ポケットモンスター剣盾二次創作シリーズ   作:dwwyakata@2024

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2、少しずつ戻り始める気候

人心経済ともに豊かなガラル地方だが、南部は話が別だ。

 

極寒の雪山に、凶暴なポケモン。過酷な環境。土地は痩せていて。人も少ない。

 

このうち、土地が痩せていたのは。王様に対する信仰心が薄れ、王様が力を失ったのが原因だったのだが。

 

兎も角最近は少しずつ改善してきている様子だ。

 

王様が力を取り戻し。

 

更には、ユウリが委員会と相談して、色々手を回しているからというのもある。

 

ただ、流石にこの土地に移住してくる住民はまだまだいない。

 

もっと豊かになり。

 

ポケモンにとっても人間にとっても過ごしやすい土地にならないと、人なんて来ないだろう。

 

田舎でスローライフなんてのは幻想だ。

 

幾つも田舎を見て来たが。

 

閉鎖的な人間関係。不便なインフラ。何もかも、田舎というのは都会の人間が持つ幻想と反している。

 

もしも住みやすい田舎を作るなら。

 

リゾートのような環境にするしかない。

 

幸い、王様の力が戻って来ている事で、少しずつ環境は良くなっている。

 

だが、このペースだとリゾート化には十年くらいはかかるという試算もユウリは聞いている。

 

この村の長とも話はしているが。

 

王様に対する供物の復活や。

 

祭などの復活。

 

更には、少しずつ改善する土地での作物栽培などについて、幾つもの課題があると聞いている。

 

他の大人達と話をし。

 

改善していかなければならない事だらけだ。

 

長期間借りている民宿に入ると、王様にモンスターボールから出て貰う。ブリザポスは前にこの村を襲ったことがあるので、今はモンスターボールの中にいて貰う。怖れさせてはいけない。

 

あくまで豊穣の神なのだ。

 

豊穣の神は、敬愛の対象でなければならない。

 

これが戦いの神などであれば、荒々しい恐ろしさが必要なのだろうが。

 

今の王様に必要なのは、素直な信仰だ。

 

ユウリは単に敬意を示すという形でそれを実現する。

 

他の村人も、別に宗教として王様を信仰しなくても良い。

 

この土地に実際に豊かな恵みをもたらす存在に、感謝だけしてくれればいい。

 

だが、その話だって。

 

中々、村の人間達には理解して貰うのが難しいだろうし。

 

何よりもこの村の人間の数では知れている。

 

当面王様には苦労をして貰う事になる。

 

それを順番に、ユウリは話していく。

 

そうかと、悲しそうに王様は言う。王様は温厚な存在だが。戦う事自体は出来る。

 

そもブリザポスに対しても、周囲を荒らし回る暴れ馬だったのを従えたという話である。碑文には手をかざすと大人しく従ったとか何とか書いてあったが。王様によると、やはり全盛期のサイコパワーでねじ伏せたのが真相だったらしい。

 

細い、折れそうな腕を組んで考え込む王様。

 

「覇者よ。 やはり時間が掛かるのは避けられぬか」

 

「待てませんか?」

 

「いや、余が待つのはかまわぬ。 だが、この村にそれだけの体力が残っているかが疑問でな」

 

頷く。その通りだ。

 

この村は元々、援助を受けながら細々やっている状態だ。高齢化も激しい。

 

かろうじて子供もいるにはいるが、村そのものは放置しておけば近いうちに廃村になってしまうだろう。

 

実際、ガラル南部には、彼方此方に遺跡がある。

 

言う間でも無く全てが廃村だ。

 

昔は、それだけの数の集落が存在していて。豊かな恵みと穏やかな環境に守られて、多くの人が生活していた。

 

だがそれも今は村が一つだけ。

 

王様の力を復活させ、皆が豊かに暮らすには。

 

少なくとも、遺跡の数の分くらいの人間が、此処で暮らし。王様に感謝するくらいの事が必要だろう。

 

だが、それで大丈夫なのだろうか。

 

「王様、聞きたいんですけれど」

 

「何か」

 

「信仰が衰え始めた頃の事を覚えていますか?」

 

「……そうだな。 正直な話良くは分からぬ。 いつの間にか、人々は余への敬意を忘れていったように思う」

 

やはりな。

 

王様に丁寧に説明していく。

 

「人ってのは、豊かなことが当たり前だと、それを忘れてしまう生き物なんです」

 

「そうなのであるか」

 

「はい。 例えば健康ですけれど、無くなって始めて価値が分かるっていう話がありましてね」

 

これは本当の事だ。

 

チャンプであるユウリのファンはガラル中にいる。

 

若年層も多いが。体を壊して入院している老人にもいる。大人になったばかりの子が、あのダンデを倒し、今も無敗記録を更新し続けている。そんな話を聞けば、それは嬉しいと言うのだ。

 

前委員長のローズ氏も、勿論ダンデも、そういった人の慰問は良くやっていたという話だが。

 

勿論ユウリも時々やっている。

 

相手には喜んで貰ったが。

 

その時言われたのだ。

 

健康は当たり前の事じゃない。失った時、健康ってのはこんなに貴重だったのかって、思い知ることになると。

 

それがいやだったら、普段から健康を維持することを常に考えて、健康である事に感謝しなさいと。

 

ユウリは素直に言われた事を聞き。

 

今は、健康を維持するための努力を常に欠かさないようにしている。健康診断もしっかり受けている。

 

だが、それは。

 

言われなければ分からなかったことだ。

 

何でも若い頃に無理をすると、三十四十くらいからどんどん体がおかしくなっていくらしく。

 

やがて手に負えないくらい体が滅茶苦茶になるそうだ。

 

気付いたときには遅いという。

 

逆に言うと、普通の人間は、「失わないと分からない」のだ。

 

年寄りの言葉だとか笑っていると、あっと言う間に自分も年寄りになっている。

 

何でも体感時間は、二十歳までと二十歳から死ぬまでがだいたい同じだと聞いている。

 

大人になって一番からだが充実しているのは、十代後半から二十代だが。

 

その充実期が終わったら、もう後は奈落に真っ逆さま、という事である。

 

ユウリの師匠である、偉大なる十八年間無敗を誇ったチャンプマスタードのように、生涯現役の人もいる。

 

だが、そういう人はあくまで例外。

 

つまり。

 

豊かなことが当たり前だと、人はそれに感謝しなくなってしまうのである。

 

「ふむ、優しいだけでは駄目だ、と言う事か」

 

「残念ながら」

 

「そうなると、余はどうすればいい」

 

「むしろ王様は現在のまま、力を取り戻すことに全力を尽くしてください。 此方については、私達がやります」

 

王様は目をつぶる。

 

考えているのだ。

 

あの頭の大きな冠に見える構造物が何なのかは分からない。本当に冠なのかも知れないし、脳みそが詰まっているのかも知れない。

 

いずれにしても凄まじいサイコパワーを引き起こす王様だ。

 

どんな不思議器官が体に入っていても不思議では無い。

 

「余は、以前無策のままであった。 このまま無策で、また力を失うのは避けたい」

 

「勤勉ですね」

 

「覇者よ、そなたほどでは無い。 余は以前は、ただ安楽に過ごすばかりであった。 それを反省しているだけだ」

 

「……」

 

確かに。

 

王様の方も、安楽に過ごすことに溺れてしまっていたのかも知れない。

 

「余に出来る事があるならば教えてほしい覇者よ。 余も、このまま力を蓄えるだけでは駄目であろうと思う。 しかしそもそも余も、力はあっても知恵はない。 君臨する事は出来ても、慈しむ事は出来ても、それだけだった」

 

王様の嘆きについては分かる。

 

いつの間にか信仰が失われ。

 

それに伴って力も失った。

 

善良な王様だったのだ。

 

それでも人間を恨まず、どうしてこうなってしまったのかを探り続けていたのだから。ポケモンの中にも、こんなに善良な者はそうそういない。伝説級でも、口が利けるポケモンでも。

 

それは同じ事だ。

 

「分かりました。 此方でも模索してみます」

 

「頼む。 覇者よ」

 

ユウリはガラル式の敬礼をすると、一度村を出る。

 

其所で、一旦王様と別れた。

 

さて、王様に何をさせてあげれば良いのか。

 

まだ、正直な話ユウリにも分からないのだが。

 

それでも、何とかしてあげたい。

 

どうにもできない悪い奴がこの世の中にはいる。それはもう十一歳で、ユウリも世界を見て回って思い知った。

 

だけれども、そんな世界でも。バドレックスのような。本当に善良な存在も実在しているのだ。

 

だったら、善良な存在を助ける拳でありたい。

 

本物のヒーローは悪にさえ手をさしのべると言うが。

 

ユウリはまだ其所までの境地にはいけない。

 

子供をさらっては内臓を売り飛ばしたり。

 

ポケモンを乱獲しては悪い金持ちに売ったり。

 

たくさんの人を殺したり、テロを起こしては。その殺した人数を自慢しているような鬼畜外道を実際に見て来たが。

 

あの人達まで救えるほどユウリの手は広くも大きくもない。

 

ヒーローという意味ではユウリより格上のダンデにだって出来るか分からない。

 

だがユウリには力がある。

 

ガラルでは現在最強の。他の大人の誰よりも強い力が。

 

だったら出来る事は決して少なくないはずだ。

 

まず、マグノリア博士の所に出向く。

 

話をしっかりまとめてから。

 

対応をしておきたい所だった。

 

 

 

マグノリア博士は上品に年老いた老婦人で、お孫さんのソニアと一緒に色々な謎を解いたり、各地を回ったりした。

 

ソニアはフィールドワーカーの傾向が強いが。

 

どちらかというと、若い頃のマグノリア博士もそうだったらしい。

 

世界的に見ると、オーキド博士というポケモンの権威が存在して、科学者と言えば子供でも知っているレベルなのだが。

 

マグノリア博士は、ガラルにおける権威である。

 

流石にオーキド博士ほどの知名度はないが。

 

特にダイマックスを簡単に引き起こすシステムを作り出したりした功績も大きく。

 

現在、ユウリが時々相談をしに行く相手になっていた。

 

今の時点でマグノリア博士の研究所は、生半可な富豪の家より大きい。

 

それだけ尊敬されていて。

 

研究に相応しい対価が支払われていると言う事だ。

 

ソニアはいない。

 

どこかに出かけて、フィールドワークしているのだろう。

 

以前聞いた話だが。

 

ダンデやキバナと一緒に旅をしていた頃のソニアは、どうしても二人から見て一段劣る才覚に苦悩していたそうである。

 

自分には何か代わりになるものがないのだろうか。

 

そう苦悩し続けている間は、ソニアはあまり勝ち越すことも出来ず。

 

最終的には、ポケモンを側には置くが。

 

バトルからは離れてしまった。

 

その代わり、ポケモンに対する知識を磨きたいという欲求を高めて。そして今はマグノリア博士の後継者という位置にまで来ている。

 

これは立派な話だ。海外でも、悪の組織に入ってしまうような人間の何分の一かは、ドロップアウトしたポケモントレーナーだったりするのだから。

 

マグノリア博士は、何人かいるお手伝いさんの一人にお茶を出して貰い。軽くユウリの話を聞く。

 

既に碑文の内容はマグノリア博士の所に持ち込んでいる。

 

ガラル南部を走り回って、遺跡という遺跡をソニアと一緒に見て回り。

 

碑文を写し取っては、全て送ったのだ。

 

あの辺りは危険なポケモンも多くて、純粋な研究者が足を運ぶのは危なすぎる。

 

其所でユウリのような人間の出番で。

 

その結果、随分と研究ははかどった。

 

少し考え込んだ後。

 

マグノリア博士は言う。

 

「随分と人に近い神様ね」

 

「……」

 

「知っているかも知れないけれど、伝説ポケモンの中には神と遜色がない力を持つ者がいるの。 実在が確認されているアルセウスに至っては、世界を創造したという説があるほどよ」

 

アルセウスか。

 

話には聞いているが、凄まじい力を持つ存在らしい。

 

伝説ポケモンは一口にまとめても実力はピンキリだという話だが。

 

アルセウスは間違いなく頂点のほう。

 

とはいっても、本当に世界を創造したのかについては疑問も残るという声も大きく。マグノリア博士は否定派だと言っていた。

 

物理的に世界を創造したのでは無く、人々が世界を認識した時にいた存在。

 

つまり概念的な世界の始まりのポケモンでは無いか、という話もあるという事で。論文が幾つか出ているそうだ。

 

「貴方と親しい王様、バドレックスは超然としていたり、孤高であったりする伝説の中ではとても穏やかで優しい存在よ。 人に忘れ去られたことを恨まず、復讐しようとする事も無かった。 むしろどんどん痩せていく土地について悲しんでさえいた」

 

「一体何があったんですか、あの土地で」

 

「そうね。 だいたいまとまったし、聞かせても良いかしら」

 

ユウリも碑文をソニアと一緒に集めている過程で。

 

ある程度の話は聞いた。

 

だがそれらは混線していて。

 

どうにも筋が通った話だとは思えなかったのだ。

 

だから、本当に頭が良い人が、きちんとまとめてくれるのはとても嬉しい。

 

咳払いすると。

 

マグノリア博士は話し始める。

 

「いわゆるブラックナイトの災いがガラルに起きるずっとずっと前。 湖の調査によると、恐らく万年単位の昔。 二万年前後でしょうね。 その頃に隕石としてガラル南部に落ちてきた存在がいた。 それがムゲンダイナよ」

 

頷く。

 

異界から来たポケモンを総称して「ウルトラビースト」と呼ぶのだが。

 

ムゲンダイナも、そのウルトラビーストの一種かも知れない。

 

いずれにしてもだ。あらゆる証拠がムゲンダイナがあの湖に落ち、巨大な衝撃を与えたことを示している。

 

当然辺りは壊滅しただろうが。

 

その破滅を食い止めた者がいた。

 

碑文にわずかに残っている記録によると、一瞬で周辺の生き物が別の地点に転移していた、と言う事で。

 

それを引き起こせたのは。

 

王様しかあり得ない。

 

「破滅の運命から多数の命を救った王様。 バドレックスは、そのままムゲンダイナへと戦いを挑んだ。 しかし元々激しく力を消耗したバドレックス。 此方に来て全く勝手が分からない上、別に悪意がある訳でも無いムゲンダイナ。 どちらも戦いは泥仕合になり、そしてムゲンダイナは殆どの力を消耗し尽くして、ガラルの中央部へと逃げていった」

 

これについては、殆ど露骨な碑文が残っていたので、ユウリもソニアと一緒に見た。碑文は殆ど風化してしまっているものと。古代の文字さえ分かればどうにでもなるものが点在していて。

 

それらを組み合わせて解読するのが大変だったのだ。

 

「やがて、破滅の戦いが行われた土地を人々が見に来た。 其所で傷ついたバドレックスが見つかったのね。 バドレックスは手の形を怖れたとある。 間違いなくバドレックスは、ムゲンダイナの全力形態と戦い、心に傷を負ったのでしょう。 今王様は全盛期の戦闘力を取り戻したと言っているけれども、本来は愛馬がいなくても更に強い力があったはずよ」

 

「……」

 

そう、なのだろうな。

 

ガラル南部には、多くの伝説級ポケモンがいた。

 

だが、王様の愛馬であるブリザポス以外は。王様の居城には近寄らなかった。

 

傲岸不遜のあのフリーザーでさえ、である。

 

伝説のポケモンを捕獲して回る中、それをユウリは疑念に思っていたが。

 

恐らくだが。

 

それだけ王様の実力が、桁外れだったのだろう。

 

「人々に対して、バドレックスは力を惜しみなく使った。 枯れ果てていた土地を豊かに変え、凍り付いていた大地を暖かくした。 人々はそれに感謝し、バドレックスを祀るようになった」

 

そうだ。

 

そしてバドレックスは、猛威からも人々を守った。

 

ブリザポスを従えたのも、それらの行為の一つだったのだろう。

 

実際ブリザポスは、バドレックスの制御から解き放たれた後は人を襲う事など意にも介していない獰猛さを見せていたし。

 

一度交戦したときには、殺すしかないかとユウリも覚悟を決めたほどだった。

 

馬は決して人間に優しい生物では無い。

 

繊細で、場合によっては機嫌次第で人間を平気で蹴り殺す生物なのだ。

 

ガラル地方にも、人を食う馬の伝承が残っている。

 

昔、そういう獰猛なポケモンが。

 

ブリザポス以外にも、存在していたのかも知れない。

 

「しかし、祀られることが当たり前になった。 豊かなことが当たり前になった。 故に人々はバドレックスを忘れ。 加速度的に力が衰えたバドレックスと比例するように、ガラル南部は朽ちていった」

 

「マグノリア博士」

 

「何ですか、チャンプ」

 

「どうして信仰が力に代わったんですか?」

 

良い質問だと、マグノリア博士は言う。

 

彼女は咳払いすると、説明してくれた。

 

強力なエスパーポケモンの中には、人の精神に強い影響を受けるものがいるという。バドレックスくらいの強力な存在になると、人間という思念を持つ存在が、自身に敬意を抱けば抱くほど。それが力に返還されるという。

 

つまり、周囲に満ちている思念を吸収し。

 

それがそのままバドレックスの力になっている、ということだ。

 

少し考え込む。

 

そうなると、ブリザポスに騎乗して全盛期の力になったバドレックスは。

 

やはりまだまだ不安定だと言う事で間違いない。

 

もっと力を入れて、ガラル南部の振興策を盛り上げないと駄目か。

 

「何かヒントになりましたか」

 

「はい」

 

「これについては、貴方が集めてくれた資料を元に、論文を書く予定です。 協力者として、貴方の名前を使わせて貰えるかしら、チャンプ」

 

「はい、それは勿論」

 

頷くと、席を立つ。

 

話は分かった。いずれにしても王様の時代の後、ブラックナイトの災いが起きて、二人の王と剣と盾がそれを鎮めた。それもずっと後の話で、その頃には王様はもう昔日の力を殆ど残していなかったのだろう。だから介入できなかった。

 

何にしても、悲しい話だ。

 

即断即決がユウリの信条だ。それに、実家はこの近く。ぶっちゃけ歩いても、それほど時間は掛からない。

 

歩きながら、色々と彼方此方に電話をする。

 

同時に、自分でも考えておく。

 

豊かすぎると堕落する。

 

それはマグノリア博士も言っていた。

 

事実としてもある。

 

実際問題、一度あまりにも豊かになったから。人々はそれを当たり前の状態と認識してしまった。

 

ガラルの今の状態も。

 

似たようなものではないのかと、ユウリは思うのだ。

 

実際ガラルが豊かになったのはごく最近。

 

ダンデがカリスマ的チャンプになる前は悪の組織だっていた。

 

ローズが委員会をまとめるまでは、経済的な発展だって今のような凄まじさではなかった。

 

ローズがいなくなってからは、ダンデがまとめてはくれている。

 

だが、ユウリだって。

 

今は立派な大人で、圧倒的な力を持っていて。

 

そして多くの人を動かせる。

 

いつだったか。

 

悪の組織の幹部を追い詰めたとき。非道なその人に、どうしてこんな事をしたのかと。興味本位に聞いた事がある。

 

返ってきた答えは簡単だった。

 

力がほしかった。

 

力なき正義など悪にも劣る。

 

自分がやっている事が悪であることくらい分かっている。

 

だが力が無ければ何もできないんだ。どんなにお題目を並べたところで、机上の空論にしかならないんだ。

 

だからどんな手段を用いてでも、力がほしかった。

 

血を吐くような独白だった。

 

もっとも、その人物がやった事は、文字通り人倫を蹂躙する代物であり。ユウリも殺意を感じるほどだったが。

 

だが、その言葉だけは嘘では無いことは分かった。

 

力、か。

 

今のガラルは、経済という力によって支えられている。

 

人心経済ともに豊かなのは、クリーンなヒーローである、ダンデがいたから。経済の雄であるローズがいたから。

 

勝手にガラルが豊かな土地になった訳では無いのだ。

 

ローズの引き継ぎはダンデがしてくれる。

 

だったら、ユウリは。

 

悪を許さない、圧倒的な力として君臨し続けなければならないのではないのだろうか。

 

十数年はユウリの時代が続くと、何人もの凄腕から聞かされた。

 

だったら、それは事実なのだろう。

 

十数年の間に、何とか地固めをしないといけない。

 

思った以上に、ガラルの平和というのは、脆いものなのかも知れない。

 

そう思うと、ユウリは慄然とせざるを得なかった。

 

実家に戻った。

 

必要な連絡は全て終わった。母に夕食を出して貰う。カレーばっかり食べているんだろうと図星を指されたので、苦笑い。

 

ちゃんとした料理を出して貰った。

 

この間、マリィもユウリが料理をしようとしたら慌てていたっけ。

 

母もいつ頃からか、ユウリに対しては料理だけが心配だとぼやくようになっていた。

 

とはいっても、本来はもう手料理なんてする立場では無い。

 

外食で充分だし。

 

最悪料理人を雇うという手だってある。

 

夕食を終わらせた後は、適当に風呂に入って、後は眠るが。

 

少し寝付きが悪かった。

 

ぼんやりと、王様の事を思い出す。

 

善良だが。

 

王様は与えるだけで、それが何をもたらすのかを理解していない雰囲気があった。

 

それでは駄目なのかも知れない。

 

豊穣神がいるのなら。

 

それに対する破壊神もまた。必要なのかも知れなかった。

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