ポケットモンスター剣盾二次創作シリーズ   作:dwwyakata@2024

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3、血戦エンジンシティ

 

早朝から、カブはエンジンシティの手前に陣地を敷いて、状況の推移に備えていた。

 

元々此処はガラル地方の要地。交通とインフラの集約点だ。分厚い城壁に守られた要塞であり、入り口を守れば良いのだが。

 

しかしながら、相手はポケモン。どんな手に出てくるか分からない。

 

後ろを一瞥して、舌打ちする。

 

ポケモンストアのスタッフまで動員しているのだが。そのスタッフ達は、半ば暴徒と化している廃人勢が出ようとするのを抑えるのに、精一杯だった。

 

「出せって言ってんだろ!」

 

「危ないから下がっていてください!」

 

「危ないわけねーだろ! 極限まで努力値振った俺のポケモンが、雑魚の群れなんかに負ける訳がねー! てめーらジムの連中だけでポケモン独占するつもりなのは目に見えてるんだよ! 理想個体もいるかも知れないんだ! 色違いもいるかもしれねーだろ! とっとと出せオラ!」

 

「下がって!」

 

溜息が出る。

 

ポケモンも人間と同じように、修練を重ねれば強くなるが。才覚による限度がある。この伸び幅を努力値という。

 

この才能に起因する努力を如何にさせるかが、いわゆる廃人達にとって、決められた条件での戦いを制するキモであるのだが。

 

それはあくまで、トレーナーの安全が保証されている競技での話。

 

古い時代は、ポケモンを用いての戦争は当たり前のように行われていたし。

 

何より他地方では、ポケモンを用いた犯罪を行う組織だっている。

 

そういう連中は、勿論殺すつもりで、トレーナーも積極的に狙って来る。競技とは根本的に違う。

 

そして恐らくだが、今から来る可能性が高いポケモン達もそうだ。

 

さて、どうしかけてくるか。

 

メロンとキバナにポプラ。それに何より、無敵のチャンピオンであるダンデが来てくれる予定になっているが。

 

昨日から各地で霧が濃く、到着が遅れている。

 

レンジャーは総動員体制。またいざという時に備えて、ジムリーグ戦が行われるコロシアムにジムトレーナー達は待機させている。

 

警察には既に避難誘導を開始させているが、どうも人々には危機感が薄い。

 

これは想像以上に被害が出るかも知れないなと、カブは憂鬱になったが。少なくとも、それは周囲に見せない。

 

腕組みしたまま最前列にて仁王立ちし。手持ちの精鋭を既に戦闘態勢に入らせている。

 

ふと、気付くと。

 

マルヤクデが、警戒音をならしている。ウィンディ達も、気付いて吠え始めた。

 

霧の中から、膨大な数のポケモンが姿を見せる。

 

想像以上の数だった。

 

側にいるレンジャーが、双眼鏡を降ろした。唖然としたのだろう。そして、もう一度慌ててみると。ロトムの入った測定器も使い、数を調べ始める。

 

「バンギラスとドラパルトだけで50はいます……! 全体の総数は1200……いや1500以上!」

 

「総員、戦闘態勢!」

 

バンギラスは巨大な骨格を持つ恐竜を思わせるポケモンで、若干鈍重な代わりに、それを補って余りある強大な力を持つポケモンである。

 

圧倒的な戦闘力は図抜けていて、ドラゴンタイプのポケモンでも迂闊に手を出す事が出来ない。

 

ドラパルトは戦闘機のような形状の頭を持つドラゴンポケモンで、凄まじい素早さを誇る。火力も高く、扱いが難しい反面強力なポケモンだ。

 

悠々と歩み来るバンギラスらの前衛には、小型が多数。中には、珍しいポケモンが多数含まれているようだった。

 

レンジャー達が、一斉にソーナンスをモンスターボールから出す。

 

丸っこい体をしたソーナンスは、複数の性質に対応した反射シールドを張る事が出来るポケモンで、こう言うときに壁役として活躍する。

 

ワイルドエリアにも多数棲息しており。ポケモンに襲われた人間を救助するときに必須になる事から、レンジャー各自一体以上の携帯が義務化されている。なお非常に人間に懐きやすく、ぼーっとした普段の行動と裏腹に頭も悪くない。

 

一斉にシールドを張ろうとするソーナンスだったが。

 

大集団の前衛に、珍しいポケモンが多数いる事を見て取った廃人トレーナー達が、ついに抑えていたポケモンストアのスタッフ達を押し崩した。

 

まずい、と思った時には。暴徒達が、我先に殺到し始める。

 

彼らにとっては、ポケモンは「順位」を稼ぐための存在であって、ゲームの駒だ。

 

自分が殺される事なんて、最初から想定していない。想像も出来ない。

 

実際、野良のポケモンとは一切戦わせずに、試合のためだけにポケモンを育てるトレーナーも少なくない。

 

そういう連中は、自身を「ガチ勢」と称していることも多く。

 

真面目にチャンピオンを目指しているようなトレーナーを、馬鹿にしているケースも多かった。

 

一斉にそれぞれ自慢のポケモンが入ったモンスターボールを投げ始める廃人勢。

 

確かに試合用に調整されたポケモン達は、どれもこれも決まった条件下では強そうだ。だが、直後。何かが、敵の群れの中から投げ込まれた。

 

思わず立ち上がったカブが、叫んでいた。

 

「下がれ! 引火ガスだ!」

 

「何を言って……」

 

バカにしきった様子で、カブを嘲笑おうとしたトレーナー。

 

投げ込まれたのがマタドガスと呼ばれるガスを噴出するポケモンであり。

 

そして、群れの中心部から、遠隔でサイコパワーが働いた事に気付いたカブが手を伸ばすが、もう遅い。

 

瞬時に、爆炎が。

 

その場を蹂躙していた。

 

炎タイプのポケモン達が、カブを庇う。

 

爆炎が収まると、周囲は阿鼻叫喚。手足を失ったり、既に地面に伏して血だまりを作っているトレーナー達と。トレーナーが沈黙して困惑しているポケモンの群れ。同時に敵が突撃を開始。

 

厳選し抜かれたはずの、廃人勢のポケモンに。十体一組以上の群れで、一斉に襲いかかっていた。

 

ポケモンの世界基準の試合では、基本一対一、もしくは二体二。多くても三対三がルールとなる。

 

野生でのポケモンも、群れを作る事はあるが、精々五体程度までである。

 

それが、十体を超える数で、一斉に襲いかかられたらどうなるか。

 

試合用に調整されたポケモン達が、飛びついてきた野生のポケモンを振り払う。一対二体なら、振り払えるようだ。

 

だが三体目以降が凄まじい勢いで突撃し、同時に食いついてくるとどうしようもない。悲鳴を上げて、後は貪り喰われるばかりだった。

 

慌ててその場を這って逃げようとするトレーナーの側に、デリバードが降り立つ。

 

デリバードは弱いポケモンだ。人間にも本来敵対的では無い。何だデリバードかと、安心した様子のトレーナーの脳天に、躊躇無く嘴が降り下ろされる。

 

普通人間に対して攻撃態勢を取らないデリバードの行動に、逃げる事も出来ず、頭をかち割られるトレーナー。勿論助かる傷では無い。

 

更にデリバードの群れは、一斉にレンジャーの壁にも襲いかかっていた。

 

逃げ崩れる廃人勢が、壁を作って対応しようとしているレンジャー達ともみ合いになる。其所に、追い打ちのように、無数の火球や氷の槍、尖った枝、更にはサイコパワーによる攻撃が飛んでくる。

 

更にバンギラスが起こしたらしい地震が、周囲の混乱に拍車を掛ける。

 

カブは叫んだ。

 

「負傷者を庇いつつ、攻撃を仕掛けよ!」

 

「分かりました!」

 

カブ自身も前に出ると、突撃してきた多数のポケモンをいなす。カブの手持ち達がスクラムを組んで押し返すと。

 

その後方から、マルヤクデが全火力での火球を連続で敵に投擲する。

 

敵が崩れるが、霧の向こうから次々湧いてくる。レンジャーが、必死に負傷者を助けて回っているが、そう長くはもちそうにない。

 

ソーナンスの壁が一部崩れ始め。其所から重量級のポケモンが突貫してくる。レンジャー達が繰り出したウィンディや、気が利いた者はもっと強いポケモンを出すが。それでも穴は埋めきれない。

 

数が違いすぎる。

 

また、マタドガスが投擲されてきた。

 

即座に蹴り返そうと、バンバドロに指示を出すレンジャーだが。

 

蹴ろうとした瞬間、マタドガスが自爆する。勿論バンバドロも巻き添えである。

 

大量の血の雨が降る中、カブはそれでも敵を押しとどめつつ、勝つ道を探す。だが、敵は狡猾。

 

次の手に容赦なく打って出る。

 

上空。

 

巨大な影が、城壁の上を行く。

 

「あれは……ヨワシか!?」

 

「あんな巨大な群れ、見た事も無いぞ!」

 

「今は壁の構築を優先! 敵の浸透を防げ! 城門を破られたら皆殺しにされるぞ!」

 

コロシアムの方から光が瞬く。遠距離攻撃に特化したポケモンが、ヨワシの巨大極まりない群れに対して対空砲火を浴びせ始める。残しておいたジムトレーナー達が即応したのだ。

 

だが、ヨワシの群れは削られつつも、どうやらポケモンセンターにピンポイントで着弾したようだった。

 

通信が入る。

 

「東地区のポケモンセンター全壊! 更にヨワシが南地区のポケモンセンターに向かっています!」

 

「兵糧攻めか……」

 

周囲にマタドガスが、次々投下されてくる。

 

放置すればガスを噴き出し始め、引火してまとめて薙ぎ払われるか。下手に手を出せば自爆されるか。被害を覚悟で、どうにかするしかない。

 

気が利いた者はモンスターボールを放って捕獲を試みるが、想像以上に素の力が強いようで、モンスターボールを内側からぶち抜く個体も珍しく無い。当然直後に自爆される。

 

レンジャーの被害も増える中、カブは孤軍奮闘を続ける。

 

また、激しい揺れが来た。

 

「南地区のポケモンセンター、破壊されました! 西地区も守れそうにありません!」

 

「あんなばかでかいヨワシの群れ、どうすれば良いんだ!」

 

「警察隊を、いやジムトレーナー……」

 

混乱する周囲。いや待て。カブは自問自答する。

 

ポケモンセンターは、モンスターボールに入れたポケモンを管理する場所。確かに此方にとっては生命線だ。

 

だが、今までの様子を見る限り、敵は先手先手を打ってきている。

 

なら、次は。

 

はっと顔を上げる。敵の狙いは、恐らくだが。

 

「ジムトレーナーはコロシアムから離れるな! 全力でヨワシの群れを迎撃し続けろ!」

 

「し、しかし」

 

「敵の狙いは恐らくコロシアムだ!」

 

カブが叫ぶと同時に、その通りとでも言うように、ヨワシの群れがいきなり向きを変える。

 

警官隊が守りを固めようとしていた西地区のジムを避け、全力でコロシアムに殺到開始したのだ。

 

更には、敵の主力らしい重量級のポケモンの群れが、ソーナンスの構築した防衛線に到達。圧倒的な力を振るって、薙ぎ払い始める。

 

予備をどんどん投入するレンジャー達だが、手が足りない。

 

カブの手持ちも奮戦。スクラムを組んで敵の最前衛を押し返しつつ、マルヤクデが強烈な火球を叩き込んで防衛線の危ない場所を重点的に守っているが、これは。

 

一番大きな揺れが来た。

 

対空砲火をかいくぐったヨワシの群れが、コロシアムに直撃したのだ。そして、群れは四散したが。コロシアムも半壊したのは確実だった。

 

ダイマックスエネルギーが溢れ始める。

 

コロシアムはダイマックスエネルギーを活用したバトルを行う事も想定し。いわゆる「パワースポット」。つまりワイルドエリアに点在する巣穴より更に強力なダイマックスエネルギーを放出する地点の上に立てられている。

 

周囲に、満ち始めるダイマックスエネルギー。カブは、手につけたリストを操作する。

 

このリストにはいわゆる「願い星」というものが入っていて。これを操作する事により、ポケモンをダイマックス、場合によってはそれを超えるキョダイマックスをさせる事が出来る。

 

敵も同じ事をしてくるだろうが。先手を取らせてやるものか。

 

「マルヤクデ、全て焼き払えっ!」

 

見る間に、数十倍に巨大化するマルヤクデ。これぞキョダイマックス。選ばれたポケモンだけが行える超絶の技。その様子を見て、レンジャー達が歓声を上げる。

 

勝てる。そう判断したのだろう。

 

だが直後、悪寒が走る。

 

カブが横っ飛びに逃れるのと、それが飛んでくるのはほぼ同時。

 

激しい戦いで、疲弊しきっていたマルヤクデは、それを避けきれなかった。

 

直撃。

 

凄まじいエネルギーだ。フェアリータイプのポケモンによるものだろう。

 

マルヤクデはまだ何とか動いているが、傷だらけだ。モンスターボールに戻すべきか。そう思った瞬間、カブは顔を上げて、見てしまった。

 

霧が晴れてくる。

 

そして、其所には。とてもこの世のものとは思えない存在がいた。

 

ダイマックスしたポケモンと、キョダイマックスしたポケモンは元とは別物レベルで姿が変わる事が多い。まだ未知のキョダイマックスはあると言われている。別の地方ではメガシンカという形態変化もある。

 

だが、あれは。何かが根本的に違う。

 

そこにいたのは、どうやら巨大なマホイップらしいのだが。その背中からは禍々しい骨状の翼が生え。無数の触手が全身からうねりながら生えており。そして全身から、禍々しい、あからさまに多数の種類のエネルギーが迸っていた。何より全身が血でも浴びたかのように禍々しく赤い。

 

何より目がおかしい。人間に友好的なポケモンで、温厚で心優しいマホイップとは思えない。そいつの目は深淵よりも暗く、そして狂気に満ちていた。

 

マルヤクデが一歩引く。歴戦をこなしてきたカブでさえも息を呑んでいた。

 

痛みからではない。あの悪魔としか思えない、とんでもない怪物に気圧されたのである。一瞬ウルトラビーストを想像したカブ。別の地方に現れたという、異世界のポケモン。だが、あれはどう見てもマホイップか、その亜種だ。恐怖から導き出された考えを打ち払う。

 

レンジャー達も、モロにそいつを見てしまったらしく、恐怖に崩れかける。

 

それだけではない。無数の鳥ポケモンが、一斉に敵陣から飛び立つ。それらが城壁を越える。向かっているのは、明らかに避難している人々の方だ。

 

「殺される……」

 

誰かが呟く。

 

巨大なマホイップらしき何かが手を振る。恐らくフェアリータイプのポケモンが使う技、広域を不思議な力で薙ぎ払うマジカルシャインだろうが。その火力があまりにも桁外れ過ぎた。

 

文字通り、壁になっていたソーナンス達の群れがまとめて薙ぎ払われる。

 

反射してかろうじて生き延びた者もいたが。

 

今度は、地面に手を突いたマホイップが、鉄の塊を地面からつらら状に生やしつつ、此方に飛ばしてくる。

 

鉄タイプのポケモンがダイマックスしたときに使うダイスチルと呼ばれるものだが。

 

これも、威力が尋常では無く。生き残ったソーナンス達が文字通り吹っ飛ばされ。踏みとどまろうとしたものはその場で微塵に消し飛ばされた。

 

巣穴の主と呼べるポケモンは、立て続けに攻撃を仕掛けてくる事も多いが。それにしてもこの火力は異常だ。たった三発で、マルヤクデを追い込み、防衛線を半壊させてしまった。しかも本来フェアリータイプのポケモンは、鉄タイプの技を苦手としているはず。彼奴は一体何だ。

 

ともかく、キョダイマックスしたマルヤクデから、全力での火力を叩き込む。

 

だが、嘲笑うようにキョダイマックスしていると思われるマホイップが展開したシールドが、それを完全に防ぎ抜いてしまう。巣の主になっているポケモンが見せる事がある能力だが、問題なく使いこなして見せるという訳か。それも、シールドの厚さがただごとではない。

 

間違いない。

 

今回の騒動の原因は、あのマホイップだ。あれが、この巨大な群れを率いている長だ。

 

長の超絶的な力を見た敵の群れが更に勢いづき、レンジャー達に容赦なく牙を剥く。彼方此方で悲鳴があがる。断末魔も少なくない。戦いが一方的になりかけた。

 

その時。降り注いだ爆炎が、まとめて襲い来ていたポケモンの群れを吹き飛ばす。

 

今度は、悲鳴を上げたのは、調子に乗って攻勢に出ていたポケモン達の方だった。

 

どんと、重量感ある音と共に着地したのはジュラルドン。金属の体を持つ、四角い形状のドラゴンタイプのポケモンだ。既にキョダイマックスしている。その肩に乗っているのは、キバナである。

 

周囲には、数体の歴戦と思われるドラゴンポケモンが羽ばたいていた。このドラゴンポケモン達で、自身をエースのポケモンごと空輸してきたのだろう。中々に派手好きだが、戦闘における効果的な演出を知っているとも言える。

 

ダンデと共に旅をしていたらしいともいう話を聞くキバナだ。或いは、一緒に昔ガラルに蠢いていた悪の組織とやりあった事もあるのかも知れない。

 

「ハ、どうやら出番は残っていたようだな! こっからが俺様の見せ所だぜえっ!」

 

キバナがけしかけたドラゴンポケモン達は、個々の能力もそうだが、連携能力が極めて高い。

 

やはり実戦を経験し、それを想定している動きだ。

 

更に、避難民を襲おうとしていた鳥ポケモンの群れが、下から飛んできた氷の凄まじい息吹に、まとめて薙ぎ払われる。

 

彼方はメロンか。

 

エンジンシティから、どっと出てくる多数のレンジャー。それにマクロコスモスの戦闘部隊。

 

待ちに待った増援だ。

 

どうやら率いているのはポプラらしい。周辺の街から、レンジャーをかき集めて来てくれたようだ。ギャロップに跨がったポプラが、杖を振るう。老いたりといえども、その風格は衰えていない。流石に歴代最長期間ジムトレーナーに君臨していない。

 

「押し返しな」

 

「了解! 突撃! 負傷者を救助! まだ継戦意欲を残している敵はまとめて蹴散らせ!」

 

荒々しい叫びと共に、多数のウィンディが一斉に前線に突入する。それどころか、珍しい上に高い戦闘力を持つ狼男のようなポケモン、ルカリオもそれなりの数がいる。マクロコスモスが保有するポケモンだろう。今回の鎮圧に本気を出してきている、と言う事だ。

 

彼らは小山のようなバンギラスや、他の大型にもまるで怯んでいない。凄まじい戦意だ。

 

カブは何とか呼吸を整えると、体勢を立て直す。

 

舞い降りてきたサザンドラ。もの凄く大きい。極限まで育った個体とみた。此奴くらいは、カブでどうにかしなければならないだろう。

 

ジムリーダークラスが三人到着。更に無事なレンジャーの部隊が投入された事で、一気に形勢は互角にまで持ち越した。

 

だが、あのマホイップはどうする。

 

あれは明らかに規格外の個体だ。別の地方では「島の主」と呼ばれる超級のポケモンがいるらしいが、それをも超える存在だろう。

 

だが、カブの不安は杞憂に終わる。

 

敵後方が連続して爆裂する。

 

そして、振り返ったキョダイマックスマホイップが向けた視線の先には。

 

ガラルの誇り。ガラルの至宝。

 

チャンピオンダンデが、自慢のポケモンと共に、降り立っていたのだった。

 

 

 

3、チャンピオンの力

 

 

 

だいたい想定通りの展開だ。

 

クリームは降り立ったチャンピオンを見て、予定通りに雄叫びを上げる。

 

この雄叫びを聞き次第、それぞれはもっとも間近にいる人間と交戦。その後、不利を悟ったら逃げろ。

 

そういう指示を出してある。

 

別に温情からではない。

 

理由あっての事だ。

 

歩み寄ってくるチャンピオンは、浅黒い肌、長い髪を持つ、屈強な青年だ。まだ子供の時にチャンピオンになって、それ以降一度も敗北していない。その実力は、クリームも人間を調べているときに何度も確認した。

 

野良での勝負をたまに受ける事もあるようだが。

 

万全の状態ではないときも負け無し。

 

そして、だからこそ意味がある。

 

ガラル地方の象徴とも言える最強の人間。此奴をブッ殺せば、人間共の士気は完全に砕けるのだ。

 

完全に乱戦になった前線の状態は五分だが、後方ではダンデにつぐと噂の実力者であるキバナが暴れ始めている。彼奴の戦闘力も尋常では無く、他の地方でならチャンピオンになれると聞いた事がある。

 

要するに時間がない。

 

「禍々しい姿……憎悪に満ちた目だ。 一体何が君を其所までの憎悪の塊にした」

 

意外な事に話しかけてくるダンデ。

 

ふんと鼻で笑うと。

 

全力で、クリームは周囲全域に、マジカルシャインをぶっ放していた。

 

乱戦状態だろうが関係無い。

 

巻き込まれた手駒ごと皆殺しだ。

 

チャンピオン自身も叩き潰すつもりでいたが。フェアリータイプの放つ技特有の桃色の光が収まった後には。

 

ほぼ無傷のチャンピオンと、今の一撃を受けきった数体の鋼タイプのポケモンの姿があった。

 

どれも尋常では無く鍛えられている様子だった。

 

間髪入れず、空に向けて力を放つ。

 

ダンデの手持ちで最強なのは、空を舞うトカゲの姿をしているリザードンだ。ある意味ドラゴンタイプよりドラゴンらしい姿をしたこのポケモンは、文字通り無敵不敗の象徴として、常にダンデの側にある。

 

豪雨が降り注ぎはじめたのを見て、ダンデは目を細める。

 

それにかまわず、クリームは周囲全域に二度目の全力攻撃、雷撃を叩き込んでいた。

 

雨が降っている状態の雷撃は、回避手段がない。

 

だがダンデはまるで慌てる様子が無く、避雷針になるポケモンを数体展開して、周囲への被害を減らす。

 

更にリストバンドを操作。

 

リザードンが、見る間に巨大化した。

 

キョダイマックスのリザードン。チャンピオンダンデが滅多に見せない真の切り札である。

 

凄まじい雄叫びを上げるリザードン。

 

びりびりと大地が揺れる。

 

雨の中では不利の筈なのに。

 

ダンデを完全に信頼しているのだろう。怖れる様子も無い。

 

数体のポケモンが、クリームに襲いかかってくる。それぞれの得意技を、全力で叩き込んでくる。

 

シールドの負荷が見る間に増すが。

 

触手を振るって薙ぎ払い、接近戦を挑んできていたものを文字通り消し飛ばす。

 

息があるものはモンスターボールに回収しつつ、ダンデは眉一つ動かず指示を出し続ける。

 

その冷静さ。

 

此奴も、血の雨をくぐってきた口か。

 

面白い。だったら余計に、手段など選ばずに叩き潰してやる。

 

雄叫びを上げながら、触手を振るわせる。

 

周囲全域に展開するこの技は、滅びの歌。

 

歌い続けることで、周囲全ての生命活動を強制的に停止させる。

 

元々は、巣穴に住んでいたゲンガーと呼ばれるゴーストタイプのポケモンの技で。そいつは自分だけシールドを張って滅びの歌を防ぎつつ、周囲全てを薙ぎ払うようにこの技を使ってきた。

 

勿論喰らってやった。学習した後は、同じ戦術を使うだけだ。

 

だが、次の瞬間。

 

雨で弱まっているとは思えない火球が、クリームを守っていたシールドをぶち抜く。

 

リザードンによる全力での砲撃か。

 

此処までの火力が出るとは、侮りがたい。

 

数歩下がりながらも、触手を地面に突き刺す。滅びの歌は中断してしまったが、かまうものか。

 

周囲全てを打ち砕いてくれる。

 

地面に干渉。

 

辺り一帯に、強烈な地震を引き起こす。

 

エンジンシティごとブチ砕いてくれる。ダンデが眉をひそめると、更にポケモンを繰り出す。

 

二枚目のシールドを展開すると、その攻撃を防ぎつつ。

 

中空に雷を。更にはマジカルシャインを。とどめとばかりにダイスチルを叩き込んでやる。

 

ダンデが鍛え抜いたポケモンだろうが、この連続攻撃にはひとたまりもあるまい。

 

事実、ダンデのリザードンですら、無傷ではない。

 

だが、ダンデ自身が、キョダイマックスしたリザードンの肩に乗ったまま、平然としている。

 

雨に濡れ。

 

手塩に掛けたポケモンを多数失いながらも。

 

この冷静さこそが、ダンデの強さか。

 

吠える。

 

恐怖心を煽られて、後ろを取ろうとしていた数体のポケモンが、慌てて逃げ散る。どうやら前線が瓦解したらしい。どうでもいい。

 

はっきりいってクリームは。

 

自分の命ですらどうでもいいのだ。

 

触手を振るって、飛びかかってきていたオノノクスを地面に叩き付け、肉塊に変える。強力な力を持つドラゴンポケモンの一種だが、一体では今のクリームの敵ではない。だが、その隙に躍りかかってきたダンデのリザードンに、組み付かれ、格闘戦になる。

 

リザードンに触手を突き刺す。

 

触手の先端は鋭いかぎ爪になっており。其所から直接相手の力を吸い取る事が出来る。力だけではなく、血肉もである。

 

だが、苦痛にわずかに顔を歪めただけで、リザードンは至近から全力での火球を叩き込み。

 

シールドの負荷が高まったところに、連携してダンデのポケモンが総攻撃を仕掛けて来た。

 

二枚目のシールドが砕ける。

 

呼吸を整えながら。探す。

 

ダンデ。

 

リザードンの肩にいたのを見た。

 

彼奴をブッ殺せば。

 

だが、いない。

 

振り返ると、そこにいた。いつの間にか、リザードンの肩から降り、更に数体のポケモンを展開。

 

一斉に、複数種類の攻撃を繰り出させていた。

 

三枚目のシールドを展開。

 

流石に驚愕したようだ。クリームも散々巣の主であるポケモンを殺して喰らってきたが、どんなに強くても二枚目までしかシールドを展開出来なかった。三枚目のシールドを展開するポケモンは初めて見たのだろう。

 

しかし驚愕すれど動じる様子が無い。

 

触手を一本、大型に組み付かれ、引きちぎられる。

 

リザードンを振り払い、地面に叩き付けると、至近距離から。触手を丸めて巨大なこぶしにし、叩き込む。

 

周囲の地盤が砕ける。

 

更に雷撃を叩き込んでやる。雨が激しさを増す中、クリームにも強烈な雷撃が来るが、知った事か。

 

だが、その拳をリザードンが押し返してくる。

 

これほどまでか。流石にクリームの想定を超えていた。踏み込むと、顔面に頭突きを叩き込んでやる。

 

不意の一撃に、リザードンが蹈鞴を踏んで下がるが。

 

その瞬間、真後ろに回り込んでいた数体のダンデのポケモン達が、一斉に攻撃。

 

三枚目のシールドが、爆ぜ割れた。

 

「今だ、一斉に懸かれ!」

 

全身に食いつかれる。

 

流石に四枚目のシールドを張る力はない。キョダイマックスした状態だと、衝撃に強い構造に体を作り替えているが。それはむしろ遠距離からの攻撃であって、至近に組み付かれると意外に脆い。

 

全身に激痛が走る中、まだ立ち上がろうとするリザードンは無視。

 

触手がまた一本食い千切られ。

 

更には、捨て身で敵の一体が放った雷撃が直撃し、全身を蹂躙する中。

 

ダンデに手を向ける。

 

クリーム、お前の手は魔法の手だな。俺のケーキに合わせて最高のクリームを作ってくれる。醜いと家族にも廻りの誰にも馬鹿にされ続けた俺のケーキをみんなに届けて、俺には出来なかったみんなの笑顔を作る事をやってのけてくれる。クリーム、お前は俺の誇りだ。大好きだよクリーム。

 

不意に、主の声がよぎる。

 

ダンデは、怖れる事もなく此方を見ている。

 

どうしてか、クリームを哀れんでいるようだった。だが、知るか。今、ダンデの周囲にポケモンはいない。全力で、マジカルシャインをぶち込んでやる。そうなれば、人間である以上、助かるものか。

 

ぶっ放す。

 

だが、割り込んできたリザードンが、その直撃を受け止める。

 

おのれ。叫び、更に一撃を撃とうとするが、其所が限界だった。

 

反撃に放ってきたリザードンの火球が、体を直撃。同時に、ダンデのポケモン達が跳び離れる。

 

完璧な連携。

 

キョダイマックスが解ける。マホイップの小さな姿へと体が戻っていく。

 

豪雨の中。必死に立ち上がろうとして見る。

 

逃げ散る群れ。

 

それでいい。人間への憎悪を植え付けたポケモンが、このガラル中に散れば。このガラルは常にポケモンに怯え続ける事になる。それこそがクリームの真の狙い。自身の復讐。主が死んだとき、クリームの心も死んだ。命なんて、最初からどうでも良かった。

 

力尽き、泥だらけの地面に突っ伏す。

 

急速に、体から熱が失われていくのが分かった。

 

ダンデが見下ろしている。

 

「殺せ……」

 

言葉が伝わったかは分からない。

 

だが、そこでクリームは気絶していた。

 

 

 

「逃がすんじゃないよ。 一匹残さず捕らえな!」

 

逃げ始めたポケモンを見て、ポプラがギャロップの上で指示を飛ばす。攻勢に転じた新手のレンジャーとマクロコスモスの戦闘部隊が散り、追撃戦に移る。バラバラに逃げ散る事が却って徒となり、広域攻撃で容赦なく敵の残存戦力は仕留められていった。

 

ダンデの周囲はまるで地獄だ。

 

カブは呼吸を整えながら、今撃ち倒したサザンドラをモンスターボールに収める。そしてマルヤクデも。限界だ。これ以上戦わせたら死んでしまう。手持ちのポケモンは、殆ど全員が限界状態だった。

 

キバナは追撃部隊に加わり、主に大物を狩っている様子だ。メロンは敵の航空部隊を撃墜した後は、避難誘導を再開している。

 

勝った。後は、周囲の惨状。それに街の被害の回復。いずれも一年では終わらないだろう。

 

死闘を生き延びたレンジャーの長が来る。

 

「死者は百名を超えました。 レンジャーだけでも四十人以上。 最初に突出したトレーナー達は、殆ど全滅です」

 

「まさかトレーナーに直接攻撃を仕掛けてくるポケモンがいるとは、思っていなかったようだね。 競技だけしか経験していないポケモンも、血の臭いを直接嗅ぐとどうしても動きが鈍くなっていたようだったよ」

 

「……人員の補充をマクロコスモスに打診します。 トレーナーから有志を集って、レンジャーの人員規模を拡張しないとなりません。 同じような事件を起こさないためにも、もっとワイルドエリアの管理をしっかりしないと」

 

「そうしてください。 頼みますよ」

 

敬礼をかわす。戦闘が終わって、カブも口調が穏やかなものに戻っていた。

 

後は医療チームが、回復の技術を持つポケモンと協力し、助けられる者を助けていく。ポケモンが神秘の力で起こした雨は止み。辺りはぬかるみと、屍の山と。そして血の海へと変わっていった。

 

カブは思う。

 

これは、ワイルドエリアでの修行を今後必須科目として取り入れるべきでは無いか、と。

 

どんなトレーナーも、チャンピオンリーグに一度は参加する。廃人と呼ばれる者達も、である。

 

彼らも、ワイルドエリアで野生のポケモンの恐ろしさを学習する必要があるだろう。

 

そして、あの首領だったらしいマホイップ。

 

凄まじい人間への憎悪で、目を狂気に染めていた。

 

元々、人間は友好的なポケモンに優しく接してきたわけでは無い。困った相手を助けることで知られるデリバードは、弱いという理由で人間に散々痛めつけられてきた。大人しい鳥ポケモンであるカモネギは、美味しいという理由で絶滅寸前に追い込まれている地方もある。優しいポケモンとして知られるラッキーは、今では人間を見ると逃げ出す。

 

あのマホイップに何があったのかは分からない。トレーナーに虐待されたのだろうか。それとも。

 

頭を振ると、救助活動を続行する。

 

ポプラが来たので、損害について話をしていると。ダンデも来た。

 

気を失った例のマホイップに、特別製の手錠を掛けて、台車で運んでいた。ダンデのリザードンと言えば、カブも対戦したことがあるが、尋常では無い強さを持つガラル最強のポケモンの一角。そのリザードンが、手酷く傷ついていた。

 

「まだ生きているようだね」

 

「俺はポケモンを殺しませんよ。 ただ、モンスターボールに入れようとしましたが、どうしても出来ませんでした。 意識を失っている上、無力化してありますが。 対応はどうしましょうか」

 

ダンデは年上のトレーナーには対応が丁寧だ。

 

ポプラが鷹揚に顎をしゃくった。

 

「アタシが引き取るよ。 これでもガラル一のフェアリータイプの専門家だ。 とはいっても、その子をフェアリータイプと呼んで良いのかはもう分からないけれどね」

 

「お願いします」

 

ダンデはポプラに気を失ったマホイップを引き継ぐ。

 

ポプラは、鉄と毒を仕込んだ手錠と拘束具でマホイップを縛り上げると、護送するようにして引き揚げて行った。

 

帽子を下げるダンデ。

 

「俺が手塩に掛けたポケモンが十二人も殺されました。 中には俺と一緒に最初のチャンピオンリーグを戦い抜いたポケモンもいました」

 

「それでもあのマホイップを殺さなかったんだね」

 

「……あの目は、見た事があります。 大事な何かを奪われた目です。 そしてそれを奪ったのは人間でしょう。 あくまで推察ですが、あのポケモンは、きっと誰かのポケモンで、主に何かあったのでしょう。 それこそ、主が人間社会から迫害されるような、大きな出来事が」

 

「ガラルは平穏になったが、それは君やローズ委員長が台頭してからだ。 昔は、そんな出来事はいくらでもあったよ」

 

ダンデは帽子を下げたままだ。

 

きっと失ったポケモン達に哀悼の意を捧げているのだろう。

 

それでもダンデはあのマホイップを殺さなかった。

 

チャンピオンの行動には頭が下がる思いだ。だが、同時に、この惨状を引き起こしたあのマホイップを、許すわけにも行かなかった。

 

ヘリが来る。どうやらお出ましだ。

 

ガラルの現状のトップ。産業複合体マクロコスモスのトップ、ローズ。そしてその秘書であるオリーヴ。

 

腹が出た脳天気なおじさんといった風情のローズは、いつも笑顔を絶やさない好人物で。側にいる冷たい美貌の女性オリーヴとはあらゆる全てが正反対だ。だがそのローズさえ、この惨状には眉をひそめた。

 

「マクロコスモスからの応援部隊が間に合ったようで何よりです。 負傷者の手当と、それに被害者の葬儀費用など。 それにエンジンシティの復興に関しては、マクロコスモスが最大限の助力をしましょう」

 

「ありがとうございます」

 

「オリーヴくん、今の内容をすぐに告知して、手配を。 後は、ダンデ君。 直接戦った君から……桁外れの個体だったというマホイップについて、聞かせてほしい。 つらいと思うが頼むよ」

 

「分かりました」

 

てきぱきと手配をしていく。この辺り、鉱山労働者から成り上がったというたたき上げの事はある。

 

カブも、手持ちのポケモンを無事だったポケモンセンターに預けると、ジムに戻り、事後処理に入った。

 

何とかエンジンシティを守る事は出来た。

 

だが、犠牲が大きい。決して誇ることは出来ない勝利だった。

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