ポケットモンスター剣盾二次創作シリーズ   作:dwwyakata@2024

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2、ワイルドエリア異変

ポケモンを取り扱う人間は免許を必要とする。ガラルだけではなく、どの地方でもそうである。

 

これはポケモンが非常に強力な力を持つのと同時に、扱いが難しいケースもあるからだ。

 

例えばゴーストタイプと呼ばれるポケモンの中には、人間に対する積極的な害意を持つ者が珍しく無いし。

 

何種類かのポケモンは非常に獰猛で、慣れたトレーナーでも手に負えないケースがある。

 

ガラルでは獰猛な亀のポケモンカジリガメや、凄まじいパワーを持つ上に手加減を知らない熊のポケモンキテルグマなどが有名である。

 

それらを扱うのは当然エキスパートであるべきだ。

 

しかしながら、10歳で大人と認められるのは、ガラルも同じで。

 

その年にチャンピオンになったダンデという英雄を抱えているガラルでは。

 

やはり、ポケモントレーナーとしての免許を欲しがる者は。後を絶たないのだった。

 

それらトレーナーの幾らかは、年一度の、チャンピオンに挑戦できるチャンピオンリーグに挑むが。途中厳しい振るいに掛けられ、毎年チャンピオンと対戦できる資格を得られるトレーナーは十人もいない。ガラルには一千万からの人間がくらしている事を考えると。ポケモンが生活に密着している世界としては少なすぎる程である。

 

というわけで、大半のトレーナーは夢破れる。

 

その後どうなるか。

 

免許だけを持って、普通の仕事に就くケースが大半。相棒のポケモンと一緒に、何かしらの仕事に就く。これがもっとも穏当なケースだ。

 

実力に自信があるなら警察に雇われたり。警察で実績を上げた場合は、地方を跨いで活躍する国際警察にスカウトされるケースもある。

 

他には、様々なポケモンの保護区となっているワイルドエリアの管理者であり、密猟を防ぐために監視を行っているレンジャーになったり。

 

或いはジムに弟子入りして、其所でジムリーダーを目指したりもする。

 

それらからも弾かれ。

 

なお生活に余裕があるものが。

 

世界中でネットワークがつながれ行われている、チャンピオンリーグとは別のポケモン対戦に人生を捧げるようになり。

 

それらは廃人と呼ばれたりもするが。

 

まあ、それらの者達は例外である。

 

ただ、廃人はまだいい。地方によっては、完全に人生設計に失敗し、社会に弾かれた者達が。ポケモンを扱う反社会的組織に所属したり。

 

場合によってはそれが際限なく強大化したりする。

 

他の地方では特に凶悪なものとして、ロケット団やフレア団などが有名で。特にフレア団は非常に強大な勢力を現在も保持しており、地域そのものを裏からほぼ支配してしまっているため、国際警察でも迂闊に手を出せないと聞いている。

 

現時点でガラルに邪悪が蔓延る兆候はない。

 

正確には、一度自浄作用が働いて、腐敗していたチャンピオンリーグや社会の上層が正常化されたため。今はとても公正で幸福度が高い社会が構築されている。社会の裏で蠢いていた悪党共も一掃された。

 

だが、人々は忘れてしまっている。

 

あの悪夢の時代を。

 

ダイマックスエネルギーが社会に浸透する前。

 

ガラルは、決して住みやすい場所ではなかったのだ。

 

わずか数年前の事だというのに。人々は惰眠を貪っているかのようである。

 

平和を見て安心すると同時に。

 

そんな懸念を、カブは抱いていた。

 

アーマーガアの空輸タクシーから降り。ワイルドエリアに降り立った、炎タイプのポケモンジムリーダー、カブは。周囲を油断無く見回す。

 

フェアリータイプのポケモンジムリーダー、ポプラに言われて調査を開始したのだが。

 

確かにワイルドエリアでおかしな事が起こり始めていると、管理者であるレンジャー達に聞かされていたのだ。

 

カブは年配のジムリーダーであるから、ガラルの暗黒時代を知っている。

 

カリスマであるチャンピオン、ダンデの登場と。その前後でマクロコスモス社が台頭するまで、ガラルは他の地方と大差ない場所だった。人々の幸福度は高くなく、ポケモンリーグでも不正が横行していた。カブはあまり激しくやり合わなかったが、明確な反社会組織も存在し、多くの犯罪に荷担していた。

 

その時代を再来させるわけには行かない。

 

ジムリーダーは、担当地区最強のポケモントレーナーとして。ポケモンがらみの問題に対処するエキスパートとしての顔も持っている。

 

何もポケモンリーグで戦うだけが仕事ではないのである。

 

レンジャーが来る。数人一組で活動する彼らは、ポケモン対策のエキスパートだ。保護区であるワイルドエリアで活動し、基本的に人間を襲おうとしたポケモンが出るか、極端に生態系が乱されない限りはポケモンの監視だけを行う。

 

ワイルドエリアはガラルの名物であり、此処を通る事はトレーナーの登竜門にもなるため、足を踏み入れる者も多いのだが。

 

一方で当然人を殺しうるポケモンも多いため。

 

レンジャーの責務は重要だった。

 

敬礼を受けると、歩きながら話を聞く。

 

「此方です」

 

「……これは」

 

ポケモンの巣だったらしい洞窟。中は神経質に掃除したかのように綺麗になり、引き払われている。

 

ワイルドエリアには、ダイマックスエネルギーが溢れている場所があり。そういった場所を巣穴にしたポケモンは強大化する傾向がある。

 

四人一組での戦闘が推奨されるほどの相手であり。中には歴戦のトレーナーでも返り討ちにする程の個体もいる。実を言うと、カブの相棒であるマルヤクデも、そういった巣穴から捕らえた個体であり。他のジムリーダーも、概ねワイルドエリアで捕獲した強力な個体を相棒として手元に置いているケースが多い。現チャンピオンであるダンデですらそうだ。

 

そんな強力なポケモンの住処が。

 

すっからかんだ。

 

目を細めて、周囲を見回す。

 

連れ歩いていたマルヤクデが、警戒の声をならす。レンジャー達が、連れ歩いているウィンディに警戒を促すが。

 

生き物の気配はない。

 

だが、この臭い。カブは知っていた。

 

「死臭ですね。 この巣穴の主は殺されたと見て良いでしょう。 それに、これを見てください」

 

「……これは?」

 

「こういった巣穴の主は、知らず知らずとダイマックスエネルギーから経験飴を生成するものです。 それが根こそぎ回収されている形跡がある」

 

地方によって製法は違うが、経験飴は手っ取り早くポケモンを強くする事が出来る強力な食糧だ。

 

この手の巣穴に専門でチームを組んでアタックを掛けるトレーナーもいるが。

 

それは手っ取り早く手持ちのポケモンを強化するため。

 

ただし危険も尋常では無いため、余程の物好きに限られる。

 

ただ、此処の巣穴は違う。臭いからして、多数のポケモンが住み着いていた感触があるし。

 

有用なものが何か分かっていて、根こそぎ持ち去った様子なのだ。

 

「これは悪質なトレーナーか、或いは何かしら非常に頭が良いポケモンが率いている群れか、どちらかの仕業でしょうね。 他にもこんな巣が」

 

「確認されているだけで二十箇所以上見つかっています」

 

「……」

 

考え込む。

 

ポプラは尋常では無い悪意が動いていると言っていた。

 

だとしたら、その悪意の主がこれをやったのかも知れない。

 

名前の通り、ワイルドエリアはポケモンが適者生存している土地だ。食う食われるの関係は存在するし。苛烈な環境に揉まれて、ポケモンはたくましく生きている。

 

逆に言うと、そんな環境で揉まれた強力なポケモンが、此処まであっさりやられて。痕跡も残さないほど綺麗に食い尽くされているとなると。

 

やはりポプラが言う通り、何かとんでも無い代物が動いているのかも知れない。

 

一度巣穴から出る。

 

別のレンジャーチームとも合流し、話を聞く。

 

そうすると、不可思議な話を聞かされた。

 

「大きなポケモンの群れが確認されています。 非常に用心深く、目撃例はたまたま通りがかったトレーナーによるものが数例だけですが。 数は二百を超えていたそうです」

 

「二百!」

 

他の地方でも、ポケモンが群れを成すことはある。

 

しかも、違う種類のポケモンが混ざることで、弱点を相互補完する場合もある。

 

中には、そもそもとして。群れを成すことを武器とするポケモンもいる。ヨワシと呼ばれる小さな魚のポケモンがそうで、個体は非常に脆弱だが群れを成すことで大型のポケモンを撃退するほどの連携を見せる。大型の群れになると、熟練のトレーナーですら苦戦するほどの相手になるケースもある。なおヨワシはほかの魚ポケモンと同様、空を飛ぶことが出来る。水に住んでいる理由はよく分かっていない。

 

「映像は何とか入手できませんか」

 

「やってみます」

 

「出来るだけ急いで。 それと、マクロコスモスに連絡。 警備の人員を増やすように通達してください」

 

カブは言葉遣いが目下の相手にも丁寧だが。

 

それは常に紳士たれと心がけているからだ。

 

一時期はジムリーダーから陥落し、マイナーリーグに落ちたこともあるカブは。手段を選ばないような戦い方に身を置いていたこともある。

 

だがそのむなしさは、今は良く知っている。

 

身を鍛え、心も鍛え。

 

堂々たる態度で戦い、勝っても負けても相手に敬意を払う。それが、現在のカブの信念である。

 

レンジャーを伝令に出すと、ワイルドエリアを調査して回る。

 

別の巣穴では、マルヤクデが露骨な威嚇をした。何も無い場所に対してである。

 

調べて見ると、大量の血が見つかる。

 

まだ新しい、と言う事だ。

 

だがその近場の巣穴は荒らされた形跡も無いし。そもそも多数の群れが移動したにしては、足跡も残っていない。

 

余程群れの主は狡猾な奴か。それとも、やはり悪辣なトレーナーが、組織だって何かしらの行動を目論んでいるか、と言う事だ。

 

血が新しいことを告げて、周囲の探索を強化する。

 

どうも時間がないように思えてならない。

 

ワイルドエリアのこの地点から近い街はエンジンシティ。それ以外は、鉄道で結ばれたかなり遠くの街になる。

 

報告があった様子がおかしい巣穴は、エンジンシティの近場に集中している。

 

或いはそれ自体が陽動かも知れないが。

 

群れの目撃例も、荒らされた巣穴の近くに集中しているのだ。無関係とは言い難いだろう。

 

程なく、報告例があった。

 

アーマーガアの空輸タクシーの運転手が、それらしいものを目撃した、というのだ。

 

すぐにスマホロトムごしに話を聞く。

 

それによると、状況は更に悪化しているようにしか思えなかった。

 

「何だか様子がおかしいとは思ったんですが。 群れにはあらゆるポケモンが交ざっているように見えましたね」

 

「あらゆるポケモンとは」

 

「目立つところではサザンドラがいて、それにバンギラスが二十体以上はいたように思います。 小型のポケモンもいましたが、大型のポケモンもかなりいました。 ざっと見ただけですが、数は二百どころではなかったように思いますねえ」

 

「分かりました。 有難うございます」

 

レンジャーに確認し、報告を受けた日時と照らし合わせる。

 

もし今のタクシーの運転手の証言が正しいとなると、群れは更に拡大していると言う事だ。

 

そして、である。

 

ポケモンを連れ歩くトレーナーは多いが。あまりにも多数の手持ちを出しているケースは多くない。

 

目を離した隙に、事故にあう可能性があるからだ。

 

ましてやこのワイルドエリアである。どんなポケモンが狙っているか分からない。

 

小型のポケモンも含め、大量展開するなんて自殺行為だ。

 

トレーナーの仕業では無い。

 

そうカブは結論していた。

 

何かしらの悪党が動いているとしても、そんな数のポケモンをわざわざモンスターボールから出している意味が分からない。

 

ポケモンをしまい、休ませておくための拳大のボール、モンスターボールはトレーナー必須の道具だが。

 

これは目につかない所で、ポケモンが事故にあうことを防ぐための意味もある。

 

それを使わず、放し飼いに等しい状態で。数匹ならともかく、数百匹を連れ歩くトレーナーなど尋常ではないし。

 

そもそもあり得る事では無かった。

 

タクシーを手配した後、カブはレンジャー達に指示。

 

「恐らく、とんでもない強大なポケモンがワイルドエリアに出現した可能性があります」

 

「いわゆる伝説級ですか」

 

「そこまでは分かりません。 ただ、増員を僕から手配しておきます。 貴方たちも、最大級の警戒をしてください」

 

「分かりました!」

 

伝説のポケモンか。

 

強大なポケモンになると、一地方を揺るがすようなものから、この星をそのまま作り替えてしまうようなものまでいる。

 

カブは見た事がないが。

 

遠くカントー地方では、以前そういったポケモンを創造しようとした試みがあり。

 

失敗に終わったのだとか。

 

ガラルにも伝説となっているポケモンの話はあるが。

 

これは諸説あり、正直よく分かっていない。

 

今回の騒動が、伝説のポケモンによるものなのか。それとも伝説のポケモンに近い実力の持ち主によるものなのか。それはよく分からないが。

 

あの巣の惨状からして、尋常では無く獰猛で残虐、しかも狡猾な相手であることは、間違いないだろう。

 

しかも話を聞く限り、多数の大型最終進化形を従えていることになる。

 

尋常で無い相手であることは確かだ。

 

タクシーが来たので、ジムに戻る。

 

ジムでトレーナーをしている、いわゆる門下生達に、カブは通達した。

 

「近々エンジンシティ近くで大きな問題が起きる可能性があります。 出せるポケモンは全て出せるように、調整を」

 

「はいっ! 分かりました、ジムリーダー!」

 

「僕はこれより、ジムリーダー達に連絡を入れ、厳戒態勢を取るべくミーティングを行います。 それぞれ準備に取りかかってください」

 

それにしても、ポプラの勘は適中した事になる。

 

カブは気付くことさえ出来なかった。

 

エンジンシティのコロシアムの情報制御室に出向くと、すぐにマクロコスモスの重役も交えて、テレビ会議を行う。

 

ワイルドエリアの調査結果を報告すると。

 

まだ若いチャンピオンのダンデが、興味を持ったようで身を乗り出した。

 

ダンデは浅黒い肌を持つ長身の青年で。チャンピオンになったばかりの頃はまだ年齢相応の少年だったが。今はすっかり手足も伸びきり、精悍な若者へと成長している。昔から落ち着いたところがあるトレーナーで。戦いの運びはいちいち丁寧で。またポケモンを大事にしていることが一目で分かることが、カブの好感の要因になっている。今はガラルのシンボルとしての自覚も持ち、ステージパフォーマンスも多少するようになっていた。

 

「カブさんの話を聞く限り、かなり危険な状態ですね。 俺も出向くことにします」

 

「チャンピオンが直接? それは尋常ではないわねえ」

 

小首をかしげたのはメロン。氷タイプのポケモンジムリーダーで、五人の子持ちの人妻である。

 

現在もバリバリ現役で、息子のマクワは今順調に名声を伸ばしており、将来のジムリーダーになる事を期待されている。

 

なお子供が出来てから、かなり体型は丸くなった。

 

カブは咳払いすると、他のジムリーダーにも注意喚起をした。

 

「もしも今も群れが拡大を続けているとなると、千を超えるポケモンが襲撃をしかけてくる可能性もあります。 その中には最終進化形の、しかも大型数十が含まれている可能性が高く、非常な脅威になるでしょう」

 

「カブのおっさん。 それ、情報は統制した方が良くないか」

 

手を上げて意見を述べたのはキバナ。

 

ダンデと同年代の若きエースであり、ドラゴンタイプのジムリーダーである。

 

チャンピオンの手持ちポケモンを最も倒したと言う事で有名な人物で。落ち着いたダンデに比べ、兎に角獰猛そうな雰囲気が目立つ。ただその野性的な風貌が、女性ファンにはくらっとくるようだ。

 

「キバナくん、それはどういうことだい」

 

「身の程知らずの連中が、ポケモンを狩り放題だとか考えて、ワイルドエリアに出るかもしれねえ。 そんなヤバイ奴だったら、安全な「試合」しか知らない連中の手に負える相手じゃないし、ヘタを打った連中の救助に人員を割く事にでもなったら、戦力が半減するぞ」

 

「その通りだね。 できる限り情報は統制するつもりだが……」

 

「後、避難訓練もしておいたほうがいいだろうね」

 

ずっと黙っていたポプラが発言する。

 

この長老とも言えるジムリーダーには、チャンピオンも一目置いている。

 

皆が押し黙る中、ポプラは更に言った。

 

「さっきからポニータがエンジンシティの方を見て怯えきっているんだよ。 何があっても不思議じゃあない」

 

「ちょっと俺出る準備するわ。 ダンデ、お前は」

 

「俺もそうする。 カブさん、もしも何かあった場合は……持ち堪えてください」

 

「分かっています」

 

通信を終えると、急いだ様子でジムトレーナーの一人が来る。

 

通信が終わるのを待っていたようだから、急では無い様子だが。

 

しかし、話を聞いて、カブは内心舌打ちしていた。

 

「エンジンシティの近くを、例の群れが通ったようです。 確認しましたが、やはりどう見ても数は数百に達しています。 それも、霧に隠れていたので全容は分かりません」

 

「恐らく陽動ですね。 街の住民に避難勧告を」

 

「それが、一部のトレーナーが騒いでいて。 大量のポケモンを手に入れる好機だと」

 

「……っ」

 

どうやらキバナの懸念が当たったらしい。

 

それにしても、もしもそのポケモンの群れが意図的にやったとしたら。

 

想像を絶する事態が起きるかも知れない。

 

 

 

「気付いたな」

 

クリームが言う。サザンドラは、小首をかしげていた。

 

今まで、群れがどんどん大きくなるのに、その痕跡まで消して移動していた。それなのに、不意にクリームは、痕跡を消すのを辞めさせ。そればかりか、人間の街の近くを、わざわざ見せつけるようにして通った。

 

クリームのやる事については信頼している。

 

実際問題、今クリームが従えているのは、サザンドラも見た事がない圧倒的な軍団である。

 

多数の最終進化形の大型ポケモン。これだけで数は百五十に達する。

 

小型も含めると千を超える。

 

こんな大軍団の中心にいるのは初めてで。これなら、人間の街くらいなら余裕で滅ぼせると確信していた。

 

クリームに付き従い始めてから一つの季節が流れたが。

 

逆に言うと、其所までの短期間で、群れは此処まで巨大化したことになる。

 

今日は霧が深い。

 

だが、良くクリームに躾けられた群れは、一糸乱れぬ統率で動き続け。時々影から此方を伺っている捕食者も。とてもではないが、手を出す隙が無かった。

 

ワイルドエリアの、丘になっている部分。霧を隔てて、人間の街から見えない場所に一旦移動すると。

 

クリームはどのポケモンにも聞こえるように演説を開始する。

 

「皆、復讐の時が来た」

 

にやにやしながらサザンドラは聞く。

 

復讐に興味は無い。

 

だが、これからクリームがやる事には興味しか無い。

 

何しろ、こんな圧倒的な軍団、見た事はないし。

 

サザンドラとしても、食った事がないものを食えるのは、嬉しくて仕方が無いからだ。

 

「敵は強大だ。 人間という生物はお前達を身勝手な理由で捨てたことからも分かるように身勝手極まりない生き物だが、同時に知恵は明らかに我々より上だ。 今まで準備をしてきたが、今日の戦いは一度きりだ。 次はない。 作戦は既に伝達している通りであるから、各自指示した通りに動くように」

 

恐怖で従えられたポケモンも多い。

 

だが、それらも今は、クリームによって絶対的に縛られ。逆らう事など、思いも寄らない様子だった。

 

群れにはそれぞれ役割ごとに指示が出されていて。どの状況で、どう動くか。全て緻密に計算されている。

 

とてもサザンドラに真似できることでは無かった。

 

「それでは翌日仕掛ける。 それぞれ、思い残すことがないように」

 

一旦、確保した巣穴に移動。

 

霧に隠れて、休憩を取る。

 

既にその巣穴の主はクリームに殺されている。

 

巨大に成長したカビゴンだった。

 

大量のエサを常に口にする、非常にタフなポケモンである。まるまるとした人間に近い姿をしたポケモンで、動きが鈍い代わりに力は非常に強い。頑強の見本のような巨大なカビゴンだったが、それもクリームの敵ではなかった。

 

カビゴンの死体を貪り喰って、翌日への備えにするポケモン達。

 

クリームは、大量の「けいけんあめ」を、まだ力が足りないと判断した小型達に配って回っている。

 

彼方此方の巣穴から略奪し。

 

更にはクリームが作り出した膨大な「けいけんあめ」は、この軍団の戦力を大幅に底上げしていた。

 

「へへっ、姐さん。 いよいよ明日ですな。 それにしても、どうしてさっきはあんな真似を?」

 

「ああすれば、欲に駆られた人間が出てくる」

 

「へえ?」

 

「本当に強い奴は、既に気付いて備えをしているはずだ。 だが、そうではない、安全な場所での戦いに慣れた奴が欲に突き動かされて出てくれば、そういった強い奴の足を確実に引っ張る」

 

そういうものなのか。戦う前に、既に戦いを始めているのだな。

 

サザンドラは感心する。ただ、気になる事がある。

 

「それにしても、皆に共通して出していた命令……俺にも出していたあれですが、本当にいいんですかい?」

 

「かまわない。 元々勝機は一度だけだ」

 

「どうにも信じられないですねえ。 この軍団ですよ? どんな相手が出てきても、勝てると思うんですが……」

 

「お前は人間の恐ろしさを理解していない。 私は人間が行う試合を観察していたが、基本的に何かしらの策が新しく登場しても、すぐに解析され対策されていた。 恐らく一度の戦い中に解析されることはないだろうが、それでも次に同じ手は通用しないと考えるべきだ」

 

そんなものなのか。だが、クリームが言う事だ。それが事実なのだろう。

 

最初にクリームにサザンドラが叩き伏せられたとき。クリームの体色は白とピンクの中間くらいだった。

 

だが今は真っ赤である。

 

それはそうだろう。多数のポケモンを殺して喰らったのだから。この朱は、全て血の色だ。

 

喰ってみたいなあ。そう思う事もあるが。今のクリームの実力は、サザンドラの及ぶところではない。サザンドラも「けいけんあめ」で極限まで力を増しているのだが、それでもとてもではないが、隙を突いたとしても勝つのは無理だろう。

 

「明日に備えて英気を養い休んでおけ。 まだ食い物は残っているだろう」

 

「へいへい、そうしますよ」

 

サザンドラも、カビゴンの死体にかぶりつく。

 

カビゴンは一人でいた頃は、サザンドラでも簡単には手出しできない強力な相手だったのだが。

 

今はその膨大な脂肪と美味い内臓を味わう事が出来る。

 

しばしがつがつとカビゴンの肉を味わうと。後は思う存分眠った。

 

サザンドラは燃費が悪く。食べてもすぐに腹が減る。

 

明日はいよいよ人間共の蓄えた食糧と、それに人間共を食うことが出来る。

 

そう思うと、眠りながらもよだれが零れるのを止められなかった。

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