ポケットモンスター剣盾二次創作シリーズ   作:dwwyakata@2024

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4、力はやがて戻る

盛大に王に捧げる祭が行われている。

 

マクロコスモスが宣伝したこともあって、かなり観光客も来ていた。ただ危険なポケモンが出る地域なので、レンジャーもかなりの人数が出張ってきていたが。

 

ユウリは神殿の入り口で。

 

其所から遠くに見える、村の祭りの様子を、王様と一緒に見ていた。

 

ブリザポスに騎乗した王様は。

 

目を細めて、祭の様子を見ている。

 

「どうですか、王様」

 

「うむ、古き時代に捧げられていたものとは少し違うが、余に対する感謝の念が此処まで伝わってくる。 余の力が戻ってくる」

 

「それは……良かった」

 

胸をなで下ろす。

 

既に王様の力は少しずつ戻って来ていて。

 

絆の手綱と呼ばれる、ブリザポスを制御するために必要な馬具を作るための花も咲かせることが出来るようになっている。

 

今王様が使っている絆の手綱は、この花を花びら一つしか使っていない応急手当的なものであって。

 

本格的なものが必要だったのだ。

 

スマホロトムで連絡を入れる。

 

村の方にはダンデが行っていて、それで人が来ているというのもあった。

 

「ユウリ君、絆の手綱は上手く行ったよ。 ピオニーさんが村の人達に作り方を丁寧に指南している」

 

「前もピオニーさんが作ってくれたんですよ」

 

「そうか。 手先が器用で驚くが、話によると家事の半分以上を昔からやっていたらしい」

 

「ああ、それで」

 

何となく察しがつく。

 

ピオニーさんは娘さんに過干渉なところが目だって、それが原因となって無茶苦茶反発されていた。しかし、リーグカードを見ると、昔は奥さんと娘さんと、仲睦まじい家庭だったことが一目で分かる。

 

要するにピオニーさんは、幼子に対する愛情の注ぎ方は分かっても。

 

大人になった娘さんへの接し方を間違えていたのだろう。

 

一歩間違えば毒親になる所だった。

 

ユウリはそれを丁寧に説明したが。ピオニーさんに理解して貰うのは、随分と苦労した。

 

ただ、ピオニーさんは現チャンプであり、無敵を誇ったダンデを破ったユウリに敬意を示してくれたので。

 

それでもまだ話を聞いていてくれたのかも知れないが。

 

「後で絆の手綱は受け取りに行きます。 王様にとって大事なものなので、きちんと保管をしていてください」

 

「それなんだがな。 一時期から、この手綱を火中に投じるという祭に代わってしまっていたらしい」

 

「!?」

 

「記録を調べた所、そうなっていた様子だ」

 

村の記録をマクロコスモスが全力で調べた結果、そういう資料が出てきたそうだ。

 

ガラル南部を古くに訪れた旅人の日記が見つかったのである。

 

王様の力が衰え始め。

 

どんどん村が減っていたガラル南部だったが。

 

とうとう信仰が極限まで減り。

 

その結果、わざわざこんなものを指定の位置まで、危険を冒して置きに行くのも馬鹿馬鹿しいと誰かが言い出したらしい。

 

その結果、火中に投じ。

 

王様に届いたという事にするようにしたのだとか。

 

生け贄を捧げるような風習は論外だ。

 

だが、これについては。

 

少し頭を抱えてしまう。

 

「勿論その手綱は重要なもので、燃やしてはいけないと、祭の準備段階で説明した。 保管もしておくから、後で取りに来て欲しい」

 

「分かりました。 有難うございます、ダンデさん」

 

「ああ。 頼りにしているぞユウリくん」

 

頼りにしているか。

 

そんな事、ダンデに言われるなんて。

 

昔は絶対に超えられないと思っていた壁だった。

 

でも今は、ユウリを尊重して、こんなに丁寧に接してくれる。

 

ダンデに勝った後はスランプにまでなった。

 

随分試行錯誤をした。

 

今は、もう違う。

 

迷いは当然、毎回の選択肢で生じる。

 

だが、身の丈にあった自信を得られた。

 

それで、随分今は楽になった。

 

「それでは、王様。 新しい絆の手綱を回収してきます」

 

「うむ、頼むぞ覇者よ」

 

「はい。 其所で待っていてください」

 

自転車で雪山を駆け下る。

 

ユウリくらいにしか出来ない事だ。

 

しかも今は王様の力が戻り始めていて、山の雪が露骨に減ってきている。クレバスなどに真っ逆さま、と言う事もない。

 

一気に山を駆け下りると、祭が行われている中に。

 

祭は最高潮になっていた。

 

老人達も祭を楽しんでいる。

 

出店も出ているようだった。

 

王様の像が村の真ん中にあるが。

 

あれは、ユウリが最初に村に来た時は破損してしまっていた。

 

今では周囲に柵が作られ。完全な状態が映像などで保存され。破損した場合はすぐに直せるようになっている。

 

レンジャーを護衛につける話まであったのだが。

 

今は柵で妥協された。

 

流石に悪意を持ってあれを壊そうとする者はそう多くないだろう。

 

ただ泥棒などが出る可能性はあるので。

 

柵は必要だ。

 

この柵には監視カメラもついているので。泥棒に対する抑止効果は充分についている。

 

ダンデを見つけて、絆の手綱を受け取る。

 

前よりもかなり立派な造りだ。

 

これはブリザポスの背中の毛(大量に一定周期で生え替わる)と、王様だけが咲かせる事が出来る花を編み込むことで作る。

 

以前作ったものよりもとても鮮やかで大きいが。

 

それは前と違って、花をきちんと編み込んでいるからだ。

 

これならば、王様の力は更に充実するし。

 

以前の不安定な手綱と違って、更に人馬一体の言葉通りに、ブリザポスを従える事が出来るだろう。

 

「すぐにまた戻ります」

 

「すまないな。 俺は此処で祭を見届けるよ」

 

「ありがとうございます」

 

ぺこりと一礼。

 

昔はダンデお兄ちゃんと慕って。肩車をしてもらったこともあったっけ。

 

今はもうその関係性はなくなったが。

 

その代わり、ダンデはユウリを大人として見て接してくれる。

 

それでいい。

 

自分の子供を、年齢に沿ってきちんと大人として認識出来ないとどうなるか。それはピオニーさんという例で見た。

 

ダンデは、その辺り。

 

十歳で大人として認識される年齢になってから。

 

ずっと大人として経験を磨いて。

 

それで自然に身につけることが出来たのだろう。

 

神殿に自転車ですっ飛ばして戻り。王様に手綱を届ける。

 

手綱は明らかに前よりも立派で。

 

王様も満足していた。

 

ブリザポスにつける。

 

ブリザポスも、嫌がっている様子は無い。

 

ただ、古い手綱をブリザポスが食べてしまったのは驚いた。

 

虫ポケモンなどでも、孵った卵の殻を食べてしまうものがいたりする。脱皮の度に、古い皮を食べたりする。

 

それと似たようなものなのだろうか。

 

「手綱を食べてしまうんですか」

 

「余はブリザポスを従えたとき、契約をした。 その一つが、この馬具が古くなったときの譲渡だ。 ブリザポスが余の元を離れたのは、弱った余を見限った事だけが原因では無い。 契約が履行されなくなったからでもあるのだ」

 

「……」

 

「この絆の手綱には、余の力で咲かせた花、つまり余の力が宿っておる。 それに加えてブリザポス自身の力、そして民草の信仰の力も。 つまり、強大な思念の力が宿ったまさに最高の馳走という訳よ。 普段食べる人参も好物であろうが、これは年に一度の最高の馳走であるだろう」

 

すぐに古い手綱を平らげてしまったブリザポス。

 

へえと感心して、何度も頷いてしまった。

 

「後は、何かありますか」

 

「いや、これで余の方ですることは無い。 祭は履行され、この手綱もきちんと真心を込めて作られている事を確認した。 であれば、余としてはもはや他に言う事も無いし、豊穣の力を契約通り振るうだけである」

 

「分かりました。 それではお願いします」

 

「うむ。 豊穣の力はまだまだ全力にはほど遠いが、それでも少しずつ確実に、この土地を豊かにして見せよう。 そして、祭が執り行われなかったときには……その時は、相応に接する事をそなたに約束しよう覇者よ」

 

それだけ言うと。

 

王様はブリザポスを促し。

 

そして神殿から消えた。

 

サイコパワーを用いて、空間転移したのだろう。

 

これから、各地に豊穣の力を撒いてくるのに違いない。

 

前は小さな畑に豊穣の力を与えるだけでも、何やら儀式めいた踊りを必要としていたが。

 

此処まで力が戻れば、そんな事も必要ないだろう。

 

スマホロトムで、ダンデに連絡。

 

全て終わった事を告げると。

 

戻ってくるように言われた。

 

「大変だったなユウリくん。 君は各地の地方で悪の組織を叩き潰しているが、ガラル南部でも土地を救った英雄として後世まで讃えられるだろう」

 

「剣と盾の王のように、伝説が歪められないことを祈るばかりです」

 

「そうだな。 同じ事はあってはならない」

 

「……戻ります」

 

剣と盾の英雄か。

 

王様が弱体化させたムゲンダイナ。長い時を経てよみがえり、ブラックナイトの災いを引き起こした。

 

それを鎮めた二人の若者と剣と盾のポケモン。

 

だが伝承では、それは一人の人間の英雄の功績とされている。

 

血なまぐさい話だ。

 

英雄は二人必要ない。

 

当時の人間達は、ブラックナイトが終わると、すぐにそう判断した。

 

二人の若者の一人はすぐに殺され。

 

伝承に残らなかったという。

 

殺したのがもう一人なのか。

 

権力を求めた周囲の人間なのかは分からない。

 

いずれにしても、名前すら伝わっていない。

 

更に、である。

 

英雄は人間である方が好ましいと、当時の人間は判断した。つまりザシアンとザマゼンダは邪魔になった。

 

そんな理由。そう、そんなくだらない理由だ。

 

大恩人であり。ブラックナイトの災い。つまり力が強すぎて暴れていたムゲンダイナを倒す最大戦力となり。そのため傷ついて療養していた剣と盾。伝説のポケモンザシアンとザマゼンダを、人間達は容赦なく襲った。

 

二体は元々弱り切っていたこともあり。

 

狂刃に為す術無く倒れた。

 

これは、本人から聞いた話である。

 

最近になって、やっと通訳つきで喋ってくれたのだ。

 

今いるザシアンとザマゼンダは、古き伝説の剣と盾を媒介に蘇った存在であり。ある意味幽霊に近い。少なくとも一度死を経験し、其所から蘇った者である。

 

勿論実体はあるが。

 

まっとうな生物かというと、かなり怪しい。

 

或いは神に近い存在。

 

王様のような存在なのかも知れなかった。

 

そういえば王様も、極限まで弱体化していたときは。人々に見えていない節があったっけ。

 

ユウリやピオニーには見えていたのだが。

 

その様子を見て、不思議そうにしている村人が、たまにいるのをユウリは確認していた。

 

村に戻る。

 

祭のプログラムは終わり。村の外に移動したダンデが、サインなどを受けつけている。

 

ユウリがチャンプになった今も、ダンデの人気は絶大だ。

 

今はリーグ委員長としてローズの後を継いだが。

 

それでも人気は関係無い。

 

試合にも時々出てくるが。

 

人気の絶大さを誇るように、専門のテーマ曲が戦いの時は掛かるし、合いの手も入る。客全員が曲を歌えると言う事だ。

 

ユウリが出向くと、此方にもどっとサインを求める人が来る。

 

サインをてきぱきとこなして。ある程度一段落した所で。

 

村長に話を聞きに行く。

 

凄い収入だそうだ。

 

此処十年分の観光収入を、一夜で軽く超えたという。

 

有り難いという話をするので。

 

咳払いした。こんな事で、有頂天になって貰っては困る。

 

「これからですよ。 土地はどんどん回復していきます。 マクロコスモスの支援も入ります。 村長さん。 気を引き締めてください」

 

「お、おう、そうだったな」

 

「私も去年前チャンプを下した後は、スランプになりました。 村長さんがしっかりしていないと、きっと村の再建も上手く行きません。 若い人を受け入れる事、それでいながら伝統は守ること。 きちんと両立させてください」

 

「うむ、頼もしいのう。 チャンプがここに常駐してくれれば、どれだけ有り難い事か」

 

苦笑して、時々は来ると告げる。

 

実際王様が心配だ。

 

タチが悪い輩は、どんなに治安が良い地方にだって入り込む。

 

王様がどれだけ強くたって。

 

自衛能力には限界もある。

 

だから、時々ユウリが見に来なければならない。

 

時々見に来ることを告げると、村長は喜んでくれたが。

 

この人がもう少ししっかりしていれば。

 

王様の手間も。

 

ユウリの手間も。

 

もっと減ったのだ。

 

それを考えると、どうにも歯がゆかった。

 

 

 

家に戻る。

 

ベッドに転がる。いつユウリが帰ってきても良いように。ベッドは母が手入れをしてくれている。

 

ユウリに父はいないが。

 

ガラルでは、経済的にハンデがある家に対しても保証がある。

 

他の地方では、ユウリはどうなっていたのだろうか。

 

或いは、ストリートギャングに混じったり。

 

悪の組織に入ってしまっていたかも知れない。

 

そういう未来はあり得る。

 

ガラルに産まれて良かった。

 

それは感じる。

 

だが、ガラル南部で見た惨状のことを忘れてはならない。ああいう場所は、豊かなこのガラルにもある。

 

そして人の心だって変わらない。

 

色々な悪の組織で見た非人道的行為の数々。

 

許せないと思ったけれど。

 

マクロコスモスの重役達を見ていると。

 

それはガラルでも同じなのだと、思い知らされる。

 

母が料理を作ってくれたので、食べに行く。

 

ガラル南部で行われた村の番組がテレビに映っているが。ダンデだけではなく、ユウリも目立っていた。

 

前の地方で、悪の組織を潰したときに頬についた十字傷はもう消えたが。

 

いずれにしても、あまりテレビ映りは良くない。

 

コメンテーターも、好き勝手なことを言っているので、色々頭に来たが。テレビに文句をいちいち言わない。

 

「随分華やかなお祭りねえ」

 

「これから開発が入るからね」

 

「そう。 不毛の土地だって聞いたけれど」

 

「昔は豊かな土地だったんだよ」

 

母に仕事については話していない。

 

母がユウリに仕事について聞くこともない。

 

たまにこうやって、ぼそりと知っている事は話すけれど。

 

それだけだ。

 

「次の仕事はまた海外?」

 

「うん。 最近は私が行くって話が拡がるだけで悪の組織が瓦解することも珍しく無くなったよ」

 

「危ない事だけはするなとは言いたいけれど。 今のユウリはガラルの最大戦力ですものね」

 

「……こればかりはどうにもならないよ」

 

食事を終えると、ユウリは風呂に入って寝る。

 

後は、ただ静かに過ごす。

 

静かに過ごせる時間はあまり多くは無い。

 

だいたいの場合、気を張っていなければならない立場になってしまった。

 

それは王様よりも、ある意味厳しい立場なのかも知れない。

 

今は静かに。

 

ガラル最強のトレーナーであり。国際警察に切り札として頼りにされているユウリは。つかのまの休息を楽しむのだった。

 

 

 

(終)




チャンプたるユウリが敬意を払う「王」とのお話、楽しんでいただけたでしょうか。

アイコニックヒーローとなっているユウリが、今後どうなっていくのか。

それは、次回。

このシリーズの最終話にて明らかになります。
お楽しみに。
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