ポケットモンスター剣盾二次創作シリーズ 作:dwwyakata@2024
各地の地方には、ポケモンの保護区が存在している。ガラル地方では、この保護区がかなり大きく。
此処で大きな事件が起きたこともあるし。
それもあってか。トレーナーは実戦経験を積むべく、最近では此処での修練が義務づけられている程だ。
一時期は、訓練されたポケモンを同一条件で戦わせるというものが流行り。
その結果、ルール外から攻めこんでくる相手には、いちじるしくガラル地方のトレーナーが弱体化した事があった。
それが何年か前に、大きな事件の引き金になり。
たくさんの死者を出した。
それもあって、今ではこのワイルドエリアにはレンジャーが常駐していて。トレーナーが野生のポケモンを相手にその恐ろしさをしる訓練が義務づけられているし。
ジムリーダークラスのトレーナーですらも、此処で修練を積むようになっていた。
ユウリはこの辺りは地元も同然だ。
どこの湖のどの辺りが危険で。どの辺りの岩でビバークが出来て。何処にどんなポケモンが潜んでいるか、何もかもが手に取るように分かる。
勿論それでも慢心はしない。
昔の……三千年前の古代文明以前の人類は、とにかくとんでもなく脆かったらしい。本当にあっと言う間に死ぬ事も多かったそうだ。
今の人間は、そこまで脆くはないが。
それでも、同格の相手が敵の場合、一瞬の油断で命を落とすことだってあるし。
気を抜いていると、同格の相手が気配を消して接近して来る事だってある。そうなれば、不意を打たれることもある。
アオイと一緒にキャンプをする。
しばらくはガラルで基礎教育をして、十歳相当の知識……アオイが今正確には何歳は分からないのだけれども。
ともかく一般と同じ教育が終わったら、後はアオイが自立できるようにする。
そのための訓練だ。
順番に、何もかもを叩き込んでいく。
外での食糧の確保の方法。寝床の確保の方法。生き抜く方法。
囲まれた場合の対処方法。勝てない相手と遭遇した場合の逃げ方。それから、体の鍛え方の基礎。
アオイは何でも真面目に話を聞くので、教えがいがあるとユウリは感じた。
懸念していた、頭を弄られたことの後遺症。
それは、ユウリがいる時点では、あまり感じられない。
アオイには、常にラッキーと、それにフワライドを護衛につける。この二体は、ずっとアオイの側にいた。
フワライドはユウリが鍛えていた頃はどちらかというと冷酷な性格だったのだが、アオイを見ていて思うところがあったのだろうか。
アオイを何かあったら、守るように必ず動いている。まるで親のように。
悪意の類は感じられない。
ひょっとすると、アオイはポケモンに好かれる天性の才能があるのかも知れない。だとすると、普通に生きているだけで、本来はユウリがいるような所に上がって来たのかも知れなかった。
ある程度基礎体力をつけてからは、その体力を伸ばす。
ワイルドエリアを走り込む。食事をする。超回復を行う。更に走り込む。そうやって、基礎体力を増やす。
同時に、ユウリは幾つも教え込んでいった。
マスタード道場で貰った道着を着て、二人でワイルドエリアで向かい合う。
「いい、ポケモンの技の内、人間に再現出来ないものはどうしてもあるんだよ。 例えば音波系の技とか、火焔放射とか」
カントーの彼は火焔放射を使いこなしたという噂があるけれども、だとすると何をどうやったのかユウリにも分からない。
ただし、誰でも再現出来る技もある。
「ただし、人間にも再現出来る技もあるの。 それを覚えておけば、いざという時……危ない場面に遭遇した時に、勝てない相手から逃げる事も出来るからね」
「はい、ユウリお姉ちゃん」
「よろしい。 では私に合わせて動いてみて」
まずは気を練る。
この時点で実は出来る人間があまりいないのだが。格闘ジムの関係者は、実の所無意識にやっていることが多い。つまり、誰かが習得技術を体系化すれば、気の操作は一気に一般化する可能性が高い。
もったいない話ではある。
ユウリは、アオイを見る。
真似は上手だが、最初から出来るわけがない。呼吸法とか、体への気の浸透方法とか、順番に丁寧に教え込む。
真正直に覚えていくアオイ。習得はかなり早い。
良い感じだ。気を練り上げられるだけで、できる事がだいぶ増えてくる。
毎日、ワイルドエリアで過ごすわけにもいかない。
「両親」と過ごして貰って、学業もやって貰う。ポケモンの捕獲免許はもう取ったようだけれども。
それ以外の読み書き、算数、後は税制の勉強や、法律のこと。
十歳が大人になる現在は、それらの知識が必須なのだ。殆どは催眠学習で叩き込んでしまう。
普通の勉強と、ユウリが仕込む何処でもアオイがいきられるための修練は、並行で行っていく。
そうすることで、人の世界でも。
最悪、そうではない世界でも。
生きていけるように、頭を切り換えられるようにするのだ。
ガラルに戻って来たこともある。
ユウリはアオイの面倒を見ていない時は、興業試合を行う。チャンプになってから五年。みんな背も伸びて、貫禄が出て来ているが、勝ちは譲らない。
特にお隣さんの幼なじみで、ダンデさんの弟であるホップは、ユウリ打倒の第一候補と見なされているようで。
更に学者としても勉強をしていて、非常に忙しい日々を送っている様子だ。
みんな、それぞれの道を進んでいる。
マクロコスモスも、ガラル全域の経済をしっかり回していて。ガラルはとても豊かな時代を送っている。
そんな中でも。ユウリは気を抜かない。
また時間が出来たので、アオイと共にワイルドエリアに出向く。
そろそろ良いだろう。
気を練り上げることがアオイにも出来るようになって来た。髪の毛も伸びてきて、ついに三つ編みを出来るようにもなった。
それでも、帽子を出来るだけ被るようにとも言っておく。
周囲の人間に慣れてきたアオイは、やっぱり頭の傷が気になりだしたようだから。この傷は、治りようがない。
ならば、自分でトラウマを克服するまでは。帽子を被る方が良いだろう。
手塩に掛けた、ルカリオを出す。狼が立ち上がったような姿をしたルカリオは、格闘タイプのエキスパートと言える強力なポケモンの一角だ。火力特化だが、その代わり火力さえ生かせる環境を作れば大暴れしてくれる。
比較的手持ちでは若い子だが。それでもしっかり鍛えこんだ子だ。ルカリオはアオイを一瞥すると、ユウリを見て頷いていた。
一つずつ、格闘技を教え込んで貰う。
特に大事なのは強化技だ。
ユウリは戦闘で龍の舞いと剣の舞いを使う事がたまにあるが。普段はそれらを使うまでもない。
それらを使うのは。手持ちの子達を展開出来ない上、幻や伝説のポケモンと素手でやり合わなければならなくなった場合。
古い時代は、そういう事をした豪傑もそこそこにいたらしい。まあユウリも何回か経験がある。
まずは、アオイにこれらの技を覚えさせておく。
特に龍の舞いは非常に有用な身体強化技だ。火力を高めることが出来る上に、反応速度をぐんと上げる事が出来る。
今のアオイでも、普通の男性くらいなら一回舞えば叩き伏せられるし。
四回も舞えば、速度でプロの格闘家を圧倒できるだろう。
気を練り上げることが出来るようになったアオイは、どちらの舞いも習得が可能な筈である。
ルカリオは「舞い技」の中では剣の舞いしか習得出来ないが、まずは順番だ。
剣の舞いを、丁寧に目の前で実演してみせるルカリオ。頷くと、アオイも同じようにやってみせる。
ポケモンは人間と共通している要素が多い。
ルカリオはアオイに色々事情があることをすぐに理解したのだろう。気……波動とも言われているらしいが。ともかくスペシャリストのポケモンだ。
アオイが単純に動作だけ真似しているのを見ると、無言で手を掴んでやめさせ。何度でも実演して見せる。
アオイはそれを真剣に見て、やり方を確実に覚えていった。
一回見れば、それで覚えられる人もいる。ユウリもどちらかと言えば、其方よりらしいのだが。
誰もがそうでは無い事も、ユウリは分かっている。
十回ほど剣の舞いを側で見たアオイは、やり方のコツは掴んだようだ。その調子。そう言って褒めると、白い歯を見せて笑ってくれる。この歯も、助けたときは酷く痛んでいて、気の毒極まりなかったのを思い出す。両親によくして貰っている事が分かるので、ユウリは目を細めてしまう。
その後は、格闘系の技を徹底的に叩き込んで貰う。
エスパーの素質がある人間もいて。其方が使えるなら、専門家に紹介したいところだったのだが。
ユウリと同じく、アオイはどうもエスパーの素質はないようで。
格闘を主体にやっていった方が良いだろう。
気の練り方を覚えたアオイは、身体能力が見る間に上がって来ている。ユウリも国際警察に頼まれて格闘の実習訓練を見る事があるのだけれども。これならば、基礎としては充分過ぎるだろう。
一週間以上、剣の舞いを徹底的にやらせる。
これを習得出来れば、いざという時の修羅場での手札が増える。剣の舞いは非常に精神力を消耗するので、休憩を何度も挟む。そして、休憩中に、アオイに今まで出会ってきたポケモンや、凄い人達の事を話す。
ダンデさんは、今でもユウリの目標だ。
ポケモンバトルの腕では凌いだが、それでもガラルを代表するトレーナーで、現在ではマクロコスモスの事実上の経営もやっている。
近いうちにアオイを連れて行こうと思っている相手。ヨロイ島のオーナーであるマスタードさん。十八年のチャンプ記録を持つ人で。現在でも超現役の凄腕トレーナーだ。ああいう風に年を取りたい。そうユウリも思う。
色々な伝説のポケモン達。力が強すぎるだけで、災厄をまき散らしてしまったムゲンダイナ。手元にいるムゲンダイナの話をすると、アオイは力の怖さを悟って、真剣に頷く。それでいい。
力は振るって楽しむものではないと、理解出来ればいいのだ。
偉大なる王であるバドレックス。今もガラルの南にいる「王」は、一時期ユウリと一緒に旅をして。その偉大な力を取り戻した。旅のことはよく覚えている。王らしい、非常に威厳がある、それでいて人を嫌ってもいない、優しい王様。
手元にいる「剣」、ザシアン。兎に角ストイックな、「剣」そのもののポケモン。
この地方を災いから救い、人の業を見てきた文字通りの「剣」。手持ちのポケモンと言うよりも、ユウリの後見人だ。
切り札の中の切り札として温存している存在で。いずれ、アオイと会わせようとも思っていた。
そしてクリーム。
この地方で大事件を引き起こしたマホイップ。ユウリ手持ちの最強のポケモンの一角であり、人間の業を見た災厄の子。今でも、ユウリを何処かで値踏みしているが、それでも信頼はしてくれている。
色々な人やポケモンの話をしていると。
やはり、まだ体力も技量も発展途上なのだ。アオイは寝てしまう事も多い。
寝てしまった場合は、毛布を掛けて、風邪を引かないようにする。そしてユウリは、自身もテントの隅で寝袋にくるまってねむる。
全てを叩き込む必要は無い。
応用は自分でやった方がいい。
特にポケモンバトルについては、自分で全てをやるべきだ。競技としてのポケモンバトルと、実戦はまるで別物だ。
とにかく、時間を掛けてアオイと接する。
少しずつ、確実に、
アオイは他の子供との遅れを取り戻し。少しずつ、独り立ちできる準備が整っていった。
アオイがパンと胸の前で手を合わせる。
そして、気を練り上げて、くるりくるりと優雅に舞った。
完璧だ。
この技、龍の舞いを教え込んだユウリのカイリューは、それを見て明らかに嬉しそうにユウリに頭をすりつけた。
そして、アオイにも。
アオイも、嬉しそうにカイリューの頭を抱きかかえる。そういえば、このカイリューと一緒に、あの忌々しい研究所を潰したんだったな。それを今更に思い出して、ユウリは目を細めていた。
打撃技、蹴り技の類は、基礎はあらかた教えた。
後は、それをどれだけ自分で練り上げるかだ。
リスクが高いインファイトや、相手に超高速の打撃を叩き込むバレットパンチやジェットパンチも覚えさせた。いずれも理屈さえ理解出来れば人間でも放てる。
ただ、まだアオイは体がしっかり出来ていない。
それを理解させるために、何度もポケモンと組み手させた。まだ調整中の子が相手の事も多かったが。手持ちの主力級とも最近は対戦させている。
それで、ポケモンの強さをアオイは理解出来た。
大きいのを一発貰うと後がない。それが分かれば充分。余程の事がない限り、重量級のポケモンと格闘戦なんてすることはないのだ。今仕込んでいるのは、あくまで人間、およびトレーナーが仕込んだポケモンから身を守るための手段。一応本職の殺し屋というのも実在していて、ユウリも交戦したことがあるが。実際は殆どの場合は奇襲が基本で、コミックに出てくる暗殺者のようなスーパーヒーローではない。いずれアオイはポケモンを手持ちに加えて、それで身を守る。奇襲を防ぐことが出来れば、現時点では充分だ。
残心をして、呼吸を整えるアオイ。完璧な残心で、ユウリも見ていて目を細めてしまった。
すっかり髪も伸びたアオイは、もう他人と喋る事も苦にしなくなっていたし。
勉学の方も問題ないと「両親」は言っていた。
これなら、そろそろ頃合いだろう。
少し前に、ユウリはパルデアに下見に行って来た。そこでちょっとした問題もあったのだが、今はそれも解決している。
いずれにしても、大した問題では無い。非人道的な事が行われていたわけでもないし、戦争が起こりかけていたわけでもない。悪の組織が、大規模テロを実施しようとしていた訳でもない。
アオイを行かせる事に、なんら問題はなかった。
なお、一応念の為、少し前にガラルの格闘ジムで知己のジムマスター、サイトウさんとアオイを引見させた。
サイトウさんが見る限り、アオイは充分に黒帯の実力があるとかで、競技でもやっていけるそうだ。
身を守るための武芸だけではない。格闘ジムのリーダーという将来もある。選択肢は、一つでも多い方が良かった。
気の練り上げはもう充分基礎レベルは出来ている。後は真面目に鍛えれば、素手で大人の男性をねじ伏せる事も簡単だろう。既に今のアオイの身体能力は、特に鍛えていない成人男性だったら、充分に数人まとめて正面から制圧出来るレベルになっていた。舞いを積めばアサルトライフルで武装した軍人相手でも圧倒できるだろう。
「よし、基礎技は充分だね。 実戦経験も基礎は積んだ。 後は自分でやるんだよ、アオイ」
「はい、ユウリお姉ちゃん! 基礎訓練、有難うございました!」
アオイはびしっと頭を下げる。とにかく綺麗な礼で、動作も会う度にしっかりしていくのが分かる。
この辺りは国際警察勤務の真面目な両親が仕込んだからというのもある。良い影響だと思う。
というか、良い人を回して貰った。
国際警察の方でも、カロスの件で後手後手に回った負い目があったのかも知れないが。それでも、これくらいは最低でもして貰わなければいけないのも事実だった。
これで、アオイの基礎訓練は終わり。後は、アオイが全て決める事だ。
カレーを作って一緒に食べる。
アオイはパンの方が好きらしいのだが、カレーも嫌いではないようだ。ただ、ユウリが何でもかんでもカレーに入れて平然とかみ砕いているのを見て、最近は青ざめるようになっていたが。
一方でアオイも、サンドイッチのパンに凄い勢いで具材を突っ込んで、それをムシャムシャ食べるので。
大変食欲旺盛で結構な事である。
まだ体は大きくなるのだから、しっかり食べておくことに損は無い。
大人になってから、食べる量は調整する必要があるかも知れないが。
今は考える必要もない。
「アオイ、大事な話があるんだ」
「はい」
「これから、どうなりたい?」
「……」
アオイの道は、自分で決めるべきだ。
そう、順番に説明していく。
それが出来る基礎は整った。そして、パルデアでそれが出来るように準備はした。
それらを説明する。みな、十歳で独立するのがこの世界。そして、普通の状態では無いアオイも、独立が出来る準備も整った。
ならば、後はアオイの意思だ。
顔を上げるアオイ。
「パルデアの事は調べました。 パルデアにあるグレープアカデミーに行きたいと思います
「そう」
アカデミーか。
十歳で……アオイの場合、実年齢は分からないけれど。とにかく十歳相当ですぐに社会に出るのでは無く、更に学歴を積む。悪くは無いと思う。
アカデミーは名前の通り初等教育では無く、高等教育だ。此処を出た人は、だいたいの場合会社の幹部待遇で迎えられたり。或いは年を取った人が勉強を受け直して、更にキャリアアップのために活用する。
それにしても、あの場所か。
前にパルデアに行った時、丁度問題が起きたのが彼処だ。何だか因果を感じてしまう。
「私、会社作りたいです。 それで、私と同じ境遇の子が望むなら雇いたいし、今苦しんでいる子達は私が面倒を見たい」
「それが、本音だね」
「はい」
アオイの目には光がある。
強い意思だ。
虐げられることから、アオイは始まった。
運が良く助かった。
きっと、目の前で見た筈だ。ただ運が悪かったと言う理由だけで、最悪の大人達に蹂躙されて命を落としていった子供達を。
自分がただ運が良かったから助かったと言う事にすぎないと。
アオイは運が良かった。
ユウリが基礎的な戦闘技能を仕込んで。
立派な親が新しく出来て。
それで、今、出立地点までは面倒を見てくれる存在もいる。世の中にはもっと悲惨な境遇の人間がたくさんいて、そして多くは救われる事もなく命のともしびを散らしていく。
それをアオイは全てもう理解している。
その結果、社長になりたい。そのために、高等教育を受けたいというのであれば、その夢をユウリは後押しするだけだ。
具体的にどんな会社を作るかは、アオイが考える事。
これ以上は、ユウリが介入すべきではない。
「分かった。 アカデミーの学費までは払うよ。 後は、自分でなんとかするんだよ」
「はい、ありがとうございます」
「アオイ。 分かってると思うけれど、普通の人よりもずっと此処からは困難だよ。 こんな事を教えてきたのも、それと戦うため」
ユウリの場合はそんな事はなかった。
手にあるのは、ただの才能から起因した強さだ。
ただ。生き残るすべに関しては、ユウリも散々身を以て知っている。だから、それを教えるだけ。
これ以降は教える事なんかはない。
というよりも、自分で学んでいかなければならないことだ。
アオイの家に行く。
両親は、どちらも厳しそうな人だ。勿論、普段は素性を隠して優しそうな人に振る舞う事も出来る。
というか、アオイには甘いようだ。
この夫婦は、子供が出来なかった事もある。養子であっても今頃になって子供が出来たのが、とても嬉しいらしい。
アオイも、二人を慕っていることがよく分かる。それなら、ユウリから言う事は何もない。
軽く話す。
二人とも、アオイが自分の身を守れることを聞いて、安心したようだった。一方で、ユウリが見た所、試合に関するポケモンバトルの力量はまだまだ未知数だ。今後のアオイの努力次第だろう。
パルデアへの赴任は少し先。だが、当然二人ともいつも一緒にいられるわけでもない。それに、パルデアに赴任した後は、アオイは自立するのと同然の状態になる。
しばらくは、此処で過ごすが。
それが最後の時間となるかも知れない。
一緒に食事をする。
まともな家庭料理を食べることは、殆どなくなった。実家に帰ることもあるが、あまり実家に滞在できる時間も長くないのだ。
だが、最後くらいは一緒の食事も良いだろう。
誰も血がつながっていない家族だが。
血がつながっているよりも、きっと心がつながっているはずだ。
最後の夕食を終えると、ユウリは三人の家を後にする。
エンジンシティの借家。
もうすぐ住人もいなくなるその家は、少しだけ名残惜しかった。
アオイとは、今後もメールなどでやりとりはするつもりだ。ただ。ユウリの事は話題に出さないように既に告げてある。
余計な危険を招きかねないからである。ただでさえ、色々カロスの特大スキャンダルの当事者なのだから。
ワイルドエリアに出ると、手持ちを出す。少し、古参の手持ち達と話したかった。
キャンプを開いて、皆と話す。
ラッキーとフワライドは後から手持ちにした子で、二名ともアオイの両親に譲った。
アオイの初期手持ちとしては強すぎるので、それはパルデアで調達して貰う予定である。
だから、二名はいないが。
ただ、最初の頃から一緒に冒険をした皆は、側にいるととても頼もしかった。
「心配なのなら、手元に置いておけば良いだろう」
マホイップのクリームが、そんな事を木の棒で地面に書く。
ユウリは少しだけ苦笑すると、星空を見上げる。
「駄目なんだよそれじゃ。 もうあの子は自立する年だ。 自立して、身を守れるだけの訓練はした。 だったら、後はあの子が全て決める事。 私とひょっとしたら戦う道もあるかも知れないけれど、その時はその時だ」
「随分と入れ込んでいた割りにはドライだな」
クリームに、不満そうな目を向けるカジリガメ。
基本的に無口で荒々しい性格だが。最近はぐっと穏やかになって来ている。逆に、ユウリの試合でのエース格であるエースバーンは。最近でも少年のような荒々しさを失っていない。
そんなエースバーンは、クリームを一瞥だけした。
ふっとクリームは笑うと、視線を逸らす。それだけで、色々と思う所があるのだろう。ユウリを試すのも、もう良いだろうと判断しているのか。クリームは人間らしい考えをするから。ユウリの心中をある程度察して、それで充分なのかも知れなかった。
さて、今日はキャンプをして、少し鈍った体を鍛え直してから次の仕事だ。
立ち上がると、客を迎える。
すっかり背が伸びて、ユウリよりもかなり大人っぽくなったマリィだ。
かなり容姿は大人びたが、かなり恥ずかしやさんの性格はあまり変わっていない。見かけと性格のギャップが大きく。最近ではそれも少しずつ知られるようになって来ていた。
「久しぶりね。 あの子のお世話、終わった?」
「終わったよ。 私は基礎を教えるだけだから」
「そう。 じゃけん、もう少し一緒にいてあげてもよかとよ」
「いいんだよ。 私も、色々と吹っ切らないといけないからね」
頷くと、早速距離を取って試合をする。
次は興業で別の地方に行くのだが。当然それだけではない。
試合でも負けるつもりはないから、しっかりこうやって鍛えておくのだ。
しばらく無心で勝負を続ける。
マリィの腕はかなり上がって来ていて、何より炎に照らされる顔が以前と比べてとても大人っぽくなっている。
ユウリも背は伸びたが、どちらかというと童顔だからこれは羨ましいと思う。
二時間ほど、手持ちをぶつけ合って調整を行う。
マリィも他の地方のポケモンを仕入れていたりと、全く知らない戦術を使ってくるのでとても楽しい。
また、アドバイスに従ってマリィ自身も鍛えているようで。最近ガラル空手の道場で、瓦割り二十枚を達成したそうだ。
調整終わり。
マリィは息が切れていたが、それでも昔よりずっと体力がついている。握手して、それで軽く話す。
「今度は何処行く?」
「んー、マリィになら言っても良いかな。 イッシュ地方」
「彼処って、プラズマ団の残党がまだ少し残ってるって聞くけん、大丈夫?」
「大丈夫。 というか、国際警察も残党を全部潰すつもりみたいだね。 私もちょっと色々あってね。 落とし前つけさせる」
プラズマ団はカルトという事もあり、二度にわたって壊滅した後は。穏健派の慈善団体と化した派閥と。危険なテロ組織のままの派閥に別れた。穏健派は過去の過ちを認め、非常に献身的な団体に生まれ変わった一方。過激派はとことん陰湿化して、今でも残党が犯罪組織と結びついている。
今回は、それの後始末だ。向こうでは、二回にわたるプラズマ団壊滅に貢献した英雄も合流してくれる。多分ユウリの渡航一回でけりがつくだろう。
その後も、彼方此方で仕事があるが。次の仕事は絶対だ。
フレア団にとって、「需要」を作ったのはプラズマ団だからである。
残党も徹底的に叩き潰して、己の罪を思い知らさせる。
それで、やっとユウリも。
あの光景を見て、心に宿ってしまった暗い炎から解放される。
それだけの事だった。
ココアを淹れてくれるマリィ。兄貴直伝と言っていたココアだ。とても温かくて美味しい。
表情を作るのが苦手なマリィは、無表情に近いが。それでも心配してくれているのが分かった。
「ユウリ、戻ってくる度に強く……それ以上に怖くなってる。 だから、ちょっと心配じゃけん。 ユウリが悪さとかしない事は分かってるけんど……」
「大丈夫。 私は……あいつらとは一緒にならないよ」
腰を上げる。
そして、マリィに行ってくるとだけ告げて。
ガラルを後にした。
そう、同じには絶対にならない。
例え、誰からも理解されなくなったとしても。
誰からも怖れられるようになったとしても。
ユウリは、自分のやり方を変えるつもりはなかった。