ポケットモンスター剣盾二次創作シリーズ   作:dwwyakata@2024

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第一話にて、ガラル地方での壮絶な暗闘を繰り広げたマホイップ。激戦に敗れて、数年の後。

復讐を失敗し捕らわれたマホイップの元を、ポケモンソード&シールドの本編主人公ユウリが訪れます。
十年の王座を守りきったアイコニックヒーローダンデから、王者のバトンを託された天才と。
人間との戦いを選択した血塗られた妖精が出会います。


照る光
序、赤いマホイップ


ユウリは言われるまま、フェアリージムの地下に向かう。フェアリータイプポケモンの権威として名高いポプラさんは、今は引退こそしているが。それでも此処ガラル地方アラベスクタウンの名士であり、有力者でもある。

 

激戦の末、ユウリが無敵を貫いていたダンデさんを倒したのはしばし前。

 

ガラルの誇りとまで言われていた無敵のチャンプ。

 

10歳でチャンピオンになり、以降無敵だったダンデを倒したのは、その隣に住んでいる家の子ユウリだった。ユウリの師匠がそもそもダンデさんで。弟子が師匠を超えた事にもなる。そしてチャンピオンを倒したユウリは、もうすぐ11歳になる。これもまた、伝説の継承と言えるのかも知れない。まだ背が伸びきっていない銀髪碧眼の女の子が、無敵のチャンピオンを打倒した。

 

出来すぎている話だが。

 

ユウリ自身はそもそもダンデさんに憧れて育ち。そしてダンデさんがいるのが当たり前の生活だったので。あまり自覚はまだ無い。

 

ただ無敵のチャンピオンを破り。

 

今は自分がチャンピオンで。

 

来年には迎撃戦を行わなければならないし。更に言えば迎撃戦には同年代の手強いライバルがたくさん来る事を考えると、のんびりだらだらはしていられなかった。

 

ダンデお兄ちゃん、いや元チャンピオンに言われたのだ。

 

他の地方には悪い奴がたくさんいる。

 

何故かというと、ヒーローと呼べる存在がいなかったから。

 

シンボルになり得る英雄が存在しなかったから。

 

この地方にいた悪は俺が倒した。10歳の頃の話だ。

 

だが、それでも、油断すればいつでも悪はガラルに戻ってくる。だから、お前はヒーローとして皆の見本になるんだ。

 

そう言われたユウリは尊敬していたダンデさんの言葉に頷くと。

 

強くなるべく連日ワイルドエリアで、強力なポケモンとの戦いを続けて自らを鍛え抜いていた。

 

そして声を掛けられたのだ。

 

薄暗い地下に移動していく。ユウリは基本ポケモンを連れ歩かないが。ポプラさんは普段から子馬のような姿をしたポケモン、ポニータを連れ歩いている。

 

最初は足が悪くて補助なのかと思ったけれど、腰が曲がっていてもポプラさんは歩くのに苦労している様子が無い。

 

最近は、悪意を察知するためなのだと理解した。

 

「ここから先へは、ビートも入れていない」

 

「ビート君は跡継ぎでしたよね。 どうしてまた」

 

「前チャンピオンでも制御出来なかった怪物がいるんでね」

 

「……」

 

ダンデさんが制御出来なかった。にわかには信じられない。

 

ダンデさんと戦う直前だが、ガラルでは伝説のポケモンが復活した。古代に伝承が残る悪夢の夜、ブラックナイトを引き起こしたと言われる魔竜ムゲンダイナである。ダンデさんは一度はそのムゲンダイナを実力で降したのだ。地方全域を滅ぼしかけたと言われている伝承の魔竜をである。

 

伝説では、二人の英雄がこのムゲンダイナを倒したとされていて。

 

実際には、その二人の英雄と二匹の伝説のポケモンがムゲンダイナを倒した事が色々あって分かった。

 

そしてユウリの手元には「剣」を司る伝説のポケモンがいる。

 

ダンデさんの弟であり、お隣さんの幼なじみホップは。その時の経緯で「盾」を司る伝説のポケモンを持っている。

 

この「剣」と「盾」と連携して魔竜ムゲンダイナを倒したのだが。

 

逆に言えば、ユウリではそれが限界だった。

 

更に言えば、ダンデさんになんで勝てたのかも今でもあまりよく分からない。激戦の末に、気がつくと勝っていた、という印象だったのだ。

 

だから強くならなければならない。

 

伝説に頼らなくても、英雄になるために。

 

苛烈な訓練を続けていると聞いて、ポプラさんは何か思うところがあったのかも知れない。

 

長い通路に出た。

 

ふと見ると、露骨にポニータが怯えている。悪意に敏感なポニータがこんなに怯えているのを初めて見た。

 

ポプラさんが余程良く仕込んでいるのだろう。

 

だから逃げないのだろうけれども。

 

それにしてもこの恐れ方は異常だ。

 

「数年前、エンジンシティで起きた事件を知っているかい?」

 

「いいえ、何かあったんですか」

 

「1000体を超えるポケモンが、群れになってエンジンシティを襲撃したのさ。 死者は百人を超える大惨事になった」

 

「!」

 

そんな事件があったのか。

 

まだユウリはその時小さかった。だから分からなかったのだろう。

 

ポケモントレーナーになるためには勉強が必要だ。当然ポケモンの歴史については習う。

 

昔はポケモンで戦争をするのが当たり前だったと歴史でならったし。そもそも「地方」ではなく「国」が存在していた頃は、それぞれの「国」で多くのポケモンを殺し合いのために育てていたとも聞いている。

 

人間を遙かに超える力を持つポケモンもいる。

 

規格外の強さを持つ人間もいるこの世界だけれども。そもそも、天候を自由自在に操るようなポケモンも存在しているのだ。人間は過酷な世界に適応して強くなって行ったのでは無いかと言う話もある。

 

昔はガラルでも、村が一つサザンドラに潰されたり。戦争をしている軍隊がギャラドスに襲われて全滅したりという事件があったらしい。

 

今は保護区であるワイルドエリアにはたくさんのレンジャーがいて、不測の事態が起きないように見張りをしているし。

 

それぞれの街や村でも、ポケモンは生活の一部になるほど人々と溶け込んでいるが。

 

それでも習う。

 

悪意を持って人間を殺そうとするポケモンもいる。単純に獰猛なものも危険だが、ゴーストタイプのポケモンは可愛いものほど気を付けろというのは必須知識だ。事実、ユウリも何体かゴーストタイプを育てたが。いずれも癖が強く、一瞬も油断は出来ない相手ばかりだった。

 

本当にそうなのかは分からないが。ゴーストタイプは人間の悪霊がポケモンになったもので、隙あれば人間を仲間にしようとしている。その説明が本当では無いかと思えた事も、何度もあった。

 

それ以上の悪意を持っているポケモンがいても、何ら不思議ではないだろう。

 

「この奥にいるのは、その事件を起こしたポケモンだ。 元チャンピオンが手塩に掛けたポケモンを十二体も殺した怪物の中の怪物さ」

 

「……」

 

「どうだい、みてみるかい?」

 

「はい。 お願いします」

 

圧倒的な実力を誇るムゲンダイナを単独で鎮めた元チャンピオンだ。そんなダンデさんの手持ちを十二体も。

 

凄まじい戦いだったことは想像がつく。

 

そして、どうしてフェアリージムにそんな存在が幽閉されているのかも興味がある。恐らくフェアリータイプのポケモンだからなのだろうが。

 

長い通路。

 

監視カメラに、あれは銃座か。

 

所々に、ガスの発生装置らしいものまである。これは隔壁だろうか。

 

こんな映画に出てくるような場所があるなんて。

 

「ポプラさん、此処は、そのポケモンを幽閉するために作ったんですか?」

 

「いいや、此処は昔政治犯を幽閉するために使っていた場所さ。 もう現在には存在しない言葉だけれどね」

 

「セイジハン……」

 

「ともかく、昔は今では罪にならないことが罪になって、とても重い罰が降されることがあったのさ。 其所を利用した、それだけだよ」

 

まもなく、T字路が見えてきた。

 

道を右に曲がる。酷い臭いがして、周囲には汚水も流れていた。

 

鼠はいないけれど、これはゴキブリくらいはいそうだ。

 

ポニータが足を完全に止めた。気の毒なくらいに震え上がっている。

 

ポプラさんはため息をつくと、ポニータをモンスターボールに戻す。ポケモンを格納し休ませることが出来る掌大のモンスターボールは、トレーナーには必須の道具だ。もう現役のジムリーダーでは無いし、ポケモンの多くを後進であるビート君に譲ったポプラさんでも。

 

トレーナーとしては、まだまだ現役、と言う事だ。

 

やがて、異様な気配がユウリにも分かってきた。

 

此処は危ない、というのか。そういう事柄がワイルドエリアに入り始める頃から、体で分かるようになってきた。

 

相棒の、ウサギのような姿をした炎のポケモンエースバーンと。凶暴なことで知られる巨大な亀のポケモンカジリガメ。この二匹を主力に勝ち抜いてきたユウリだが。ワイルドエリアには場違いに強大なポケモンが多数住み着いていて。旅に出たばかりの頃は、とてもではないけれど手に負えない事も多かった。

 

ぼこぼこにされて敗走したことだってある。

 

ポケモンは人を殺すこともある。

 

それを身を以て知った。逃げなければ確実に殺されていた。

 

そして、そんなやばい気配の最上級が、通路の奥から漂ってきている。

 

ダンデさんと戦う前後くらいからは、気配を読むことも出来るようになって来ていた。相手の強さもだいたい分かるようになっていた。

 

これは、流石に全力状態のムゲンダイナほどではないにしても、桁外れにも程がある。

 

生唾を飲み込む。

 

ポニータが怯えきって動けなくなるのも当然だと言えた。

 

「やめておくかい?」

 

「いえ……行きます」

 

「警告はしておくよ。 とにかく、絶対に油断だけはするんじゃないよ」

 

「分かっています」

 

ユウリも、世の中は綺麗なことだけじゃないことは見た。

 

旅の間に仲良くなったマリィちゃんというライバルがいたが。彼女の故郷は開発から立ち後れ、ダイマックスエネルギーの恩恵も受けられず。とても貧しく荒んでいた。

 

ダイマックスエネルギーを管理しているマクロコスモス社がある程度支援はしていたが。

 

それでも、彼処に住んでいる人達が足を踏み外していたら。

 

余所の地方にいるような、ポケモンを使って反社会的な行動を行う、とても悪い人達に落ちてしまっていたのかも知れない。

 

シュートシティやエンジンシティはとても綺麗で発展していたけれど。

 

裏路地を覗くと、昼間からお酒を飲んでいるおじさんが、地面に寝転がっていたり。

 

何か分からない死んだポケモンを、ドブネズミが喰い漁ったりしていた。

 

生まれ育ったハロンタウンは田舎と言う事もあって、とても牧歌的で穏やかで。みんな知っている人ばかりで。こんな闇があるなんて、都会に出るまで知らなかった。

 

他の地方のトレーナーには、反社会的組織と渡り合うような、修羅場をくぐる人もいると後から聞いた。

 

幾つも有名な悪い組織は存在していて。

 

ロケット団やフレア団は。国際警察でさえ迂闊に手を出せないと聞いている。

 

ダンデさんだって、そういった悪の組織と戦ったという噂がある。

 

本人とはあまり話した事がないけれど。

 

話したくないような事を、何度も経験したのかも知れない。

 

今更、聞こうとは思わなかった。

 

踏み出す。

 

そして、一番奥。牢屋が並んでいる最深部に。

 

特に大きな銃が、幾つも牢屋に向けられている。監視用のカメラも。それだけではなく、何かの機械と一体化したロトムも待機していた。

 

起こした事件の規模を考えれば当然の警備なのだろう。

 

牢屋の中には、いた。

 

マホイップだ。

 

マホイップはミルククラウンのような姿をしたマホミルから進化するポケモンで、主に特殊な加工をした飴などの糖分を与える事でこの姿になる。人型をしたホイップクリームのような姿のマホイップはとても愛らしいことから、同年代の女の子の間では、とても人気があった事をユウリも覚えている。

 

飴細工によってマホイップは色々な姿になり、茶色だったり緑だったり白かったりするけれど。

 

このマホイップは。

 

全身が、血のような痛々しい赤だ。

 

死体から流れ出る、ドス黒い赤い血は何度も見た。

 

身を守るために、相手を殺さなければならない事もあった。ワイルドエリアに棲息する獰猛なポケモンが相手の場合は、特にだ。力がついてくればそうでなくなる事もあるけれど。

 

力が弱い内は、どうあっても無理だった。

 

俯いているマホイップの全身は、おぞましいまでの赤。

 

壁に貼り付けにされていて。手は鉄が嵌められている。鉄にはチューブがつけられていて。何種類かの薬品を点滴されている様子だ。

 

「おきな。 客だよ」

 

ポプラさんが声を掛けると。

 

鬱陶しそうに、唸り声がした。

 

マホイップは人間にとても友好的なポケモンで、ホイップクリームを産み出す能力もあって、ケーキ屋さんや喫茶店で働いている事も多い。殆どの場合は愛くるしい笑顔を浮かべていて、いるだけで空気が和むものだ。

 

だけれど、今此処に幽閉されているマホイップは。

 

正に殺意の塊だった。

 

ユウリは言葉を無くして、見ているしか無い。

 

やがて、顔を上げるマホイップ。

 

その目は、まるで深淵そのもの。

 

悪意はユウリも見た。

 

殺そうと襲いかかってくるポケモンもそうだし。たまに都会では、人を騙そうとする悪い人にも会った。

 

そういう相手は、目の奥にぎらついた悪意を隠していた。

 

だが、このマホイップは桁が違う。

 

一体何があったのか。

 

「元チャンピオンのポケモンを十二体も殺すようなバケモノだ。 フェアリータイプの苦手な鉄で拘束し、同じく苦手な毒を常時注入する。 それくらいじゃないと、とてもではないけれど安全は確保出来なくてね」

 

「……この子が、エンジンシティを襲った首謀者なんですね」

 

「ああ」

 

にやりと、マホイップが嗤う。

 

屈託無い笑顔を浮かべることで印象深い、今まで見てきたマホイップ達とはまるきり別物だ。

 

「戦闘の経緯をアタシも見たけれど、先手先手を取っていく教本のような戦い方をする狡猾極まりない頭脳も持ち合わせていてね。 生半可なトレーナーより賢いよこのマホイップは。 知能が高いポケモンはエスパータイプにもいるけれど、知恵比べをやらせたら結果は分からないね」

 

「ポプラさんに其所まで言わせるほどですか」

 

「……それでどうする新チャンピオン。 伝説のポケモンを二体も従えているあんただからこそ此処に呼んだんだがね。 恐らくあんたの時代は十数年は続くはずだ。 前チャンピオンがそうだったようにね。 そして恐らくガラル史上最強のトレーナーであるあんた以外に、この子を渡せる相手はいない」

 

「もし、私が断ったら、どうするつもりなんですか」

 

安楽死させると、ポプラさんは静かに言った。

 

そうだろう。

 

本来人だったら殺されている。地方によっては死刑という形で。別の地方だったら、死ぬまで牢屋から出ることは出来ないだろう。

 

ダンデさんはポケモンを殺さない。

 

だから、このマホイップも殺さなかった。

 

手持ちの、恐らくは一緒に旅をしてきただろうポケモン達を、十二体も殺されたというのに。

 

しばし考え込んでから。

 

ユウリは頷いていた。

 

「分かりました。 この子の身請けをさせていただきます」

 

「そうかい。 頼むよ」

 

「多分普通のモンスターボールでは駄目ですね」

 

ユウリが取りだしたのはマスターボールである。

 

モンスターボールには何種類もあるのだが、その中でも特に貴重で、非常に強力なことで知られるのがこのマスターボールだ。

 

野生のポケモンを捕獲する場合、ある程度弱らせてからモンスターボールに閉じ込める。それによって、モンスターボールにポケモンをヒモ付かせ。それを固定する事によって、ポケモンはトレーナーの持ち物になる。

 

くわしい原理についてはもう少し細かいのだが。

 

いずれにしても、マスターボールはその「ヒモ付かせる」能力において最強最大の代物であり。滅多に手に入らない貴重品である。

 

他にも貴重なモンスターボールは存在しているが。

 

「確実にポケモンを捕獲できる」という点においては。

 

このマスターボールが最高の品だろう。

 

「拘束を外してください」

 

「その前にあんたのエース級を展開しな。 弱っていてもこのマホイップの戦闘力は、伝説級に迫るよ」

 

「……分かりました」

 

では、その伝説のポケモン、ザシアンを展開する。

 

巨大な犬のような姿をした伝説の「剣」。もう一体のムゲンダイナは、此処では狭すぎて出せない。

 

犬と言っても、圧倒的な風格を持つザシアンは。常に剣を咥えており、左耳が何かに斬られたように欠けている。

 

ユウリに従ってくれていると言うよりも。ユウリを見張っている印象で。それはムゲンダイナも同じだった。

 

ザシアンは古き時代に、ムゲンダイナを倒した後、色々あったことがほぼ確実で。或いは人間を信用していないのかも知れない。今も、ユウリの言う事には黙々と従ってはくれるし、ポケモンとの戦闘では相手を問答無用で叩き伏せてはくれるが。ユウリ自身も、「従えている」とは思っていなかった。

 

更に、エースバーンとカジリガメを展開する。

 

どちらもユウリの両翼になって、数々の戦いを勝ち抜いてきた猛者だ。

 

ダンデさんに最初に貰ったヒバニーが、二段階の進化の末に変化したエースバーンは。今はウサギと精悍なサッカー少年を足したような姿になっている。カジリガメは獰猛な事で知られ、最初は隙さえあれば腕を食い千切ってやろうと構えていたが。歴戦を重ねる内に、やっと心を許してくれた。

 

その二体も、非常に危険な相手の前にいる事は即座に悟ったらしい。すぐに戦闘態勢に入る。

 

ポプラさんが、カメラに向かって言う。

 

「拘束解除。 ただしアタシらがやられたら、即座に致死ガスを流し込みな」

 

「わ、分かりました」

 

カメラの向こうのトレーナーが、少し上擦った声で言う。

 

そして、マホイップを拘束していた鉄枷が、鈍い音と共に外れた。注射針も引き抜かれた様子だ。

 

マホイップはしらけた様子で、その場に立ち尽くしている。

 

ユウリは、マホイップに、マスターボールを投げていた。

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