何かしたらしい。
ファイヤーの尻尾を中心に、地面にひびが入る。ドカンとか音がした。
何だアレ。
勿論、ファイヤーは髑髏マークが空中に浮かびそうな悲鳴を上げていた。
また、さっきのをぶっ放してきたが。マリィはそれを察知していたので。今度は正面から耐える。こういうのは、直撃の瞬間に意識を集中することで何とか軽減できる。
周囲で隠れていた弱めのポケモンがばたばた倒れているようだが。
この程度でどうにかなるようだったら、ジムリーダーなんてやれない。
ユウリがモンスターボールを取りだす。
彼女のエースであるポケモン。
精悍なサッカー少年と兎を足した姿を思わせる、エースバーンだ。
エースバーンは出るや否や、殆ど即座にファイヤーの背中に蹴りの一撃を叩き込む。
更に踏みつける。
全身が燃え上がっているファイヤーだが、エースバーンは平然としている。炎タイプのポケモンだから、生半可な炎なんて意にも介さない。そういえばユウリは、どうして踏んでいて平気なのだろう。
いずれにしても、これが致命打になった。
ユウリのエースバーンはガラルの公式試合で一度も負けを経験していない。
その実力は伝説級に迫るという話もある。
ファイヤーもそれを察知したのだろう。
がくがく震え、口から泡を吐き出しながら、抵抗の意思を無くしたようだった。
「最初からそうすれば良かったのに。 それとも眠らせてからぼっこぼこにしてあげれば良かった?」
ユウリがそう言うと、びくりとファイヤーは震える。
言葉は通じているとみていい。
いずれにしても、これはもうこのファイヤー、ユウリに逆らう事は出来ないだろう。もはやその姿は、絶対的強者に踏まれている哀れなげぼく以上でも以下でも無かった。
モンスターボールを放って捕獲するユウリ。
勿論、抵抗はせず。
ファイヤーは捕獲された。
色々突っ込みたいところはあるのだが。マリィはさっきのモロに喰らった精神攻撃でだいぶ調子が悪い。
そのままへたり込んでしまう。
いつの間にかユウリに見下ろされていて。
恐怖が背筋を這い上がった。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫けん……」
「そう。 まったく性格が悪いなああの子。 まだ炎でも吐いてくれば面白かったのに、周りごと巻き込んで攻撃してくるんだもん。 本当に迷惑なんだから」
ぷんすかしている様子のユウリ。
怒るのはそこなのか。
そして炎を吐かれても大丈夫なのか。
多分、大丈夫なのだろう。
それと、あの燃えているファイヤーの尻尾を踏んづけていた靴はどうなっているのだろう。
色々怖くて聞けなかった。
流石にお嫁さんだっこをする事はなく、ユウリはマリィをひょいと背負うと、近くにあるマスタードの道場へ。ユウリの体格は殆どマリィと同じくらいなのに。マリィを背負っても何も苦にしている様子は無い。
其所のベッドを借りる。
マスタードの若い奥さんであるミツバさんが、マリィの手当をしてくれる。症状についても、すぐに理解したようだった。
適切な看護をしてくれたので、比較的すぐに体調は良くなった。
それにしても、至近距離で喰らわなくて良かった。
喰らったら多分、その場で動けなくなっていただろう。
ファイヤーにとっても、あの技。内容は分からないけれど、多分初見殺しとして自信がある技だった筈だ。だから、速攻で逃げを決めた相手(ユウリ)に勝てないとみるや全力で叩き込んだ。
更に言えば、ユウリは恐らくだが、ファイヤーに敢えて何かやらせるつもりだったとみていい。
その技を敢えて喰らってみせることで。
しかも効かない事を見せる事で。
相手の心をへし折るつもりだった、というわけだ。
そういえばサンダーの時も。敢えて相手の得意な「走る」で勝負して。サンダーの心をへし折って捕まえていた。
ファイヤーの時も同じだった、と言う訳か。
ベッドで横になりながら、それらの事を理解していく。
ユウリは怖いな。
そう思う。
元々扱うポケモンが強いと言う事もユウリの実力の一つだが。ユウリの最大の恐ろしさは、心理分析の巧みさにあると試合の実況を見ていて聞いたことがある。
この辺りは他のトレーナーに聞いてみないと何とも言えないのだが。
確かにユウリは次に何を出してくるのか分かっているような雰囲気があるし。
基本的に全て想定内、という感じで動いている。
勿論最初はそうでは無かったはずだ。
誰だって最初はバケモノじゃない。
だけれども、マリィとユウリが初対戦した頃には、既にかなりの力の差があったように思えるし。
最近やっているどんなトレーナーも勝ち上がれば参加できるガラルスターリーグでは、ユウリとマリィは組んで戦う事があるが。その時も、マリィが何をするかユウリは読んでいる節がある。
一種のテレパスかとも思ったが。
超能力の類ではないのだろう。
ユウリが来た。
大丈夫か聞かれたので、頷く。
何となくだが、ユウリの強さの秘密が分かってきた気がする。怖がっているだけでは駄目だ。
ユウリの時代は十数年は続くとはいうけれど。
それでも、その間何もしないというのはいくら何でも性にあわない。
どうすれば勝てるのかを考えたい。
それがポケモントレーナーであり。
何より地域最強のトレーナーであるジムリーダーとしてのプライドだ。
「ユウリ、幾つか聞かしてほしいけん」
「なあに?」
「靴はどうなってるの?」
「ああ、これ工場とかで使う対熱用の靴。 他の地方だと、足下の熱が凄い場所とかあるから、作ってもらったんだ。 場合によっては火山地帯とかにも出向くしね」
なるほど、だからファイヤーを直接踏んでも大丈夫だったのか。
怖いから考えたくない、では駄目だ。
しっかり分析しなければならない。そして教えてくれるなら、聞いて研究しなければならない。
「あの、何もしないで地面に罅入れたのは?」
「発勁って技だよ。 超能力じゃなくて、簡単に説明すると動かないまま地面に衝撃を与える技。 ガラル空手にはないけれど、他の地方に伝わってる格闘技にあってね。 海外の地方でポケモンの稽古をつけた代わりに教えて貰ったの。 こういうことがあるから、海外遠征は毎回とても楽しみなんだよね」
「……そうなんね。 貪欲だね」
「まだまだもっと強くなりたいもーん」
ユウリは笑顔だ。
まだ強くなりたいのか。
でも、此処で怖れていては、先には進めない。
少しでも、今回側でユウリを観察できる機会を得たのだから。自分の力にしたい。
そう、勇気をマリィはふるう。
「炎吐かれたらどうするつもりだった?」
「んー、一喝して弾き飛ばしたかな。 全力で気合いを入れて吐いてきた炎だったら流石に危なかったかも知れないけれど、破れかぶれで吐いてきた炎なんて一喝で消し飛ばすだけだね」
「……そ、そう。 それであの何か気持ち悪くなる技はどう耐えたんね」
「鍛え方が違うだけだよ。 あんな程度なら効かない」
そっかあ。
気が遠くなりそうな答えが色々飛んでくるが。それでも気持ちで負けていては駄目だ。
目が死んでいるだろうなと思いながらも、何とかユウリの強さの秘密を吸収していこうと誓うマリィ。
だが、心が折れそうである。
少し休んだら、またガラル南部に出向く。
今度はフリーザーを片付ける。
そうユウリは言う。
マスタードは、はははと笑った。
「それでユウリちゃん。 三鳥はどうするのん?」
「私はもう伝説級を充分に持っているので、研究施設に預けます。 マグノリア博士の所ですね。 他地方だとオーキド博士という有名人がいるんですが」
「オーキドさんか。 わしちゃんも一度だけあったことがあるよ。 まあ世界的ポケモンの権威だからね。 あえて嬉しかったなあ」
「私も一度だけ会いました。 いつまでも元気そうで、私にも良く接してくれました」
オーキド博士か。
ポケモントレーナーの免許を取るとき、教科書に出てくるような有名人だ。そうか、二人とも会ったことがあるのか。
まずは、そういうマリィにも出来る所からやっていくべきなのかな。
そう、マリィは。人外じみている友人の恐ろしさを思いながら。考えるのだった。