ポケットモンスター剣盾二次創作シリーズ   作:dwwyakata@2024

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2、仕事をしながら

街中で見かけるポケモンは、基本的にトレーナーに余程なついているか、もしくは仕事を直接手伝っているものに限られる。

 

献身的な仕事ぶりで知られるイエッサンは、多くの店で働いているし。

 

大きな馬のポケモンであるバンバドロは、大荷物を引いていることが珍しくもない。

 

空を見ればアーマーガアの空輸タクシーがいる。エンジンシティでは、名物になっている大きな岩で出来たような蛇のポケモンのイワークがいて。時々幼い子供を頭に乗せてあげたりもしていた。

 

ワイルドエリアでの仕事が終わったので、ユウリはそんなポケモン達を横目に、エンジンシティのホテルに向かう。

 

ここエンジンシティのジムリーダーはカブさんというのだが。カブさんは手強かった。

 

ジムリーダーに挑戦して、一定の課題をこなすとバッヂが貰える。このバッヂを揃えると、チャンピオンに挑戦する資格が得られる。この過程が厳しい。加減してくれるとはいえ、ジムリーダーとの模擬戦も含まれるからだ。

 

なおジムリーダーはそのまま無条件でチャンピオンに年一回挑戦できる。

 

このため、最初からジムリーダーを目指すトレーナーもいるようだ。

 

カブさんは挑戦者殺しのジムリーダーとして知られていて。

 

事実、チャンピオンを目指していると思われる同年代のトレーナー達が。エンジンシティでごっそり脱落した。懐かしいなと思う。周囲には泣いている人もいて、それは何も子供とは限らなかった。

 

ホテルでスマホロトムを使って、各所に連絡。

 

チャンピオンになってから、仕事をするようになったが。その中には、荒事が珍しくもない。

 

もうすぐ11歳で仕事をしていることについては問題はない。何処の地方でも、現在は10歳になったら大人として扱われる。昔は20歳から大人だったらしいけれど。

 

今は色々な仕組みが整備されて。子供でも社会の一線に立てるようになったそうだ。

 

ダンデさんが10歳でチャンピオンになれたのもこの仕組みのおかげだけれども。

 

あんまり気が早い人生を送って、後悔する人もいると聞いている。

 

今回のお仕事で入った収入の幾らかを家に送るけれど、それでもありあまっている。

 

今ダンデさんは、大きな事業に着手しているけれど。

 

荒事の難易度が段違いな分。

 

チャンピオンの収入は大きいのだ。

 

今のダンデさんが、チャンピオン時代より収入が大きいかは、はっきりいってよく分からない。

 

食事を終えて、シャワーを浴びた後。ザシアンとクリームを出す。ホテルの室内でポケモンを出す事は別に禁止されていない。クリームは周囲を見回して目を細める。ザシアンはすっと背を伸ばして、いつもの丸まっている状態とは別の警戒態勢に即座に入った。

 

「少しずつ話を聞きたいと思っているんだけれど、いいかな」

 

「……」

 

クリームに、紙とペンを渡す。使い方は分かっている様子だ。

 

ザシアンを出したのは、クリームが危険な事をユウリも良く理解しているから。流石に二人っきりになるほど命知らずでは無い。

 

無防備なことと相手に対して寛容なことは違う。

 

悪い大人を見て来て、ユウリもそれはよく分かっていた。それに、ポケモンを可愛いだけの存在だと思っていた頃には、色々痛い目にもあった。

 

ユウリの実家にはゴンベというポケモンと、スボミーというポケモンがいるが。

 

実家にいるくらい慣れた子達と、野生のポケモンは全く違う。

 

だから、きちんと備えをしておくのは、当たり前の事だった。

 

「貴方がどうしてエンジンシティを襲ったのか、理由を教えて」

 

「お断りだ」

 

「そっか。 ちょっとそれは急すぎたかな」

 

分かる。今でも、クリームはユウリを隙さえあらば殺そうとしている。

 

そしてこの子は野に放たれれば、またワイルドエリアで力を蓄え。前以上の戦力規模で人間に挑むだろう。

 

意見を誰かに求めたら、此処まで危険なポケモンは殺すしかないと高確率で言われるはずだ。

 

だが、どうもクリームを見ていると、何か理由があったとしか思えないのである。

 

最低でも、その理由はしっかり見極めたかった。

 

「誰かのポケモンだったの?」

 

「どうしてそう思う」

 

「んー、何となくかな。 私も野生のポケモン、トレーナーに鍛えられたポケモン、どちらとも戦って来たから。 何となく分かるんだよね」

 

うっすらと嗤うクリーム。

 

この笑みだけで、普通の子供は泣くかも知れない。

 

優しい屈託がない笑みを浮かべる事が多いマホイップが、どうして此処まで闇落ちしてしまったのか。

 

勿論個体によって性格差はあるだろう。

 

だけれども、それにしてもいくら何でもこの子は異質すぎる。

 

「トレーナーのせい、ではないね。 トレーナーに何かあった?」

 

「その推理の根拠は」

 

「んー。 私が貴方を見極めようとしているのと同じで、貴方も私を見極めようとしているのが分かるから、かな。 実際無理をすれば私を殺す事は今までに出来たはずだし」

 

始めて少しだけクリームが驚いたようだった。

 

気付いていないと思ったのか。

 

此方も備えはしていた。殺気の類があれば分かる。これでも修羅場を散々くぐっていないのだ。

 

「貴方はトレーナーとしての私を見極めようとしているようだけれども、具体的にどうしたいの?」

 

「殺すときの参考に」

 

「うーん、そうかあ。 でも、殺されてはあげないよ」

 

「だったら私を殺したらどうだ」

 

流石に眉根を下げる。

 

クリームは見ていて分かったのだが、自分の命も何とも思っていない。多分戦いに負けた後、殺される事を最初から想定していたのだろうし。そして今まで幽閉されている間も。殺される覚悟が決まっていたから、何とも思わなかったのだ。

 

分厚い壁がある。

 

それは、ユウリにも分かった。

 

「もう少し話し合いが必要だね。 じゃ、ボールに戻って」

 

「……」

 

マスターボールにクリームを戻すと、ため息をつく。

 

そして、ホテルマンが持って来たお仕事に目を通すと、サインをしたり。スマホロトムに予定を記載していった。

 

ダンデさんに多数のスポンサーがついていたのは有名な話だけれど(だからダンデさんが試合でしているマントには、たくさんのロゴがついていた)。ユウリだって、自由に好き勝手出来る立場では無い。

 

特にマクロコスモスは、少し前に大きな不祥事を起こして上層部が交代していることもあり。

 

「新しいカリスマ」ユウリに媚態を尽くして必死にイメージの低下を防ごうとしている節がある。

 

仕事はたくさんある。

 

手持ちのポケモンには、まだ育成が不十分な子はいるけれど。それでも、お仕事に出すには問題ない。お仕事をしている内に、ある程度経験を積んで、出来る事が増えるようになる子もいる。

 

勿論ユウリもトレーナーだ。管理下にあるポケモンは、全員を把握している。

 

全ての仕事の割り振り、自信のスケジュールを確認すると、後は眠る。クリームは、どんな気分でモンスターボールの中にいるのだろう。

 

こんなに豊かなガラル地方だから、競争に敗れても即座に死ぬわけじゃ無い。人間は特にそうだ。

 

だけれども、ポケモンはそうじゃない。

 

完全に諦めてしまっているクリームの事は、どうにかしたい。そう、ユウリはベッドの中で考えていた。

 

夕方近くに、ワイルドエリアに出向く。レンジャーの部隊が出てきていた。

 

かなり獰猛なポケモンがいて、近くの村を伺っている。そういう報告があって、調査に出てきていたのだ。

 

人を襲うポケモンもいるし、その中には桁外れに力が強い者もいる。

 

流石に村丸ごと全滅なんて事は、今では起こらないけれども。それでも、被害が出るのは未然に防ぐ。

 

ダンデさんのお仕事を引き継いで分かったけれど。

 

きっとダンデさんも、こんな風な仕事を、けっこうしていたはずだ。いわゆる汚れ仕事という奴である。

 

華やかに大舞台で戦うだけがジムリーダーや、チャンピオンの仕事では無い。

 

ポケモンを使った犯罪や、人間をおびやかす獰猛なポケモンに対する最大戦力。それこそが、トレーナーのトップに立つ者達の責務。

 

レンジャーの部隊長と敬礼をかわすと、まずは話を聞く。

 

今日は仕事が仕事だし、ユウリも動きやすい格好で出てきていた。

 

「どうやらバンバドロの様子なのですが、作物を食い荒らしていて、被害がかなり深刻のようです。 村のトレーナーが挑んでみたのですが、とんでもない強さで歯が立たなかったとか」

 

「分かりました。 調べて見ます」

 

「お願いします。 我々は村の方で守りを固めます」

 

すぐに手分けして動く。

 

レンジャー達も下手な手練れのトレーナー以上のポケモンをそれぞれが持っているが。これは数年前の教訓を生かし、徹底的に質そのものを上げたのが理由であるらしい。

 

すぐに手持ちのポケモン達を展開する。

 

村の周囲は森だ。

 

森の中は、大型の馬のような姿をしたバンバドロにとっても敵が多い筈なのだが。敵を寄せ付けないほど強い、と言う事だろう。

 

更に言えば人間が作る農作物のおいしさを知っていると言うことでもある。

 

厄介な相手だなとユウリは思ったが。ともかく捕まえるか、追い払うか。出来れば捕まえなければならない。

 

クリームも出すが。

 

意外な事に、最初に動きを見せたのはクリームだった。なお、マホイップは例外なく雌で、増える仕組みについてはよく分かっていない。

 

触手を一本伸ばすと、地面の一角を指さすクリーム。

 

マホイップに本来ない能力だが。

 

ポプラさんの話を聞く限り、クリームはたくさんのポケモンを殺して喰らい、その能力を取り込んだ様子だ。

 

これは何かの草ポケモン辺りの能力かも知れない。

 

臭いを嗅ぐザシアン。

 

そして、此方に向いて、軽く顎をしゃくった。ユウリも近付くと、かなり大きな足跡だった。

 

スマホロトムで撮影して、周囲を調べる。

 

近くに電磁柵がある。農作物の食害を防ぐため、害獣を近づけないように展開されているのだが。

 

柵を跳び越えたのか。

 

体が大きい分、少し鈍重なイメージがあるバンバドロだが。これは相当に強い個体とみて良さそうだ。

 

普通、バンバドロはそこまでしない。大きな体とパワーそのものを武器にする。跳躍力もあるかも知れないが、多分電磁柵を力尽くで破る事を考えるはずだ。

 

他の足跡も探す。

 

ラフレシアが声を上げて、手を振る。

 

近付くと、足跡が続いている。森の中を移動する事で、出来るだけ移動経路を気付かれないようにしているのか。

 

ぬっと側に来たザシアンが、警戒を促す。

 

意外に近くにいる、と言う事か。

 

ユウリは、反射的に飛び退く。

 

木陰から飛び出してきたバンバドロが、凄まじい勢いで前足を踏み降ろしてきたのである。

 

これは、殺意ありという事だ。

 

暴れ馬という言葉があるが。

 

馬のポケモンは基本的に繊細で。可愛いからと言って考え無しに手持ちに加えたはいいものの、扱いきれずに不幸な結末を招く事が珍しく無いと聞いている。

 

このバンバドロは、躊躇無く不意打ちで殺しに掛かって来たという事は。人間に対する殺意で目が濁っていると言う事だ。

 

更に、突進してくるバンバドロ。

 

すっと前に出たカジリガメが、突貫を受け止める。

 

パワーなら負けていない。

 

凄まじいぶつかり合いの音がした。

 

体勢を立て直すと、ユウリは指示。エースバーンとラフレシアに退路を塞がせて、クリームを一瞥。

 

「殺さないで、無力化だけ出来る?」

 

低い声で唸りながら、竿立ちになったバンバドロ。

 

同じく二本足で立ち上がると。蹴りをがっつり受け止めるカジリガメ。

 

重量級のポケモン同士の戦いの余波を受けて、森の木々が何本か倒れた。このままだと、村にも被害が出るだろう。

 

もう一度、出来るかと聞いたら。

 

暗い笑みを浮かべたクリームが、手をバンバドロに向けていた。

 

文字通り、押し潰されるかのようだった。

 

上から力が掛かって、不自然に地面に叩き付けられたバンバドロが、グシャグシャになった。

 

即死はしていないが、完全に足が折れている。

 

カジリガメが流石に数歩下がり、唸りながらクリームを見た。

 

エスパータイプが主に使うサイコパワーか。多分サイコキネシスだろう。ポケモンの中にも、かなり高いレベルで使いこなすものがいる。マホイップが覚えるという話は聞いていないが、やはり喰らったポケモンから能力を吸収したのか。

 

虫の息のバンバドロを、モンスターボールに捕獲。

 

モンスターボールの中に入れればすぐには死なないだろうが、手当が必要だ。

 

他にもまだ、悪さをしているポケモンがいるかも知れない。

 

一旦レンジャーに、バンバドロを捕獲したことを連絡。

 

更に、広範囲にポケモンを展開して、周囲を調べる。

 

今日はムゲンダイナの代わりにアーマーガアを連れてきているので、上空から様子がおかしいポケモンがいないか確認して貰う。

 

ガラルの空の王と謳われるアーマーガアは、兎に角屈強で頑丈な鳥ポケモンで。空輸タクシーを運ぶ事が出来るくらい主に忠実で大人しい性格もさながら。ちょっとやそっとの攻撃ではびくともしないタフさを併せ持つ。

 

しばし上空を旋回するアーマーガアに任せて。

 

周囲を引き続き警戒。

 

不意に、ザシアンが動いた。

 

飛びかかってきた大型のポケモン。少し反応が遅れたが、かなり大きなエレザードだった。

 

電気を扱うトカゲのポケモンで。かなりの大型に成長し、扱う電撃の火力も高い。

 

瞬時に反応したザシアンが地面にねじ伏せたが、この個体も恐らくは村の周囲を伺っていたものだろう。

 

しばらくばたばたともがいていたが、ザシアンは容赦なく地面に押さえつけ。捕獲するように促してくる。

 

頷くと、モンスターボールにて捕獲。

 

ふうとため息をつき、額の汗を拭った。

 

レンジャーの長が来る。

 

モンスターボールを引き渡す。特にバンバドロは負傷がひどいことを告げると、専門家に診せると約束してくれた。

 

チャンピオンになってから、ワイルドエリアでの仕事は増えた。

 

だからレンジャーと仕事をすることも増えたのだが。

 

故に言われた。

 

「チャンピオンにしては仕事が粗いですね。 多少の相手なら、此処まで酷い負傷はさせないのに」

 

「そうですね、すみません」

 

「いえ、殺すつもりで襲いかかってきた重量級を、相手を生かしたまま捕らえただけでも充分です。 後はレンジャーにて対応します」

 

「お願いします」

 

頭を下げると、ユウリはさて、と思った。

 

今回も、敢えて隙を作ったのに、クリームはユウリの背中を刺さなかった。自分の命をクリームが何とも思っていない事は知っている。

 

そろそろ、しっかり話をした方が良いだろう。

 

念のため、もう少し周囲を調査する。少なくとも上空からの調査で、問題は確認できず。

 

また、ザシアンも、敵意があるポケモンはいないと、ユウリに視線で示してきていた。

 

それでももう少し調査をして。

 

夕方まで、辺りを丁寧に調べた。

 

これは、小さな村の人達を、安心させる意図もある。チャンピオンがわざわざ来ているなんて話をすると、村の人達を却って心配させるから。あくまでレンジャーが仕事をしている風に見せるが。

 

その後、村に入って、たまたま村に来た風を装う。

 

流石にダンデさんほどではないけれど、最近はユウリのファンも増えてきていた。ユウリのエースであるエースバーンは、使うトレーナーも増えてきている様子だ。一方カジリガメに関しては、扱いが難しい事もあって、出来るだけ人前には出さないようにと周囲から言われている。

 

カジリガメには話をして、納得して貰っているが。

 

ユウリ自身は、こういうのはあまり好きでは無かった。

 

村で歓迎を受けて。年下の子供達から質問とかされて、それに答える。

 

村一番の宿という小さな宿に泊まると。

 

翌日、朝一番に村を出た。

 

スケジュールに少し余裕を作っておいた。じっくり、主力の皆と話をしておきたかったからである。

 

任されたからには。

 

それに、何となく事情を察したからには。

 

放っておくわけにはいかない。

 

厳しいトレーナーだったら、殺処分しかないと口にするだろう。事実トレーナーを殺してしまったキテルグマなどは、殺処分される事が多い様子だ。

 

だけれども、ポプラさんは粘り強く、クリームをどうにか出来るかもしれないトレーナーの出現を待ち。

 

ユウリを選んでくれた。

 

だったら、その責任に応えたい。

 

まだまだダンデさんに到底及ばないチャンピオンの卵だからこそ。光の部分の仕事だけではなく。

 

こういった闇の部分の仕事も、きっちりこなしたいのだ。

 

重圧だが。それも仕方が無い。

 

ダンデさんは、ずっとこんな重圧に耐えていたのだ。今のユウリと同じくらいの年頃から。

 

それなら、ユウリだって耐えなければならない。

 

まずワイルドエリアの外れ。比較的安全な場所にキャンプを展開する。

 

手持ちを調整して、まずは主力を展開。

 

基本的に話に加わるつもりがないらしいムゲンダイナとクリームは除いて。他の主力を全員出す。

 

クリームの話をすると。最初に反応したのは、ラフレシアだった。

 

ラフレシアはあまり賢いポケモンでは無いが、ある程度の人間の言葉は理解する事が出来る。

 

身振り手振りで返してくるので、何となく言いたいことは分かる。

 

怖い、というのがラフレシアの素直な反応のようだった。

 

気持ちは大いに分かる。

 

バンバドロを一瞬で半殺しにしたあの力、まだあれでも加減していたことが分かる。ザシアン程ではないにしても、桁外れの力だ。

 

何より、目が怖い。

 

そう手振りで示すラフレシアに、頷いた。

 

エースバーンはと言うと、よく分からないと身振りで示す。

 

最初からの相棒であるエースバーンも、人間の言葉をある程度理解出来るし、感情表現も豊かだ。

 

手振りも、ラフレシアに比べると大げさだけれど、余計に複雑な感情を示してくれるし。もっと分かりやすくもある。

 

エースバーンも、クリームが殺意に満ちている事には気付いている様子で。危ないから、出来るだけ目を離さない方が良いと忠告してくれる。

 

それは分かっていると頷いて、次。

 

カジリガメ。

 

最初は、非常に此方を警戒していて。隙あらば腕ごと食い千切ろうとしていたカジリガメである。最初はカムカメというもっと小型の形態で。其所から進化させて、今の巨大なカジリガメになっている。

 

ようやく心を許してくれたのも、進化をした後くらいから。

 

だからかも知れないが。

 

カジリガメは、前の二人よりも同情的だった。

 

基本的に寡黙なカジリガメだが、一応の意思は示してくる。クリームの話だと分かってもいる様子である。

 

カジリガメは、エンジンシティの方を向いて、促す。

 

彼処で何があったのか、調べるべきだというのだろう。

 

アーマーガアにも聞く。

 

ザシアンやムゲンダイナが手持ちに入るようになってから、後進のポケモン達の面倒を任せるようになったアーマーガア。此方も雛に等しいココガラの時から育てている、ユウリの手持ちとしては最古参である。

 

昔はかなり好戦的だったのだけれど、今は性格も落ち着いていて。話を聞いてみると、やはりゆっくり知るべきだという答えだった。

 

アーマーガアには戻って貰い、代わりにフォクスライを出す。

 

此方もムゲンダイナとザシアンが加わってから、後進の面倒を見るようになったポケモン。狐のような姿をしたポケモンで、数の利を生かし、搦め手をつく戦法を得意としている。

 

一方、正攻法で真正面から戦うと分が悪い事もあって。今はむしろ頭を使う後進の育成を楽しんでいる様子だ。

 

多分手持ちのポケモンの中では、フォクスライは一番頭が良いが。その一方で、一番ずるがしこくもある。

 

隙を見せるとズルをする事が多い。後進のポケモンにはむしろ優しかったりするようなのだが。この辺りは、或いは自分の派閥を造ろうとしているのかも知れない。

 

フォクスライに話を聞くと、しばし考え込んだ後、危ない、とだけ示してきた。

 

フォクスライは悪戯もするが、なんだかんだでユウリを信頼してくれている。

 

だからこそ、ストレートに言うべきだろうと思ったのだろうか。

 

様子をじっと見ているだけのザシアンに意見は聞かない。

 

ポケモンであっても、ガラルを救った伝説の存在だ。あくまで後見人のようなものだとユウリは思っている。

 

チャンピオンになった以上、自分達で解決しなければならないだろう。

 

だが、ザシアンは、意外にも。自分から、キャンプの輪に加わってきた。

 

驚いた様子のフォクスライを無視して、唸る。

 

自分に任せろ、とでも言うのだろうか。

 

「いいの?」

 

聞いてみるが、その場で丸くなってしまう。ぐだぐだ話すつもりはない、と言う事なのだろう。

 

しかしながら、伝説のポケモンである。

 

無茶はしないはずだ。

 

ユウリは決断する。

 

「分かった。 いずれにしてもクリームについては私もどうしていいか分からない所だったし、皆も手詰まりだと言う事、知らなければならないと言う事については意見が一致していると思う」

 

たくさんの人が死ぬ事件を起こした。

 

それは事実だ。

 

本来なら償える話でもない。

 

だが、クリームは元々誰かの手持ちポケモンだった可能性が高い。それも極めて高いとユウリは思っている。

 

そもそもマホイップとマホミル自体が人間に対する依存度の高いポケモンで、それが彼処まで強固に人間を憎むようになったと言うのは相当な原因があったはずなのである。

 

今の時代、人間とポケモンはある程度仲良くやれている。

 

昔はポケモンを使って戦争をしていたし。

 

今でもガラル以外の地方では、ポケモンを使って悪い事をする人が後を絶たないとも聞いている。

 

それならば、ポケモンを理解し、ともに歩むことは絶対だ。

 

ただでさえ、ポケモンの中には、この世界そのものに影響を及ぼすほどの存在がいるのである。

 

人間にとって有害だから殺す。

 

それだけでは、今後も過ちが繰り返されるばかりだろう。

 

皆に一旦モンスターボールに戻って貰うと、ザシアンとクリームだけを残す。ユウリは敢えて距離を取り、カレーを作り始める。

 

何のつもりだと思ったのか、クリームはしらけた様子でユウリの背中を見ていたが。

 

やがて、ザシアンに促されて、キャンプの端と端に、それぞれ別れた。

 

 

 

此奴は強い。

 

そう、クリームは一目見たときから、ザシアンを判断していた。しかも恐らくだが、此奴は本気を出していない。

 

あのムゲンダイナという骨みたいなドラゴンタイプのポケモンもそうだが。

 

新しいチャンピオンを恐らく見極めるためなのだろう。

 

そして何となくだが分かる。

 

此奴は一度死んでいる。

 

ゴーストタイプのポケモンも、クリームは今まで何体も喰らってきた。だからこそ分かるのである。

 

此奴には同じ、一度死を体験した者の臭いがする。

 

隅っこの方で座ると。ザシアンは唸るように声を上げた。やはり、会話は成立するらしい。

 

それどころか多分この大きな犬のようなポケモン。その気になれば、人間の言葉だって話せるはずだ。だが、敢えてそうしていない。距離を取るためなのだろう。

 

力があるのに使わないのは、あまりクリームの好む行動では無い。少しいらだたしい。

 

「何のつもりだ」

 

「あのトレーナーは、お前が憎む人間とは違う」

 

「……人間は一人を除いて皆同じだ」

 

「愚かな人間が多い事については同意する。 少し昔の話をしてやろう」

 

ご老体の昔話か。

 

ザシアンは、ユウリとかいう新しいチャンピオンが、楽しそうにカレーを作っている背中を見つめる。

 

「古き時代、この土地にブラックナイトの災いが起きた。 星の世界から来たあの魔竜が意図せずに起こしたものだ」

 

「ムゲンダイナという彼奴か」

 

「そうだ。 ムゲンダイナに悪意はなかったが、伴った力が大きすぎたのだ。 私はその時に、剣たる存在としてこの土地にいた。 盾たる存在とともにな。 ダイマックスと今は呼んでいるようだが。 そのダイマックスの力になれていないポケモン達は暴れ始め、ポケモンも人も滅びの縁に立たされた。 その災いこそブラックナイト。 それを食い止める力が我々にはあり、故に動いた」

 

しらけて聞いているクリームに。

 

ザシアンはブラックナイトとやらの顛末を話す。

 

「この土地は、今は人間が流動的に治めているようだが、昔は王族がいた。 まあ今もその成れの果てはいるようだがな。 その王族と協力して、私は魔竜ムゲンダイナを撃ち倒し、封印した。 悪意はないとしても災厄の根元であれば撃ち倒さなければならなかったからな」

 

「悪意がある私は斬ると言う事か」

 

「……話はまだ続く。 激しい戦いで手傷を受けた私は、雪の地にある温泉で身を癒やす事にした。 だが其所でおかしな事が起きた。 「王族が」この地の災いを収めたことにするべきだという話を、人間共が始めたのだ。 更に言えば、二人の王族がこの地の災いを収めたのに。 それを一人でやった事にするべきだという話まで始まった」

 

人間らしいとクリームはせせら笑ったが。

 

ザシアンは悲しそうだった。

 

「私は盾たるザマゼンダと話をすると、一度は協力する事を決めた人間から、距離を取ることとした。 だが、人間の方が行動が早かった。 深手が癒えていなかった私達に、容赦なく追っ手が差し向けられた。 致命傷を受けた我々は、深い森に己の力を拡散させると、其所にて剣を媒介とし。 ザマゼンダは盾を媒介とし。 眠りにつくことにした」

 

それで此奴は、一度死んだ形跡があったのか。

 

それに此奴も、人間に裏切られているのではないか。

 

だが、意外な事をザシアンは言う。

 

「私は人間から距離を取ることにしたが、しばらく観察を続けもした。 ガラルと呼ばれるこの土地は、それから長い変転を経て今に至るが。 私が見守り続けている間も、人間は愚かな行為も良き行為も繰り返してきた。 ほどなくあの者が現れ。 そしてムゲンダイナの復活もまた発生した。 場合によっては、私は放置しておくつもりであったのだがな」

 

「何故助けた。 放っておけば、復讐はなせただろうに」

 

「復讐に益は無い。 そう私は判断したからだ」

 

「……」

 

何が、復讐に益がないだ。

 

クリームは、己の中の憎悪が沸騰するのを感じたが、敢えて黙っておく。ザシアンは恐らく、此方を見透かした上で言う。

 

「実の所、今の時点でもあの者を完全に信じたわけではない」

 

「そうであろうな。 貴様はあからさまに手を抜いている。 見れば分かる」

 

「そうだな。 お前と同じようにな」

 

「分かっているのなら、全力での力比べと行くか? 病み上がりはお互い同じ。 伝説殿と、手合わせは興味があるが」

 

ザシアンは鼻を鳴らす。

 

クリームは、静かに相手の対応を待つ。

 

場合によっては。

 

この場で殺し合っても別にかまわない。敗れた相手が伝説のポケモンなら悔いだってない。

 

元々捨てた命だ。

 

「もう少し、様子を見れば良いのではないか。 お前の様子を見ていると、何か大事なものを奪われたのだと分かる。 それは恐らく尊厳であろう」

 

「ほう……」

 

「しかもお前の尊厳ではないな。 お前が一番大事にしている存在の尊厳だ」

 

「流石は伝説殿だ。 その洞察力に敬意を表して叩き殺してやろうか」

 

周囲が、一気に殺気に満ちるが。相手は乗ってこない。

 

毒の注入が止まり。鉄の枷も外れた今。クリームの力はほぼ戻っている。

 

その気になれば、伝説相手とはいえ、簡単に敗れることはない。ただし、相手も本気を出していない。死闘になるだろう。勝てるかどうかは、やってみなければ分からない。

 

見透かされて相当腹が立った。

 

戦いに乗るつもりなら受けて立つのだが。どうも相手にその気が無いらしく、怒りの矛先が定まらない。

 

「お前から提案してみるといい。 お前が奪われたもののあった場所に行きたいとな」

 

「それで?」

 

「見極めろ」

 

後は、ザシアンは何も言わなかった。

 

何だか知らないが、完全に見透かされて苛立ちが募るが。しかしながら、どうしてか不思議と心に届く言葉でもあった。

 

クリームは奪われた尊厳を奪い返すため復讐を誓った。

 

だが、今、その尊厳を取り返す方法はない。

 

ゆっくり、ユウリの背中に歩み寄る。ザシアンは丸まったまま。その気になれば、背中から襲いかかって殺して逃げ切る事も可能だが。

 

ユウリが、背中を向けたまま言う。

 

「お話終わった? もうすぐカレー出来るからね」

 

「……」

 

「ザシアンって殆ど喋らないんだけれど、さっきは随分色々話していたみたいだね。 それで、何かしたいことでも出来た? 相談になら乗るよ」

 

カレーが仕上がったらしい。

 

ユウリが配膳を始める。三皿だけ。他はまだ火に掛けたまま。他の奴らのエサは出さないのか。

 

ゆっくりザシアンが此方に来る。

 

彼奴もあれで、カレーは好きなのか。また妙な伝説のポケモンだなと思ったが、まあどうでもいい。

 

彼奴なりに、現代の世界と。それにこのユウリというチャンピオンに、慣れようとしているのかも知れない。

 

こっちは、もう向こうに合わせるつもりはさらさら無いが。

 

カレーを一瞥する。

 

ホイップクリームを使っているのか。

 

「隠し味のホイップクリームがおいしいよ。 食べて見て」

 

無言で食べ始めるが、正直言ってまだまだだ。しらけた様子のクリームを見て、ユウリは言う。

 

感想を聞かせてくれないかと。

 

まずは食べ終えてから、順番に説明していく。

 

ホイップクリームの甘さとカレーの辛さが美味く噛み合っていない。これなら入れる木の実の配分を変えるべきだ。

 

主なら。

 

そう思いかけて、途中で字が止まった。

 

手が震えてくる。

 

主は、主だったら。きっと笑顔で、ユウリにホイップクリームの使い方を教えていただろう。クリームに、このカレーに合うホイップクリームを出すように、頼んでくれたかも知れない。

 

だが、どうせ此奴も、主を見たらあいつのように。

 

気持ち悪いとか言い出して、その尊厳の全てを否定し出すだろう。わなわなと震えるクリーム。

 

ばきりと、手の中で枝が折れた。

 

じっと、ユウリはその様子を見ていた。

 

「そうか。 きっと、食べ物の関係で何かあったんだね。 貴方の元の主は、カレー屋さん? それともケーキ屋さん?」

 

「……」

 

「明日、エンジンシティに行く用事があるんだけれど、少し時間が空いているの。 もしも行きたいところがあるのなら、指定してくれる?」

 

主のお店は。

 

知っている。偵察させた。

 

既に潰されて、空き地になっている。無縁墓地で、主は雑に葬られ。そしてどれが主の骨か灰かさえも分からない。

 

あんなに美味しかった主のケーキは、存在を全て否定されて。いかがわしいやり方で作られ、邪悪な薬物が入っていたから美味しかったからと。その情熱も技量も、そして愛情さえも悉く否定された。

 

握りこんだ拳から、血が流れ出てくる。

 

ユウリが冷静にポケモンを出す。回復の技術を持つポケモンだが、クリームはそのまま自分の傷を、自己再生能力で回復。万能では無いが、このくらいの傷ならすぐにでも治る。

 

マスターボールを蹴るようにして空け、中に戻る。

 

どろどろの殺意が渦巻き。

 

クリームの中で煮えたぎる。

 

あの戦いで前チャンピオンを殺していれば。此奴が台頭してくることだって無かっただろう。

 

一生の不覚。

 

何もかもを、徹底的に打ち砕けなかった自分が。

 

口惜しくてならなかった。

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