ポケットモンスター剣盾二次創作シリーズ   作:dwwyakata@2024

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1、昔々に起きた事

 

今手持ちにいるムゲンダイナだが。流石に王様の前で出す気は無い。そんな事をするのは、あまりにも配慮に欠けるとユウリも思うからだ。

 

ムゲンダイナは今はごく大人しい。

 

元々、力が大きすぎるだけで、別に凶暴な存在でもないのだろう。

 

キャンプで他のポケモンと接しているときも、特に獰猛なそぶりは見せないし。

 

ユウリに対して、たまに注意を促してくる事はあっても。

 

余計な世話を焼くようなことも無い。

 

そんなムゲンダイナがこの世界に来ただろう、湖の中心。

 

ちょっとしたビルくらいもある巨大な木を見上げる。

 

今は静かなものだ。

 

木からはびりびりと強い力を感じる。

 

恐らくだが。

 

地下には、ムゲンダイナの力の一部が眠っていて。

 

それで木はこれほどにも育ち。

 

その木の実を、三鳥が貪り喰っていたのだろう。

 

この木に住み着いていたヨクバリスが恐ろしく巨大化していた事からも。木自体に力がある事は確定である。

 

じっと木を見上げる王様。

 

側に立ったまま、ユウリは相手の反応を待つ。

 

「始まりの地であるな」

 

「此処で戦ったんですか」

 

「そうだ。 余は目覚め立てのあの者が、とても危険であることを察知した。 今から遙か昔の事だ。 この土地にあの者が落ちてきた。 破片はこの土地の彼方此方に降り注いだがな」

 

破片とは恐らくだが、パワースポットのことだろう。

 

ガラルの彼方此方には、ポケモンを一時的に巨大化強大化させる「ダイマックス」という状態に出来る場所が存在する。それをパワースポットと呼ぶ。

 

パワースポットは兎に角悪用されやすいため、その上に各地のジムが立てられており。地域最強のジムリーダーがそれぞれ独占しているのだが。

 

これに対して、良く想っていない人もたまにいるそうだ。

 

特に、ポケモンを同条件に揃えて戦わせる「廃人」と呼ばれる人達はこれを快く思っていないらしく。

 

ユウリもそう言った人が、不平を零しているのを見かける。

 

だがポケモンは、それぞれ個人によって強く出来る限度がある。

 

それも含めてのポケモントレーナーの実力だ。

 

噂によると、弱いとして馬鹿にされている鳥ポケモン、デリバードを鬼神のように強く育て上げたトレーナーも存在していたらしい。そのデリバードは単独で湖を凍らせて、ポケモンの中でもかなり強い方であるギャラドスを十数匹まとめて倒したり。伝説のポケモンで相性も最悪のホウオウを単騎かつ無傷で倒したりと。文字通り冗談だろうと呟きたくなるような逸話を残しているそうだ。何処まで本当かは分からないが。

 

ともかく。

 

破片だけで、普通のポケモンをダイマックスさせる存在である。如何にムゲンダイナが桁外れのポケモンかは誰にでも分かる。

 

同じく桁外れのポケモンである王様も、それはすぐに理解したのだろう。

 

「解き放ってはならぬ。 それを余は理解し、戦いを挑んだ。 余は傷つき、力を殆ど使い果たしてしまった。 ムゲンダイナも力を使い果たし、何処かへ逃げていったが……時を稼ぐことは出来た」

 

やはり。

 

此処にムゲンダイナが落ちて、すぐにブラックナイトの災いが起きたわけでは無かったのか。

 

恐らくだが、ずっと後。

 

この土地に落ちたダメージと。

 

王様との戦いのダメージを癒やした後。

 

目を覚ましたムゲンダイナに呼応して、その欠片であるパワースポットが活性化。各地で無差別にポケモンがダイマックスをおこし。

 

ブラックナイトの災いが引き起こされたのだ。

 

ムゲンダイナが、その間何処で眠っていたのかは分からないが。

 

いずれにしても、多分ワイルドエリアの何処かだろう。

 

というのも、ワイルドエリアにはあまりにも強いポケモンが多すぎる。パワースポットほどでは無いが、強力なポケモンが住み着く巣穴もたくさんある。

 

それらを考慮すると、ムゲンダイナが眠り。起きる事によって呼応したポケモンが大暴れした結果。

 

ワイルドエリアという広大な無人地帯が出来たのだとも想像できる。

 

ただこれらの説はユウリが唱えたものではない。

 

碑文をあらかた集めて持っていった結果。

 

この土地のポケモンの権威である、マグノリア博士に聞かされた話だ。

 

あくまで説であって。

 

もっと実証するデータがほしいと言っていたが。

 

「何か、力を戻す方法はありませんか?」

 

「……今は、この辺りにいるだけで余は少しずつ力を取り戻すことが出来る。 豊かな実りこそ、余の力だからだ。 後は余の伝承が、もっと広まっていけば。 人々の信仰が、余に更なる力を取り戻させるだろう」

 

「厄介ですね、それは」

 

「ふむ、聞かせよ」

 

今、ガラルでは。

 

「王」の伝説が混同されてしまっている。

 

ガラル南部にある、この王様の話。

 

そして、ガラル全域に伝わっている、ブラックナイトを収めた英雄としての王の話である。

 

この二つが別物であるという事は、まだ知られていない。

 

更に言えば、このブラックナイトを収めた英雄は、「一人の人間」としてつい最近まで認知されており。

 

「二人の人間と手を貸した二体の伝説ポケモン」である事すらも知られていなかったのである。

 

歴史の深奥は深いと言うが。

 

事実が此処まで伝承と異なると。

 

ユウリとしても、色々困るというのが本音だ。

 

王様の伝承にしても、ガラル南部で細々と伝えられていた程度で。

 

王様自身が幾ら色々な理由で弱体化していたと言っても。

 

それでも、其所からブラックナイトの真実や、その前にムゲンダイナを一旦眠らせた王様がいたことなど。

 

分かる者は、まずいないだろう。

 

「しばらく、周囲を見て回りたい。 そなたが側にいれば安心であろう」

 

王様が言う。

 

素直にユウリは頷くと。馬上の王様について、周囲を見て回った。

 

凶暴なポケモンも多いのに。

 

ユウリと王様が揃っているからか。

 

仕掛けてくるものは、一体たりといなかった。

 

 

 

王様とユウリは、前に旅をした。

 

その時は色々不自由があった。

 

だが、その結果。力衰え、殆どの存在から認識さえされないほど弱っていた王様は。力を取り戻し。少なくとも全盛期の戦力は取り戻す事が出来た。

 

その後王様とユウリは一度戦った。王様は、覇者の力が見たいと言ったのだ。

 

ユウリはそれに答えた。全力での戦いになった。

 

そして、勝利したのはユウリだった。

 

王様には、モンスターボールに入って貰った。

 

立ち会いはして貰ったので、一応法的にはユウリの手持ちという事になっている。

 

だが、王様は。ポケモンバドレックスは、文字通り神のような存在。

 

地方全域にその力を及ぼすことが出来。

 

更には信仰の対象でもある。

 

一度持ち帰って話し合いをし。

 

現在はガラルの顔役として活躍している前チャンプのダンデをはじめとする委員会と話し合いもした。

 

その時王様には出て貰って。

 

直接皆と話もして貰った。

 

既にユウリは11歳。

 

この世界では、10歳から大人として認められるし。何よりガラルのチャンプである。責任のある大人としての立場がある。

 

話し合いは、見届けなければならなかった。

 

恐らくは、王様の力が目覚めたからだろう。

 

それ以降、ガラル南部には多数の伝説ポケモンが姿を見せ。

 

その大半は現在研究の末ダンデに預かって貰っているが。

 

王様だけは、最終的にお城に戻って貰った。

 

ガラル南部は過酷で、人もポケモンも殆ど住めない地域だ。

 

此処を豊かに出来るのなら。

 

それはいて貰った方が良い。

 

勿論王様には自衛のための戦力があるが。それでも時々見に行くべきだろう。そういう判断が下されたから。ダンデかユウリが、時々定期的に様子を見に行く事で話は決まった。

 

そして、現状はまだ王様は戦闘能力は兎も角。

 

土地を豊かにする力までは取り戻しきれてはいない。

 

だからこそ。

 

ユウリは、手助けをしたい。

 

キャンプをする。

 

王様はブリザポスから降りると、愛馬の手入れをしている。直接触るのでは無く、サイコパワーで汚れなどを丁寧に取っている様子だ。白銀の毛並みを持つ暴れ馬は、黙々とにんじんを食べていた。

 

馬の好みとして知られる人参だが。

 

実際には、馬が好むのは草全般で、人参だけを食べるわけでは無い。

 

単純にブリザポスは人参が好きな様子で。

 

その辺りは、個人的な好み、と言う奴なのだろう。

 

この世界にいるポケモンの中には偏食家や、どうやって繁殖しているのかもよく分からない個体もいる。

 

特に伝説とされるポケモンは、繁殖が必要ないようなものもいる。

 

生物の範疇を超えていて、完全に神の域に踏み込んでしまっているタイプだ。

 

王様は間違いなくそう。

 

或いはブリザポスもそうかも知れない。

 

古い古い昔には。

 

ポケモンと人の間に子供が出来る事もあった、という噂も聞く。

 

これから、実は今世界にいる人間は、ポケモンの一種では無いかと言う話もあるほどである。

 

「どうですか、王様。 力は戻っていますか?」

 

「すこぶる快調とまでは行かぬが、そこそこではある。 覇者よ、そなたはどうだ」

 

「いつもの仕事に比べれば楽なものです」

 

「そうであろうな。 そなたからはぬぐえきれぬ血の臭いがしておる。 そなた自身が戦いを好むのではなくとしてもだ」

 

分かるものだな。

 

サイコパワーがあまりにも凶悪だと、相手の精神などに触れてしまうらしいと聞いているけれど。

 

それも理由の一つなのだろう。

 

「今、この地では自然の営みを除けば、さほど濃い血の臭いはしておらぬ。 だが、世界全てがそうではないのであろう」

 

「そういう事です。 話が早くて助かります」

 

「やはり、彼方此方で戦が起きているのか」

 

「戦というほどではありませんが……」

 

戦争は、今は過去の出来事となった。

 

地方同士が争ったり。地方の内部で争ったり。

 

少なくとも軍隊という存在同士が争って、大規模に殺し合う事は今では世界の何処でも起きていない。

 

その代わり、戦争は小規模かつ社会の裏側で。

 

陰湿に起きる様になった。

 

いわゆる「悪の組織」の勃興である。

 

有名どころで言うとロケット団やフレア団などがあるだろう。こういった組織は、社会に不満を持つ人間を集め。ポケモンの使い方を仕込み。悪事に利用して、社会の裏側で蠢き。

 

多くの不幸をばらまいていた。

 

中には、世界を文字通り滅ぼそうとした悪の組織もあったと聞いている。ユウリが見て来た中でも、其所までやらかそうとした悪の組織は存在しなかったけれども。ただ、社会の不備が故に悪の組織に追いやられたり。他に生き方が無くて仕方が無く、という人もいた。

 

ユウリは国際警察と協力して、様々な地方の悪の組織を叩き潰して回ったが。

 

その過程で、人間の裏の顔を嫌になるほど見た。

 

今は平然としていられる。

 

だけれども、新チャンプに就任し、しばらくスランプになっていた頃。

 

こういった負荷の掛かる仕事をもっとたくさんしていたら。

 

それこそどうなっていたか分からない。

 

今はある程度割切って考えられるが。

 

各地のチャンプとの親善試合やジムでの教導なんかをしているときは、気楽でならない。

 

軽く説明する。

 

王様は、目をじっと細めた。

 

「余にとっては、人は光と闇の両面を持つものと認識出来ておる。 だが人という生物は、やはり闇に傾きやすいのだな」

 

「善人のまま闇に傾いていく人も見たことがあります」

 

「難しいものよ」

 

カレーが出来たので、皆で食べる。

 

王様は文句一つ言わずにカレーを食べるが。或いはもっとマシなものでも用意した方が良いのかも知れない。

 

今回は別に伝説級と戦う訳でも無いので、立会人は連れて来てはいないのだが。

 

この間同期のトレーナーであるマリィと一緒に伝説級と戦った時。あんまりにもマリィが料理上手なので、逆に驚かされた。放っておくとカレーしか作らないと言われるユウリとは偉い違いである。

 

食事を終えると、軽く体を動かす。

 

いざという時にきちんと動けるように、常に戦闘を意識しておく。

 

これが重要だ。

 

海外の地方に行くと、もうユウリが来たというだけで。悪の組織が逃げ腰になる事も。或いは全力で決死の反撃に出てくることもある。

 

つまり飛行機を使う事さえ危ないケースもあるので。

 

途中から自転車で海を渡ることさえある。

 

体は資本だ。

 

食後の運動を済ませると。後は寝ることにする。

 

野外で寝る事なんて、もう珍しくもない。王様は眠ると言う行為そのものが必要ないらしいので。

 

寝袋を被って眠る事にする。

 

見張りは交代で行うが。

 

まあ別に何日も泊まるわけではない。夜行性のポケモンを何体か連れてきているので、その子達に任せる。

 

眠れるときは、きちんと規則正しく寝起きする。

 

これが重要だといつか聞かされたっけ。

 

今ではそれを大まじめに守って。きちんとした規則正しい生活をしているが。これ以上忙しくなったらどうなるか分からない。

 

どれだけ体力と精神力があっても、人間である以上限界があるとも聞いている。

 

今後は少し、考えなければならないかも知れない。

 

起きる。

 

バドレックスは相変わらず、じっと大きな木を見上げていた。

 

木の実を落とそうかと聞くと、首を横に振る。

 

「この木に満ちているのはかの者の力だ。 余の力とはあわぬ」

 

そういえば。

 

王様もダイマックスは出来るのだが。纏っているオーラの色が、他のポケモンと違ったっけ。

 

或いは王様は、他のポケモンとは違う原理でダイマックスしているのかも知れない。

 

いずれ、聞いてみたいところだ。

 

軽く朝の体操をして体を動かした後。

 

今日はどうすると聞いてみる。

 

もう少し、彼方此方を見て回りたいと言われたので。

 

頷いて、つきあうこととした。

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