ポケットモンスター剣盾二次創作シリーズ 作:dwwyakata@2024
多数の犠牲者を出し、その中には直接の仇と言える存在もいたのですが、もはやクリームにはどうでもいいことでした。
復讐を完遂できなかった。
ただそれだけの結果があったのです。
意識が戻る。
どうやら壁に磔にされ鉄製の枷を嵌められ。更には常時毒を投入されているようだ。
幾ら強靱になっても、これではどうにもならない。
殺されなかったか。そして人間共は、徹底的にクリームを辱めるつもりというわけだ。
薄く笑う。
別にそれでもかまわない。存分に殺してやった。殺した中には、主を徹底的に馬鹿にしたあのバイトの女もいた。どうやらバイトを辞めた後廃人勢になっていたらしく、見覚えがあった。
正直、仇は討てた。それだけで充分だ。
此処はどうも地下らしく、フェアリータイプにはとことん不利だ。更には見張りのカメラと、銃座が設置されている。仮に枷を外せても、即座に殺せると言う事だろう。もういい。好きなようにすると良い。クリームが許せなかったのは、主の尊厳が徹底的に陵辱され奪われたこと。
クリーム自身がどうなろうと、どうでも良かった。
誰かが来る。
通路の向こうから来たのは、見覚えがある。ポプラとか言うジムリーダーだ。側に数体の護衛らしいポケモンを連れている。いずれもがフェアリータイプだった。
怯えた声を上げたのはポニータか。悪意に敏感なポケモンだ。それは、クリームのことは怖くて仕方が無いだろう。
うっすらと笑ってみせると。ポプラはしらけた目で言う。
「戦闘の一部始終は見せてもらったが、凄まじい強さだね。 大したものだよ。 その強さ、トレーナーと築き上げたものかい? それともあんたが自力で身につけたのかい?」
「お前達と話す事なんてない」
「ふむ、どうやら関係修復は無理か。 多分これはダンデの坊やにも手に負えないね」
何となく言っている事は理解出来るのか、ポプラは此方を観察する。
此奴がフェアリータイプを専門としていることは知っているが。
飼い慣らせると思うな。
枷から解き放たれ次第、八つ裂きにしてやる。周囲にまた血の雨を降らせてやる。
クリームの主は後にも先にも、一人だけだ。
「その憎悪、何とかするには相当な時間が必要だろうね。 それに、扱うにしても、英雄と呼ばれるようなトレーナーでないとだめだ。 ダンデの坊やでも無理だとすると……その次の世代に賭けるしか無いかも知れないねえ」
「……」
「しばらくは其所で頭を冷やしな。 もしもあんたとやって行けそうな子が出てきたら、連れてくるよ。 そうだね、少なくともダンデの坊やの無敵伝説を破れるくらいのトレーナーが最低でも必要だろうけれども。 まあアタシが生きている間にはどうにか見つけるさ」
ポプラは言うだけ言うと去って行く。
そして沈黙だけが残った。
じっとそのいなくなった後をにらみつけた後。
力を抜く。
主の事を思い出す。
ケーキを作るのが大好きだった。だけれども、人間はその見かけが気持ち悪いと言う理由から迫害した。家族だってそうだ。誰一人主を愛さなかった。主の作るケーキは美味しかった。全て独学だったが、間違いなく一流のケーキだった。クリームにも分かる程、強い愛情が籠もっていた。
親が死んでから、主はケーキ屋を引き継いだけれど。主が気持ち悪いとかで、客が来なかった。
そこでクリームが、代わりにケーキを配膳することを提案。
そうしたら上手く行った。
そして主は、いつも楽しそうにしていた。自分が作ったケーキが、誰かを笑顔にするのが嬉しくて仕方が無いようだった。自分を迫害した相手なのに。それでも主は恨んでいなかった。
優しい主。
そんな主が大好きだった。だからこそ、絶対に許せなかった。
もう涙は涸れ果てた。体も満足に動かせない状態だ。だからどうにもならない。栄養は、どうやら毒と一緒に注入されているらしい。動けないまま、此処でじっと罰を受け続けろとでもいうのだろう。人間らしいやり方だ。一度も親にさえ人間扱いされなかった主とはやはり根本的に違う。
店長。
そう渾名を付けられたことも。
今思えば主への侮辱だった。
やっぱり人間を許すことは出来ない。
ポプラがどんな人間を連れてくるつもりかは知らないが、いずれにしてもその時が好機だ。
そいつをブッ殺して、今度こそガラルを終わらせてやる。
ダンデの戦力は把握した。今度戦う時には負けない。
勿論相手も力を増しているだろうが、此方は対策を練って行くだけのことだ。
目をつぶる。
同じ手は二度は通じない。それは分かっている。
だから、次は別の手で行く。
あの状況、逃げ延びられた「憎悪の種」は多くは無いだろう。だが、少しは根付いたはず。
好機を見て此処から脱した後は。
その種を育てて、今度こそ破滅を導いてやる。
薄暗い中。
静かにクリームという名前を主から貰ったマホイップは嗤う。
もう、マホイップでは無く悪魔かも知れないが。
その悪魔を育て上げたのは。
間違いなく人間なのだ。
(終)
復讐と殺戮の物語は一度幕を閉じます。
次の物語が始まるのは数年後。
ガラルに新しいチャンプが登場した、その後となります。