ポケットモンスター剣盾二次創作シリーズ 作:dwwyakata@2024
色々と愉快な反面、各地に点在する石碑を見ると、結構大変な生を送ってきた王様です。
その王様と、どうユウリが関わっているか。
そんなお話です。
序、謁見
ポケットモンスター、略してポケモン。不思議な存在と人間が共存するこの世界では、既に国が存在せず。地方として、代わりになっている。地方を跨いで活躍する国際警察のような組織もあるし。地方によって治安も人の生活も全く違う。
今はないが、昔はポケモンを使って戦争をしていたし。
今でも人を襲うポケモンは珍しくもない。
雪山の中、ユウリは歩く。
現在、ガラル最強のポケモントレーナーであるユウリは、今回個人的な用事でここに来ていた。
10歳から大人と認められるこの世界でも。10歳で地方のチャンプになる例は殆どない。
そんな例外がユウリだ。
チャンプになった直後はスランプになったりもした。前チャンプのダンデがあまりにも偉大だったからだ。
だが今はそのスランプも克服し。
国際的に忙しく活躍しながら、様々なものを見て回っている。
チャンプになってから一年以上が過ぎ。防衛戦も余裕で勝利して。もはやチャンプの座は盤石と言われているが。
ユウリ自身は、決して安楽な生活を送っているわけではなかった。
今日は一人だけ。護衛はつけているが、人間の護衛では無い。何体かの、手練れのポケモン達だ。
ポケモンは独自の言葉で会話するらしく、時々後ろで何か喋っている。
ただ、此処では出来るだけ静かにするようにとは言っているので、小声ではあるが。人間の言葉はある程度通じるし、ハンドサインを教えれば更に意思疎通は容易になる。
ある程度の高い知能を持っているのがポケモンで。
それには18あるタイプに別はない。
「もう少しだったっけかな」
此処は雪山。
膝上くらいまで雪が積もっている。
自転車を使っても良いのだが、これから会いに行くのは王様だ。だから、敬意を持って山は登りたい。少なくとも、王様の今の居場所である場所付近は。
王様といっても、人間では無いのだが。
それはあまり関係無いだろう。
王様が成し遂げた事は、色々と多かったのだから。
やがて、不意に大きな遺跡が見えてくる。
大きな木も。
此処が王様の住処。
皆に、敬意を払うように注意。一緒についてきている手練れのポケモン達は、皆頷いていた。
とても強いポケモンなのだ。
敬意は自然に払える。
どうしても強さが大事になってくるポケモンの世界ではあるけれど。
強ければ自然に敬意は払われる。
そういうものだ。
この辺りは人間世界とは少し違っているが。
ユウリはそのまま歩く。雪が鬱陶しいなあとは思うけれど。王様が少しずつ気候を緩和してくれている。
ずっと王様は弱り切っていて。
この地方は雪に閉ざされていた。
昔は人も多く栄えていたらしいのだけれども。
ガラルの南部と言えば、今は人心経済豊かなガラル地方にて、珍しい人口極小地帯である。
あの貧しいスパイクタウンでさえ、此処に比べれば都会だ。
神殿に入ると。
王様の力が復活しているからか、流石に雪は殆どなくなっているし、むしろほんのりと暖かい。
コートを脱いで、雪をぱんぱんと音を立てて払う。
ポケモン達も、皆それぞれのやり方で。
エースバーンは全身を炎で熱し。
マホイップのクリーム(ユウリが名付けた名前では無い。 元は他人の所有ポケモンだった)はサイコパワーで雪を弾き。
大きな亀のポケモンであるカジリガメは、身震いして豪快に雪を飛ばした。
帽子も取ると、神殿に入る。
奥には玉座があり。
つながれた威厳ある白い馬のポケモン。そして、玉座についている、大きな冠のような構造物を頭に乗せている。小柄な人柄のポケモンの姿があった。
馬のポケモンは何種類かガラル地方にもいるが、あの白い馬はどれとも違う。いずれとも桁外れの力を持っていて、また性格も比較にならない程獰猛だ。
一方玉座についているポケモン。
顔は鹿に似ているが。
この存在こそ、「王様」である。
人間では無いが。尊敬すべき存在だと、ユウリは知っていた。
古くはこの地を災厄から守り。
そして今は新しく人々を見守ろうとしている。
決して過干渉はしようとせず。
土地を豊かにすること。暴から弱を守る事。
この二つだけをした。
存在はしたが統治はしない。
それは、恐らく王様のあり方では無いのかも知れない。だが、善のあり方としてはありなのだろう。
人間であったら、欲に飲まれてしまっていただろう。
だがこの王様はポケモンであり。人間とは思考の構造からして違っている。
だからこそ、王様は。
長くこの土地に、善なる王として君臨し続けたのだ。
直接頭の中に声が響く。
王様は、人間に意思を伝えることが出来るポケモンだ。
「この地の今の覇者たるユウリよ。 よくぞ来てくれたな。 大した事は出来ぬが、それでも出来る限りは歓待しようぞ」
「ありがとうございます、陛下」
「よい。 余は人々からの信仰を受け、力は回復出来たが。 まだ王としての仕事はほぼ出来てはおらぬ。 まずはこの地の寒さを緩和し、作物を実らせていかなければならぬ」
真面目な王様だ。
ユウリは跪こうとしたが、それも良いと言われる。
元からこうだったのだろう。碑文を見る限り、最初から穏やかなポケモンだったのだ。
「今日は王様に用事があって来ました」
「ふむ、何か。 聞かせよ」
「この間狼藉者が雪山に入り込んだことは知っているかと思います」
「そなたが捕獲したあの蒼き鳥であるな」
頷く。
ガラルのフリーザーである。
兎に角残忍なポケモンで、相手を快楽目的で殺す事を楽しむ性格の持ち主だった。既にユウリが叩き伏せて捕獲済みである。
恐らく王様が対応に出ていたら。
どんな天変地異になったか分からない。
伝説級と言っても実力はピンキリ。また、本来は伝説級では無くとも、努力や育成によって伝説級に遜色ない実力になる者もいる。
あのフリーザーはどうってことは無かったが。一例として今後ろに控えているマホイップは規格外の個体で。本気になられたらユウリでも本気を出さないと危ない実力の持ち主だ。
それでもフリーザーは伝説級。
この雪山が更に凄まじい豪雪に見舞われるようになっていたら。
碌な事にならなかっただろう。
「恐らく王様の力は、戦うには充分でも、この地方を豊かにするにはまだ足りていないと愚考します」
「そうであるな。 確かに余の力は、愛馬たるブリザポスを取り戻した今であっても、充分とは言い難い。 全盛期の戦闘力は取り戻したが、それだけよ」
「力を取り戻す手伝いをしようかと思います」
「それはまた世話になってしまうな。 だが、そなたが側にいるのであれば安心であろう」
王様が浮き上がる。
この王様は、エスパータイプとしての頂点を極めているポケモンの一角。エスパータイプと言えば、かの有名なミュウツー。カントー地方にて猛威を振るった伝説を持つあの存在が挙げられるが。
この王様がブリザポスと連携した状態で戦えば、勝負はどうなるかまったく分からない。
そして、王様がブリザポスに跨がる。
暴れ馬は嫌がる事もなく。
主君に背を預けていた。
このブリザポスは、本当に獰猛極まりない性質をしていて。それこそ放置しておけば人だろうが何だろうが見境無く襲う。
古くは村を潰すようなポケモンがいた事は事実で。
このブリザポスも、暴れていた時代にはひょっとしたら村の一つや二つ、潰していたかもしれない。
この暴れ馬を最初に御したのは王様で。
以降は王様とともにあることで、文字通り人馬一体の強さを発揮できるようになった。
伝説ポケモンと言っても実力はピンキリ。
それについては、ユウリは彼方此方の地方を回り。そしてここガラル南部で起きた色々な事件で学んだが。
王様は上の方だ。
ただし、本来王様はそれほど戦闘に向いている性格では無い。
この穏やかな言動からも、それが伺える。
手綱を王様が細い手で掴むと、ブリザポスが進み始める。
王様は冠に見える大きな頭部構造と。犬に似た顔。とても細い手足が特徴だ。
一件ひ弱そうだが。
エスパータイプのポケモンには、こういった変わった姿の者が多い。
そして王様についても、例外では無いという事だ。
宮殿を出る。
王様が歩いている周囲は、熱のフィールドが張られているように、暖かい。雪山ではないかのようだ。
そのまま歩いて、山を降っていく。
少し前は、伝説のポケモンだらけだったこのガラル南部だが。
今は穏やかなものである。
「まずは何をいたしましょう」
「余はまず、かのものが現れた地を見に行きたい」
「分かりました」
かの者。
ガラルにブラックナイトの災厄を引き起こした存在。
ムゲンダイナである。
同じく伝説のポケモンであり、骨で出来た巨大なドラゴンのような姿をしたこのポケモンこそ。
古くに隕石となってガラルに到来した存在。
決して悪意があるわけでは無いのだが。
その力が強すぎて、ガラルに大いなる災厄をもたらしてしまった。
今はユウリの手持ちにある。
ガラルの最大の災いである。
ガラル最大戦力の手にある方が良い。
そう大人達は判断したのだ。
だから、時々世話をすることはあっても。
ユウリがムゲンダイナを戦わせることは、殆ど無い。
ブリザポスは完全にこの土地を知り尽くしているのだろう。全く迷いなく降りていく。ユウリもそれについていく。
ユウリ自身も、この辺りは自転車で散々走り回った。
雪があろうが起伏があろうが関係無い。
クレバスなどの危険もあるが、そんなものは勘で察知できる。
伊達に余所の地方ではチャンピオンになれるというドラゴンタイプジムリーダーキバナや、そのキバナが一勝もできない氷タイプジムリーダーメロンがいるこの魔境ガラルにて、圧倒的チャンプをやっていないのだ。
ポケモンバトルが強い人間は、本人も強くなりがちだと言われているが。
ユウリもそれ。
いつの間にか、大人も混じったアームレスリングの大会で圧勝できるようになり。
この間は時速三百キロで走る鳥ポケモンを自転車で追い詰め捕獲した。
側にいた友人が引きつった顔をしているのを見てはいたが。
とはいっても、力があるなら使うべきである。
それがユウリの結論である。勿論、私的な理由で暴を振るうべきでは無いとも考えているが。
雪山がいつの間にか、野原になっていた。
此処から更に南下していくと、巨大な木が見える。
そこまで、あと一息だ。
「彼の地は余にとってはあまり好ましい思い出の場所では無い」
「ムゲンダイナに敗れたんですね」
「良くもそなたはあの強き存在を打ち倒せたな」
「ムゲンダイナと戦った時、ムゲンダイナはかなり疲弊していました」
実の所。
ユウリ一人で、ムゲンダイナを倒したのでは無い。
まずムゲンダイナは実体化直後、ユウリの前チャンプであり、ガラルの誇りとまで言われていたアイコニックヒーロー。全世界を見渡しても最強の一角と言われるポケモントレーナー、ダンデと苛烈な戦いを繰り広げた。
此処でかなり消耗していたのが追い風になった。
ダンデ自身を驚くべき事に退けたムゲンダイナだが。
直後にユウリが幼なじみと供に現場に到着。
更に、伝説の二体のポケモンが駆けつけ。
合計四対一で、真の姿を現したムゲンダイナと戦ったのだ。
だから、ユウリ一人で倒したのでは無い。
なお、その時駆けつけてくれた伝説の二体のうち、「剣の権化」ザシアンはユウリの手元にいる。
そして「盾の権化」ザマゼンダは、幼なじみの手元にいる。
見守るため、らしい。
何処までも真面目で、立派な存在だと思う。
下手な人間なんかより、ずっとだ。
人心経済ともに豊かなガラルしか知らなかったユウリだが。チャンプになってからは、実力を見た人達から、海外での悪の組織退治を頼まれるようになった。
其所でユウリは見た。
人間が最低限まで墜ちると、獣以下になり果てると言う事を。
もう数えるのも面倒な数の悪の組織を叩き潰し、数千人を刑務所に放り込んだユウリだが。
この様子では、仕事が絶える事はないとも思う。
野原を歩きながら、それらの話をする。
そうかと、王様は馬上で呟く。
「余は一人であの強き者と戦わなければならなかった。 余の力では、寝起きで弱り切っている奴の、活動を遅らせるのが精一杯であった」
「……」
そう。
ムゲンダイナがこのガラルに来た時期と。
ブラックナイトの災いが起きた時期。
どうもこれがずれているのだ。
少しユウリの方でも伝手を当たって調べたのだが。どうにもムゲンダイナの到来よりも、ずっと後にブラックナイトの災いが起きているらしいのである。
ザシアンやザマゼンダが、王様と面識がなかったことや。
伝説に残るザシアンやザマゼンダとムゲンダイナを撃ち倒した「王」が、実は二人の人間であったことなどからも。
伝説が矛盾している。
この辺りには多数の碑文が残されており。
恐らく、王様がムゲンダイナを辛くも退けた直後に作られただろうその内容も、幾つか解読して貰ったのだが。
それらも全てが矛盾していた。
無理に知りたいとは思わない。
王様はムゲンダイナとの戦いで大きな心の傷を受けてしまい。ムゲンダイナの真の姿である「手」を怖れるようになってしまったのだから。
だが、事の真相はいずれ知っておきたい。
ユウリは人間だ。
いずれ後続がユウリを追い越す。
生涯現役を保てたとしても。人間の寿命は精々百年。どれだけ頑張っても百二十年だ。
ユウリは今11歳。
生涯現役だったとしても、今のように体が動き。ポケモン達を従えられるのは、後六十年か七十年が限度だろう。
ポケモンリーグ委員長だったローズさんの言葉では無いが。
千年後の未来。
流石に今、千年後の未来を考える必要はないが。
いずれは考えて行かなければならない。
その事を思うと。
あまり長い間。
放置しておける問題では無いのも事実なのだった。
やがて野原を降りると、大きな木が見えてきた。あの木を巡って、ガラルの三鳥。ファイヤー、サンダー、フリーザーが争っていたっけ。
そのまま近くの集落を襲いかねなかったから、ユウリが三羽とも叩き伏せて捕まえたが。
あの異常な大きさ。
それに、木の周囲の湖がまん丸である事。中央が膨らんでいること。
どう考えても、彼処が隕石として落ちてきたムゲンダイナの着弾点である事は間違いない。
王様が手綱を引き。
ブリザポスが足を止める。
やはり、王様は。
其所で、じっとしていた。
ユウリもそのまま待つ。
心の傷というものが、如何に大きいダメージを心身に与えるか。海外で見た。海外の地方では、とんでも無い外道悪党がうようよいて。ユウリも時々精神の箍が外れそうになる事もあった。
色々な組織を潰してきたが。
ガラルの友達には話せないような、とんでも無い実験をしていたり。
とんでも無い商売をしている連中もたくさんいた。
自分さえ良ければいい。
そう考える人間が、どれだけ邪悪な事をするか。そういう連中が、他人の心にどれだけ深くて埋まらない傷を穿つか。
それはユウリ自身も良く知っている。
ポケモンだってそう。
王様だってムゲンダイナの圧倒的な力を食い止めるために、大きな心の傷を受けただろうし。
ユウリの手持ちにいるマホイップは、世界の理不尽を一身に浴びるような目に会って、今でも目がドス黒く濁ったままだ。
「かまわぬ。 ゆこう」
「はい」
王様が再び手綱を引き、進み始める。
まずは、あの木が、目的の場所らしかった。